インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

19 / 78
第17話 クラス代表の定め

「という事で、1組のクラス代表は織斑君に決まりました~ぱちぱち~」

 

「な、何で俺なんだ!?」

 

試合の翌日、朝のHRで山田から何とも気の抜ける様な口調で告げられた言葉に、織斑は抗議の声を上げる。

 

「それは私が辞退したからですわ」

 

そう言って立ち上がったセシリアに、織斑が視線を向ける。

 

「今回の試合で私は自分の実力不足を痛感しました。 ですから貴方にクラス代表の座を譲ろうと考えたのです……そしてこの場をお借りして謝罪させて下さい。 この前は、あの様な事を言ってしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 

「えっ!? い、いや、頭を上げてくれよオルコットさん! 俺はもう気にして無いし、謝らなかったのだって悠斗にきちんと説明して貰ったからさ!」

 

その言葉に頭を上げるセシリア、そして何故か織斑は俺に視線を向けて来る。

 

「つうか悠斗! オルコットさんが辞退するって言ってるけど、お前が勝ったんなら俺じゃなくてお前がなるべきだろ!?」

 

「……煩い、俺は元からクラス代表になるつもりは無いと何度も言った筈だ」

 

「それはそうだけど……って、いやいや!? 何度もって、俺には一回言っただけで後は無視してただけだよな!?」

 

「ん? そうだったか?」

 

「惚けるなよ!?」

 

「……はぁ、何も考え無しって訳じゃない。 セシリアと話をしてお前のISの筋は悪く無いという結論に至ったから俺もセシリアも辞退したんだ。 決して面倒だからとかそういう理由じゃない」

 

「えっ? そ、そうなのか……?」

 

……こういう所は馬鹿で助かる。

 

確かにセシリアはそう言っていたが、俺は単に面倒だったからやりたく無いだけだ。

 

それを知っているセシリアが苦笑しながら俺を見ているが。

 

そんな時、誰かが発した言葉で教室中が静かになった。

 

 

 

 

「……あれ? 五十嵐君、いつの間にオルコットさんの事を名前で呼ぶ様になったの?」

 

 

 

 

全員の視線が俺に集まる……面倒だな。

 

「あ、確かにそうだよな? 悠斗! 俺も名前で呼んでくれよ!」

 

「……馬鹿は黙ってろ」

 

「あっ!? また馬鹿って言ったな!?」

 

馬鹿は放って置いて、この場をどうするか。

 

別に俺は構わないが、セシリアに迷惑が掛かるのは避けたい。

 

「はぁ……お前達! そろそろ無駄話はやめないか!」

 

教室に響いた声、鶴の一声宜しく、全員が動きを止めて前を向いた。

 

これは好都合だ。

 

内心で織斑千冬に感謝しつつ、俺も前へと視線を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

「悠斗、溜め息を吐くと幸せが逃げるぜ?」

 

隣を歩く織斑の言葉に、思わず鼻で笑ってしまう。

 

今時そんな迷信を信じてる奴がいるとはな。

 

今日の授業はISの機構操縦、更衣室で着替えてからグラウンドへと向かって歩いていた。

 

「つうかさ、悠斗……お前凄いな……」

 

「あ?」

 

織斑の言葉に思わず首を傾げる。

 

視線を追って行けばあるのは俺の身体だけ、こいつは何を言ってるんだ?

 

「いやさ、悠斗って着痩せする方なんだなって思ってさ……どうやったらそんな筋肉付くんだ?」

 

「別に大した事はしていない、毎日のトレーニングを欠かさない事ぐらいだ」

 

「あ、やっぱりそうなのか? 俺もクラス代表になったからにはトレーニングとかしないといけないよな……」

 

「……まぁ、何もしないよりはした方が良いだろうな」

 

そのまま他愛も無い話をしながら、俺達はグラウンドへと辿り着いた。

 

 

 

 

「わっ!? ね、ねぇねぇあれ!」

「うわ……!?」

「凄い……」

「あ、あの胸板に抱かれたい……」

 

 

 

グラウンドに着いたと同時に、クラスの奴らの視線が何故か織斑では無く俺に集まる。

 

毎度の事ながら、本当に煩わしい。

 

「あ、悠斗さん」

 

「セシリ、ア……」

 

セシリアの呼ぶ声に振り向き、思わず固まってしまった。

 

今の俺達は全員がISスーツを着用しているのだが、男は一見普通のTシャツにハーフパンツの様なデザインだ。

 

身体に密着する作りの為に、身体のラインがくっきり出るのである。

 

そして女用のデザインはタンクトップの様な上にスパッツの様な下、そして男と同様に身体のラインがくっきりと出る。

 

つまり、セシリアの様にスタイルの良い人物が着ると……その……目のやり場に困るのだ。

 

「あの、悠斗さん……? 何故目を逸らすんですの?」

 

「……いや、何でも無い」

 

「どう見ても何でも無い様には見えませんけど、本当に大丈夫ですの? もしかして体調が……?」

 

俺の視線に入る様に近付いて来るセシリア、無意識なんだろうが、胸元で手を組みながら近付いて来る為にセシリアの強調された胸が目の前に晒される。

 

これは駄目だ、刺激が強過ぎる……。

 

「セシリア、本当に大丈夫だ」

 

「そ、そうですの? それなら良いのですけど……」

 

「あ、オルコットさーん! ちょっと手伝って貰っても良いー!?」

 

「あ、はい! 今行きますわ! すみません悠斗さん、ちょっと行って来ますわ」

 

「……あぁ」

 

セシリアが呼ばれて行ったのを見送ってから、大きく息を吐いた。

 

幾ら付き合ったと言ってもあれは駄目だろう、セシリアはもう少し自分の容姿を気にして欲しいんだが……。

 

「……何だ?」

 

隣に立つ織斑からの視線を感じて尋ねる。

 

「ん~? いや、モテる奴は違うな~と思ってさ?」

 

織斑の顔は、本気で殺意が芽生えるぐらいのムカつく顔をしていた。

 

「いやいや、貴重な悠斗の焦った姿が見れたぜ、あはははは!」

 

その顔のまま笑い出した織斑に、沸々と沸き上がっていた怒りが振り切れる。

 

「はははは……んぐぅ!?」

 

織斑の脇腹へと、全力の蹴りを見舞った。

 

 

 

 

 

「全員揃っているな? これからISの機構操縦を行う、専用機持ち三人は前に出ろ」

 

織斑千冬と山田がやって来て授業が始まった。

 

そして専用機持ちという事で俺とセシリア、そして織斑が前へと出る。

 

「よし……おい、何をしている織斑?」

 

織斑が先程の蹴りにより脇腹を押さえながら呻いている。

 

「ち、違……悠斗が……」

 

「五十嵐が何だ? お前、何かしたのか?」

 

「……知らないな」

 

「だそうだ、ふざけて無いで普通に立て」

 

「そ、そんな……」

 

絶望した表情を浮かべながらも、織斑が漸く普通に立った所で織斑千冬が俺達に向き直る。

 

「先ず初めに機体の展開速度からだ、オルコットから始めろ」

 

「はい、ブルー・ティアーズ!」

 

セシリアが機体を展開、その速度は正に一瞬のものだった。

 

「ふむ、〇・五秒か、良い展開速度だな」

 

「ありがとうございます」

 

流石としか言い様の無い展開速度に、他の奴らからも称賛の声が上がる。

 

「では次、織斑」

 

「は、はい!」

 

続いて織斑だが、腕のガントレットに触れ少しの間が空く。

 

「っ……白式!」

 

展開された織斑の専用機、白式。

 

白を基調とした、まるで騎士を思わせる様な機体だ。

 

「……一・八秒、遅いな、せめて一秒を切れる様にしろ」

 

「う……は、はい」

 

その言葉に項垂れる織斑、さて、次は俺か。

 

「では最後、五十嵐」

 

「あぁ……黒狼」

 

展開される黒狼、やはり身体に馴染むな。

 

「ほぅ……〇・五秒、オルコットと同等か」

 

他の奴らからのどよめきが聞こえるが、俺としては何も感じない。

 

単に黒狼の性能が良いだけだと思うが。

 

『主様、ISの展開速度は確かに人それぞれではありますが、"奥様"の様に代表候補生としてISの訓練を受けて来た訳では無い主様の展開速度が一秒を切る時点で十分主様の実力で御座いますよ』

 

そうか……って、ちょっと待て、お前今セシリアの事を何て言った?

 

『はい? 主様の思い人でありますので奥様とお呼び致しましたが、何か問題が御座いますでしょうか?』

 

……はぁ、いや、何でも無い。

 

「では次に武装の展開だ、オルコットから」

 

「はい」

 

セシリアが手を横へと向けて構えると、レーザーライフルが展開され……織斑の顔面を急襲した。

 

「おぶぅっ!?」

 

顔面を押さえ、地面を転がりながら悶える織斑。

 

機体の絶対防御があるからそこまででは無いと思うんだが……。

 

「っ!? も、申し訳ありません!?」

 

「凄いな、そのライフルは遠距離だけじゃ無く近接の役割も担っていたのか」

 

「ゆ、悠斗さん!? からかわないで下さいまし!」

 

顔を赤らめながら抗議してくるセシリア、そしてその足元で転がり続ける織斑。

 

どうしてこうなったんだろうな。

 

「……お前達、真面目にやらんか!」

 

そんな俺達に、織斑千冬の激が飛ぶのだった。

 

 

 

 

 

「色々あったが、次に飛行訓練をする。 そうだな、では地上から五〇〇メートルの距離まで上がれ」

 

その言葉に、俺達は上空へと同時に飛び上がった。

 

 

空を飛ぶという感覚だけは、やはりどうも不思議な感じがするな。

 

「やはり悠斗さんの飛行は安定していますわね?」

 

隣を飛ぶセシリアから声が掛かる。

 

「そうなのか? 俺としては飛ぶ感覚というものが未だに慣れないんだけどな」

 

「何度か飛ぶ内に慣れますわ。 それに今のままでも十分安定していますから……それに比べて」

 

セシリアの言葉に、視線を後ろへと向ける。

 

俺達の数メートル後ろを、織斑が何とも危なっかしい様子で飛行していた。

 

「織斑、大丈夫か?」

 

「な、何とか……つうか悠斗は何でそんなに安定してるんだ……!?」

 

「わからん」

 

「織斑さん、先ずはイメージをしっかりと持つ事が大事ですのよ?」

 

「イメージって言われても、空を飛んだ事なんて無いのにイメージも何も……」

 

「そうですわね、前方に三角錐を描く様なイメージです」

 

「さ、三角錐……? それって、具体的にどういう……?」

 

「なら教えて差し上げても宜しいですわよ? 二時間程座学として」

 

「うっ……え、遠慮しておきます……」

 

「あらそうですの? では悠斗さんは?」

 

「……そうだな、俺も今一理解していないから感覚的な所がある。 一度理論的な事を教えて貰っても良いか?」

 

「はい! 喜んで!」

 

途端に笑顔になるセシリア、やはりこの表情が一番魅力的だな。

 

 

『こら織斑! 機体の性能で言えばお前の白式の方が上だぞ! もっとスピードを上げんか!』

 

 

地上から織斑千冬の激が飛んで来る。

 

ハイパーセンサーのお陰で一言一句聞こえてはいるが、素人の織斑には厳しいんじゃ無いのか?

 

……まぁ、知った事じゃないが。

 

やがて高度五〇〇メートルまで到達し、俺達は地上を見下ろしていた。

 

流石に高いな、他の奴らが点にしか見えない。

 

『よし到達したな? では三人共、そこから地上まで最高速度で降りて来い。 そしてそのままスラスターを利用して地上一〇センチの所で止まるんだ』

 

地上一〇センチか、中々に難しそうだな。

 

『ちなみに五十嵐は地上五〇メートルから瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、同じく地上一〇センチで止まって貰おう……その機体の性能なら可能だろう?』

 

「……無茶言いやがって」

 

「悠斗さん、大丈夫ですの?」

 

「……やれるだけやってみるが、せめて地面に突っ込まない様にしたいな」

 

「悠斗さん、宜しければアドバイスを」

 

セシリアのありがたい言葉に耳を傾ける。

 

「機体の性能で言えば可能ですわ、地上の直前で上に向かって機体を持ち上げる形をイメージして下さい。 機体を持ち上げる時に上に向かって瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使う様な感覚です」

 

「中々身体に掛かる負荷が凄そうだが、それしか無いか……」

 

「しかしそれはあくまでもイメージですわ、宜しければ私が先に行きますので、それを見て他にイメージが浮かびましたらそちらを使って下さいまし」

 

「わかった、すまないが頼めるか?」

 

「勿論です、任されましたわ」

 

そう言って、セシリアは地上に向かって最高速度で飛び出した。

 

ハイパーセンサーを利用し、機体の制御姿勢やスラスターの動かし方を細部まで観察する。

 

そして視線の先、セシリアは指示された通り地上から一〇センチで一ミリの誤差も無く止まった。

 

流石、としか言い様が無い。

 

地上に降り立ったセシリアが俺に向かって笑顔で小さく手を振っており、他の女達から取り囲まれて何やら尋問の様なものを受けているが……。

 

だが、今ので何となくだがイメージが掴めたかもしれない。

 

「……先に行くぞ」

 

織斑に一言伝え、俺も地上に向かってスラスターを最大出力で吹かした。

 

空気を切り裂く音が耳に響く。

 

普通ならこの速度で地上に迫れば、そのまま激突するのではと恐怖心が芽生えるのだろうが、不思議とそんなものは起きなかった。

 

地上五〇メートルに達した所で瞬時加速(イグニッション・ブースト)により一気に加速し、速度が音速を超える。

 

まだだ……。

 

迫る地上は、目の前。

 

「っ……らぁっ!!」

 

機体を一気に上に向け、スラスターを最大出力のまま急激なブレーキを掛けると身体が軋む音が脳内に響く。

 

周囲に、風圧によって大量の砂埃が巻き上がった。

 

 

『お見事です、主様』

 

 

黒狼の声で、俺は今になって地上に激突していない事を理解した。

 

クラスの奴らのどよめきが聞こえる。

 

「初めてなのによくやったな、五十嵐」

 

近寄って来る織斑千冬からの言葉に、俺は視界に表示された数字を見ながら首を横に振った。

 

「いや、失敗だ」

 

「ん?」

 

「地上から一〇センチと言われていたが、止まったのは二〇センチだ……成功とは言えないだろ?」

 

「……くくっ、お前は本当に面白い奴だな」

 

その言葉に首を傾げるが、織斑千冬はそれ以上何も言わなかった。

 

「悠斗さん!」

 

地上に降り立ち、黒狼を待機状態に戻した所でセシリアが駆け寄って来た。

 

「凄いですわ! 私よりも難易度が上でしたのに!」

 

「いや、あいつにも言ったが止まったのは指定から一〇センチ遠かった」

 

「もう! もっと素直に喜んで下さいな!」

 

いや、しかし……。

 

『主様、奥様の仰る通りに御座います。 普通ISの搭乗経験のほとんど無い方が今の訓練をすれば……』

 

 

 

 

「どわあああああっ!?」

 

 

 

 

背後から、凄まじい衝撃音と共に俺の時の数倍はある砂埃が巻き上がった。

 

『……あの様になります』

 

「……成る程な」

 

砂埃が晴れると、直径数メートルはありそうなクレーターが出来上がっていた。

 

「……馬鹿者、誰が地面に穴を開けろと指示した?」

 

「ぐ、おぉ……!」

 

苦し気な声と共に、クレーターの中から織斑が這い上がって来た。

 

そしてその時、授業終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 

「では授業はここまでだ、織斑は責任を持ってその穴を埋めておけ」

 

「えぇっ!? そりゃ無いだろ千冬ね……ぐえっ!?」

 

織斑の頭を出席簿が襲う。

 

「織斑先生だ、自分で開けた穴なら自分で埋めろ、異論は認めん」

 

そう言うと、織斑千冬と山田は去って行った。

 

「……ゆ、悠斗?」

 

二人が去ってから、何故か織斑が俺にすがる様な目を向けて来る。

 

「……手伝わねぇぞ」

 

何を言おうとしているのかはわかっていた為、先手を打っておいた。

 

「えぇっ!? そ、そりゃ無いだろ!? 頼むよ!」

 

「知るか、自業自得だ」

 

織斑に背を向け、背中に織斑の声がいつまでも掛けられていたがそれに一切構う事無く俺は更衣室へと向かうのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。