「くっそ~何で悠斗はあれが避けれるんだよ……?」
「……知るか」
HRが終わり、授業が始まるまでの時間で織斑は俺の所へとやって来たと思えばそんな事を尋ねて来る。
「……それより、あいつがお前の姉か?」
「あいつって千冬姉の事か? そうだけど、何で知ってるんだ?」
「……同じ名字だったからな」
「あ、それもそうか、そうだぜ?」
やはりそうか、聞いていた話とかなり違ったがこの二人が"あいつ"のお気に入りって事だな。
「それにしても悠斗、よく千冬姉のあれを避けれたよな? 何か部活とかしてたのか?」
「……別に何もしていない」
まぁ、実際は色々あったが、別段話す必要も無い。
「……おい」
隣から、急に声を掛けられた。
二人で視線をそちらに向ければ、長い髪を後ろで一つに纏めた女が俺達……いや、織斑を見ている。
「箒……箒だよな!? 久しぶりだな!」
どうやら織斑の知り合いらしい。
「少し、話があるんだが……」
そう言って俺に視線を向けて来る女。
「……あぁ、俺は別に構わないから連れて行け」
「すまないな、一夏、良いか?」
「勿論、ちょっと行って来るよ」
別にいらない一言を俺に投げ掛けると二人は教室から出て行った。
途端に俺と織斑に集まっていた視線が俺に集中する……実に煩わしい。
再度目を閉じ、寝る体制を取ろうとしたその時だった。
「ちょっと、よろしくて?」
背後から掛けられる声、今度はなんだと苛立ちを隠せずに振り向き、思わず固まり息を飲んでしまった。
まるでドレスの様な特殊な造りの制服に身を包み、傷みの全く無い長くロールの巻かれた美しい金髪、そして俺を見据える宝石の様な蒼い瞳。
だが気のせいで無ければ、相手も俺の顔を見て何処か驚いた表情をしている様に見える。
「……はっ!? き、聞いていますの?」
「……何だ?」
何とかそれだけ返す事が出来た。
「まぁ!? 何ですのその返事は!? せっかく私が声を掛けて差し上げましたのに!」
「……あ?」
「っ……!?」
思わず普段の態度が出てしまったが、怯えた様子を見て頭を振る。
「悪い、さっきの自己紹介はほとんど聞いていなかったから名前を知らないんだが」
「私を知らない!? このイギリス代表候補生である、セシリア・オルコットを!?」
セシリア・オルコット……イギリスの代表候補生か。
道理で他の奴らと違って堂々としているし、こうして臆する事無く俺に話し掛けて来た訳だ。
「それはすまなかった、何せここには急に入学したからな、知らない事の方が多いんだ」
「あ、あら? なら、私が特別にISの事を教えて差し上げますわよ?」
……口調や高圧的な態度はあれだが、優しい奴なのかもしれないな。
それに一応俺は全くのド素人という訳では無いが、代表候補生が相手なら教わる事も多い筈だ。
「……なら、頼めるか?」
俺の返答に女、オルコットは予想していなかったのか驚いた表情となる。
「へっ? あ、も、勿論よろしくてよ!? でも随分と殊勝な心掛けですのね?」
「こんな俺がISに関して国の代表候補生から教えて貰う事が出来るのならこの安い頭くらい下げる、それくらいの価値があると思ったんだが、違うのか?」
「あ……も、勿論ですわ! この私が直々に教えて差し上げます!」
「そうか……感謝する」
そう言って頭を下げた所で授業開始のチャイムが鳴る。
オルコットは一言断りを入れてから席に戻った為、俺も視線を前へと戻し授業が始まるのを待つ。
それと同時に先程の教師――織斑が言うには山田とか言うらしい――がやって来て授業が始まった。
授業が進んで行くにつれて、俺は思わず拍子抜けしてしまった。
授業の内容はISの基礎理論、入学前に予め受け取っていた参考書に基づいたものの為にわざわざ一時間もやる必要性を感じない物だった。
「――――ではここまでで質問はありますか?」
山田が全員に向けて尋ねる。
流石にこの時点で質問する奴なんざいないだろう、山田の隣に控えている織斑千冬も同じ考えなのか黙って腕を組んでいるだけの為にわかる。
「はいっ!」
その時、無駄にはっきりとした声と共に手を挙げる奴が。
誰かなんて声でわかる、織斑だ。
「はい織斑君、何でしょうか? 何処かわからない所がありましたか?」
「ほとんど全部わかりません!」
…………は?
教室中が、静寂に包まれた。
「えっ? あの、全部……ですか?」
「はい!」
織斑の言葉に、ゆらりと織斑千冬が動いて織斑の直ぐ近くまで歩み寄る。
あれは、範囲に入っているな。
「……織斑、入学前に参考書を受け取っていた筈だが?」
「参考書? あ、あの分厚いやつですか?」
「あぁ、受け取っているな?」
「古い電話帳と間違って捨てました」
その言葉と共に、織斑の頭に朝よりも数倍の威力で出席簿が唸りを上げて襲い掛かった。
「痛えええええっ!?」
「この大馬鹿者が、同じ物を後で渡すから一週間でその空っぽの頭に叩き込め」
「一週間!? そんなの無理だろ千冬姉……痛えっ!?」
再度頭を殴られる。
「織斑先生だ馬鹿者……一週間だ、わかったな?」
「……はい」
「全く……まさかとは思うが、お前は大丈夫だろうな?」
俺の方を見ながらそう尋ねて来た。
「……流石にそこまで馬鹿じゃない」
「そうか、それを聞いて安心した……だが敬語を使わんか敬語を」
その言葉に何も言わずに視線を前へと向ければ織斑千冬はそれ以上何も言わずに溜め息を一つ溢しながら元の位置へと戻った。
「山田先生、続きをお願いします」
「あ、は、はい……」
そのまま授業が再開するが、俺の中での織斑の評価が一気に下がって行くのだった。