「わっ! 動いた!?」
「目付き悪い……」
「ちょっと恐いよね……」
「で、でも、格好良い……よね?」
「う、うん、それは否定しないけど……」
場所はとある学園の教室、周囲から聞こえる声と集まる視線に内心苛立ちが募って行く。
聞こえない様にと小声で話している様だが全て丸聞こえだ。
ここは女だけが動かす事の出来るインフィニット・ストラトス、通称〈IS〉の人材育成の為に世界中から人が集まるIS学園だ。
何故、そんな場所に男である俺がいるのか……まぁ、色々あったからだ。
正直面倒だが、仕方ない。
しかし、これじゃあまるで檻に入れられた珍獣の扱いだ。
「な、なぁ……」
せめて面倒事に巻き込まれない様にと腕を組み目を閉じていると、突然声を掛けられた。
目を開き、前へと視線を向ける。
そこには何やら緊張した面持ちで立つ、男の俺から見ても二枚目と言える男がいた。
「……何だ?」
「あ、えっと……男子は俺達二人だけだし、同じ男子としてこれから仲良くしたくてさ」
「……成る程な」
確かにこの学園に在籍している生徒全員、そして教員ですらほとんど女だけ。
そんな中で同じ男である俺に声を掛けようとするのは当然か。
「俺は織斑一夏、宜しくな!」
「はぁ……五十嵐悠斗だ」
「五十嵐悠斗……じゃあ悠斗って呼ぶよ! 宜しくな悠斗!」
そう言って手を差し出して来る織斑に、俺は思わず顔をしかめてしまった。
正直、こういった馴れ合いは苦手、寧ろ嫌いだ。
しかし同じ男としてこれから何かとつるむ事が多い筈、我慢しつつ一先ず返事だけ返しておいた。
「……あぁ」
俺の言葉に、織斑は嫌な顔をするかと思えば笑みを浮かべながら手を引っ込めるだけだった。
だが織斑……"あいつ"の言っていたお気に入りの奴、か。
「はーい! 皆さん席に着いて下さいね!」
チャイムが鳴ると同時に、教師であろう女が入って来た。
織斑がその言葉を聞いて自らの席に戻った。
しかし、かなり童顔だな……制服を着て席に座っていれば生徒と間違えるんじゃないか?
まぁ良いか、女から視線を外し俺は再び目を閉じた。
「―――――君、五十嵐君?」
「あぁ?」
「ひぃっ!?」
自らを呼ぶ声に視線を前へと向ければ、先程の女が何故か怯えた声を上げながら俺を見ていた。
教師がそんなので良いのか?
「ご、ごめんね大きい声出して! で、でも自己紹介で名前順だから『あ』の次は『い』で五十嵐君の番なの!」
いつの間にか自己紹介なんてやってたのか。
「……はぁ」
おどおどした態度のままの女に溜め息を一つ溢しつつも立ち上がり、そのまま教卓の前へと向かう。
「五十嵐悠斗だ」
一言、そう告げた。
「……えっ? 終わり、ですか?」
「あ? 何か問題でもあるのか?」
「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!」
何をそんなに怯えてるんだこいつは、こんなので教師が勤まるのか……っ!?
背後から感じた気配に、咄嗟に上体を逸らした。
その瞬間、頭の直ぐ上を黒い何かが唸りを上げて通り過ぎた。
「ほう? 中々良い反射神経だな?」
声の主は黒のスーツで身を包み、鋭い目で俺を睨み付けている女だった。
「その反射神経に免じて今回は特別に見逃してやるが、生徒たるもの目上の人間、況してや教師は敬え、そして敬語を使う事を心掛けんか」
「……あぁ」
「返事ははいだ……まぁ良い、席に戻れ」
言われた通り席に戻ろうとした、その時。
『きゃああああああああっ!!』
まるで教室全体が揺れたのではないかと思える程の女共の声が響いた。
その余りの大音響に思わず顔をしかめる。
ふと隣を見れば女も心底迷惑そうな顔をしていた。
「黙らんか小娘共! ったく……このクラスの副担任になった織斑千冬だ、これからお前達ひよっ子を卒業までに多少マシなIS乗りになれる様に厳しく指導してやる、覚悟しておけ」
織斑千冬……こいつが……。
席に戻りあいつを観察する。
立ち居振舞いに一切の隙は無く、奴が只者では無い事を物語っている。
……成る程、こいつが。
「え、えっと、では続きを……」
そのまま自己紹介が続き、織斑の番に回って来た。
「えっと、織斑一夏です……以上です」
織斑の頭を黒い何か……漸く正体がわかった、出席簿が唸りを上げて襲い掛かるのだった。