「ぐすっ……ありがとう、セシリア……」
「いいえ、大丈夫ですわ、落ち着きましたか?」
「うん、少しすっきり出来た……」
まだ少し声が上擦ってはいるが、大分落ち着いた様子の鈴。
回りくどいのは嫌いだ、鈴にこれからの事について尋ねる。
「それで、どうするんだ?」
「……もう一度、一夏と話をしてみる」
「……また頓珍漢な事を言うかもしれないぞ? お前から告白した方が早いんじゃ無いのか?」
「それはわかってる、わかってるけど、どうしてもあいつから言って欲しいの……我ながら馬鹿だし我が儘な事を言ってると思うけどね」
「そうか……セシリア」
「勿論わかっていますわ、とりあえず今日は難しいでしょうから後日改めてお話した方が宜しいと思います」
「そうだな、それまでは鈴からはとりあえず何も言わずに、俺かセシリアから聞いてみた方が良いだろう」
「はい、私もそう思いますわ」
俺とセシリアの会話を聞いて、鈴は一瞬呆けた顔をするが慌てて立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待って! 二人共協力してくれるの!?」
「勿論ですわ、私も悠斗さんもお昼にそう言ったではありませんか」
セシリアの言葉に俺も頷く。
言ったのはセシリアだが、こうなったら俺も協力を惜しむつもりは無い……それに、余りにも鈴が不憫だ。
「セシリア……悠斗……」
「ほら鈴さん、目が腫れてしまっていますから一度顔を洗って冷やした方が良いですわ」
「う、うん、ありがと……」
「では悠斗さん、お部屋に戻りましょう?」
「あぁ、そうしよう」
鈴を連れ、俺達は一度俺の部屋へと戻る事にした。
「タオルはこれを使え、まだ使って無いものだから大丈夫だ」
「う、ううん、ありがとう……その、気を遣わせてごめん……」
「気にするな、洗面所の場所はわかるな?」
「うん……」
洗面所へと向かった鈴を見送ってから、セシリアとこれからについて話し合う。
「さて、織斑をどうするかだが……」
「えぇ、まさか彼がそこまでだったとは思いませんでしたわ」
俺もセシリアも互いに頭を抱えてしまう。
ISの事や授業の事で馬鹿なのは知っていたが、まさか恋愛絡みの事でも馬鹿を発揮して来るとは。
「……直接事情を説明するのは、流石に鈴に悪いか」
「勿論ですわ、男性が御自身の意思で気付いて思いを伝えて下さるからこそ女性は嬉しいものですのよ? それに鈴さんも、織斑さんから言って欲しいと仰っていましたし」
「成る程、やはり駄目か」
「その点、あの時の悠斗さんは私に思いをきちんと伝えて下さったので私はとても嬉しかったですわ」
「……そうか」
セシリアにそう言われると気恥ずかしいが、悪い気はしないな。
だが、やはり織斑自身に鈴の気持ちに気付いて欲しいな……その為には、どうするか。
「あの、タオルありがとね」
鈴が戻って来て、並んで座る俺達の向かいになる様に座った。
「一先ずは落ち着いたか?」
「うん……情けないとこ見せちゃったわね……」
「気にするな、別に情けないだなんて思っていないさ……ところで鈴、織斑の事なんだが」
織斑の名前を聞いて、鈴の顔が不安と緊張からか強張った。
「そんな顔をするな、鈴には悪いが今晩は織斑と話さない方が良い。 一先ずは俺とセシリアでそれとなく聞いてみるから後日改めて報告する」
「うん、わかった……二人に任せるわよ……」
鈴は一先ず納得した様だが、その表情は不安そうに沈んでいるのが丸わかりだ。
……はぁ、仕方ないな。
「……大丈夫だ」
「……えっ?」
「セシリアと俺が協力すると言っているんだ、それとも俺達はそんなに信用出来ないか?」
「そ、そんな事無い! 二人には感謝してるし、信用してない訳が無いじゃない!」
「なら、そんな心配そうな顔をするな。 織斑に対するみたいに勝ち気な態度で構えておけ、その方がお前らしいだろ?」
そう言うと鈴は目を見開いて驚いたが、やがて小さく笑みを溢した。
「……ありがと、悠斗」
「礼はいらない、協力すると言っているのにそんな顔をされてたらこっちが気を遣うからな」
「ふふっ……悠斗って、見た目と違って優しいんだね?」
見た目と違っては余計だ、その小さい身長を更に小さくしてやろうか?
「鈴さん、悠斗さんは初めから優しいですわよ?」
何故かセシリアが真っ先に反応し、俺の腕を抱き締めて来た。
……頼むから急にはやめて欲しい、この柔らかい感触を不意打ちで喰らうと心臓に悪いし対応に困る。
「……とにかく、そういう事だから少し待ってろ」
「わかった、二人を信じるわよ……本当に、ありがとね」
最後にもう一度礼を言ってから、鈴は部屋から出て行った。
……全く、世話の焼ける奴だ。
「ふふっ……」
「どうした?」
「悠斗さん、初めから鈴さんの為に考えていらしたでしょう?」
「……気のせいだ」
そう言うが、セシリアは何も言わずに柔らかい笑みを浮かべながら俺を見つめて来る。
……セシリアには、全てお見通しか。
「ところで悠斗さん、織斑さんには何とお聞きしますの?」
「……回りくどいのは嫌いだが今回ばかりは仕方ない、遠回しにそれとなく鈴の事を聞いてみるしか無いだろう」
「それが最善ですわね……あの、それから……」
「ん? どうかしたか?」
「えっと、織斑さんには夕食の時に尋ねますが、まだ時間がありますわよね……?」
「あぁ、そうだな」
セシリアの言う通り、夕食に行くには時間がまだ大分早い。
何か迷っている様にセシリアは視線をあちこちさ迷わせている。
「では、その……」
「どうした? 何かあるなら遠慮せずに言ってくれ、俺はセシリアに遠慮なんてして欲しく無い」
「あぅ……その、夕食の時間まで、横になって休むのは、如何でしょうか……?」
「…………ん?」
思わず、反応に遅れてしまった。
セシリアは、一体何を言っているんだ?
「すまない、言っている意味がよくわからないんだが……」
「ですから、その……一緒に、寝て頂けないでしょうか?」
「…………は?」
その言葉の意味を理解するのに、暫くの時間を要してしまった。
一緒に寝る、その言葉に一瞬混乱しかけてしまったがふと我に返る。
セシリアが裏のある様な事を……その、邪な感情で言う筈が無いと。
「……少しの間で、良いか?」
「っ……! は、はい!」
「わかった……あぁ、制服が皺になるからそこに掛けてあるハンガーを使ってくれ」
未だに制服である為、せめて上着だけでも脱ぐ事にする。
上着をハンガーに掛けると、セシリアも同じ様に上着を脱いで俺の隣に座った。
「……寝ると言ったが、何かして欲しい事はあるか?」
「あ、えっと……う、腕枕というものを、してみたいです……」
あぁ、そういえばクロに何度かしてやった事があるな。
何でもクロ曰く、腕枕をする事で温もりと安心感を感じて良く眠れるのだとか。
一度束が羨ましがって乱入して来た事があったが、確かあの時初めてクロが本気で束に怒りを露にしたんだったな……いや、それは今関係無いか。
「……わかった」
ベッドの片側に寄って横になり、腕を横に伸ばす。
するとセシリアは何度か深呼吸を繰り返してから一言断りを入れ、俺の横に寄り添う様に横になって腕へと頭を乗せた。
必然的に互いの顔が目の前に、顔の細部まで見える程に近くにある。
「寝づらくは無いか?」
「大丈夫です……寧ろ、とても落ち着きますわ……」
そう言って腕へと頬擦りするセシリアに、俺も思わず笑みを溢してしまう。
「……悠斗さん、もう少し寄っても、宜しいでしょうか?」
「……あぁ、構わない」
了承すると、セシリアは残り僅かな距離を詰めて俺へと抱き付いて来る。
身体全体で密着する様に寄り添って来るセシリアに、緊張するかと思ったが何故か不思議と安心感の方が強かった。
大切な相手と、心から好きな相手と、こうして寄り添っている事に。
無意識の内に身体をセシリアの方へと向け、そのまま反対の手でセシリアの頭を撫でていた。
「ん……」
撫でられたセシリアは短く声を漏らしながら、心地好さそうに目を細める。
「……夢だと思ってしまうな、こんなに幸せだと」
「夢ではありませんわ、私はここに、悠斗さんの目の前にいますもの」
「……そうだな、ここにこうしている」
「……あの、悠斗さん」
「……あぁ」
真っ直ぐに俺を見つめるセシリア、何を求めているのかは直ぐにわかった。
どちらからという事も無く、互いに顔を近付けてそのまま触れるだけのキスをする。
「んっ……ふふっ、何だか私も夢ではないのかと思ってしまいましたわ」
「セシリアが今言っただろ? 夢なんかじゃない、俺はこうしてセシリアの目の前にいる」
「えぇ、私のお慕いする、心から愛している方が目の前にいらっしゃいますわ」
「……それは俺も同じだ」
「本当ですの?」
「嘘を言うと思うか?」
「いいえ、そんな事ありませんわ……ですから、もっと幸せを感じさせて下さいまし」
「……わかった、そうする」
腕に乗せられていた頭を優しく抱き寄せて深くキスをすれば、セシリアもそれに答える様に腕を俺の首に回してより激しく求めて来る。
互いに貪る様な深く、濃厚なキス。
繰り返す内に、まるで脳内が痺れている様な感覚が襲って来る。
「んっ……あっ……悠斗、さん……」
呼吸の為に時折口を離す度にセシリアの口から漏れる艶かしい吐息と俺を呼ぶ声に、胸の奥底から沸々と沸き上がって来る感情。
頭の片隅に残っている感情が訴えている、このままでは止まらなくなると。
「悠斗、さん……」
目の前で頬を赤く染め、潤んだ瞳で俺を見つめるセシリアの姿。
頭が、真っ白になった。
「きゃっ……!?」
セシリアの口から漏れる短い悲鳴、俺は身体を起こしセシリアを押し倒す様な形で上に覆い被さっていた。
「あ……悠斗さん……」
「……セシリア、これ以上は駄目だ」
「……どうしたの、ですか?」
「その……これ以上は、我慢出来そうに無い……」
嘘は吐けない、正直にセシリアに伝えた。
「以前、セシリアの気持ちに答えられなかった癖にそんな事を言うのはおかしいとわかってはいる……幻滅、させてしまった」
「……そんな事、ありません」
見上げていたセシリアが俺の首へと再度腕を回して来ると、強く引かれてそのまま体勢を崩してセシリアの胸へと倒れ込んでしまう。
顔を柔らかく、甘い香りが包んだ。
突然の事に身体を起こそうとするが、強く抱え込まれて身体を離す事が出来なかった。
「……正直に言いますわ、私はこうなって欲しいと考えて一緒に寝て欲しいと言いましたの、はしたなくて申し訳ありません……ですが私は悠斗さんにそんな事を思ったりしませんわ。 前に私は言いましたわよね? 悠斗さんになら、何をされても構わないと」
抱え込まれた頭を、優しく撫でられる。
それだけで、言い知れぬ安堵感が胸の中に広がって行く。
「悠斗さん、我慢なんてしないで下さいまし、私は後悔なんてしません。 今日お伝えした様に、私はこれから先ずっと、悠斗さんと共にいたいのですから」
告げられる言葉と、俺を包み込む甘い香りで、無くなりかけていた脳内の痺れる感覚が再び襲って来る。
「……悠斗さん、お願いします」
少しだけ腕の力が緩み、俺は身体を起こしてセシリアと視線を合わせる。
赤く染まった顔と俺を見つめる潤んだ瞳、懇願するかの様な表情……こんな顔をさせて、何もしないのか?
そんな事、出来る筈が無いだろうが。
「……セシリア、俺も後悔なんてしない」
「……はい」
「……このまま、これから先も、セシリアと共にいたい」
「……私もですわ」
「……セシリア」
決して視線を逸らす事無く、セシリアに顔を近付けて行く。
そして、そのまま……。