『何で悠人と一緒にいるんだよ?』
食堂で、織斑一夏に言われた言葉に私は何も言い返す事が出来ませんでした。
教室で私が発したあの言葉、男性を、日本人を貶す言葉。
例えクラスの皆さんに謝罪をしたとしても、皆さんが許して下さったとしても、あの発言をしてしまったのは事実。
彼の言う通りですわ、そんな私が今更、例え優しく接して下さるからと言って五十嵐さんの隣にいる事など許されないのでしょう。
私は……もう……。
「織斑、そこまでにしておけよ」
私の目の前に立つ、広く大きな背中。
顔を上げれば、五十嵐さんが私と織斑一夏との間に立っていました。
混乱する私の目の前で、五十嵐さんは私を庇う様に説得し、そしてあろう事か私の代わりに謝罪するとまで言って下さったのです。
そんな、何故私なんかの為に……。
そのまま説得が終わり、五十嵐さんは私の方へと向き直り安心させる為か大丈夫だと、一言そう言って下さりました。
女性を守るその姿は、私が幼い頃に憧れた、古き良き
周囲の方々や他の三人が口にした様に、とても格好良い姿でしたわ。
そして彼は一言、私の困っている姿を見たく無かっただけだと、そう言ったのです。
その瞬間、私の感情は確信に変わりました。
私は、彼に惹かれていると。
この感情は嘘偽りの無い、私の本心であると。
その後、五十嵐さんは先程の発言が恥ずかしかったのでしょうか、急いで食べ終えると一足先に食堂から立ち去ってしまいました。
残された私達はその後ろ姿を呆然と眺める事しか出来ませんでした。
「……はぁ、良いなぁオルコットさん」
突然、相川さんが発した言葉に私は思わず肩をびくりと震わせてしまいました。
「え、な、何がですの?」
「五十嵐君、見た目と違って優しいんだってわかるけど、オルコットさんには特別な感じがするよね?」
「う、うん、オルコットさんには、心を許してるみたいな……」
「そうだね~もしかしたらゆうゆう、セシリーの事が"好き"なんじゃないかな~?」
「……えっ? えぇっ!?」
三人の言葉に、私は狼狽えてしまいました。
そんな、五十嵐さんが私の事を……そうだったら嬉しいですが……い、いえいえ! そんなの駄目ですわ!
目の前の三人と顔を合わせられなくなり、そのまま俯いてしまいました。
「……でも、五十嵐君って本当に凄いね? 同じ男子だとしてもオルコットさんを守る為にあんな風に言えるなんて」
「うん、乱暴にじゃなくて、あんな風にしっかりと冷静に言い聞かせて……本当は少し恐い人なのかと思ってたけど、全然違うんだね」
その言葉には、大いに同意しますわ。
確かに初対面では少し恐いと思ってしまいますが、話をすれば彼がとても優しく、そしてどんな事にも真っ直ぐに向き合う方なのだとわかりますもの。
「ねぇオルコットさん、五十嵐君とも試合をする事になったけど、どうするの?」
どうする、それは代表候補生の私が、五十嵐さんに本気で挑むのかどうかというものでしょう。
「……五十嵐さんが私に謝罪は試合が終わった後に聞くと、それまでは気負う事無く正々堂々勝負をする様に仰って下さいましたわ。 その五十嵐さんの言葉と意思を尊重して私は全身全霊で、本気で挑ませて頂きますわ」
「「「えぇっ!?」」」
三人が驚いて大声を上げました。
「だ、だって五十嵐君って、ISを動かしたって言っても稼働時間はそんなに無い筈でしょ!? それに試合だって訓練機だろうし、危ないんじゃ……?」
「それは……」
そこで私は口を閉じました。
五十嵐さんと約束したではありませんか、専用機の事は他言無用と、それなのにここで話してはいけませんわ。
「……それでも、私は本気でやりますわ。 手加減するのは五十嵐さんのプライドに傷を付ける行為、五十嵐さんを裏切るのと同じ事ですもの。 そんなの、私は絶対に嫌ですわ」
五十嵐さんが私に言って下さった、しっかりと向き合いたいという言葉。
ならば私も、例えどの様な結果になろうとも、それに答えたいですわ。
ふと、突然三人が何も言わなくなった事に気付きました。
視線を向ければ、何故か三人は一度互いに顔を見合わせてから頷き、やがて何か意味深な笑みを顔に張り付けて私を見て来ました。
……な、何ですの?
「なんか、ご馳走さま」
「オルコットさん、変わったね?」
「ゆうゆうは愛されてるね~」
「はいっ!? 何ですの急に!?」
「うんうん、皆まで言わずともわかってるから」
「私は、その方が良いと思うよ?」
「愛の成せる業だね~?」
「や、やめて下さいまし!? 私はそんな……!」
どう反論しても、三人は食事を終えるまでずっと温かい目で私を見続けていました。
何だか、負けた様で悔しいですわ……。
「全くもう、あの方達は……」
食事を終え、自室に戻る途中の廊下で私は思わず言葉を漏らしてしまいました。
結局最後までからかわれてしまいましたね。
……ですが、彼女達との食事は、とても楽しかったですわね。
今まで食事と言えば自分一人、誰かとの食事となれば息苦しいと思う様な正に腹の探り合いをしながら。
あの様に、笑いながら食事をしたのなんて、いつ以来だったでしょうか?
もし私一人だったらあの場にいる事は無かった……これもまた、五十嵐さんのお陰ですのね。
「……ふふっ」
本当に五十嵐さんは凄い方ですわ。
私に色々な大切なものを授けて下さり、気付かせて下さいますもの。
不思議で、格好良くて、そして優しい五十嵐さん。
もし、叶うのなら、私は……。