「あっ……」
食堂に入り券売機へと向かうと、トレイに乗った食事を手にした朝のチビが。
何をしているんだ?
「……退け」
「は、はいっ!」
朝と同様に素早く横にずれるチビ、それを確認してから俺達の前に並んでいたが声を掛けられなかったのであろう女二人に視線を向ける。
「先に並んでただろ、俺達は後で構わない」
「え、あ、ありがとう!」
先に譲ると、何故か頬を赤らめながらはしゃいで食券を買う女共……何をはしゃいでいるんだ?
「むぅ……!」
そして何故セシリアは不機嫌そうに俺を見上げているのだろうか?
よくわからないが、一先ずセシリアの頭を撫でて落ち着かせる。
「ね、ねぇ……」
「ん?」
おずおずとチビが何やら話し掛けて来た。
「あ、あのさ、一夏は……?」
「知らん、もう直ぐ来ると思うが?」
「えっ? お、同じ男子なのに一緒じゃないの……?」
「そんな訳あるか、一々あいつと一緒にいたら面倒事に巻き込まれるだけなんだよ」
そんな話をしている内に券売機が空き、セシリアと食券を買い求める。
今日は何にするか……たまには洋食にでもしてみるか?
迷った末にハンバーグ定食の食券を買い、そのままカウンターで料理を受け取る。
残念ながら相川達の席は埋まってしまっている様で、探している内に隅の方にあった空いている席へと座った。
「あ、あの……」
「……今度は何だ?」
席に着いて早速食べ始めようとした時、再びあのチビが話し掛けて来た。
「えっと、さ……転校して来たばかりで知り合いとか誰もいなくて……一緒に食べても、良い……?」
不安そうに尋ねて来るチビに、セシリアと顔を合わせる。
「私は構いませんわ、悠斗さんも宜しいですか?」
「……あぁ、俺も構わない」
「あ、ありがとう!」
俺達の言葉に心底安心した様に笑みを浮かべ、そのまま向かいの席に座った。
「大丈夫ですわ、ところで貴女のお名前は?」
「あ、ごめん、私は鳳鈴音、中国の代表候補生よ」
……何?
中国の代表候補生? このチビが?
「中国の……私はセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生ですわ」
「へぇ、イギリスの……」
セシリアとチビ……鈴音の間に妙な空気が流れる。
「……代表候補生二人の後に名乗るのも忍びないが、五十嵐悠斗だ」
「五十嵐、悠斗……じゃあ悠斗って呼ぶわね? それからセシリアも、私の事は鈴で良いわよ」
「鈴さんですね? 宜しくお願い致しますわ」
「……あぁ」
自己紹介を済ませ、食事が冷めない内に食い始める。
「ところで鈴さん、織斑さんとはお知り合いでしたの?」
「へっ? あぁうん、小学校の時の幼馴染みなんだ」
「……中国の代表候補生で、織斑の小学校の時の幼馴染みだったのか?」
「小学五年の時に日本に引っ越して来てたの、それから中学二年まで日本にいたんだけど、色々あってまた中国に戻ったんだよね。 一夏とは小学校からの付き合いだったのよ」
「成る程な」
しかし、織斑の交友関係はどうなっているんだ?
「……と、ところでさ、二人にちょっと聞きたいんだけど良い?」
「何だ?」
「何でしょうか?」
「その……今朝学校で配ってた新聞を読んだんだけど、あの新聞に書いてあったのって本当なの?」
新聞? あぁ、あれの事か。
「そうだが?」
「勿論事実ですわ」
セシリアと口を揃えて答えると、何やら鈴音……いや、鈴は途端に目を輝かせながら食い付いて来た。
「そ、それってさ! どっちから告白したの!?」
「……俺からだが?」
「い、いつ!?」
「少し前にクラス代表を決める試合がありまして、その試合の後直ぐに悠斗さんが告白して下さったのですわ」
「わぁ……い、良いなぁ……」
そう言って俯く鈴……何が良いんだ?
「あぁ、成る程……鈴さん、貴女もしかして織斑さんの事が?」
「うぇっ!?」
セシリアの言葉に、鈴は顔を真っ赤に染めながら固まった。
へぇ、あいつの事がね……?
「ち、違うわよ!? 私は別に、あんな奴の事なんか……!」
慌てふためき言葉を連ねる鈴だが、顔を真っ赤にしながら言っている為に只の言い訳にしか聞こえない。
セシリアに至っては全てを見透かしているかの様に、温かい目で笑みを浮かべながら鈴を見据えていた。
「ちょ、ちょっと! 何よその目は!?」
「えぇ、えぇ、皆まで言わずともわかっていますわ」
「だ、だから違うったら!」
「本当にそうでしょうか? ならば何故わざわざ朝に此方の教室に訪れて織斑さんに挨拶をしていたのですか?」
「そ、それは久しぶりに会うから……!」
「先程も券売機の前で織斑さんを待っていましたし」
「だ、だから……!」
「それに、口を開けば直ぐに織斑さんの所在を尋ねて来ましたわよね?」
「……うぅ~!?」
セシリアの尋問に観念したのか、鈴は真っ赤になった顔を手で押さえながら俯いた。
それを見てセシリアは満面の笑みである。
「鈴さん? 何故そんなに恥ずかしがる必要があるんですの?」
「だ、だって……」
「それは俺も同感だな、人に好意を持つのは別に恥ずかしい事でも何でも無いだろ?」
「う……ふ、二人は、恥ずかしく無いの?」
「あぁ、思わないな」
「私もですわ、だって今が幸せですもの」
二人揃って答えれば、鈴は口をモゴモゴと動かしながら俺達を上目遣いで見てきた。
「あ、あいつにさ、小学校の頃に助けられたの……」
鈴が話し始め、俺達は黙って聞き入る。
「昔は私、日本語があんまり話せなくて、それをクラスの奴らに馬鹿にされて苛められてたんだよね。 その時にあいつが、一夏が私を助けてくれたの……」
「まぁ……!」
セシリアが目を輝かせながら声を漏らす。
どうやら、こういった他人の恋愛の話が好きな様だ。
「苛めてた奴らを追い払ってから、私に俺が友達になってやるって言って来て、小学校の頃はずっと毎日一緒に遊んでたんだけど……それがいつの間にか……す、好きになってて……」
「そうでしたの……」
「でも中学二年の時に親の都合で中国に戻る事になって、もう会えないんだって思ってた。 でも、戻ってから私のISの適性が高い事がわかって、それからこのIS学園の事を知って、必死に代表候補生まで登り詰めたの。 またここに、日本に来れば、一夏に会えるって考えて……そしたら、あいつがISを動かしたって話題になってたから」
……成る程な。
今のこいつの話を聞いていて、俺の中での鈴の評価がかなり上がっていた。
好きな奴の為にそこまで努力出来るのは、素晴らしい事だと思う。
「それで朝に1組の教室に行って、一夏も私の事を覚えてくれてたから嬉しくて……わ、我ながら単純だなぁって思うけどね」
「そんな事ありませんわ!」
突然、セシリアが大きな声と共に立ち上がり、テーブル越しに鈴の手を掴むと両手で強く握り締めた。
「何と素晴らしくロマンチックなのでしょう! 私、とても感動致しましたわ!」
「え? あ、あの……え?」
驚き目を白黒させる鈴に構わず、セシリアは更に言葉を連ねる。
「私達で宜しければ何時でも相談に乗りますわ! 鈴さんを応援しています!」
「あ、ありがとう……」
すっかり興奮した様子のセシリア、しかし私"達"という事はやはり俺も入っているんだろうか?
まぁ、セシリアがそうするなら俺も微力ながら助けになるつもりだが。
「あ! いたいた、悠斗!」
突然、後ろから名前を呼ばれた。
声を聞けばわかる、織斑だ。
振り向けば嬉々とした表情で近付いて来る織斑と……その後ろから、篠ノ之が一緒にやって来た。
「悠斗さん……」
知らず知らずの内に強く手を握り締めていたが、その手をセシリアがそっと掴んで来る。
……そうだ、落ち着け、セシリアに言われただろうが。
「……何だ織斑?」
「さっきはいきなり行っちまったから驚いたよ、一緒に食おうぜ?」
「……わかった、好きにしろ」
そこで視線を織斑から外せば、何やら鈴があたふたと手を動かしていた。
……ふむ。
「……顔見知りなんだろ? 積もる話もあるんだろうから、そっちで並んで座ったらどうだ?」
その言葉に、鈴が驚いた表情で目を見開きながら俺を見てくる。
「あ、悪いな悠斗……鈴、隣良いか?」
「べ、べべべべ、別に構わないわよ!? 好きにすれば!?」
……鈴、そんなに慌てる事無いだろうが、大丈夫か?
隣を見ればセシリアも苦笑しながら鈴を見ている。
結局鈴の隣に織斑、そして織斑を挟んで篠ノ之が座った。
「いや、それにしても久しぶりだな! 元気だったか!?」
「ま、まぁね、あんたこそ何いきなりIS動かしてるのよ?」
「色々あってさ、それよりいつの間に日本に戻って来てたんだ? 親父さん元気か? 店はどうなってんだ?」
「ちょっと、質問多すぎ! 日本には昨日の夜帰って来たのよ、それと……店はもう、閉めちゃったんだよね」
「えっ? そうなのか?」
織斑が気付いたかどうかわからないが、一瞬だけ鈴の表情が沈んだ様に見えた。
「その、うちの両親、離婚しちゃってさ……私はお母さんに着いていったから、店の事は閉めたって話しか知らないんだよね……」
「……えっ?」
鈴の口から告げられた言葉に、織斑だけで無く俺もセシリアも驚きを隠せなかった。
先程までの明るい表情は、消えてしまっている。
「……け、けど、たまに手紙は来るから元気でやってるみたい! ごめんね暗い空気にしちゃって!」
無理矢理明るい雰囲気で話す鈴、明らかに気にしている様だが、これ以上この話題を続けるのはやめた方が良さそうだ。
「あ、あぁ、そうだな! それにしても本当に久しぶりだけど、全然変わって無いな!」
「は? それどういう意味? 身長とかちゃんと伸びてるんだけど?」
……これで伸びてるのか。
「……一夏、そろそろそいつが誰なのか教えてくれないか?」
それまで黙っていた篠ノ之が口を開いた。
しかし何故か、面白く無さそうに鈴を横目で睨んでいる。
「あぁそうか、箒は会った事無かったんだっけか? 箒が引っ越したのが小学四年の時だろ? 鈴は五年の時に引っ越して来たんだ。 鈴には確か言った事あった様な気がするけど、俺の幼馴染みの篠ノ之箒だよ」
「あ、そういえばそんな事言ってたっけ? 初めまして、私は鳳鈴音、鈴で良いわよ」
「……ふん」
自己紹介をした鈴に、篠ノ之の答えは鼻を鳴らしただけだった。
……何だ、その態度は?
「ちょっと篠ノ之さん? せっかく鈴さんが自己紹介をしたのですからきちんと答えるのが礼儀ではなくて?」
すかさずセシリアが篠ノ之を咎めた。
セシリアはこういった相手への礼儀に欠ける言動は許せない性格の為、表情も鋭いものになっている。
「お前には関係無いだろう」
「何ですって?」
「これは私と一夏の問題だ、関係無いのに口を挟むな」
「確かに私は関係無いかもしれません、しかし鈴さんは貴女と同じで織斑さんと幼馴染みですのよ? その鈴さんがきちんと貴女に自己紹介をしていますのに貴女のその態度は何ですの? それが日本人である貴女の礼儀なのですか?」
「……ふん、私には関係無いな」
「そうですか……それでしたら鈴さんから見ても貴女は関係の無い人という事で宜しいですわね? 鈴さんは織斑さんと話がありますから関係の無い貴女は他の席で食事を取って下さいな」
「何だと……?」
「オ、オルコットさん、落ち着いて……箒も、そんな言い方無いだろ?」
一触即発の状況のセシリアと篠ノ之、織斑が宥めようとしているが無駄の様だな。
そして鈴は自分が原因だとでも思っているのか、申し訳なさそうな表情で俯いてしまっている。
セシリアに言われた手前、我慢しようかと思っていたのだが……もう、限界だ。
「……随分な物言いだな?」
「っ!?」
篠ノ之に視線を向ければ、先程までの態度が嘘の様に口を閉ざした。
「鈴はお前にちゃんと自己紹介した筈だが、何がそんなに気に食わないんだ? お前はそんな我が儘に振る舞える程偉いのか?」
俺の言葉に篠ノ之は何も答えない。
只叱られたガキの様に俯いて、膝の上で手を握り締めるだけだった。
「セシリアに言われたから考え直そうかと思っていたが無駄みたいだな、所詮お前はその程度の人間だ。 いつまでも聞き分けの無い我が儘なガキみたいに振る舞ってろ……お前には失望した」
ほとんど手を付けていない食事の乗ったトレイを手に立ち上がる。
「……すまないセシリア、俺は先に行ってる」
「……えぇ、わかりましたわ」
セシリアの返答を聞いてから、俺は食堂を後にした。