俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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思いのほか手間取ってしまった。
お待たせして申し訳ない。


File No.42-1 『堪忍五両、思案十両』

忍者──それは日本の歴史の闇に潜む影の集団。

 

忍者──それは情報を攫う変幻自在の魔物。

 

忍者──日ノ本で大成した大名達の陰には、必ず彼らの姿があったという。

 

 

 

忍者、といえばどんな姿を思い浮かべるだろうか。

全身を黒装束に包み、これまた黒い鞘の刀を背負っているかもしれない。

あるいは印を組んで火を噴いたり、大量の手裏剣を乱れ撃ちしてくる姿を想像する事もあるだろう。

 

しかし、これらの忍者像は基本的に江戸時代以降の娯楽作品によるイメージが強い。

 

例えば忍び装束は黒ではなく濃紺色や茶色系統のものが多かった。

黒色は月明かりで逆に浮き出て目立ってしまうのだ。*1

特に明るい夜なんかは濃紺色でもまだ目立つので、灰色の忍び装束を着用していたという話もある。

 

背中に刀を背負うのは単に映像や絵にした時に見栄えが良いため。

つまり後世の創作であり、実際には普通に腰に差していた。

また反りが少なく鍔が角ばっていて下緒が長いとされる忍者刀だが、実際に忍者が使っていたかと言われると疑問符が付く。

忍者はその役目故に忍者だとばれてはいけない為、堂々と私は忍者ですよと主張するような刀を使う訳が無いのである。

もちろん特定の流派では使用されていた可能性も無くはないが、少なくともコンは見た事が無いとのこと。

 

印を組んだり忍術を使う。というのはその通りなのだが、印を組むのは精神統一や祈願の為で、どちらかというと呪術方面の話になる。

まぁ、忍術は忍者が使う技術の総称なのでそれも忍術と言えば忍術ではあるのだが。

 

忍術として有名なものに火遁や水遁のような遁術があるが、これは隠形術とも言われるとおり基本的に逃げる為の術である。

火術のように火薬を使って敵を攻め立てる攻撃用の術もあるにはあるので、俺が妖術で風を吹かしたりするように妖術や陰陽術をベースにした忍術で口から火を噴いていた忍者がいないとも限らないが、それが一般的なものでなかったのは確かだ。

 

あと手裏剣に関しては手裏剣術という武術の一つで、武士が修練すべき武芸十八般のうちの一つに数えられることもあったりと、別に忍者の専売特許ではない。

形状も手裏剣と聞いてイメージするような四方手裏剣ではなく棒手裏剣が主流で、携帯数も片手で数えられる程度だったとか。

 

 

 

しかし、それがどうした。

たとえそれが史実における忍者とは異なっていようとも、()()は忍者なのだ。

 

なんでそんな話をしているかというと、目の前にそんな()()がいるのだ。

まさしく、どう見ても、あからさまに、まぎれもなく、清々しいほどに、忍者なのだ。

 

彼は百重御殿が日乃國(ヒノクニ)から呼んだ、お客人である。

コンが過去視やらなんやらで軽く素性を調べたところ、彼は危険な妖怪や害獣退治を専門としているチームの斥候を務めているようだ。

年齢的には多分三十前後といったところか。

 

「隠れ里の主に御目通りが叶いまするとは、この飛之介(とびのすけ)恐悦至極にござる。にんにん」

 

これはご丁寧にどうも。

社交辞令ではあるのだろうが随分と腰が低く……いやまて、今ニンニンって言った?

え? 何かの誤訳?

 

(うーむ、どうやら「もしもし」などと同じじゃな。*2自分は妖怪が化けた偽物ではないと伝える為のもののようじゃが、慣習のようなものと思っておけば良かろう)

 

へぇ。

納得したところでこちらが招いた理由を述べる。

とは言っても今回は特に趣旨を凝らす必要もない。

「優れた忍者がいると耳にしたので招かせてもらった。その実力を私に認めさせることが出来たら神器(マヨイガ妖怪)を差し上げよう」ってな具合だ。

 

「なるほど、そうでございましたか。では実力を示すにあたり、何を致しましょうかな?」

 

「そうですね。(わたし)の手の者と一戦交えていただきましょう。どちらかが『参った』と言うか戦えなくなれば仕舞い。メグリヒモク、あれを持って来なさい」

 

ミコトに頼んでいつも通り妖怪獏枕を持ってきてもらう。

妖怪獏枕の能力なら実戦さながらの状態で安全な戦いができるからね。

夢なので対戦相手も自由自在より取り見取りだ。

 

そう言えば翻訳を挟んでいるとはいえ、忍者呼びで通じるんだな。

 

(どちらかというとそれっぽければ忍者判定して翻訳されておるせいな気がするのう。おそらく黒装束に刀か手裏剣でも持っておれば相手が諜報員であろうが暗殺者であろうが戦士や魔法使いであっても忍者で翻訳できてしまうじゃろうな)

 

ああ、そっか。

以心伝心の呪いは意味を媒介に翻訳を行うが、これは言葉の本来の意味ではなく話をしている本人達の認識(イメージ)が適応される。

例えば犬の事を猫だと思い込んでいる人間に「これは犬です」と言った場合、相手には「これは猫です」と言っているように聞こえる訳だ。

柔軟といえばいいのか適当といえばいいのか。

 

(宿命通で視た限りではこやつ自身は斥候を得意とする(つわもの)*3で、潜入はともかく諜報なんぞはからっきしといった具合じゃからな。黒装束なのは素材が黒いからじゃし、顔まで隠すのは斥候としてどのような危険があるのかもわからぬ場所へ最初に赴く故なるべく全身を守る為のようじゃな)

 

じゃからここでも覆面を取らぬのは言動とは裏腹に警戒を解いてはいないという事じゃなと続けるコン。

まぁ、どれほど友好的に見せても異界(隠れ里)という自身の常識が通用しない世界に来ている訳だしな。

最悪妖怪に化かされている場合もあるわけだし。

 

飛之介(とびのすけ)さんはゲームで言うところのシーフやレンジャーといった職業に近いようだが、ニンジャも同じようなカテゴリーに纏められることがあるのでそこが引っかかったと思われる。

局地戦に強いことを売りにして戦の時だけ雇われる忍者もいるので、潜入や諜報が出来なければ忍者にあらずって訳でもないし。

 

 

 

ミコトに持ってきてもらった妖怪獏枕によって、飛之介(とびのすけ)さんは夢の世界へと旅立った。

このまま夢の中の時間を早めてもらってすぐに終わらせてもいいのだが、せっかくなので観戦させてもらうことにしようか。

 

懐から銅鏡の妖怪である朧天鏡(ろうてんきょう)を取り出し、夢の世界を映してもらう。

飛之介(とびのすけ)さんの対手(たいしゅ)は、創作上の忍者。

夢内の設定として敵忍者は凶悪な妖怪であり仕留めねばならない相手だと思ってもらっているので、人が相手だから刀が鈍るとかは無いはずだ。

 

対決の場所はどこかの城の曲輪(くるわ)*4……でいいのかな?

周囲には松の木が植えられ、少し離れた場所になみなみと水を湛えた三国堀*5らしきものも見える。

 

相手はまずは手裏剣と忍者刀、鎖鎌などの武器を駆使して飛之介(とびのすけ)さんを攻め立てる。

対する飛之介(とびのすけ)さんも見事なもので、体術にて乱れ飛ぶ手裏剣や襲い来る鎖鎌を躱し、敵忍者が刀に持ち替えたとみるや印を組み火の玉を刀の間合いの外から放つ。

 

え? 飛之介(とびのすけ)さんそういうの出来るの!?

 

見た感じは妖術に近い感じがするな。

ミルラト神話圏では神の奇跡や魔獣の使う魔法の一部を人間が技術として取り込んでいるというのはルミナ神から聞いて知っているので、日乃國(ヒノクニ)の人間が妖怪のそれから学び会得していたとしても不思議ではない。

しかし同時に魔法は習得難易度が高く、使えるのはごく一部の人間に限られるとも聞いている。

 

異世界(あちらの世界)における魔法は原理的に妖術とほぼ同様のものなそうなので、日乃國(ヒノクニ)ではどうなのか分からないがミルラト神話圏の基準で言えば飛之介(とびのすけ)さんは相当な上澄みという事になる。

 

「かなりの手練れであるのは間違いないのぅ。中級妖怪程であれば単独で仕留められる実力はありそうじゃ」

 

それは凄いな。

中級妖怪と聞くとそれほど強そうには聞こえないかもしれないが、妖怪自体が普通の人間にとっては手に余る存在なのだ。

それを単独で倒せるというのは相当な実力者である。

 

中級妖怪より上、つまり上級妖怪ともなれば討伐に神仏の加護か軍勢が必要になるレベルの話だしな。

ごく稀に相性差抜きで上級妖怪の相手ができる規格外がいたりするけど。

 

まぁ、妖怪との戦いは相性による影響が大きいので条件さえ良ければ上級妖怪を一般人が撃退することも不可能ではないが、それはまた別の話だ。

 

 

 

話を戦いに戻そう。

 

激しい攻防の末、仕切り直しとばかりに距離を取ろうとする敵忍者。

飛之介(とびのすけ)さんはそれを追いかけるように踏み込み、刀による猛攻を仕掛ける。

互いの武器が七度打ち合ったのち、飛之介(とびのすけ)さんの攻撃を捌ききれなくなった敵忍者の懐に刀が迫る。

 

その刀が敵忍者を捉えたと思った瞬間、敵忍者は煙と共に丸太へと姿を変えた。

忍者界ではお馴染み、忍法身代わりの術だ。

 

飛之介(とびのすけ)さんは一瞬それに驚いた様子を見せるも、その隙を狙って放たれた棒手裏剣を横に飛び退くことで回避する。

すぐさま態勢を整えるが、その時すでに敵忍者は印を組み終えていた。

 

敵忍者の像がぶれ、その姿を増やしていく。

忍者が一人、忍者が二人、忍者が三人、忍者が四人。

都合五人に増えた忍者。

こちらもお馴染み、忍法分身の術。

 

五人の忍者は、それぞれ異なる術を用いて飛之介(とびのすけ)さんに攻めかかる。

 

一人目の忍者が放つのは土遁の術。

本来は土や石などを用いて逃げたり隠れたりする術の事を指すが、今話においては土に属するものを使った攻撃忍術といった意味で使わせてもらおう。

そちらの方がイメージしやすいだろうから、他の遁術も同様とさせていただく。

 

敵忍者が印を組み上げると飛之介(とびのすけ)さんの眼前の地面が突然隆起し、倒れる壁のように敵対者を押しつぶそうとしてくる。

 

即座に後方に飛んで躱そうとする飛之介(とびのすけ)さんだが、そこに二人目の忍者の水遁が放たれた。

三国堀から水が噴き上がったかと思うと、それが大蛇の姿となって飛之介(とびのすけ)さんを喰らわんと襲い掛かる。

飛之介(とびのすけ)さんは着地の瞬間にあえてバランスを崩すことで倒れるように大蛇の(あぎと)を避けたものの、敵忍者の攻撃は止まらない。

 

三人目の忍者の攻撃は木遁の術。

松の木に登った忍者が印を組むと、松の葉が弾丸の如く飛之介(とびのすけ)さんを狙い撃つ。

ただの葉と侮るなかれ。

高速で撃ち出されたそれは、地面を穿てば葉のほとんどがめり込んでしまう威力を持っていると言えばその恐ろしさが理解できるだろうか。

飛之介(とびのすけ)さんは倒れたまま転がる事でそれを回避し、松の木から距離を取る。

 

四人目の忍者が放ったのは金遁の術。

大量の一文銭(昔のお金)をまるで礫のように投げつけていく。

 

それでいいのか金遁の術。

いやまぁお金をばらまくっていう忍術も実際あるけれども。

敵が拾ってる間に逃げるっていう術だけど。

 

とはいえ一文銭も金属は金属。

重さは五円玉と同程度とはいえ、大量にしかも結構な勢いで投げつけられれば痛いし鬱陶しい。

すぐさま飛び起きた飛之介(とびのすけ)さんは、敵忍者に囲まれるのを避けるべく走り出す。

 

五人目の忍者がそれを妨害しようと火遁の術により口から火を噴くが、それを振り切って逃走に成功した。

 

そこから五人の忍者と飛之介(とびのすけ)さんの第二ラウンドが始まった。

 

直接的な戦闘力だけが忍者の強さではないとばかりに周囲から調達した資材で罠を仕掛け、神出鬼没に奇襲を繰り返して敵戦力を削ろうとする飛之介(とびのすけ)さん。

対して互いの死角をカバーし合い、誰かが奇襲をうければすぐさま連携して反撃を行う敵忍者達。

 

しかし両者ともに決定打を打てぬまま、時間だけが過ぎていく。

 

「ほぅ」

 

その中で、コンが感心したように声を漏らした。

どうした?

 

「いやなに。先ほどからあやつが何度も印を組んでおるじゃろ」

 

ああ。

トラップに何かしらの術でも仕込んでいたのかともったけど、そんな感じでも無かったから何なのだろうなって。

火の玉を放ってた時にも印を組んでたから術のトリガーだとは思うんだけど。

 

「そうじゃな。先ほどからあやつは()()()を使おうとして印を組んでおる」

 

ある術?

 

「すぐにわかる」

 

ふぅん。

朧天鏡(ろうてんきょう)の方に目を戻すと、飛之介(とびのすけ)さんが敵忍者の一人に行き止まりの通路へと追い詰められていた。

敵忍者は遠距離で仕留めるつもりか、印を組んで近くの堀から水を呼び寄せる。

通路はそこそこの広さがあるものの、先の水遁の時よりも時間をかけて集められた大量の水の前では避けるのは難しいだろう。

しかし飛之介(とびのすけ)さんも何やら印を組み、何かの術を使う構えだ。

 

十分な水が溜まったのか、敵忍者が水遁の術を放つ。

鉄砲水となったそれは、生半可な術であればまるごと飲み込んで敵対者を押し流そうと飛之介(とびのすけ)さんに迫る。

 

それと同時に、()()()()()()()()()()()()()()()

 

土剋水(どこくすい)

 

土は水をせき止め、濁らせ、吸収する。

故に、土は水に勝つ。

 

飛之介(とびのすけ)さんの使う術は妖術に近い。

そして自然の法則を超えた妖怪の力は、()()()()()()()()()()()()

 

突如現れた土壁は、鉄砲水を受け止め跳ね返す。

跳ね返った水は術者である敵忍者に襲い掛かり、たまらず敵忍者は術を解除する。

 

その直後、飛之介(とびのすけ)さんの持つ刀が敵忍者を切り裂いた。

土壁に角度をつけることで足場とし、高さを利用して跳びかかっていたのだ。

敵忍者の体はポンという音を立てて煙となり、跡形もなく消え去る。

 

なるほど、さっきまでのはこの術を使う為に印を組んで力を溜めてたんだな。

火遁に加えて土遁も使えるとは、流石だ。

 

「確かに流石と言えるな。この短期間で()()()()()()とは」

 

覚えた? まさか今の土遁はさっき敵忍者が使っていた……

 

「左様。あやつは罠や奇襲によって相手に術を使わせ、それを観察しておった。もちろん倒せればそれはそれで良しとは思っておったじゃろうが」

 

確かに()()()()()()()

今回の敵忍者が使う忍術は妖術、つまり飛之介(とびのすけ)さんが使う術に近い。

実際の忍術がどういう原理なのか知らないので、必然的にそうなってしまう。

 

なぜなら、これは()()()()()()()()()()だ。

 

古今東西夢に天啓を得るというのは珍しい事ではない。

人が夢を見るのは、脳が蓄積された記憶や情報を整理しているからなのだそうな。

妖怪獏枕はその夢に干渉し、必要な情報を与えることで夢を書き換える。

 

例えば今回の例で言えば、「舞台のイメージ」「使命」「敵の能力」などの情報を組み込むことで決闘をする夢を作り上げていると思われる。

そして脳は意識を向けている部分を重点的に処理しようとする。

 

ただ敵忍者が術を使っただけなら結果のみが出力されていただろう。

その方が処理する情報が少ないからだ。

しかし飛之介(とびのすけ)が敵忍者を観察しようとすれば話は変わる。

脳は敵忍者がどうやって術を使うのかまで自身の知識から鮮明に描写しようとする。

 

もちろん零から壱を構築できるほど万能ではないので、無理な場合は過程と結果がちぐはぐになってしまう。

だが本人が意識していなくてもそこに至るまでの知識があるのであれば、()()()()()()()()()それは再現される。

 

改めて言うが、これは飛之介(とびのすけ)さんの夢である。

考えているのは自分自身であり、それゆえに()()()()()()()()()

 

まぁ、理解したとてできるかどうかはまた別の問題なのだが。

手を10cmだけ右に動かせば成功すると知っていたとして、ピッタリ10cmで止められる人間がどれだけいるかという話だ。

 

夢とはいえ実際に出来る事しかやってはならないという縛りが入っているため、この夢の中で使えたのだから理論上は可能なのだろう。

だからといって起きたら現実でも使えるかと言われたら、それなりに修行しないと厳しいんじゃないかな。

 

「とはいえ当然ながらまだ練度は低いがな。術を発動するまでの時間も大分かかっておるようじゃし」

 

無意識でやっている事を意識してやるようなものだからな。

夢とはいえそれ前提で見ているならともかく、出来る事しかできない試練でそれをやってのけるってだけでも凄いわ。

 

 

 

それからのこと。

 

飛之介(とびのすけ)さんは火遁・土遁に加えて水遁も習得し、敵を半壊させるも再び分身によって数を増やす忍者たち。

口寄せの術を用いて召喚される巨大蝦蟇の軍団。

 

分身を何度倒しても無駄だと悟った飛之介(とびのすけ)さんは、敵忍者たちの動きから全員が常に一人の忍者を守るような形で動いている事を突き止める。

それが本体であると当たりをつけると、飛び交う忍術と蝦蟇の舌による猛攻を潜り抜けて接近戦を挑んだ。

ふたたび身代わりの術で逃れようとする敵忍者だが、それを予期していた飛之介(とびのすけ)さんの放った某手裏剣が敵忍者の急所に突き刺さり、他の忍者や蝦蟇たちが煙となって消えたことで決着となった。

 

「お見事、よもやこれほどとは。貴方の力を認め、これを授けましょう。きっとあなたの役に立つはずです」

 

「かたじけないでござる」

 

試練から戻って来た飛之介(とびのすけ)さんに、異界の主として妖怪苦無(くない)を授ける。

忍者の武器として知られる苦無だが、実際には武器ではなかったりする。

主な用途としては土を掘り返したり楔にしたり、変わったところでは後方の輪っか状になった部分に水を張ってレンズ代わりにしたりなど。

どちらかというと便利アイテムの立ち位置なのだ。

 

その便利さ故に旅人などの多くが携帯していたため、持っていても不審がられない道具として忍者も使用していたというだけの話だ。

もっとも、百重御殿の妖怪苦無は現世のイメージをもろに受けている影響で忍者漫画に出てくる苦無そのものになっているが。

 

斬って良し、投げて良し、(ふところ)からいくらでも出てくる。

増えた分はいつのまにか消えているので回収する必要もないぞ。

 

その後はいつものように食事で持て成し、適当なところで面霊気(いだてんさん)に案内させて日乃國(ヒノクニ)に帰す。

 

それにしても忍者か。

その起源は一説によれば飛鳥時代にまで遡るというが、日本の忍者が日乃國(ヒノクニ)に伝わっていたのか、日乃國(ヒノクニ)独自の存在がたまたま日本の忍者に酷似していただけか。

 

 

 

ふと思い立ち、適当に印を組んで妖術を発動させる。

 

「忍法、旋風(つむじかぜ)の術」

 

庭に向けて放たれたそれは、咲いていた花を揺らすだけにとどまった。

 

そういえば異世界(こちら)へ来る前に読んでいた忍者漫画はどうなっただろうか。

確か七つの忍びの里が団結して黒幕との最終決戦に挑む──っていういいところだったんだがなぁ。

こちらに来て二年弱。

もう完結しちゃったりしてるかな……そう考えたあたりで帰ったらあの時の数日後まで戻れるんだったか、と思い出す。

 

もう二年近く、されどまだ二年にも満たない時間。

住めば都ではあるけれど、流石に故郷が恋しくなってくる。

 

さてさて俺はいつ帰れるのかね。

口には出さなかったけれど、それを察したらしいコンとミコトが静かに寄り添ってくれた。

 

この生活も悪いわけじゃなく、中々に充実した日々ではあるんだけどね。

それでも。

あぁ、百年ってのは人の身には長いなぁって。

 

*1
見えやすいという意味ではないので注意。

*2
File No.08-1 『背に腹はかえられぬ』参照

*3
武器をとって戦う者の意

*4
城壁や堀などで囲った城の区画のこと

*5
外部と繋がっていない池のような堀




堪忍五両(かんにんごりょう)思案十両(しあんじゅうりょう)

世の中を生きていくためには怒りを堪え、よく考えて行動する事が大切だという意味。
忍耐には五両、思案には十両の価値があるということ。
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