放課後、セシリアと共に鈴の姿を探したのだが見付ける事が出来ず、2組の奴に話を聞けば授業が終わったと同時に直ぐ様何処かへ行ってしまったらしい。
恐らく、いや間違い無く織斑の元へと向かったのだろう。
「鈴さん、流石の行動力ですわね」
「全くだな……アリーナの方も探してみるか?」
「ん……いえ、鈴さんの事ですから大丈夫だと思いますわ」
それもそうか、セシリアの言う通りあいつなら大丈夫だろう。
「なら部屋に戻るか」
「はい……それで、あの……」
セシリアが何やら俺の方を伺う様に上目遣いで見上げてくる。
……あぁ。
「俺の部屋に来るか?」
「っ……はい! 是非!」
途端に笑顔を浮かべるセシリア、別に遠慮なんてする必要は無いんだが。
「では行きましょう悠斗さん」
笑顔で腕を組んで来るセシリアと共に俺達は寮へと戻った。
「……あら?」
寮へと戻って来て、俺のベッドに並んで座りながらセシリアと話をしていると突然セシリアが首を傾げた。
「どうした?」
「あ、いえ、鈴さんから通信が入ったのですが……」
どうやら、いつの間にか鈴とプライベート・チャネルの通信を許可していたらしく、一言断りを入れてからセシリアは鈴と会話を始めた。
「鈴さん? どうかなさいましたか……えっ? ちょ、ちょっと鈴さん!? どうしたのですか!?」
会話を始めて直ぐに、セシリアが慌てた様に声を大きくした。
「わかりました、直ぐに行きますわ!」
そう言って立ち上がるセシリア、突然の事に着いて行けない。
「セシリア、一体どうしたんだ?」
「そ、それが、鈴さんが直ぐに来て欲しいと仰っているのですが……泣いている様ですの」
「……何?」
泣いている? 何故だ?
織斑の元へと向かっていたと思ったが……いや、どちらにせよ何かあったのは明白だ。
「わかった、俺も行こう」
「えぇ、鈴さんはどうやら学園の裏庭にいらっしゃる様ですので直ぐに行きましょう」
セシリアの言葉に頷きつつ、俺達は急ぎ部屋を出て裏庭へと向かった。
裏庭へとやって来たのだが鈴の姿は見当たらない、周囲を見渡しつつ更に奥へと向かって歩く。
すると奥にある周囲からは見えない場所にあったベンチに、鈴が顔を俯かせながら座っているのを見付けた。
「鈴さん!」
セシリアが真っ先に駆け寄り、鈴の肩を掴んだ。
「鈴さん! 一体どうなされたのですか!?」
「……セシ、リア……セシリア!!」
顔を上げ、セシリアの顔を見た途端に鈴は泣きながらセシリアへと抱き付いた。
これは、一体……?
「大丈夫、大丈夫ですわ。 私はここにいますから、落ち着いて下さい」
抱き付く鈴の頭を撫でながら、セシリアはまるで泣きじゃくる子供をあやすかの様に優しく語りかけた。
「一夏の馬鹿ぁ!! 私の気も知らないで……鈍感!! スケコマシ!! アホ!! 間抜け!! わあああああああん!!」
……やはり、また織斑か。
「鈴さん、落ち着きましたか?」
「ぐすっ……ひっく……う、うん……」
「はい、こっちを向いて下さいまし」
「む、むぅ……」
目を腫らしながら、漸く鈴は泣き止んだ。
セシリアが甲斐甲斐しく介抱をし、涙やら鼻水やらをハンカチで拭いてやっている。
落ち着きを取り戻した所でベンチにセシリアと並んで座らせ、俺はその前に立って二人で話を聞いてやる事に。
「ゆっくりで構いませんわ、何があったのか話して下さいますか?」
「……放課後に、一夏に会いに行ったの」
一言ずつゆっくりと、鈴が話し始めた。
「昼休みに言ってたISの事を教えるって話、やっぱりあいつはクラス対抗戦に備えてお互いの手の内を見せるのは駄目だって言ったの」
織斑にもまともな思考回路があった事に安堵したが、考えてみればそれだけで鈴が泣くとは思えない。
「二人もそう言ってたし、駄目元で聞いたから仕方ないって思ったんだ。 だからせめてゆっくり話をしたいからご飯を一緒に食べようって言って、一夏もそれは了承してくれたんだけど……」
……問題は、その後か。
「……両親の都合で中国に帰る事になった時、別れ際に一夏と約束したの。 『また会う事が出来たら、私の作る酢豚を毎日食べてくれる?』って」
……酢豚?
それと泣いていた事に、何の関係が……いや、待て、まさか。
「鈴、それはまさかとは思うが、日本の味噌汁云々の下りの意味合いで言ったのか?」
俺の問い掛けに、鈴はゆっくりと頷いた。
……そういう、事か。
「悠斗さん? それって、つまりどういう事ですの?」
「……日本では時折、プロポーズの言葉として毎日味噌汁を作って欲しいといった事を相手に言う時があるんだ。 毎日を共に過ごしたい、一緒にいたいという意味を込めてな」
「成る程……では、鈴さんの酢豚というのは」
「そういう事だ」
「……私、その約束を覚えてるか一夏に聞いてみたの。 その為に練習して、勿論酢豚以外にも作れる様になったわ、それなのに……」
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『……あぁ! あの時の!』
『っ……! お、覚えてるの!?』
『勿論覚えてるぜ! 日本に帰って来たら毎日酢豚を……』
『う、うん……!』
『奢ってくれるって!』
『うん……ん?』
『いや~わざわざ酢豚を奢ってくれるなんてお前も変わってるよな~? ちなみに酢豚以外と奢ってくれるのか? いくら何でも毎日酢豚ばっかり食ってたら飽きるだろ?』
『……この』
『えっ?』
『馬鹿ああああああっ!!』
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「……って事が、あって」
鈴の言葉に、俺もセシリアも思わず同時に額を押さえて大きく溜め息を吐いてしまった。
馬鹿なのか? いくら昔の約束だったとしても自分の為に作ってくれると言っていたのに、どうやったら奢ってくれるになるんだ? そもそも女に奢って貰う事自体がおかしいだろうが、馬鹿なのか? いや、馬鹿だったな。
「織斑さん、馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたけど、まさかここまでとは……」
「馬鹿にも程があるぞ、それは……」
「それで思わず飛び出して来たんだけど、何だか一人で浮かれていた自分が馬鹿だったんだなって思って……悲しくて、悔しくて……!」
目尻に涙を溜めながら、隣に座るセシリアの膝に顔を押し付けると再び泣き出してしまった。
これは、重症だな……。
「鈴さん、今この場には私と悠斗さんしかいません。 いくらでもこの膝をお貸ししますから存分に吐き出して下さって結構ですわ」
「う……うわああああああん!! 一夏の馬鹿ぁ!!」
それから時間にして一時間程、鈴はセシリアの膝で泣き続けるのだった。