インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第20話 選択

「はぁ……」

 

パーティーが終わり、俺は部屋に戻って来て直ぐにベッドに倒れ込んだ。

 

まさか、セシリアがあそこまで大胆に来るとは思っていなかった。

 

未だにあの感触が腕に残っている様な気がする。

 

『あの、主様……』

 

「……ん?」

 

突然待機状態だった黒狼からの声が掛かり、俺はベッドから起き上がった。

 

どうかしたのか?

 

『はい、その……主様に、束様からISネットワークを通じて連絡が入っています』

 

……束から? 一体何の用だ?

 

『分かりませんが、主様にお繋げします』

 

あぁ、頼む。

 

しかし、一体何の用なんだ? 黒狼のデータについてか?

 

 

『……ゆう君』

 

そう考えていると、通信越しに束の声が聞こえて来た。

 

「束、急にどうしたんだ?」

 

『……ゆう君には悪いと思ったけど、実は黒狼を渡した時からゆう君の動向を見させて貰ったの』

 

「……は?」

 

束の言葉に、俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。

 

俺の、動向……?

 

『ねぇゆう君、あの有象無象は何?』

 

「有象無象?」

 

それって一体何の事……いや、まさか。

 

「……まさか、セシリアの事か?」

 

『名前なんて知らないよ、この前急に相談したい事があるって言って来て、相談の内容がそういう話だったからまさかと思ってたけど……そういう事だったんだね』

 

「……何が言いたい?」

 

『ねぇゆう君、あの有象無象は大事なもの?』

 

「ものって……束、お前が何を言いたいのかわからないが、セシリアは俺にとって守りたいと思う、大切な存在なんだ。 有象無象だとかものだなんて言い方はやめてくれ」

 

『……それは、私やクーちゃんよりも?』

 

「どうしたんだお前? ちょっとおかしいぞ?」

 

先程から束の様子が明らかにおかしい、こんな事を言う様な奴じゃ無かった筈だ。

 

「束もクロも、俺にとって大切な家族だ、それはいつまでも変わらない」

 

俺の言葉に、束は何も答えないがそのまま続ける。

 

「一人だった俺を、身寄りの無い俺をお前は救ってくれて、感謝してもしきれない。 そしてクロも、こんな俺の事を本物の兄の様に慕ってくれた」

 

『なら、何で……』

 

「……だから、セシリアは俺にとって」

 

 

 

「何で家族である私に、お姉さんであり"お母さん"でもある私に教えてくれなかったの!?」

 

 

 

「…………は?」

 

突然の、事だった。

 

閉めていた窓が開け放たれ、通信越しだった声が直接部屋に響いた。

 

「ねぇゆう君! ねぇ!?」

 

「……待て、ちょっと待ってくれ」

 

突然の事に一度頭を整理する為に束を手で制し……全力で、束の顔面を鷲掴みにした。

 

「痛~い!? 痛いよゆう君!?」

 

「黙れこの馬鹿が……!」

 

何故こんな短期間に二回も学園にやって来るんだ、つうかこの学園のセキュリティは一体どうなってやがる?

 

「お兄様!!」

 

束の顔面を握り潰していると、背後から軽い衝撃と共に腰の辺りに何者かが抱き付いて来る。

 

振り向いて視線を落とすと、流れる様な痛みの一切無い長い銀髪と透き通る様な白い肌。

 

「……クロ、なのか?」

 

「はい……会いたかったです、お兄様……!」

 

クロ、本名をクロエ・クロニクル。

 

束の元で共に暮らしていた、俺を兄の様に慕い、俺もまた妹の様に思っていたもう一人の家族。

 

「お前まで、どうしてここに……?」

 

「突然ごめんなさい……ですが束様も私も、お兄様の動向を見ていたらいても立ってもいられなくて……」

 

「……はぁ、ならせめて来る前に連絡を寄越せ、いきなりだと俺も驚く」

 

「……ごめんなさい」

 

顔を俯かせるクロに、俺は空いている方の手で優しく頭を撫でてやった。

 

「そんな顔をするな、確かに驚いたが……俺も会えて嬉しいよ、クロ」

 

「お兄様……!」

 

目を輝かせ、より一層強く抱き付いて来るクロ。

 

本当に可愛い奴だ……それに比べて。

 

「あぁっ! クーちゃんばっかり狡い! 私と全然対応が違うじゃん! 私も優しく頭を撫でながら抱き締めて! ハグ、ハグプリーズ!!」

 

「……もっと強くしてやろうか?」

 

少しだけ掴む力を強くすると、途端に束の手足がばたばたと暴れる。

 

「わーっ!? やめて! 本当に頭が潰れちゃう!?」

 

そんな簡単に潰れてたまるか……だが、本当に二人は何をしに来たんだ?

 

「束、一体要件は何なんだ? セシリアの事みたいだったが……」

 

「……ゆう君、真面目な話をするからこの手を離してくれる?」

 

束の雰囲気が変わったのを確認し手を離してやると、束は真剣な目で俺を見つめて来た。

 

「ゆう君、あの有象無象は……」

 

「おい、束……」

 

「……はぁ、わかったよ、あの娘がゆう君にとって大切な存在なの?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「そっか……ねぇゆう君、今すぐあの娘をここに呼んで、ふざけてなんか無いからね? 真面目に言ってるの」

 

セシリアをここに? 駄目だ、一体何を考えているのかわからない。

 

だが、どうやら嘘や冗談では無いらしいな……黒狼。

 

『はい、主様』

 

セシリアにプライベート・チャネルは繋げるか?

 

『はい、可能で御座います。 奥様は既に主様からの通信の許可を出していますので、いつでも通信可能に御座います』

 

……いつの間に?

 

まぁ、通信出来るなら構わないか、セシリアに繋いでくれ。

 

『畏まりました』

 

コールを掛けて直ぐ、セシリアが反応してくれた。

 

『悠斗さん? 如何なさいましたか?』

 

「セシリア、遅くにすまないが頼みがある……今から、俺の部屋に来れるか?」

 

『……え? えぇっ!? あの、今からですの!?』

 

「ん? あぁ、そうだが……」

 

何をそんなに慌てているんだ?

 

『あの、その……シャ、シャワーを、浴びてからでも宜しいでしょうか……?』

 

……ん? 何故、シャワーの話になるんだ?

 

いや、待て……今の時間はもうすぐ就寝時間が迫っている、その時間に部屋に呼び出すという事は……。

 

「……あー、勘違いさせてすまない、セシリア。 その、"そういう"意味では無く、少し話があるんだ」

 

『…………えっ?』

 

間を置いて、セシリアの気の抜けた声が聞こえた。

 

『っ……!? す、すみません! わ、私……勘違いを……!?』

 

「い、いや、俺の方こそすまない、言い方が悪かった。 その、セシリアに会って欲しい奴がいるんだ」

 

『会って欲しい方、ですの……?』

 

「あぁ、今は言えないが、来てくれるか?」

 

『わ、わかりましたわ、直ぐに伺います』

 

そこで通信を切り、二人に向き直る。

 

「今から来るが、何を話すんだ?」

 

「とても大事な話だよ……それからゆう君に一つだけお願い、私が話をしている間は余計な口を挟まないで」

 

「……どういう事だ?」

 

「それは来てからのお楽しみだよ」

 

そう言って、束はベッドへと腰掛けて目を閉じてしまった。

 

恐らく、これ以上は何を聞いても答えてくれないだろう。

 

クロは困った様に目尻を下げながら俺と束を交互に見ていた為、束の隣に座る様に促した。

 

……束、一体何を考えている?

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

もうすぐ就寝時間となる時間に、私はなるべく急いで悠斗さんの部屋へと向かっていました。

 

通信越しの悠斗さんのあの様子、ただ事では無さそうでしたが……それに、私に会って欲しい方とは一体?

 

部屋の前に着き、髪型や身嗜みを確認してからノックをすると、直ぐに悠斗さんが出迎えて下さいました。

 

「突然すまないな」

 

「い、いえ、構いませんわ」

 

「……入る前に、恐らく驚くと思うから気を付けてくれ」

 

「えっ?」

 

驚くとは、一体どういう事でしょう?

 

不思議に思いつつも部屋へと通されると、悠斗さんの部屋のベッドに誰かが座っていました。

 

お二人共、どう見ても学園の方では無いですわよね?

 

一人は長い綺麗な銀髪の幼い少女、どう見ても日本人ではありません。

 

そしてもう一人は、日本人らしいとても綺麗で長い黒髪に同性の私から見ても抜群のプロポーションをした美しい女性、しかし目の下にある濃い隈のせいで不健康そうに見えますわ。

 

……しかしこの女性、何処かで見た事のある様な。

 

「セシリア、こいつは篠ノ之束、そして隣がクロエ・クロニクル、俺の恩人であり家族だ」

 

篠ノ之、束……篠ノ之博士!?

 

「えぇっ!?」

 

思わず、大きな声を上げてしまいました。

 

しかしそれも仕方ないと思いますわ、篠ノ之博士と言えばISの生みの親、世界各国が血眼になって探している人物ですもの。

 

そんな方が、目の前に……?

 

「セシリア、一先ず座ってくれ」

 

「は、はい……」

 

悠斗さんに促されて、私は博士と向かい合う様に悠斗さんと並んで座りました。

 

き、緊張で今すぐにでも気絶してしまいそうですわ……。

 

 

 

しかし、そこで私はふと気付きました。

 

悠斗さんはお二人の事を家族だと仰いましたが、悠斗さんの姓は五十嵐、博士は勿論篠ノ之、クロエさんはクロニクル……クロエさんに至っては姓処か国籍すらも違う筈です。

 

それなのに家族とは、一体……?

 

「……お前が、ゆう君を誑かした有象無象?」

 

「……え?」

 

博士が口にした言葉に、そして私を見る博士の目に、私は思わず固まってしまいました。

 

その目は私の事を人として見ていない、まるでその辺に落ちている何かを見る様な、無機質で感情の一切感じない目でした。

 

「おい、束……」

 

「ゆう君は黙ってて、そういう約束でしょ?」

 

悠斗さんを鋭い視線と言葉で制し、博士は再び私を見てきました。

 

誑かしただなんて、一先ず博士は誤解している筈ですから説明を……。

 

「あ、あの、お言葉ですが篠ノ之博士、私は悠斗さんを誑かしてなんかいませんわ」

 

「そんな筈無いでしょ? そうじゃ無かったらゆう君がお前みたいなどうでも良い有象無象を相手に選んだりしない」

 

……何、ですの?

 

何故、初対面である筈の私が、その様な事を言われなければいけませんの?

 

その様な感情を抱いた私ですが、続く博士の言葉に私の意思は打ち砕かれてしまいました。

 

「何さその目は? じゃあ聞くけど、お前はゆう君の何を知っているの? ゆう君が何故ここに来たのか、どうして私とクロちゃんと暮らしていたのか、どうして血の繋がりの無い私とクーちゃんの事を"家族"と呼ぶのか……まさか、何も知らなかったの?」

 

博士の言葉に、私は何も言い返す事は出来ませんでした。

 

博士の、言う通りですわ……私は、悠斗さんの事を、過去を何も知らない。

 

知っているのは、学園に入学してからの短い期間の事だけ。

 

「ゆう君はね、お前が思っているよりずっとずっと辛い思いをして来たんだ。 何も知らないで、上辺だけで付き合っているなら今すぐゆう君と別れて」

 

私は、何も知らない……。

 

隣に座る悠斗さんの横顔を見れば、その表情は悲痛な面持ちをしていました。

 

初めて見せるその表情、悠斗さんの過去、博士の言う通り私の想像出来ない程の辛い思いをして来たのだと伺えました。

 

でも、それでも……。

 

「……お断り、しますわ」

 

「……何だって?」

 

博士の鋭い視線が私を射抜きますが、逸らす事無くその目を見返しました。

 

「お断りしますと言ったのですわ」

 

「……わからない奴だね、お前に拒否権なんて無いんだけど?」

 

「確かに私は、博士の仰る通り悠斗さんの事を何も知りません、それは事実ですわ。 しかし私は悠斗さんに惹かれました、その優しさに、私を守って下さり不利な筈の試合から決して逃げる事無く立ち向かうその強さに」

 

博士は何も言わずに私を見るだけ、しかし私は言葉を続けました。

 

「私と悠斗さんは出会ってまだ間もない、お互いに知らない事があるのは当然の事ですわ。 ですから、これから知って行けば宜しいのでは無いのでしょうか?」

 

「……セシリア」

 

私を呼ぶ悠斗さんと一度視線を合わせ、再度博士に。

 

「博士にとって悠斗さんは大事な家族だと、大切に思う気持ちがあるのは博士のお言葉で重々承知致しましたわ……しかしどうか、どうか認めて頂けないでしょうか」

 

「……なら、その条件として、お前の肩書きであるイギリスの代表候補生の座を降りろって言っても?」

 

「っ……!? おい束! いい加減にしろ!!」

 

悠斗さんが、今まで見た事の無い程に声を荒げました。

 

突き付けられた条件はとんでも無いものですのに、こんな悠斗さんも初めて見たと、そんな事を考えてしまいました。

 

祖国の代表候補生、それに対する気持ちは私にとって大切なもの。

 

しかし、今の私にとって本当に大切なのは……。

 

「……わかりましたわ」

 

「セシリア!?」

 

「悠斗さん、聞いて下さいまし」

 

悠斗さんの手を取り、しっかりと目を合わせました。

 

「確かに代表候補生の座は私にとって大切なものです。 しかし、それが無くなったからと言っても私の、セシリア・オルコットとしての存在意義が無くなる訳ではありませんわ」

 

「だ、だが!」

 

「……それに、私にとって本当に大切なのはその様な肩書きでは無く自らの意思ですわ。 その意思で、私はこれからも悠斗さんと共にいたいと思っているのです」

 

「セシ、リア……」

 

悠斗さんの手を握ったまま、私は博士に向かって深く頭を下げました。

 

「……博士、私は博士が仰られた通りに、代表候補生の座を降りますわ」

 

「へぇ……本当に良いの?」

 

「構いません、私はそれでも、悠斗さんと一緒にいたいのです」

 

悠斗さんには気丈に振る舞いましたが、今にも心臓が破裂しそうな程に早鐘を打っている。

 

身体が震え、今にも涙が溢れてしまいそうになりますが、唇を強く噛んで耐えました。

 

「お願い、致します……」

 

暫し続く無言の時間、耳に聞こえるのは自分の心臓の音と震える呼吸の音のみ。

 

博士の、答えは……。

 

 

 

 

 

 

「……うん、合格」

 

「……えっ?」

 

博士の言葉の意味が理解出来ず、ゆっくりと頭を上げた瞬間に私は博士に抱き締められました。

 

突然の事に混乱し、呆然とする私の耳元で博士は先程までの無感情が嘘の様に優しい声音で語り掛けて来ました。

 

「ごめんね、君を試す様な真似をして」

 

「た、試す……?」

 

「本当はゆう君が選んだ相手なら文句なんて言わずに祝福しようと思ってたんだけど、最初に言った様にゆう君は私とクーちゃんにとって大切な家族、そんなゆう君と付き合うのに君が本当に真剣に向き合えるのか知りたかったの」

 

「あ、で、では……」

 

「うん、君の真剣さが伝わったから合格、これからゆう君を宜しくね?」

 

その言葉を聞いて、一気に身体の力が抜けてしまいました。

 

私は、博士に認めて頂けたのですね……。

 

 

「……おい、束」

 

悠斗さんが、低い声と共にゆらりと立ち上がりました。

 

「えっ? ゆ、ゆう君……?」

 

焦った表情を浮かべる博士、そんな博士の顔を、悠斗さんは全力で鷲掴みにしました。

 

「痛~い!?」

 

「この馬鹿が……! 誰がこんな事をしてくれと頼んだんだ!?」

 

「だ、だってだって! ゆう君は私にとって大事な家族で子供なんだよ!? これくらいしないと納得出来る筈無いじゃん!?」

 

「……本当にか? 今正直に話せば痛くはしないが?」

 

「え? 本当? いやぁ、その、お前に娘はやらんって言うのを私もやってみたくて……ぎゃあああああああっ!? 痛い痛い頭があああっ!?」

 

苦しそうな声を上げる博士、本当にこの方が、篠ノ之博士なんですのね……。

 

 

「あ、あの……」

 

「はい?」

 

今の今まで黙っていたクロエさんが、いつの間にか私の傍に立って私を見上げていました……見上げていると言っても、その目は閉じられていて視線が合う事はありませんが。

 

「お兄様は、私と束様にとって本当に大事な家族なのです。 だから、お兄様を宜しくお願いします」

 

「……勿論ですわ、私も悠斗さんの事が大切で、心から好きな方ですから」

 

「そうですか……ありがとうございます"お義姉様"」

 

「……えっ?」

 

「お兄様とお付き合いされているので、私にとってお義姉様です!」

 

「あ、えっと……は、はい」

 

クロエさんに呼ばれた義姉という呼び方……た、確かに悠斗さんとお付き合いをしていますが、その悠斗さんを家族であり兄としてお慕いになっている様子のクロエさんから義姉と呼ばれるという事は、つまり悠斗さんと……。

 

顔が、熱を帯びて行くのを感じました。

 

で、ですが確かに、今はまだ無理ですけどいずれ悠斗さんとその様な関係になれたらと思っていますし……。

 

「クロ、セシリアを余り困らせるな」

 

悠斗さんが博士を解放し、私とクロエさんの傍へ。

 

その後ろで博士は顔を押さえて何やら呻き声を上げながら床を転がっていますが、悠斗さんはお構い無しの様です……。

 

「しかし、お兄様はこのままお義姉様と結婚するのでは無いのですか?」

 

「うぇっ!?」

 

「……まだ学生の身分だから無理だろ、せめて卒業してからだ」

 

「えぇっ!?」

 

「ではいずれ結婚するのですね?」

「……あぁ、俺はそのつもりだ」

 

「ええええええっ!?」

 

お二人の会話に驚くばかりでした。

 

しかし、悠斗さんも私と……ふふっ。

 

内心で一人喜びつつ、私はお二人の会話を聞いていました。

 

「うぅ~痛い……」

 

「あ、あの、博士……大丈夫ですか……?」

 

「大丈夫大丈夫! こんな事でへこたれる束さんじゃないよ! それよりその博士って呼び方、あんまり好きじゃないから名前で呼んでよ」

 

「えっ!? あの、宜しいのですか……?」

 

「勿論! その辺の有象無象なら許さないけど、君はゆう君の大事な彼女だからね! ところで名前、もう一度君からちゃんと教えてくれる?」

 

「あ、セシリア・オルコットです……」

 

「セシリア・オルコット……セシリア……うん! ならせっちゃんだね! 宜しくねせっちゃん!」

 

「こ、此方こそ宜しくお願い致します……えっと、束さん……」

 

「ん~? 別にさんはいらないよ?」

 

「そ、それは流石に……!」

 

「まぁ仕方ないか、ならそれで良いよ、じゃあ改めて宜しくね?」

 

私の手を取り、笑顔でそう言って下さる束さん。

 

あの天才と呼ばれ、悠斗さんにとって大事なご家族である束さんにそう言って頂けただけで、私はとても嬉しく思いました。

 

「……さて、じゃあ用事も済んだし、二人は明日も授業があるだろうからそろそろ帰るね?」

 

「束さん、本当に、ありがとうございました」

 

「お礼を言いたいのは私の方だよ、ゆう君が幸せそうで本当に良かったよ」

 

「……いいえ、幸せなのは私の方ですから」

 

「んふふ、そっかそっか、じゃあゆう君もまたね」

 

「はぁ……次来るなら事前に連絡を入れろよ?」

 

「わかった、そうするね」

 

「お兄様!」

 

クロエさんが、悠斗さんに強く抱き付きました。

 

……そうですわね、クロエさんがこうして悠斗さんに会えるのは僅かですから。

 

「……また来いよ、連絡も毎日は無理だろうが寄越してくれて良いからな」

 

優しい笑みを浮かべながら、悠斗さんはクロエさんの頭を撫でてあげていました。

 

こうして見ると、本当の兄妹の様に見えますわ。

 

「お義姉様も、今日はありがとうございました」

 

「いえ、またいらした時はゆっくりとお話致しましょう?」

 

「はい!」

 

笑顔で頷くクロエさん、本当に可愛らしいお方ですわ。

 

別れの時間が訪れてしまいましたが、束さんとクロエさんとの出会いは私にとって特別で、かけがえの無い時間となりました。

 

悠斗さんと、これからも一緒にいる事を認めて下さった。

 

束さんと交わした約束、悠斗さんを宜しくという言葉、決して破る事はありません。

 

例えどの様な事があったとしても、私は悠斗さんといつまでも一緒にいますもの。

 

隣に立つ悠斗さんの手を握りながら、私は心の中で誓うのでした。

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