俺と天狐の異世界四方山見聞録   作:黒い翠鳥

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ぎりぎり今年中に間に合った。
「俺と天狐の異世界四方山見聞録」、最終回。
よろしくお願いします。


epilogue 天壌無窮
File No.47  『継続は力なり』


「おじゃましまーす。あ、キツネツキくんとコンくん、こんにちは。山菜持って来たよ」

 

異界神(キツネツキ)の降臨を終えてからそれなりの日々が過ぎ、異世界ではそろそろ夏の足音が聞こえてくる時期のこと。

久々に百重御殿で宴会でもどうかと誰となしに言い出したことで、皆で食材を持ち寄って(うたげ)を開くことになった。

 

どうやら最初に到着したのはフェルドナ神のようだ。

 

「こんにちは。ささ、上がって下さい」

 

「こんにちはじゃ。ほほぅ、これは美味そうじゃのぅ」

 

フェルドナ神が持って来たのは新鮮な山菜。

ラクル村は山が近い事もあり、山の幸は村人の貴重な食料だ。

 

先日祭りがあったそうで、これはその時に捧げられた供物なのだそうな。

 

異世界にだって美味しいものはいっぱいある。

それが念物(ここのぎ)なら猶更期待が膨らむというものだ。

 

「そう言えばフォレアちゃんは一緒じゃないんですか?」

 

「フォレアはね、多分もう少ししたら来る……かなぁ」

 

そう言葉を濁すフェルドナ神。

詳しく聞こうとしても、「ははは、ちょっとね」としか返ってこなかった。

 

まぁ、宴の開催時刻まではまだ随分と余裕がある。

なんならフェルドナ神が予定より大幅に早く来ているだけだ。

フォレアちゃんも一柱で百重御殿(ここ)に来るのは初めてではないし大丈夫だろう。

 

 

 

フェルドナ神には先に客間へ行ってもらい、俺とコンは山菜を持って台所へ向かう。

そこではミコトがマヨイガ妖怪達に指示を出しながら、宴会の為の料理を作っている。

 

「あなた、稲荷寿司は全部できたのだ」

 

サツマイモを潰すその手を止めずにミコトは言う。

先ほどまで一緒に稲荷寿司を作っていたのだが、フェルドナ神が来たと言う事で俺とコンで出迎えに行ったのだ。

その間にミコトが一人で終わらせたようだ。

始めて会った頃は料理のりの字も知らなかったのに、立派になったものだ。

 

「ありがとう。なら俺は山菜料理に入るな」

 

フェルドナ神が山菜を持ってくるのは事前に聞いていた通り。

調理法もラクル村の郷土料理を参考にしてあらかじめ決めてある。

 

いざ、調理……となったところで今度はルミナ神が来たと言う報告が入る。

何とも間の悪い、もう少し早ければ一度で済んだんだが。

 

 

 

(わたくし)が一番乗りだと思ったのですが、フェルドナの方が早かったようですわね」

 

フェルドナ神もですが、ルミナ神も早いですね。

何時何時(いついつ)までにという話で早く来る分には構わないとは言いましたが。

 

「ふふふ、それだけ楽しみにしていたということですわ」

 

そう言って微笑むルミナ神から、肉が入った袋を大量に受け取る。

これだけの種類の肉を用意できるというのはルミナ神だからこそだ。

百重御殿には肉類が無いのでこれはむっちゃ嬉しい。

 

袋にはそれぞれ何の肉か分かるようにラベルが付けられているが、その中に異世界の言葉で牛を意味する単語が書かれているものがあった。

ミルラト神話圏において食用に育てられた牛の肉は超高級品。

ルミナ神とて容易に手に入るものではない。

事前の予定では肉の種類に牛というのは無かった筈だ。

 

「丁度よく捧げものがありましたの。調理法はお任せしますわ」

 

ありがとうございます。

部位は、ラベルによるとサーロインか。

ステーキ……いや、すき焼きもありだな。

牛肉なんて何時ぶりだろうか。

 

「了解です。腕によりをかけて作りますよ」

 

「楽しみにしていますわね」

 

 

 

さて、こっちの山菜は茹でて胡麻和えに。

これはアクを抜いて炒め物。

本来ならアク抜きに一晩掛かるそうだが、妖怪鍋の力であっという間に完了だ。

これとこれは天ぷらにするか。

 

「主様、このくらいでいいでしょうか?」

 

「どれどれ、うむ。十分茹で上がっておるのぅ」

 

隣でジャガイモを茹でていたヤシロさんがコンに出来具合を聞いている。

料理があまり得意ではないヤシロさんも、一年も経てば簡単な料理くらいは作れるようになった。

まぁ、基本的に食べる専門なのであまり凝った料理は作れないが。

 

ヤシロさんが作っているのは百重御殿産の卵と野菜をたっぷり使ったポテトサラダ。

コンの指導を受けながら、せっせと調理に励んでいる。

 

「そういえばルミナ神の持って来たハムが思ったより多かったのぅ。せっかくじゃからそれも入れるか」

 

「お肉も入るんですか? やったー」

 

ヤシロさんは元々肉食魚だ。

妖怪になって野菜も食べるようになったが、主食は小魚やイカなどがメイン。

そんなヤシロさんの口に、地上の動物の味は非常に美味しく感じられたらしい。

一番好きなのはハンバーグなあたり、種族的なものではなく妖怪化で人に近くなった影響のようだが。

 

日乃國(ヒノクニ)との取引で定期的にジビエが手に入るようにはなったが、量の問題からあまり食べさせてあげる機会は無かったからな。

ルミナ神が「余った分は皆さんで食べて下さいな」と予定より多くの肉を持ってきてくれたのには感謝している。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけ味見を」

 

 

 

フェルドナ神の到着から遅れて1時間半。

フォレアちゃんがやって来た。

 

その手には何やら可愛らしく装飾されたガラス瓶が握られている。

 

「あの、これ作ってみたのです。よかったら皆さんでどうぞ」

 

「ありがとう、頂くよ」

 

ガラス瓶の中に見えるのはクッキーのようなもの。

ラクル村周辺で作られる伝統的なお菓子だ。

現世(元の世界)で言えばガレットに近いか。

 

あとでフェルドナ神に聞いたのだが、いつもお世話になっているお礼に自分も何か贈り物をしたいと思ったフォレアちゃんが早起きして作ったそうだ。

いつもはフェルドナ神が一緒に作るのだが、今回は珍しく一人で作ると言い出したのだとか。

そのためか作るのに手間取って出発予定時刻に間に合わず、手伝おうとしたフェルドナ神を一柱(ひとり)でできるもんとばかりに追い出したというのがフェルドナ神が一柱で先に来た真相らしい。

言葉を濁したのも、せっかくのサプライズを台無しにしないための配慮だったようだ。

 

ちなみに味は良かったぞ。

 

 

 

「じゃまするぞい……なんじゃ、ワシらが最後か」

 

「おじゃましまーす」

 

サルタビコ神とウカさんが到着。

指定の時間よりまだ二時間は早いんだが。

 

持ってきてもらった食材を調理する時間も必要なため、当然ながら宴の始まる時間は更に遅い。

皆楽しみにしすぎでは?

 

とりあえず既にできている料理で軽く摘まめるやつを先に出しておくか。

あとは、お酒だな。

神酒ではないからウカさん以外はほろ酔い程度にしか酔わない面子だし。

 

「これが約束の品よ。それと、良い(かつお)が手に入ったのでな」

 

うお、でっか。

サルタビコ神が持って来たのは各種海の幸、そして大型の鰹だ。

 

日乃國(ヒノクニ)は海に面している部分が多く、一年を通して様々な旬の魚が食卓を彩ると聞いている。

対してミルラト神話圏は内陸に住んでいる人が多く、塩漬けにされたもの以外の魚を食べる文化があまりない。

もちろん海岸沿いに住んでいる人もいるし、その人たちは日ごろから魚介類を口にしている。

しかし割合としてはそうでない人達の方が圧倒的に多い。

 

ラクル村とか海までの距離はそこまでではないものの、地理的な問題で保存食以外の魚を食べる機会なんてまず無いだろう。

フェルドナ神も百重御殿以外で魚料理なんて食べたことは無いらしい。

ルミナ神は港町にも神殿を持っているため、割とよく食べるそうだが。

何ならルミナ神の好物の一つはラオリセという(ぶり)に似た異世界(あちら)の魚である。

 

(鰹か、旨そうじゃのう。とりあえずたたきにするか。それと──)

 

任せた。

ちなみにコンは(かつお)が好き。

芥子醤油で食べるのがいいらしい。

 

目には青葉、山郭公(ほととぎす)、初松魚(かつお)*1

 

 

 

 

 

急遽追加したすき焼きの準備を終え、鍋を両手に食材を抱えたマヨイガ妖怪たちを侍らせて宴の会場へと赴く。

時間は予定よりもかなり早いが、皆が揃ったとあらば酒食(しゅしょく)を始めない理由も無い。

会場では一足先に宴会が始まっており、ミコトとコンには先んじて参加してもらっていた。

主催側が誰もいないのに宴を始めるのも気が引けるだろうからね。

 

本当ならそっちには百重御殿の主である俺がいるべきなんだろうが、俺が作った料理の方が受けがいいからなぁ。

なんせ隠し味は愛情、が比喩ではなくそのままの意味で出来てしまうからだ。

半分念物(ここのぎ)のようなものなのである。

これは残念ながら妖怪であるミコトやコンにはできない。

 

 

 

会場に着くと思い思いの姿で宴を楽しむ神々の姿が……と思っていたのだが、何か様子がおかしい。

部屋の端っこの方にみんなして集まっている。

座卓に並べられた料理には飲み食いした跡が見受けられるので、既に宴は始まっているようではあるのだが。

 

「お待たせしました。牛肉のすき焼きを持って来ましたよって、何をしているんです?」

 

「あ、キツネツキくん! 今、みんなでミコトくんの描いた漫画を見てたの」

 

すき焼きの鍋を座卓に置いて俺もそちらに行ってみると、畳にはミコトの作品が並べられていた。

わざわざ端っこでやっていたのは、誤って料理でこれを汚してしまわない為か。

 

「物語と言えば吟遊詩人か劇団と相場が決まっていましたが、こういう形で見るのも良いものですわね」

 

「そうよの。読み方こそ少し癖があるが、慣れてしまえば引き込まれる」

 

「この配置、自然に視線が誘導される。一つのコマなのに、その中で時間が進んでる。(すご)……」

 

その中から一枚手に取ってみれば、ミルラト神話の一幕が描かれていた。

ルミナ神がその身を犠牲にして善行を成したカワセミを星座にする話か。

 

もう一枚手に取れば、日乃國(ヒノクニ)の侍による鬼退治の話。

こっちは隣人を馬鹿にした男がしっぺ返しを食らうという訓話。

若者に助けられた猫が人に姿を変えて嫁に来る異類婚姻譚。

子を抱いて果物を買いに来る幽霊の怪談噺。

 

いずれも此処にいる皆から聞き集めたお話を、ミコトが漫画にしたものだ。

それは長い間人々が語り継いできた物語。

異世界の人々が紡いできた、文化の記録。

 

「この子、かわいいのです。このぷにっとした体にちっちゃいおてて」

 

「生態は可愛くないがのぅ。爆発するんじゃよな、それ」

 

「なのです!?」

 

「これなんか自信作なのだ」

 

「どれどれ、へぇ、ほー、いや、そうはならないでしょ」

 

「ああ、これか。当時この目で見た時は大爆笑したものよ」

 

「これ実話!?」

 

「この表現方法、参考になるなぁ」

 

異世界(タケルさんの世界)の話はありませんの?」

 

皆でわいわいがやがや、同じ時間を共有する。

現世とミルラト神話圏と日乃國(ヒノクニ)、遠く離れた者達が集まって。

 

やがて宴は喧噪を取り戻し、酒や料理を片手に夜が更けるまで続いていった。

きっと、これからも続いていく日々と同じように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴の翌日。

誰かが持って来た神酒で酔いつぶれて泊まっていった面々も何とか復帰して帰路につき、百重御殿はまるで昨日の騒ぎが嘘のように普段の(おもむき)を取り戻していた。

 

隣ではミコトが昨日の漫画を集めて製本作業に励んでおり、既に何冊かの完成品が並べられている。

縁側では毛繕いを終えた狐姿のコンが、気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。

 

俺はというと、昨日はお披露目されなかった本を読んでいた。

それは俺たちの思い出の記録、それを漫画にしたものだ。

 

例えば百重御殿でミコトと再会した時のこと。

ちょっとした勘違いからコンに威嚇するミコトと、冷静にツッコミを入れるコン。

 

俺たちの結婚式のこと。

人間の結婚式、妖怪の結婚式、狐の結婚式。

それぞれの印象に残った場面が合わせて八頁(8ページ)にもわたって書かれている。

 

ルミナ神とプロミネディス神が初めて来たときの話。

そう言えばルミナ神のあの姿を見たのはこの時の一度きりだったな。

 

コンがヤシロさんを釣り上げた時のこと。

この時はヤシロさんがここまで身近な存在になるとは思ってもみなかった。

 

新婚旅行に行った時の話。

まさかいつの間にか現人神になっていたとは。

 

吸血鬼の女性(エルラさん)が来た時の話。

これが縁で異界神(キツネツキ)の神子になってもらうことなるとは。。

百重(ももえ)的には複雑な気持ちだったようだが。

 

コンが命婦専女(みょうぶとうめ)の神名を取り戻した日。

あの尻尾のモフモフ具合は最高だった。

コンとミコト、二人の尻尾に挟まれた時の感触と言ったら言葉には表せない。

 

ヤシロさんが託宣をした時のこと。

そのときの神々しい姿は異界神(キツネツキ)の使いとして恥じないものだった。

内面はいっぱいいっぱいだったそうだが。

 

ルミナ神が異界神(キツネツキ)の神社を作るという話を持って来た日のこと。

 

 

 

それからそれから……

 

 

 

「できたのだ!」

 

思い出に耽っていると、ミコトの元気な声が響いた。

どうやら製本が終わったらしい。

その声につられて日向ぼっこ中だったコンもやってくる。

 

「良い感じにできたではないか。おや? 表題は無いのかの」

 

「まだ決めてないのだ。あなたは何がいいと思うのだ?」

 

俺か?

そうだな……異世界のいろんな話を詰め込んだ本だから。

 

「異世界四方山見聞録──とか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

いや、何か言ってよ。

 

「言いたいことは分かるんじゃが、もうちょっとこう何というか……」

 

「わ、わかりやすいとは思うのだ」

 

いやいや、そう簡単に気の利いたタイトルなんて思いつかないって。

物見遊山道中絵巻とかの方が良かったか?

 

あーでもない、こーでもないと、皆で知恵を絞り合う。

何でもない筈のそんな日常が楽しくて。

 

 

 

「ミコト、コン、これからもよろしくな」

 

「もちろんじゃ、なんせ儂はずっとお主の側におるからのぅ」

 

「ボクだって、タケルとずーーーと一緒なのだ」

 

「しかし突然どうしたんじゃ?」

 

「いや、ちょっとね」

 

 

 

昨日とは少しだけ違う日々が、昨日と同じように続いていく。

変わっていくもの、変わらないもの。

小さな変化を積み重ね、それぞれの日常を生きていく。

 

これはそんな日々をつづった四方山話(なんでもない話)

 

「なーのだ」

*1
山口(やまぐち) 素堂(そどう) 1642~1716。




継続(けいぞく)(ちから)なり』

何事もこつこつ続けていけば、やがて大成できるという意味。



2020年の7月から始まったこの小説も、本日をもって一区切りつくことが出来ました。
これもこの小説を読み続けて下さった皆様のおかげです。
感想、評価、誤字報告、どれも感謝しています。

もし話が思いついたら番外編と言う形で投稿することもあるかもしれませんが、タケルやコン達の物語はこれで一旦お仕舞い。
おおよそ五年半、本当にありがとうございました。
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