インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第11話 朝の悶着

汗を流す為にシャワーを浴びながら、壁を強く殴り付けた。

 

先程の感情が、まだ冷めやらない。

 

束は俺にとって恩人であり、血の繋がりが無くとも"家族"だ。

 

それなのに、何故肉親であるあいつはあんな事を言える? 何故わかろうとしない?

 

「畜生……っ!」

 

再度、壁を殴り付ける。

 

このままだと駄目だ、何とかしてこの怒りを静めなければ支障を来す。

 

そのまま何度か壁を殴り付け、冷水を頭から浴び続けた末に浴室から出る。

 

何とか、先程よりは頭が落ち着いた。

 

そのまま頭をタオルで拭いていると、微かなノックの音が聞こえた。

 

……誰だ、こんな朝から?

 

 

「あの、五十嵐さん、起きていらっしゃいますか?」

 

 

聞こえて来た声、オルコットのものだった。

 

落ち着きかけていた感情だが、何故か先程までとは違う感覚で荒れ狂いそうになる。

 

しかし、ここで変に思われるのは避けたい。

 

「あぁ、鍵なら開いている。 待たせるのも悪いから入ってくれ」

 

「えっ? あ、では、失礼しますわ」

 

扉が開き、オルコットが入って来た。

 

「五十嵐さん、おはようございます。 朝早くから申し訳ありませ……ひゃあっ!?」

 

突然、オルコットが悲鳴を上げながら後ろを向いてしまった。

 

……どうしたんだ?

 

「オルコット、どうかしたのか?」

 

「あ、ぅ……ふ、服を着て下さいまし!!」

 

「……あぁ」

 

そうか、シャワーを浴びた後で下は履いているが、上は首にタオルを掛けているだけで何も着ていなかった。

 

束と暮らしていた時は特に気にしていなかったが、普通女の前でこの格好は駄目か。

 

一言謝罪を入れ、用意していたシャツを着る。

 

「すまない、見苦しいものを見せた」

 

「い、いえ、素敵な身体……っ!? ほ、本当ですわ! もう少し気を付けて下さいまし!」

 

慌てて取り繕うオルコットだが、流石に無理があるだろ。

 

それにこんな男の身体を見て良いも何も……いや、確かによっぽどの女じゃない限り筋肉の付き方には限界があるか。

 

自慢するものじゃ無いが、束と暮らしている頃から毎日のトレーニングを欠かさなかった為にある程度の筋肉は付いているが……いや、それはどうでも良いか。

 

そのまま制服を着てオルコットに向き直る。

 

「待たせて悪かった、何か用があったのか?」

 

「あ、その……朝食をご一緒に如何かと思いまして、誘いに来たのですが」

 

成る程、そういう事か。

 

「わかった、なら行こう」

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「あぁ、構わないが?」

 

「っ! はいっ! では行きましょう!」

 

断る理由なんて無いんだが、そんなに喜ぶ様な事なのか?

 

不思議に思いながらも食堂へと向かった。

 

 

 

 

「……ねぇ、あのチョーカーってさ」

「やめなよ、言っちゃ駄目だよ」

「何て言うか……」

「……エロいよね」

「あー言っちゃったよ!」

「考えない様にしてたのに!」

「でも考えたでしょ?」

「真っ先に考えました!」

 

 

 

朝っぱらから周りの奴らが騒がしいが無視しつつ、食券を渡して朝食を受け取る。

 

頼んだのは和の朝定食、ご飯と味噌汁、卵焼きに青菜のお浸し、やはり朝は和食が良いな。

 

昨晩と同じ様に大盛にして貰うのも忘れない。

 

「あっ! 五十嵐君! オルコットさん! ここ空いてるよー!」

 

オルコットも朝食を受け取ってから空いている席を探そうとすれば俺達を呼ぶ声が。

 

視線を向ければ昨日と同じ面子、相川と鏡、布仏が手を振っていた……ここは厚意に肖ろう。

 

一言礼を言ってから席に着き、早速食べ始める。

 

「頂きます」

 

先ずは味噌汁を一口、相変わらず美味い。

 

「うわぁ……流石五十嵐君、朝から凄い量だね?」

 

「そうか?」

 

「そうですわね……その、毎食そんなに食べて太ったりしないんですの?」

 

「……いや、気にした事は無いな。 前からこの量だが、別段体型が変わったりした事は無い」

 

「「「「えぇっ!?」」」」

 

四人が驚きの声を上げ、次いで恨めしそうな批難の目を向けて来た。

 

「何だ?」

 

「狡いですわ、女子はその辺りをとても気にしてますのに……」

 

「そうなのか?」

 

問いかければ、他の三人も勢い良く頷いている。

 

そんなに気にする様な事なのか? 四人共気にする様な体型には一切見えないが。

 

「当たり前ですわ! 女としての嗜みでもあるのですから!」

 

「そういうものなのか……だが、昨日オルコットに言ったが……」

 

「そ、それはここでは言わないで下さいまし!?」

 

慌てた様子で口元を押さえて来るオルコット、苦しいし飯が食えないからやめて欲しいんだが。

 

「ゆうゆうにセシリー、朝から夫婦漫才はやめてよ~」

 

「め、お……と……? それは一体何ですの?」

 

「ん~? 仲が良いなぁって事~」

 

「そうなんですの? そ、それでしたら、悪くは無い……ですわよね?」

 

……布仏の奴、オルコットがわからないのを良い事に好き放題言いやがって。

 

「い、五十嵐さん……?」

 

何も言わない俺に、オルコットが不安そうな表情を浮かべてしまった。

 

「……あぁ、悪くは無いな、そもそも仲が悪かったらこうして誘いを受けていないだろ?」

 

「そ、そうですわよね!? うふふっ……」

 

途端に機嫌が良さそうに笑みを浮かべるオルコット。

 

向かいの三人の意味深な笑みが何とも煩わしい……。

 

「あ、ところで五十嵐君、試合までに何か特訓とかはするの?」

 

思い出した様に尋ねて来た相川の問いに、再び手を止める。

 

「まだ確定じゃないが、アリーナを借りれるか確認して貰っている」

 

「って事はやっぱり訓練機?」

 

「……あぁ」

 

オルコットにはこの専用機の事を伝えているが、他の奴らには黙っておきたい。

 

例えアリーナが使える事になったとしても他の奴らに見せるつもりも無いし、ここで話さなければ問題無い筈だ。

 

オルコットも俺との約束を守ってくれている様で、相川と共に俺に疑問の表情を向けている……演技が上手いな。

 

「成る程ねぇ……けどオルコットさんには聞いたんだけど、オルコットさんは専用機持ちで国の代表候補生なんだよ? その、五十嵐君には申し訳無いんだけど、ハンデとか付けて貰った方が……」

 

「そんな事、許される筈が無い」

 

俺の言葉に、三人が息を飲んだ。

 

「オルコットは努力して、自らの実力で代表候補生になったんだ。 そんなオルコットにハンデを付けろだなんて半端な気持ちで挑むのは侮辱以外の何物でも無いだろうが。 それに圧倒的不利で、俺に勝算なんて無いとしても、正面から全身全霊でオルコットに応えたいからな」

 

そこまで言って味噌汁を啜る。

 

まぁ、今のこの女尊男卑の世界でこんな事を言ってもただ滑稽にしか見えないんだろうがな。

 

「……ん?」

 

おかしい、自棄に四人が静かだ。

 

視線を向けると、何故か四人共何処か熱を帯びた目で俺を見ていた……何故だ?

 

「い、五十嵐君って、オルコットさんの事をそんな風に見てたんだ?」

 

「そうだが?」

 

「ひ、否定しないんだね?」

 

「否定する訳が無い。 オルコットの実力を直接見た事は無いが、国の代表候補生になる為にはそれ相応の実力を持っているからだろ? それを同じ年齢でそこまで上り詰めるのは生半可な努力じゃ無理だろうが」

 

「確かにそうだけど……」

 

「そんなオルコットと試合が出来る事自体が幸運と言える。 まぁ、選出のされ方は納得出来ないものだったけどな」

 

「あ、ご、ごめん……」

 

「……別に責めたい訳じゃ無い、それに今では感謝してるさ」

 

「あ……ありがとう……」

 

さて、話に夢中になるのも良いがせっかくの飯が冷めるのは頂けない。

 

俺は食事を再開する。

 

「……あの、五十嵐さん?」

 

「……ん?」

 

何口か食べた所で、オルコットが控え目に声を掛けて来た。

 

「その……何故、五十嵐さんはそこまで私を評価して下さるのですか? お言葉ですが、昨日初めてお話した時の私は五十嵐さんにキツく当たっていましたのに……」

 

「それは……」

 

キツく当たった、確かに口調こそ棘のあるものに聞こえたが、その言葉は何も知らない俺に親切に教えようとしている様に感じた。

 

その後の会話でも、俺に対して歩み寄ろうとしてくれていた。

 

それに、オルコットは一目見て……。

 

 

 

「っ……何でも無い」

 

「五十嵐さん? どうして目を逸らすんですの?

五十嵐さん!?」

 

「何でも無いと言ったら何でも無い、俺は飯を食うのに忙しい」

 

「えぇっ!?」

 

オルコットが肩を掴んで身体を揺すって来るが。ひたすらに視線を合わせないように逸らし続けた。

 

今下手に目を合わせたら、確実に墓穴を掘りそうだ。

 

「ゆうゆうにセシリー、朝からご馳走さま~」

 

「……うるさい」

 

朝から、こんなに騒がしくてなるとは思ってもいなかったな。

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