インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第12話 専用機

「五十嵐、昨日の件で話がある」

 

特に何事も無く授業が終わり、HRが終わったと同時に織斑千冬に声を掛けられた。

 

こいつからの話と言えば、一つしか無い。

 

「アリーナの件か?」

 

「だから敬語を……いや、もう無駄だな。 そうだ、第2アリーナの使用許可が出た」

 

「……そうか」

 

「試合までの残り六日間はお前に使わせるそうだ」

 

「そんなに? いや、そうか……上からの命令だな?」

 

恐らくは俺が専用機を手に入れた事を知った上層部とやらがデータ収集の為に無理矢理捩じ込んだんだろうな。

 

「そういう事だ、そして使用する際は私と他数名でお前の面倒を見る」

 

「そうか……直ぐに使えるんだな?」

 

「あぁ、直ぐに準備をして着いて来い」

 

準備と言っても既に荷物は纏めてある、鞄を持ち直ぐ様立ち上がる。

 

ふと視線を感じ、そちらを見ればオルコットが視線だけで何かを訴えていた。

 

あれは……恐らく、応援しているとか、そんな感じだろうか?

 

軽く手を上げ、頷いてから俺は教室を後にした。

 

 

 

 

 

学園内に幾つかある中の第2アリーナへとやって来ると、二人の女が待っていた。

 

その内の一人の顔を見て、思わず首を傾げてしまう。

 

「何故ここに布仏がいる?」

 

「やっほ~ゆうゆう~」

 

長い袖に隠れた両手を振る布仏、その姿を見て隣に立つもう一人の女が鋭い目を向けている。

 

背は布仏より高く眼鏡を掛けているが、その顔付きは布仏に似ていた。

 

「布仏姉妹の整備の腕は折り紙付きだ、お前の機体の整備とデータ収集を担当して貰う」

 

「……姉妹?」

 

「初めまして五十嵐君、私は三年の布仏虚、本音の姉です」

 

「……あぁ、そういう事か」

 

道理で似ている訳だ……まぁ、性格は大分違うみたいだが。

 

「初めに言っておくが、この特訓に関して、そして機体については試合当日までは口外する事は禁じる……わかったな?」

 

俺達三人に向けての言葉に、揃って頷いた。

 

「よし……では五十嵐、早速だがISを展開しろ」

 

「……黒狼」

 

名を呼べば、昨晩と同じ漆黒の装甲が全身を包み込んだ。

 

そこでふと気付いたのだが、妙に身体に馴染む様な気がするな。

 

「これが……」

 

「こいつが昨日束から受け取った第三世代機、黒狼だ」

 

俺の言葉に、布仏姉が驚愕の表情となる。

 

この反応、データ収集と整備の話はされていたが機体の詳細は話されていなかったのか?

 

「お、織斑先生! 束とは、あの篠ノ之博士の事なのですか!?」

 

「そうだ、五十嵐は入学するまで束と共に暮らしていたらしい。 そしてこの機体は468個目のISコアを使って作られた機体だそうだ」

 

「468!? し、信じられない……」

 

「おぉ~? ゆうゆうのIS格好良いね~?」

 

布仏の緊張感を微塵も感じさせない声に溜め息を吐きつつ、布仏姉はパソコンを開いた。

 

「すみません、つい取り乱してしまいました。 早速データ収集を始めますので機体を一通り動かしてみて下さい」

 

「……わかった」

 

三人が俺から離れた事を確認してから意識を黒狼へと集中させる。

 

……どうなるかわからないが、頼むぞ。

 

 

 

 

『仰せのままに、主様』

 

 

 

 

「…………ん?」

 

集中していた意識が途切れる。

 

思わず三人の方へと視線を向けるが、三人は俺に訝し気な視線を向けているだけだった。

 

なら、今の声は……?

 

『主様、これは私、黒狼の声に御座います』

 

……何だ、これは?

 

『突然の事に混乱しているかとお思いですが、元より作られた時からISコアにはそれぞれ意思があります。 主様の様に声を聞く事の出来る方はほとんどおりませんが』

 

つまりこれは、俺の頭がおかしくなった訳では無いんだな?

 

『左様に御座います。 主様の専用機のISコアとして、私が選ばれました』

 

……束は、お前の事を知っているのか?

 

『束様と言えども、私達の声を聞く事は出来ません。 その為ISネットワークを通じて私の意思を、主様にお仕えしたいという旨をお伝えし、束様は了承して下さりました』

 

成る程、束が渡した時に言ってたのは、そういう事だったのか。

 

だが……何故俺には声を聞く事が出来るんだ?

 

『私は謂わば主様の剣であり盾、主様を護る為の存在に御座います。 何なりと御命令を、主様』

 

……わかった、だが命令じゃない、そこは間違えるな。

 

『それは、どういう意味で御座いましょう?』

 

お前は俺の専用機なら、俺にとって手足であり翼、俺の身体も同然という事、そんなお前を道具として扱う気は毛頭無い。

 

そこの所、間違えるなよ?

 

『……ふふっ、畏まりました、主様』

 

さて、そろそろ行かないとあいつらが煩いからな……行くぞ、黒狼。

 

『はい、主様の仰せのままに』

 

視線を、空へと向ける。

 

脚部と背中のスラスターに意識を向けると、熱を帯びて行くのを感じた。

 

そして、解放させると同時にスラスターが火を吹き、一気に最高速度に達した。

 

 

 

「っ……!? う、ぉ……!?」

 

 

 

初めて体験する速度、視界に映る景色がISのハイパーセンサー越しですら後方に凄まじい速さで流れて行く。

 

これが……ISか……。

 

『主様、大丈夫ですか?』

 

あ、あぁ……だが凄いな。

 

『本来であればこの速度に生身の人間が耐える事は出来ませんが、ISには身体保護機能がある事はご存知でしょうか?』

 

あぁ、その辺りの基礎知識は全て頭に叩き込んだ。

 

『流石で御座います、このまま飛び続けますか?』

 

そうだな、先ずは飛ぶ事に慣れておきたい。

 

戦闘や歩行はとりあえず後回しだ。

 

『畏まりました』

 

アリーナの上空を、そのまま縦横無尽に飛び続けた。

 

 

 

 

 

「五十嵐! 一度降りて来い!」

 

飛び続ける事数十分、地上から響いて来た声にその場で止まる。

 

ある程度飛ぶ事には慣れて来た為、言われた通りに地上へと降り立った。

 

「あ、あの……本当に、このISには初めて乗るのですか?」

 

「あ? 昨日受け取ったばかりだと言っただろ?」

 

「凄い……初めて乗るISでこれ程安定した飛行が出来るなんて……」

 

そうなのか?

 

おい黒狼、何か自動操縦の様な機能を使っていたか?

 

『いいえ、確かにその様な機能はありますが使っておりません。 先程の飛行は全て主様の操縦によるものに御座います』

 

操縦って言われてもな、特に何も意識はしていないんだが……。

 

「五十嵐、束といた頃に搭乗経験はあったのか?」

 

「いや、展開しただけで飛行はおろか歩行すらしていないが?」

 

俺の言葉に、三人の目が鋭いものになる。

 

しかし、本当に何もしていないから他に言い様も無いんだけどな。

 

「武装の展開はしたか?」

 

「いや、データとして確認したが展開はまだしていない」

 

「なら展開してみろ、出来るか?」

 

「……多分な」

 

幾つか搭載されている武装を順番に展開してみた。

 

「……刀剣"黒鉄(くろがね)"」

 

先ず展開したのは近接ブレードの刀剣"黒鉄"。

 

見た目は日本刀だが、刀身から柄までが黒一色に染まっている。

 

「ふむ、一見普通の近接ブレードだが……?」

 

「い、いえ……このブレードは異常です……」

 

布仏姉がパソコンと黒鉄を驚きを隠せない様子で交互に見ながら呟いた。

 

「普通近接ブレードは直接的な攻撃がダメージとなりますが、このブレードは与えたダメージをエネルギーとして溜め込む事で……威力を底上げする機能が付いています……!」

 

へぇ、この刀にはそんな機能が付いていたのか。

 

『主様、宜しければ展開と同時に機能の詳細を表示致しましょうか?』

 

あぁ、頼む。

 

視界に、黒鉄の詳細なデータが浮かび上がった。

 

布仏姉の言う通り、この黒鉄は相手にダメージを与えるのと同時にシールドエネルギーを取り込み、そのエネルギーにより威力を上げる事が出来るらしい。

 

これは使えるな。

 

「次、良いか?」

 

確認を取ってから黒鉄を収納し、次の武装を展開させる。

 

「……"牙狼砲(がろうほう)"」

 

展開されたのは肩に装着するタイプの、大口径の砲搭だった。

 

しかも詳細を見れば、撃ち出す銃弾を自動的に装填するらしく、装填時間を気にする必要は無いらしい。

 

「成る程、この機体は近接型だと思ったが遠距離武器も行けるのか」

 

「五十嵐君、試しにこの武装を撃って頂いても良いですか?」

 

「この場からか? それとも移動しながら?」

 

「それは貴方に任せます。 やり易い方で構いません」

 

「……わかった」

 

了承すると布仏姉はパソコンを操作し、アリーナに幾つかの的が立てられた。

 

さて、こういった射撃なんてものはやった事が無いが……。

 

「では、お願いします」

 

開始の言葉と同時に、その場から上空へと飛び立つ。

 

そのまま飛行しながら牙狼砲の照準を的へと合わせるが、こうしてとんで飛んでいるならその分の誤差を考えないとか。

 

「っ……!」

 

的は全部で十個、続け様に十発の砲撃を行う。

 

放たれた砲撃は的目掛けて襲い掛かり、大半が的のど真ん中を撃ち抜く。

 

……十発中、八発か。

 

やはり初めから全弾当てる事は出来ないか……いや、そんな簡単に行くなら苦労しないな。

 

そのまま地上に再度降り立つと、三人が俺の顔を揃って見つめていた。

 

何だ、当たらなかった事の説教か?

 

「全弾は当たらなかった、射撃なんてした事が無いから大目に見て貰えると助かるんだが?」

 

「い、いえ、そんな……」

 

「あ?」

 

「ほ、本当に、初めて乗ったんですか……?」

 

「だから、そう言ってるだろうが」

 

「あ、有り得ません……初めての射撃で、しかも大口径のもので十発中八発の命中なんて……」

 

……そうなのか?

 

『主様、普通初めてISに搭乗した方が射撃をした場合、況してや飛行中であればマシンガンタイプのもので的の二つも当てられれば上出来であると言えます』

 

へぇ、そうだったのか。

 

まぁ、お前が身体に馴染んでいるのも関係しているんだろうな、正直こうして乗っていて心地が良いんだよな。

 

『っ……!? も、勿体無い御言葉で御座います……!』

 

しかし、近接戦闘に無理矢理持っていこうと思っていたが、こうして遠距離武器も使えるのなら戦略が広がるな。

 

いや、オルコット相手に下手に遠距離攻撃を仕掛けるのは逆に悪手か? オルコットは遠距離メイン、俺の様な素人の遠距離攻撃は大半が見切られてしまう筈だ。

 

ならやはり近接戦に持ち込むしか……しかしオルコット相手にどうやって切り込む……?

 

「……嵐、五十嵐?」

 

「……あ?」

 

「急に黙り込んでどうした?」

 

「……いや、何でも無い。 少し考え事をしていただけだ」

 

「そうか? それより、武装はまだあるのか?」

 

もう一つ、これが最後の武装だ。

 

牙狼砲を収納し、武装を展開させる。

 

……これは。

 

「……"黒爪(こくそう)四足(しそく)"」

 

両手両足に展開されたのは、鋭利で荒々しさを醸し出す鉤爪。

 

これが、この機体の専用武器となっている。

 

「これは……」

 

「こ、この武装も先程のブレードと同じ性能を持っています。 それに、これは……」

 

どうやら、布仏姉も気付いたらしい。

 

この武装はただ手足に着いている近接武器という訳では無い。

 

「少し、この武装を確認したい」

 

一言伝えてから再度上空へと上がり、そのまま集中……一気に、前方へと飛び出した。

 

このデータの通りなら……!

 

黒爪の能力を、解放した。

 

 

「ぐ、あっ……!?」

 

空中を直線的に進んでいた軌道が、まるで足場を蹴ったかの如く軌道を不規則に変える。

 

これが、黒爪の能力……スラスターを用いる事無く、空間上の微かな電磁波を足場として空中で自由自在に方向転換する事が出来るというもの。

 

その分機体と身体に掛かる負荷は尋常では無いが、これが使えればかなり戦略を広げる事が出来る。

 

だが、しかし……。

 

「っ……ぐっ!?」

 

今は、たった十メートル程の距離で、身体が限界だ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

身体中が、肺が、内臓が、全てが悲鳴を上げている。

 

何度も深く深呼吸を繰り返し、ある程度呼吸を整えてから地上へと降り立った。

 

「五十嵐……今のはまさか、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)か……?」

 

織斑千冬の言葉、確かに何も知らない奴が今の動きを見ればそう勘違いしてもおかしく無い。

 

「違う、流石にそんな高等技術なんざ身に付けていない、今のは黒爪の能力だ」

 

三人に、黒爪の能力を一通り説明する。

 

「そんな能力が……」

 

「成る程、その武装にはその様な能力が付与されていたんですね……」

 

「今の動きだけで、身体が悲鳴を上げたけどな」

 

「当たり前だろう、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)では無いと言えども軌道は全く同じもの、そんな動きを初心者がすれば機体は良くても身体が着いていく筈が無いだろうが」

 

「……やはりな、なら早くこの動きに身体を慣れさせないといけないか」

 

個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)と同じ動きをものに出来れば、かなりの有利になる筈だ。

 

「言っておくが、簡単では無いぞ?」

 

「そんなもの、百も承知だ」

 

「……ふっ、意外だな、お前がそんな表情をするとは」

 

「放っとけ、それよりアリーナはまだ使えるんだろう? 可能な限りこいつに乗っておきたい」

 

「それなら大丈夫だ、寮の門限に間に合う時間まで幾らでも使って構わん」

 

「……わかった」

 

その言葉を聞き、俺はそれから何度も空へと飛び立つのだった。

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