「あ、そうだった、ゆう君にこれを渡しておくね?」
急に思い出したかの様に、束さんが私達に振り返りました。
そして何故か……む、胸元に手を入れて、何かを探しています。
……そ、そこに何を入れているのでしょうか?
横目で悠斗さんを見れば、悠斗さんは冷めた目で束さんを見ています。
「あったあった、はいこれ」
束さんが取り出したもの、それは何やら紙に包まれリボンまで付いて綺麗に包装された小さな箱の様なものでした。
「正確にはゆう君とせっちゃんの二人にね」
「……俺と、セシリアに?」
悠斗さんがそれを受け取り私の方を見て来ましたが、私もわからずにお互い首を傾げてしまいました。
悠斗さんと私の二人にと言っていましたが……。
「ちなみに、さっきちょっとだけこの部屋に細工して、完全防音にしておいたから!」
「何でそんな事を?」
「それは勿論必要な事だからだよ! ちゃんとそれを使ってね! バイバ~イ!」
そう言って、束さんはクロエさんを抱き抱えて窓から身を乗り出し、夜の闇へと消えてしまいました。
何と言いますか、まるで嵐の様な方でしたわ……。
「……はぁ、セシリア、本当にすまなかった」
「い、いえいえ! そんな事ありませんわ!」
謝って来た悠斗さんに、私は慌てて首を横に振りました。
「束さんが仰られた通り、私は悠斗さんの事を何も知りませんでしたわ、どの様な辛い過去があったのかを」
「それ、は……」
悠斗さんの顔に浮かぶ迷いの色、初めて見るその表情に私はそっと悠斗さんに寄り添いました。
「今はまだ構いませんわ、しかしいつか、私に話して下さいまし」
「……すまない、だが必ず話す」
「大丈夫です、私は悠斗さんを信じていますから……ところで」
私は悠斗さんの手にする、先程束さんから受け取った箱を見ました。
一体、何なのでしょう?
「とりあえず、開けるぞ?」
悠斗さんが慎重に包装紙を外して行き、そして開かれた中身を見て、私と悠斗さんは思わず絶句してしまいました。
箱の正体、文字の書かれたパッケージのそれは所謂……その、えっと……ひ、避妊具でした。
箱と一緒に一枚の手紙が入っていて、そこには恐らく束さんが書いたと思われる文字が。
『二人へ、思春期の二人ならこれが何なのか勿論知ってるよね? 幾ら二人がお互いの事を好きで一時の感情のままに情事に至ったとしても、二人はまだ学生なんだからせめて学園を卒業するまではこれを使ってね! それからゆう君の部屋に細工をして防音にしてあるから鍵さえ掛けておけば誰かに邪魔される心配も無し! 束さんったら天才! もし無くなったら連絡さえくれれば私が送ってあげるから遠慮せずに言ってね? あ、もし二人で選んだものが使いたいなら無理にとは言わないけど……』
そこまで読んだ所で、悠斗さんが手紙を強く握り締めて潰してしまいました。
部屋に、とても気まずい空気が流れました。
私も悠斗さんも、お互いの顔を見る事が出来ずに逸らすばかり。
「……すまないセシリア、あの馬鹿が」
「い、いえ……そんな……」
うぅ……まともに顔を合わせる事が出来ませんわ……。
「……これは俺が処分しておく、他のゴミに紛れさせれば大丈夫だろう」
「あ、ま、待って下さいまし!」
悠斗さんの手を咄嗟に掴み、ゴミ箱に捨てるのを阻止しました。
「セ、セシリア……?」
「あ、その……捨てるのは、束さんに申し訳ないと言いますか……」
「い、いや、あいつにそんな事を思う必要は無いんだぞ?」
悠斗さんの言葉に、私は恥ずかしさを圧し殺しながら視線を合わせました。
「ゆ、悠斗さんは……その……私と、そういった事をしたいとは、思わないのですか?」
「っ!?」
悠斗さんが今までに無い程に動揺し、顔を真っ赤にしながら視線をあちこちにさ迷わせました。
「そ、それは……」
「……それは?」
「……し、したく、無い……と言ったら、嘘になる」
とても弱々しい声音で出た悠斗さんの本音の言葉。
その言葉に、私の中で何かが膨れ上がって行くのを感じました。
「……すまない、セシリアにそんな邪な感情を」
謝り始めた悠斗さんに、私は強く抱き付きました。
動揺し、顔を真っ赤にさせる悠斗さんが、堪らなく愛おしくなってしまって。
「……私は、悠斗さんとなら構いませんわ」
「なっ!?」
「その、悠斗さんも男性ですから、その様な感情を抱くのは当然の事ですわ……それに」
激しく高鳴る心臓、恐らく抱き付いている事で悠斗さんにもその音が伝わっているかもしれません。
だって、悠斗さんの高鳴っている鼓動が、私にも聞こえていますもの。
「私は、悠斗さんと……」
続く言葉は、遮られてしまいました
突然の事、目の前にあるのは悠斗さんの顔、そして私の唇を塞ぐ柔らかい感触……これは、キス……?
直ぐに離れたけれど、まだ唇に残る余韻。
そして、真っ赤になりながらも私を見据える真剣な瞳。
「すまない……」
「えっ……?」
「ほ、本当なら、セシリアの気持ちに答えなければならない……だが今は、これで我慢して欲しい」
恥ずかしそうにしながらそう告げて来る悠斗さん、私は呆然と自らの唇に触れました。
「本当に、すまない……」
謝る悠斗さん……ですが、私は一つだけ許せませんでした。
俯く悠斗さんの首に腕を回し、驚く悠斗さんの唇に自らの唇を強く押し付けました。
驚き固まる悠斗さんに構わず、そのまま唇を割って舌を絡ませる様にして深くキスをし続ける。
最初は固まっていた悠斗さんでしたが、私のキスに答えて背中に腕を回し、強く求めて下さいました。
そのまま、息が荒くなるまで、数分に渡ってキスは続きました。
「っ、はっ……!」
唇を離して、お互いに息が荒くなりながらも私は悠斗さんの顔を見上げました。
「一つだけ言っておきますわ、私は悠斗さんになら何をされたとしても構いませんの。 ですがそれは悠斗さんだから、私がお慕いする唯一愛する方だからですのよ? それなのに、何故謝るんですの?」
「それ、は……」
「……悠斗さんは、私の事が嫌いでして?」
「そ、そんな事無い! 俺が好きなのは、セシリアだけだ!」
「……なら、謝らないで下さいまし。 悠斗さんがきちんと考えて、私の事を思って先程の言葉を言って下さったのだとわかっていますから」
そう言って微笑み掛ければ、悠斗さんは驚きながらも私を優しく抱き締めて下さいました。
そして私も、悠斗さんの背中に手を回して互いに抱き締め合います。
「……本当に、セシリアを好きになって良かった」
「ふふっ、それは私の台詞ですわ」
「……その、セシリアの気持ちには答えたい。 だが心の準備が出来るまで、もう少し待っていて欲しい」
「勿論待ちますわ、私は悠斗さんが心から好きですもの」
「……ありがとう、セシリア」
「どういたしまして……ですが」
一度身体を離し、悠斗さんを見上げました。
「もう一度、キスして頂けますか?」
「……あぁ、俺もしたい」
「悠斗さん……んっ……」
先程の激しいキスでは無く、互いを確かめ合う様な優しいキス。
目の前の悠斗さんを感じられる様で、とても心が満たされる思いですわ。
結局そのまま、消灯時間まであと僅かという時間まで、私達はキスをし続けました。
「あ、お帰りセシリア」
部屋に戻りますと、同室の如月さんがベッドに寝転がりながらも私を出迎えて下さいました。
「随分と遅かったね?」
「……えぇ、ちょっと色々ありまして」
「ふーん? ねぇ、何か良い事でもあった?」
「えっ?」
「何て言うか、最近楽しそうだけど、今まで見た事無いぐらいに幸せそうな顔してるから」
「幸せ……そう、ですわね。 私は今、とても幸せですわ」
「……本当に何があったの?」
如月さんが色々と尋ねて来ましたが、私は答える事無くずっと心の中で先程までの幸せな時間を考えていました。
初めて見た悠斗さんの表情を、束さんとクロエさんに認めて頂けた事を、悠斗さんが心から私の事を思って下さっている事を……そして、悠斗さんとのキスの事を。
もし悠斗さんが決心出来た時には、キスよりももっと先の……。
そこまで考えて、私は熱くなり緩みそうになってしまった顔を枕に押し付けるのでした。