俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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File No.46-1 『神は非礼を受けず』

ルミナ神の眷属蟹の背に揺られ、イナリアの上空までやって来る。

目的は一応の完成をみたという異界神(キツネツキ)の神殿もとい神社の視察である。

神社の名前はミルラト神話圏の神殿の通例によりイナリア・キツネツキ神社(神殿)となる。

 

なにぶん異世界(元の世界)の建物と言う、概念的にも技術的にも未知の建造物だ。

完全にイメージ通りという訳にはいかないだろうが、気になる点があればこれから少しずつ修正していくとのこと。

 

とはいえ、主要な部分はこれで完成となった。

これにはこれ以上時間をかけていられないという事情がある。

 

ルミナ神がその財力と権限と信者(子供)達をフル活用し、絶大なマンパワーを用いて史上類を見ない速度で建築したとはいえそれなりに時間が経っている。

この神社の本来の目的である異界神(キツネツキ)の神意を広め、その神官や聖騎士達(代行者)に職務に必要な権威と権限を与える為にも、神の降臨は早い方が望ましい。

 

それにミルラト神話圏では祭神(祀られている神)の気分で神殿の大規模改修とかしょっちゅうあるらしいので後から変える分には問題ないそうな。

 

「だいたいあそこの木々が途切れている辺りからあちらの川までがタケルさんの神社になりますわ。(もう)でる時は(わたくし)の神殿から船で川を下るか川沿いの道を陸路で、というものを想定しています」

 

「ほへぇー、凄く広いのだ」

 

「ほぅ」

 

その言葉が指す方へ目をやると、大きな神殿の方から伸びる道が見える。

ルミナ神の神殿の空いている所に摂社(せっしゃ)というかたちで建てるという話だったが、地理的にはむしろ端っこに引っ付いているといった感じか。

 

総面積6万平方メートルオーバー。

ルミナ神の神殿の敷地に比べれば一部でしかないが、それでも圧巻の広さだ。

話しには聞いていたが実際に見てみると想定以上の広さに驚きを隠せない。

なにせルミナ神側の事情もあったとはいえ建築中は全部お任せだったからここに来るのも実は初めてなのだ。

 

「それでは神社の入口に降りますわ。それから参拝の手順を確認しつつ本殿へ向かう、という事でよろしくて?」

 

「ええ、お願いします」

 

今回降臨前に一度、完成した神社に来ることになった理由。

それはルミナ神経由で伝えている参拝や神事の方法に齟齬が無いかの確認である。

あえてミルラト神話圏の様式とは異なるやり方を採用している以上、ちゃんと伝わっているか分からないからだ。

 

 

 

 

 

巨大な眷属蟹から降り立つと、そこには朱色に塗られた真新しい鳥居が鎮座していた。

目算で高さ6mほどか。

鳥居の形状についてはかなり細かく指定させてもらったが、視た限り問題なく再現されている。

 

鳥居には大きく分けて二種類あり、頂部の笠木の下に島木と呼ばれる長い横木があるかないかで分類される。

島木がないものは神明鳥居(しんめいとりい)と呼ばれ、主に天照大神(あまてらすおおみかみ)に連なる神社などに建てられている。

直線的で簡素な作りが特徴で、最も古くからある鳥居の形だ。

島木があるものは明神鳥居(みょうじんとりい)と呼ばれ、神様全般に用いられている。

神明鳥居(しんめいとりい)に比べて装飾が多く、笠木の端が反り上がっているものも多く見られる。

 

お稲荷様の鳥居は後者の明神鳥居(みょうじんとりい)なので、異束九十九狐(ことつかのつくも)もとい異界神(キツネツキ)の鳥居も明神鳥居(みょうじんとりい)を採用した。

具体的には台輪鳥居と呼ばれる柱の天辺に台輪という輪が付けられているもの。

 

 

色は朱色(しゅいろ)

古くより朱色は魔力に対抗する色とされていて、多くの神社仏閣などで使われてきた。

そして稲荷神の御力である豊穣を表す色でもある。

ついでに言えば朱の塗料の原料である()*1は古くから木材に対して防腐効果があることが知られている。

ルミナ神には以心伝心の呪いで()が通じたので異世界にも同様のものがあるっぽいが、全く同じものかは不明。

 

鳥居とは神様の世界と人の世を分かつ門であり、結界だ。

いわば鳥居の先は神の領域という事に他ならない。

 

ところで、今回の視察にあたり参拝者役として六名ほどの男女がいる。

彼ら彼女らはルミナ神の眷属蟹が化けたもので、特殊な化け方で普通の人はおろか霊感のある人でもそう簡単には見えないようにしている。

俺達も個人として認識されなくなる『群衆の外套』をルミナ神から借りて身に着けた。

降臨予定前に来ているのがばれて変に騒がれても嫌だし。

 

これから行われる参拝の作法は、あくまでこの異界神(キツネツキ)の神社のもの。

一般的に言われる神社に詣でる際の作法をベースにしているため参考にしてもそう間違った事にはならないが、神社によってはやりかたが違ったり細かい差異があったりする場合がある。

 

それと参拝の作法は神様に敬意を表すためもので厳格な決まり事ではない。

場所や時期によっては厳しい場合もあるので一概には言えないが、おおむね神様に失礼のないようにと心がけておけば大丈夫だ。

よっぽど失礼なことをしない限り、神様はそれで罰を与えるような狭量な存在ではない。

 

 

 

まずは鳥居をくぐる前に足を止め一礼をする。

これは「今から神域に入らせていただきます」と申し上げる挨拶であり、神域に入るための心構えを整える儀式。

お辞儀は会釈ほどの深さ。

可能であれば帽子は脱いだ方が良い。

 

歩く道は中央を避ける。

参道の真ん中は正中と呼ばれる神様の通り道。

故に参拝者は左右のどちらかの端をゆっくり歩く。

左右はどちらでも構わないが、神社によっては指定されている場合もあるので注意。

 

改めて言うがこれらはあくまで神への敬意を示すためのもので、神社側で指定されている場合を除き決まり事ではない。

鳥居も人が多くて立ち止まってはかえって危険な場合は立ち止まる必要はないし、何らかの理由で正中を横切る必要があるなら軽く頭を下げながら通れば良い。

 

必要なのは動作ではなく心だ。

何をしたかではなく何のためにしたのかが重要になる。

手順を完璧に行うよりも、状況に応じてやり方を変えながらも敬意の念を忘れない方がよっぽど神の御心に適う。

 

より丁寧にやりたい場合は踏み出す足の順番に関する作法などもあるが、そこまでしなくてもいいだろう。

 

眷属蟹たちは各々が綺麗なお辞儀を見せ、参道の端を通って鳥居をくぐる。

よしよし、ちゃんと伝わっているな。

じゃあ俺たちも行くか。

 

 

 

「……タケルよ、お主どこを歩いとるんじゃ?」

 

コン?

いや普通に参道の端を……

 

「お主はここの祭神じゃろ。正中を通らんでどうする」

 

あ、そうか、つい。

 

 

 

参道をしばらく進むともう一つの鳥居が現れる。

最初にあった鳥居が一番鳥居、ここが二番鳥居だ。*2

この神社の表参道*3にある鳥居は2()*4だけなのでこれで終わりだが。

 

鳥居を越えるたびに神域の深いところに踏み入れるという事なのでそのたびに一礼するのが望ましいが、大変なら最初の鳥居のところだけでもいい。

 

 

 

二番鳥居を通るとすぐに見えてくるのが手水舎(てみずや)だ。*5

神社の手を洗う場所と言えばピンとくる人もいるだろう。

 

元々神社に参拝する前には(みそぎ)という川や湧き水で体を清めるという儀式があった。

しかし全ての神社の近くに川がある訳でもないし、寒い冬場にやるのは些か厳しいものがある。

それに現代だとそもそも禊の為に川に入ること自体が難しい。

 

そこで、専用の場所で手を清める作法を行い()()()()()()()()()ことで簡略化させた。

その手水を行う為の場所が手水舎だ。

 

やり方は以下の通り。

 

まず柄杓を右手で取り、水を汲み上げる。

 

その水で左手を洗い清める。

この時にその水が手水鉢*6に入らないように注意が必要だ。

 

柄杓を左手に持ち替え、右手を洗い清める。

 

柄杓を右手に戻し、左手に水を溜めて口をすすぐ。

念のため言うが柄杓に直接口をつけたりしては駄目だからな。

 

もう一度左手を洗い清め、最後に残った水で柄杓の持ち手部分を清める。

ゆっくりと柄杓を立てて水を持ち手に伝わせるようにするといい。

 

これらを一度で汲み上げた水だけで行う……のだが、難しければ無理せずもう一度汲み直しても大丈夫だ。

あとは柄杓を元の位置に戻して完了となる。

 

手水は心身を清める為の儀式。

落ち着いて静かに行うようにしよう。

 

この神社はルミナ神の神殿付属なのもあって比較的多くの参拝者を見込んでいる。

そのため手水舎は十人以上が同時に利用できるほどの大きさがある。

 

眷属蟹たちの様子を見ていると目測を誤ったらしく二度水を汲んでいた者もちらほらいたが、やり方は問題なさそうだった。

 

 

 

手水舎を抜ければ次に目にすることになるのは狐の石像と楼門(ろうもん)、そしてそこから伸びる回廊だろう。

 

狐像と言えば稲穂や巻物を咥えた像を思い浮かべる人もいるかもしれない。

伏見稲荷大社では「稲穂・巻物・玉・鍵」を咥えたお狐様の姿を見る事ができる。

これらはいわば御稲荷様を象徴するもので、簡単にまとめるなら

稲穂──いうまでもなく五穀豊穣の神としての象徴。

巻物──どんな願いでも叶うという数多の御神徳の象徴。

玉──霊徳*7の象徴、あるいは穀物の蔵。

鍵──御稲荷様のというよりその霊徳を身に着けようとする人々の願いの象徴、あるいは蔵の鍵。

といったものだ。

 

流石にこれを俺の神社に置くのは畏れ多すぎる。

なのでここにある狐の像は面霊気達をモチーフにした「仮面をつけた狐」だ。

 

楼門は上部に屋根を持つ二階建ての門の事。

先ほど鳥居の時に神域には深度があるという表現をしたが、鳥居をその境界であり入り口とするなら楼門は神域を守る結界であり文字通りの門。

例えるなら敷地の入り口と家屋の扉のような関係だと想像してもらえれば分かりやすいか。

 

回廊は結界の範囲を表す玉垣(たまがき)*8で、これに囲まれた部分がより神聖な場所ということになる。

 

楼門は結界であると同時に神様の近くに進む為の心構えをする場所でもある。

(これ)より先は神域の(おう)、神の御前と心得よ。

 

 

 

楼門を抜けたその先。

そこにあるのが参拝者がお参りする場所である拝殿だ。

鈴緒(すずお)*9のついた鈴と賽銭箱がある場所と言えば分かるだろうか。

参拝者は基本的に賽銭箱の前で参拝するが、祈祷を受ける場合などでは拝殿の中に入る事もある。

ちなみに拝殿前は参道と違い道の中央を通っても大丈夫だ。

 

参拝方法はまず賽銭箱にお賽銭を入れ、鈴を鳴らす。

これは先に鈴を鳴らすのでも問題は無い。

 

次に二度、90度の深いお辞儀をする。

 

そして胸の高さで柏手を二回。

この際、左手よりも右手を少し下にずらすこと。

 

柏手が済んだらずらした右手を元に戻す。

 

その後、両手を降ろして90度の深いお辞儀を一度して終わりだ。

 

決意表明やお願い事などをするタイミングには特に決まりはない。

柏手の後の右手を元に戻したタイミングでする人が多いとは聞くな。

 

 

 

これらは一般的な参拝の作法になるが、神社によっては柏手が四回だったりと違いがある。

そもそもこのやり方になったのは昭和以降と、結構新しい参拝方法なのだ。

それに俺の神社でも賽銭とかはミルラト神話圏に合わせたかたちにしてるから現世(元の世界)のとはちょっと違うしな。

 

せっかくなのでこれらの作法の意味を説明しておこう。

 

まずお賽銭。

これは元々海の幸や山の幸、白紙で包んだお米などをお供えしていた。

そして貨幣が普及してくるとこれらの代わりにお金をお供えすることが一般化してきたのだ。

初詣などで人が多すぎて難しい場合は仕方ないが、御供え物なので入れるときは丁寧に扱うようにしよう。

 

これらの御供え物は感謝の気持ちを表したものなので、願いを聞き届けて下さったお礼という場合はあっても願いをかなえてもらう対価ではないからちょっと注意。

また金額についても特に決まったものは無く、5円(ご縁)45円(始終ご縁)がありますようにという語呂合わせで入れる人も多いが、重要なのは金額ではなく気持ちを込めてお供えしたかどうかである。

 

ミルラト神話圏では供物用の金銭のようなものがあるそうで、お賽銭についてはそれを入れるようにしてもらっている。

 

鈴を鳴らすのは邪気を祓い、心を整えて真摯な気持ちでお祈りができるようにするためである。

 

そして二度の深いお辞儀は一度目が神様への挨拶、二度目は神様への敬意を表しているとされている。

柏手は音で邪気を祓い、神様に敬意を払うためのものでもある。

右手を少し下にずらすのは、右手を人間、左手を神様と見立てて人間が一歩下がって感謝を示していることを表している。*10

その後右手の位置を戻した際、(キツネツキ)の神社ではこのタイミングでお祈りしてもらうことにしているが、これはまぁ、あくまでこの神社ではの話。

最後のお辞儀は御参りが済んだことに対するもので、退室の際などの「失礼いたしました」と同じようなものだと思ってもらえればいい。

 

この二回のお辞儀と二回の柏手、そして最後のお辞儀をあわせて二礼二拍手一礼、あるいは二拝二拍手一拝という。

厳密に言えば礼と拝はお辞儀の角度が違うのだが、一般的にお参りの時は礼でも90度の深いお辞儀をするので実質的に同じものと思っていいだろう。

神社によって呼び方が違う、くらいの感覚でいい。

 

 

 

あ、そうそう。

拝殿には異界神(キツネツキ)神紋(しんもん)(えが)いてもらった。

「稲荷抱き稲紋」という、稲を左右に二つずつ抱き合って見えるように配置したものだ。

実はこれ、陽宮家(実家)の家紋なのよね。

 

ちなみにお稲荷様の総本山、伏見稲荷大社の御神紋は「抱き稲の紋」。

 

 

 

眷属蟹たちの参拝を見届け、想定と違いのない事を確認する。

これにて一般的な参拝は完了。

現世(元の世界)であれば御朱印を頂いたりお守りなどを買い求めたり、あるいは摂社(せっしゃ)末社(まっしゃ)にお参りする人もいるだろう。

その辺はミルラト神話圏にも独自の文化がある為、ここもそれに習うこととしている。

祀られているのが異界の神だから参拝方法も異なるが、それ以外はルミナ神(ミルラト神族)の摂社と同様の扱いということだ。

 

一般参拝者はここまでだが俺たちはもう一つ先、神域の最奥に進むことにする。

ルミナ神の眷属蟹たちは一旦ここで待機。

ここから先に入れるのは神様と神職だけだ。*11

 

拝殿の中を通って幣殿(へいでん)に足を踏み入れる。

ここは祭儀をおこない幣帛(へいはく)*12(たてまつ)る場所。

拝殿とその先の本殿を繋ぐ場所にある場合が多いが、独立していたり無かったりする場合もある。

まだ準備中なので今は何もない。

 

幣殿(へいでん)を抜けるといよいよ神域の最奥に辿り着く。

御神体(神の依り代)の安置された、神の()す場所。

即ち、本殿である。

 

そこには三つの石像が安置されていた。

キツネツキ、メグリヒモク、テンコの三柱の像。

御神体にするということで一足先に奉納された、オウロさんとラダさんの作った石像だ。

特に並べ方は指定していなかったためか、キツネツキの像だけ一段高い場所に置かれている。

 

実はこれも実物を見るのは初めてだったりする。

異界神(キツネツキ)はまだ降臨していないので、まだ正式に奉納されたものではないからわざわざ来なくてもいいというルミナ神の提言があったためだ。

一応ルミナ神経由でのコンの幻覚モニターで出来の確認はしていたが。

 

今日の視察には降臨の準備としてこの御神体に縁を結んでおくという理由もあった。

降臨の際にやっても問題がある訳ではないが、せっかく来たのだからスムーズに事が運ぶように下準備をしておこうということだ。

 

御神体の前に俺たちが並び、コンがあれやこれやして完了だ。

コン任せではあるが、俺には御神体に依り憑くとかどうすればいいのか見当もつかないし。

 

これで後日ここに降臨すれば、百重御殿から直接ここに来れるようになる。

ここは異界神(キツネツキ)の神域であり、御神体(キツネツキ)はここにいる。

百重御殿(マヨイガ)異界神(キツネツキ)の神域であり、(キツネツキ)はそこにいる。

であるなら、ここは百重御殿(マヨイガ)であるという呪術理論が成立するためだ。

まぁ、縁が強くなって境界ワープができるようになるくらいの認識で構わない。

 

「しかしこうしてみるとミコトとコンはともかく、俺の石像はけっこう美化されてるな」

 

「そうかのぅ? よくできておると思うが」

 

「ボクはタケルの方がかっこいいと思うのだ!」

 

「自身の風格や品位は自分では分かりにくいもの。実際に相対すればタケルさんはこのように見えましてよ」

 

そんなもんですかねぇ。

 

 

 

本殿でやる事も終え、拝殿に戻ってきてルミナ神の眷属蟹たちと合流する。

この後は社務所(しゃむしょ)に相当する建物を軽く視察し、ルミナ神の神殿へ続く裏参道を通ってから帰る予定だ。

まだ必要最低限の施設が出来ただけで、神楽殿とかはまだ建造途中なのでね。

 

それにしても、多少の差異はあれどおおむね希望通りの神社に仕上がっていた。

けっこう無茶な話だった自覚はあるが、それを見事に形にしてくれたのだ。

 

異界神(キツネツキ)として、この神社に関わってくれた全ての人に感謝したい。

ありがとう。

 

これは降臨の日が楽しみだ。

 

 

 

あ、帰りに鳥居をくぐったときも本殿に向かって一礼するのを忘れずに。

タイミング的には鳥居をくぐった後に向き直ってするといいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから日も経ち、異界神(キツネツキ)として降臨することになった日の夜。

沢山の付喪神たちを乗せた御座船(ござぶね)の付喪神、仙極丸(せんごくまる)が闇夜の空を飛ぶ。

 

視界の先にはかがり火に照らされたイナリア・キツネツキ神社が見える。

 

神社の上空に辿り着くと、ここで神社の周りを一周。

注連縄(しめなわ)の付喪神の力を使い、神域の深度を上げることで霊感のない人にも妖怪たちが見えるようにする。

 

一瞬、神社にどよめきが走ったのを感じた。

人によっては突然空飛ぶ船が現れたように見えるのだからさもありなん。

 

仙極丸を参道に下ろし、下船して正中を進む。

 

俺を先頭としてその後ろにコンとミコト。

更に後ろには人の姿になれる付喪神達を筆頭に、様々な姿のマヨイガ妖怪たちが列を成す。

 

参道には松明をもって道を作る神官たちと、その奥にいる民衆たち。

こんな夜中によく来てくれたものだ。

 

流石に背後の付喪神達は予想外過ぎたのか、民衆たちは皆驚きを隠せていない。

神官たちは流石に落ち着いている……と思ったが、何人かは目を見開いたり明らかに動揺したりしていた。

 

付喪神達は楼門の前で止まり、その先は俺とミコトとコンの三柱で進む。

 

あ、オウロさんとラダさん発見。

そこの水牛人の少女にも見覚えがある。

あっちに見えるのはフェルドナ神の神子さんだ。

異界神(キツネツキ)に縁ある神の神子として呼ばれたのだろう。

遠いところをお疲れ様です。

 

そして異界神(キツネツキ)の神子となったエルラさん。

巫女装束に身を包み、彼女に授けた短刀(石割り風月)をネックレスのように首から下げた姿は様になっていた。

 

通りやすいように賽銭箱が除けられた拝殿を通り、捧げものが置かれた幣殿を抜け、本殿へとたどり着く。

そして外の方を向き直ると、幣殿にやってきたエルラさんが祝詞を唱える。

祝詞とは言っても現世(元の世界)神社拝詞(じんじゃはいし)のようなものではなく、ミルラト神話圏によくある神様に捧げる言葉を祝詞と翻訳されているだけだが。

 

それが終わると「ここに私は降臨した。君を正式に神子と認めるから、これからよろしくね」といった感じの事を言い、コンが念力で本殿の扉を閉める。

そのまま境界を通って百重御殿に直帰した。

 

注連縄の付喪神の力を解いて神社を元に戻し、マヨイガ妖怪達も百重御殿とキツネツキ神社の縁を使って回収する。

よほど霊感が無ければ妖怪たちがスゥーと薄くなって消えたように見えるだろう。

 

神社の方ではこれから降臨祭が行われて騒がしくなるだろうが、俺たちがいても邪魔なだけだろうしな。

こうして異界神キツネツキの降臨は終わったのだった。

 

 

 

うん、驚くほど何もなかったな。

いや、トラブルがあっても困るがこんなにスムーズに行くとは。

 

*1
辰砂のこと。硫化水銀からなる天然の赤色顔料。

*2
参道の一番最初にある鳥居を「一の鳥居」といい、そこから「二の鳥居」「三の鳥居」と数が増えていく。

*3
神社の本殿へ続く正面の道のこと。

*4
鳥居の数え方は1基、2基、3基……

*5
神社によって手水舎(ちょうずや)水盤舎(すいばんしゃ)御水屋(おみずや)などとも呼ばれる。

*6
手水舎の水が溜められているところ

*7
非常に尊い徳のこと。

*8
神社などにある垣根(かきね)のこと。瑞垣(みずがき)ともいう。

*9
麻を縄状に編んだ綱のこと。

*10
神社によっては色々な理由でずらさない場合もある。

*11
ルミナ神殿の摂社ということもありルミナ神の眷属蟹たちは神職と言えるかもしれないが、入れる理由も無いのでルミナ神が待機を命じた。

*12
神饌を除く神様への捧げもののこと。広義には神饌を含む場合もある。




(かみ)非礼(ひれい)()けず』

動機が不純だったり心の籠っていない願いは神様も叶えてはくれないという意味。
真摯な態度で願いに真剣に向き合ってこそ、神様は力を貸して下さるのです。
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