「え!? お、俺に専用機!?」
場所は第1アリーナの控室、そこに織斑の声が響いた。
控室には俺と織斑、織斑千冬、そして何故か篠ノ之の四人がいる。
篠ノ之は案の定、俺の姿を見て気まずそうに視線を逸らしてはいるが。
「そうだ、特例としてお前にも専用機が用意される事になった」
束が言っていた通り、こいつの専用機も用意出来ているんだな。
「だが、残念ながら機体がまだ届いていない」
「えぇっ!? じゃ、じゃあどうすれば!?」
「……俺が先に行く」
そう言葉を発すれば、全員の視線が俺に集まった。
「別に順番は決まっていないんだろう? オルコットを待たせる様な事はしたく無い、それにやるなら互いに万全の状態で試合をしたい」
「あぁ、構わん。 機体の方は大丈夫だな?」
「その為にやって来た特訓だろうが」
「ま、待てよ悠斗! 機体ってどういう事だ!?」
「……お前には言って無かったが、俺は束から直接受け取っている。 お前の専用機が届くまで俺が先にやらせて貰うぞ」
「束って……束さんから直接!? ま、待ってくれよ! どういう事なんだよ!?」
「面倒だ、後で話す」
織斑から視線を外し、ゲートへと向かう。
そしてゲートに立ってから首もとの黒狼へと触れた。
「……黒狼、行くぞ」
『畏まりました、主様』
身体を包み込む漆黒の装甲、織斑と篠ノ之の驚いた声が聞こえる。
「行って良いんだよな?」
「あぁ……だが、あれだけの動きを見せたんだ、無様な姿を晒すなよ?」
「当たり前だ」
視線を前へと向け、俺はアリーナへと飛び出した。
アリーナに出ると同時に沸き起こる歓声、特訓の時にはいなかった観客の姿があった。
ハイパーセンサー越しに相川と鏡の驚いている姿が見え、それを一瞥してから視線を前へと戻す。
そして俺を、"蒼"が出迎えた。
「それが五十嵐さんの専用機、ですのね?」
「あぁ、俺の専用機の黒狼だ。 そっちも、その機体が専用機だな?」
「えぇ、私の専用機"ブルー・ティアーズ"ですわ」
オルコットの機体、ブルー・ティアーズ。
名前の通りその機体は蒼く、光を浴びて神々しいまでの輝きを放っていた。
「ブルー・ティアーズ……"蒼い雫"か……オルコットの瞳と同じ、美しい機体だ」
「うえぇっ!?」
思った事をそのまま口に出して伝えれば、オルコットは素っ頓狂な声を上げた。
「い、五十嵐さん!? し、試合を始める前に心理戦を仕掛けるつもりですの!?」
「ん? いや、そんな事考えていない、思った事をそのまま伝えただけだが?」
「うぅ……じ、自覚が無いのが、こんなに恐ろしいなんて……」
何やらぼやいているオルコットだったが、やがて表情を真剣なものに変えて俺に視線を向けて来た。
「……五十嵐さん、この試合に関しては手加減など一切しません。 イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットとして挑ませて頂きますわ」
「あぁ、元より俺もそれを望んでいたからな」
「それで……その……一つだけ、条件と言いますか、提案があるのですが……」
「……何だ?」
確かに勝ち負けに括りは無いと言っていた筈だが、今更になって言うぐらいだから重要な事だろうか?
「その……この試合が、互いに納得の行くものでしたら、お互い相手に一つ"お願い"を聞いて貰う、というのは如何でしょうか?」
「お願い……?」
「は、はい……あ、その、お願いと言っても勿論常識の範囲内ですわよ!? 変なお願いは無しです!」
何故か顔を赤らめるオルコット、変なお願いって、何を想像してるんだろうか?
……だが、お願いか。
正直、これで言って良いものなのかどうかわからないが、これは良い機会なのかもしれないな。
「……わかった、その条件を飲もう」
「では成立、ですわね?」
「あぁ、男に二言は無い」
その言葉と共に互いに距離を取る。
遠距離メインのオルコット相手に距離を取るのは悪手なのはわかっているが、俺は正々堂々行きたい。
そして距離を取り、互いに睨み会う事数秒後、試合開始を告げるブザーがアリーナに鳴り響いた。
「踊りなさい! 私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる
その言葉と共にオルコットが展開した武装は大型のレーザーライフル、照準を合わせられた事で鳴り響くロックオンアラーム。
スラスターを吹かしてその場から横へと機体をスライドさせると、コンマ一秒で俺のいた場所を寸分違わず撃ち抜くレーサー。
流石、射撃の腕は尋常では無いな。
「行きなさい! ビット!」
視線を向けると、ブルー・ティアーズの背部から四つのユニットが切り離され、それぞれが不規則な軌道を取りながら俺に向かって来る。
わかってはいたが、これは一筋縄では行きそうに無いな。
苦戦するのはわかっていたが、俺との約束を守って手加減の無い本気の攻撃を繰り出そうとしてくれるオルコットに、俺は勝手に口角が上がるのがわかった。
ユニットが、それぞれの方向からレーザーを撃って来る。
それを目で追いつつ、スラスターを断続的に吹かしギリギリでかわして行く。
『主様、既にお気付きかと思いますがあの装備は操縦者が意のままにコントロールし、それぞれ違う軌道で撃って来ます』
ははっ、流石は代表候補生、四つのユニットをそれぞれ違う軌道でコントロールとは恐れ入る。
だが、こっちも防戦一方ってのは性に合わない。
「牙狼砲……!」
展開される大口径の砲搭、レーザーを避けつつそれぞれのユニットを目で追う。
「そこだ!」
続け様に二発、内一発が直撃しユニットの一つの破壊に成功した。
「っ!? やりますわね!?」
三つに減ったユニットだが、明らかに軌道が先程よりも複雑になった。
成る程、減った分意識を集中させやすいのか……頼むぞ、黒狼!
スラスターを一気に吹かし、迫り来るレーザーの雨を掻い潜る。
牽制の意味合いで牙狼砲をユニットと直接オルコットに放つがその全てが避けられ、逆にレーザーを避け切れずに装甲を掠ってシールドエネルギーが削られる。
やはり遠距離攻撃は付け焼き刃ぐらいにしかならないか、なら……!
牙狼砲を展開したまま黒鉄を展開、そのままスラスターにより爆発的な加速で一気にオルコットに肉薄した。
「そんな!?
「らぁっ!!」
突然の事に驚愕するオルコットに、そのまま黒鉄で一閃させる。
不意を打つ事が出来た、初めてオルコットにまともなダメージが入った。
遠距離メインの機体にならば、近距離戦に持ち込むのが正攻法だと思ったがやはり有効らしい。
直ぐ様離脱し、ユニットからの追撃を避けながら一度距離を取る。
「……凄いですわ、一週間足らずで
「何とかな、遠距離特化のオルコットが相手ならどうにかして自分の距離に持って行こうと考えたんだ」
「流石です……しかし、勝つのは私ですわ!」
「それはどうか、な!」
再び襲い来るユニット、それを
意識を極限まで集中し、迫り来るレーザーを潜り抜ける。
行ける、この程度の攻撃ならオルコットのもとまで届く……。
いや、待て。
何故こんな簡単に距離が詰められる?
確かにユニットを一機破壊した、しかしそれならば何故オルコットは先程と変わらない軌道でしか攻撃して来ない?
……まさか!
気付いた時には、オルコットの目の前まで距離を詰めていた……いや、"距離を詰めさせられて"いた。
オルコットの背後から現れた、新たな二つのユニットが俺に狙いを定めていた。
嵌められた!?
新たなユニットは他の物と形状が違う、そこから放たれたレーザーでは無くミサイルにより、俺は迎撃された。
「ぐ、あっ……!?」
ミサイルの爆発によりシールドエネルギーが一気に削られ、ダメージにより牙狼砲が使用不可能と表示される。
更にはオルコットに距離を取られ、計五つのユニットとレーザーライフルから照準を合わせられている事による警告アラームが耳に煩いぐらいに鳴り響く。
「万事休す、ですわね?」
……これが、代表候補生か。
まさかたった一瞬の油断でここまで追い詰められるとは。
シールドエネルギーの残量は三割を切っている為、オルコットの攻撃を耐えられるのはせめて二発が良いところだろう。
「……流石だな」
「いいえ、それは五十嵐さんの方ですわ。 IS初心者である貴方が
「まぁ、不意を突く事が出来たからな」
「……五十嵐さん、悪い事は言いません、このまま降参して下さい」
俺を見つめるオルコットの瞳が、揺れている。
「もう勝負は着いたも同然です。 それに、これ以上貴方を撃ちたくありません……!」
あぁ……やはり、優しい奴だな、オルコットは。
確かに誰が見ても俺の負けだと判断するだろう、この状況から打開する手段は無いと。
だが、それは違う。
最後の手段なら、まだ残っているんだ。
「……悪いが、断る」
黒煙を上げる牙狼砲、そして手にした黒鉄を収納する。
『主様、使われるのですね?』
あぁ、俺は諦めが悪いからな……お前には、無理をさせてしまうが。
『滅相も御座いません、私は主様の専用機、最後まで私は主様に付き従います』
……そうか、ありがとう黒狼。
「……黒爪」
両手足に展開される、鋭利な鉤爪。
「新しい武装……本当に、降参しないのですね?」
「……オルコット、俺は諦めが悪いんだ。 そして、意外と負けず嫌いなんだよ」
「……そう、ですか」
目を伏せ、再度顔を上げたオルコットの瞳に、もう迷いは無かった。
それに応える様に、スラスターに熱が込められて行き、身体を前傾姿勢にさせる。
「残念ですが、これで終わりですわ」
「それは、どうかな?」
スラスターの熱が、限界まで高められた。
「行くぞ! オルコット!」
スラスターに込められていた熱が一気に解放され、爆発的な加速と共に飛び出した。
「行きなさい、ビット!」
待ち構えていた五つのユニットからレーザーとミサイルが、そしてオルコットの手にしたレーザーライフルが、それぞれの軌道で普通であれば避けられない角度から俺に向かって放たれる。
……そう、"普通であれば"だ。
「頼むぞ、黒爪……!!」
黒爪の特殊能力を解放させる。
全身にとてつもない負荷が掛かり、そのスピードにより視界が歪んだのではと錯覚する。
俺を狙った筈のレーザーとミサイルを遥か後方に置いて、俺はオルコットの背中を取った。
「……えっ?」
振り返ろうとするオルコットの背に、黒爪を振り下ろした。