『織斑君! クラス代表就任おめでとう!!』
全員の言葉と共に、それぞれの手に持たれたクラッカーが部屋に鳴り響き中央にいた織斑の頭に紙テープやらが乱雑に振り掛かった。
場所は食堂、相川の話していた織斑のクラス代表就任パーティーとやらだ。
聞いた話では1組だけで行うと言っていた筈だが、よく見れば見た事の無い顔もある為どうやら他のクラスの奴らも参加しているらしい。
「いや~1組で良かったね!」
「男子がクラス代表なんてうちの特権だし!」
「織斑君様々だよ!」
「本当は五十嵐君も良かったんだけどね?」
「強いし、格好良いし!」
「あ~私もオルコットさんみたいにお姫様抱っこされた~い!」
他の奴らが騒いでいる様子を、俺は離れた場所に座ってただ眺めていた。
こういった大人数で集まって騒ぐ様な事をした事が無かったというのもあるが、いざ目の前にするとどうしても参加したいとは思えない。
話した事の無い奴との会話ほど疲れるものは無いし、意味も無くその場の空気で騒ぐなんて尚更だ。
セシリアに言われていなかったら間違い無く部屋で寝ている。
「悠斗さん、どうぞ」
いつの間にか直ぐ傍に立っていたセシリア、手渡された飲み物を受け取りつつ礼を言う。
「悠斗さんはこういったパーティーは苦手ですの?」
「苦手、というかそもそも参加した事が無いな、学校に通うのもここが初めてだった」
「えっ? あの、小学校と中学校には……?」
「……色々と事情があって通っていない、ここに通うまでは束と暮らしていたしな」
「そう、だったんですの……」
「セシリアはこういうのに慣れていそうだな?」
「確かにイギリスにいた頃は、パーティーに参加する事は多かったですわ。 ですがそれは貴族社会のもの、この様に楽しくなんて無い、本当に息の詰まる様なものでしたの」
「貴族社会……という事は、セシリアは……」
「はい、私の家は代々続く由緒正しきオルコット家という貴族の家系ですわよ?」
……そう、だったのか。
そんな貴族の令嬢と言えるセシリアに、俺の様な人間が付き合ってくれと言ってしまったのか。
「ふふっ、大丈夫ですわ」
俺の手にセシリアが自らの手を重ね、微笑みながら話し始めた。
「自惚れている訳ではありませんが、今まで多くの男性に言い寄られて来ました。 ですがそれは私を見ていない、貴族としての地位や権力、オルコット家の莫大な遺産を求めてのもの……だから、ここに来るまで私は男性という存在が嫌いでした。 悠斗さんに、私がこれまで会った男性とは違う、強く優しいその姿に出会うまでは」
「俺、に……?」
「私の事を貴族としてでは無い、オルコット家の地位や権力は関係無い、私個人を見て下さった悠斗さんの言葉は、とても嬉しかったんです」
確かにセシリアが貴族だという事は知らなかった、そんな事は関係無しに、セシリアに好意を抱いたのだから。
「ですから、例え他の誰かに何を言われようとも、私は悠斗さんと一緒にいますわ」
「……ありがとう、セシリア」
「いいえ、私の方こそありがとうございます、悠斗さん」
互いに見つめ合い、礼を言い合う。
「ですが、無理を言ってしまって申し訳ありません。 悠斗さんは参加したく無かった筈ですが、私が頼んでしまったばかりに……」
「いや、セシリアは悪く無い。 もし参加していなかったら部屋で寝ているだけだった筈だからな、それならこうしてセシリアと一緒にいた方が良い」
「っ……! ゆ、悠斗さんは狡いですわ、私にその様な甘い言葉ばかり言って」
「……そうか?」
「そうですわ、他の方に言わないか不安になってしまいますもの」
「言う筈が無い、セシリアにだから言いたい事を正直に伝えているだけだ」
「あぅ……そ、そうなんですの……」
視線を逸らし、セシリアは飲み物に口を付ける。
その表情と耳が赤くなっている所を見るに、恥ずかしがっている様だ。
「あーっ!! オルコットさんが抜け駆けしてる!?」
突然響いた声、視線を向けると騒いでいた奴らが此方に押し寄せて来ていた。
煩わしいったらありゃしない。
「ちょっとオルコットさん! 五十嵐君も1組で貴重な男子なんだから!」
「独占禁止!」
「隣変わってー!」
好き放題騒ぐ女共、よく見れば俺達の事情を知っている相川と鏡が止めようとしているが、数の多さに意味を成していない。
ちなみに二人と同じく事情を知っている筈の布仏はテーブルに置かれた菓子を一心不乱に食っていて、此方の騒ぎなど気にも留めていない様だった……まぁ、あいつは良いか。
今は目の前で騒ぐこいつらか……煩わしい、面倒だ。
「……おい」
押し寄せて来て騒いでいる女共を一睨みすると、途端に口を閉じて騒ぎが収まった。
「いつから俺はクラスの共有財産の様な扱いになった? 俺がいつ誰と何をしようが俺の勝手だろ、違うか?」
俺の言葉に気まずそうに目を伏せる女共、良い機会だ、この際ここではっきりさせておこう。
隣に座るセシリアの肩に手を回し、そのまま俺の方へと抱き寄せた。
突然の事に驚いて見上げて来るセシリアと一度視線を合わせ、再び前へ。
「それに、付き合っている相手との大事な時間を邪魔するなんて野暮な真似、俺は許さない」
一瞬の静寂、そして次に起こるであろう事に備えてセシリアに目配せし、同時に耳を塞いだ。
『ええええええええええええっ!?』
食堂全体が揺れたのではないかと思える程の大音響、どうして女って言うのはこうも叫びたがるんだ。
「う、嘘!?」
「五十嵐君が……!?」
「クラスの貴重な男子が!?」
「貴族のお嬢様が落とされたー!?」
「くっ! 悔しいけどそのシチュ嫌いじゃない……!」
「寧ろ好物……!」
阿鼻叫喚と化した食堂、さて、この状況を作り上げたのは俺だがどう収拾をつけるか。
「ちょっと皆!!」
そんな時、突如響いた声に全員の視線が声の主である相川と、その隣にいる鏡へと集まった。
「気持ちはわかるけどさ、同じクラスの仲間として二人を祝福してあげようよ!」
「そ、そうだよ……! 五十嵐君とオルコットさんがお互いに決めた事なんだから、私達がそうやって騒ぐのは駄目だよ!」
二人の言葉に、女共に落ち着きの色が見える。
「それも……」
「そうだよね……」
「五十嵐君が決めた事なら……」
「私達が文句を言うのは、違うよね?」
口々に呟かれる言葉、これは二人に助けられたな。
「ほらほら! これ以上二人に迷惑掛けないでさ、肝心の主役が可哀想だよ!」
相川の一声で、押し寄せていた女共がぞろぞろと織斑の元へと戻って行った。
「悪いな相川、鏡」
「良いの良いの! 友達を助けるのは当然の事なんだから!」
「そ、そうだよ、友達が困ってるのを見過ごせないよ」
「友、達……?」
……そうか、二人は、俺の事を友達だと思ってくれているのか。
「……二人共、ありがとう」
「だから良いってば! でもいきなり皆にあんな堂々と付き合ってる事を宣言するなんて、五十嵐君らしいって言うか何て言うか」
「この際だから言っておいた方が良いと思ったんだ、隠しているよりもはっきりさせておいた方が面倒事は無くなるからな……それに、付き合っているのは事実だろ?」
「あ、あはは……オルコットさんが羨ましいね……」
「もう、急で驚きましたわ」
「……迷惑、だったか?」
「そんな事ありませんわ、私も嬉しかったですもの」
「……そうか」
優しく、セシリアの頭を撫でてやった。
「ありゃりゃ、本当に羨ましいね」
「うん、見てて本当に微笑ましい……」
二人からの言葉は最早耳に入らない、目の前でご満悦の表情となっているセシリアに夢中になっていた。
「おぉー! やってるね!」
食堂に、新たに声が響いた。
視線を向ければ、また見た事の無い奴がやって来て何やら織斑に詰め寄っていた。
誰だ?
「あ、あの人二年生だよね?」
「そうなのか?」
「うん、リボンの色が違うでしょ? 女子はリボンの色が学年毎に違うの」
そうなのか、まぁ余り興味は無いが。
「おっ! もう一人の男子はこっちにいた!」
いつの間にか、女が直ぐ傍にやって来ていた。
「初めまして! 私は二年の黛薫子、新聞部の副部長をしてるの!」
「……で?」
「クラス代表を決めるのに試合をしたんでしょ? 試合について、それから織斑君に代表を任せた理由について二人に聞きたくて!」
……面倒臭い。
完全に感情が顔に出ていたのか、セシリアが苦笑しながらも女、黛に話し掛けた。
「あの、それでしたら私が受けますわ」
「おっ! 貴女は確かイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさんよね? ではでは早速、織斑君に代表を任せた理由は?」
「こほん、私が彼に代表を任せたのは、私自身の実力不足を……」
「あ、長くなりそうだから良いや」
「せめて最後まで聞いて下さいまし!?」
「いいよいいよ適当に捏造するから……とりあえず、織斑君に惚れたからとでも書いておけば」
「やめて下さい、いくら先輩と言えども許しませんわよ?」
セシリアから発せられる低い声、そして圧に黛の顔が青ざめる。
それ程までに、セシリアの圧は殺気に近いものを放っていた。
「私が辞退したのは自らの実力不足を痛感し、彼の伸び代に期待を持ったからです。 それ以外の他意は微塵も御座いませんわ……それに」
そう言って、セシリアが俺の腕を取って強く抱き締めて来た。
二の腕の辺りに当てられた柔らかい感触に、思わず固まってしまう。
「私がお慕いし、心から愛しているのは悠斗さん只一人ですので、お間違いになりません様に」
「え? えええええええええっ!?」
黛の口から上がる叫び声……だから煩いぞ。
「う、嘘!? 本当に!?」
「嘘ではありません、事実ですわ。 悠斗さんとはお付き合いさせて頂いています」
「い、いつから!?」
「試合の直ぐ後、控室で悠斗さんが告白して下さいました。 そして私もそれに答えましたわ」
セシリアの返答を聞く度に、黛はポケットから取り出した手帳に何やら凄い勢いで書き込んで行く。
「こ、こうしちゃいられない……! お話ありがとう! 私は仕事が出来たから戻るわね!」
そう言い残し、黛は食堂から凄い速さで出て行ってしまった。
何しに来たんだあいつは……いや、それは今置いておこう。
「……セシリア」
「はい? 何ですの?」
「す、すまないが、その……当たって、いる」
そう指摘するとセシリアは首を傾げ、ゆっくりと視線を下へと下ろして行く。
そして、俺の腕を強く抱き締めている事で、自らのその豊満な胸を押し付けている事に気付いた。
「っ!?」
目を見開き、まるで沸騰したかの様に顔を真っ赤にさせるセシリア。
そのまま離れるかと思いきや、何故か更に強く胸を押し当てて来た。
「っ……!? セ、セシリア……!?」
「……その、当てて、いるのですわ」
「え、あ、いや……そう、か……」
それだけ言って、互いに無言になってしまう。
顔がとてつもなく熱い、セシリアも顔が真っ赤になっているのを見るに、恐らく俺も同じ事になっている筈だ。
「うわぁ……オルコットさん、大胆……」
「す、凄い……!」
相川と鏡の言葉が拍車を掛けて、俺とセシリアは固まってしまったかの様に動く事は出来なかった。