インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第26話 説得

「セシリア、大丈夫か?」

 

時間にしてあれから二時間程、俺の部屋で互いにシャワーを浴びてから隣に立つセシリアに尋ねた。

 

部屋は一応窓を開けて換気をしている。

 

「えぇ、その、少し痛みますが歩くのに支障はありませんので……」

 

「……無理はしないでくれ、もし辛かったら腕を貸すぞ?」

 

「あ……では、お願いしても、宜しいでしょうか?」

 

「勿論、構わない」

 

セシリアが腕を取ったのを確認してから、俺達は食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

「わっ!? ね、ねぇねぇあれ!」

「くぅっ……! 見せ付けてくれる……!」

「良いなぁ……」

「オルコットさん! 代わってー!」

 

食堂に辿り着くと、案の定食堂にいた奴らから視線が集まり口々にそんな言葉が上がる。

 

誰が代わるか、セシリア以外に許す気は無い……まぁ、言ったところで無駄だから何も言わずに無視するが。

 

そのまま食券を購入し、セシリアの分もトレイを持ちながら目的の人物を探す。

 

鈴との約束だ、守らない訳にはいかない。

 

食堂を見渡し、目的である織斑を見付けた。

 

珍しく一人で食べている、好都合だな。

 

「織斑、相席構わないか?」

 

「えっ? 悠斗!? それにオルコットさんも……一緒に食おうなんて珍しいな?」

 

「……悪いか?」

 

「そんな事無いって! 座ってくれよ!」

 

一言断りを入れてから俺達は席に着いた。

 

「それにしても、前から思ってたけど悠斗の食う量って凄いよな……」

 

「ん? そうか?」

 

織斑の言葉に俺は自分の分の食事へと視線を落とす。

 

今日はチキン南蛮定食、いつも通り大盛にして貰ってはいるが特訓していた時程多くは無いと思う……そんなに多いだろうか?

 

「……いつもと変わらないが?」

 

「すげぇ……や、やっぱり運動部みたいに、食う量と強さは比例するとかそういう事なのか?」

 

「いや、関係無いと思うぞ?」

 

「悠斗さんの仰る通りですわ、悠斗さんですから食べられる量ですし、それと強さは関係無いと思います」

 

「……やはり、多いか?」

 

「私はもう慣れましたけど、食べる量が多いのも悠斗さんらしいですから私は良いと思いますわ」

 

「そうか、ありがとう」

 

さて、そんな話はこれくらいにして、そろそろ織斑に聞かないといけないな。

 

セシリアに視線を向ければ、セシリアは直ぐに理解して頷いてくれた。

 

「ところで織斑さん、特訓の方は順調なんですの?」

 

「えっ? あぁ、いや、とてもじゃないけど順調とは言えないかな? ISに詳しい人に教えて貰ってる訳じゃ無いし、一応箒が特訓を見てくれているんだけど基本体力作りと剣道をしているだけなんだよ」

 

……あれは馬鹿なのか?

 

確かに体力作りは必要だろうが、それ以前に織斑はISに慣れなければいけない筈だが。

 

「体力作りはわかるが、剣道はお前のIS……白式だったか? あれが近接ブレードでの戦闘しか無いから剣道を代わりにしているという事か?」

 

「多分……だけどさ、確かに剣道って相手との技とか動きの読み合いではあるけど、ISでの試合は違うと思うんだよ。 剣道は自分も相手も竹刀一本……あ、投げ技とか二刀流もあるにはあるけど、基本的には竹刀一本だろ? でもISは近接武器の剣も使えば悠斗みたいな手足の爪を武装に使う、遠距離は銃やミサイル、オルコットさんみたいに遠隔操作の武器とか、他にも色々あるのに剣道をしているだけじゃ駄目だと思うんだよ」

 

織斑のその言葉は、正直意外に思えた。

 

こいつは授業やISに関して馬鹿だが、こいつなりに考えていた……それに、その考えは的を射ている。

 

「だから現段階では順調とは言えないと思うんだけど……どうかな?」

 

織斑の問いに、俺とセシリアは一度視線を合わせて頷いた。

 

「確かに織斑さんの仰る通りですわ。 私のISもそうですが、遠距離特化型のISを相手にするのに日本の剣道を基準として考えるのはとても得策とは言えません。 同じ近接型……例えば日本の量産型の第二世代機である打鉄であれば戦術的には良いかもしれませんが勿論遠距離武装を装備していますし、現時点で各国で作られているISは遠距離を主軸にしているか遠近両用の装備をしているのがほとんど、その為遠距離相手にどの様な対策を取るかが要になると思います」

 

セシリアの言葉に織斑は肩を沈ませる。

 

「悠斗さんの専用機である黒狼は近接戦に特化してはいますが遠距離武装も装備しています。 つまりは近距離相手の戦術を闇雲に取れば距離を取られて瞬く間に悪手になってしまいますわ」

 

「そうだな、今回セシリアと対戦した時、俺は遠距離特化のブルー・ティアーズだからあえて最後の手段として近距離武装の黒爪を使った……だがあれは武装の能力をセシリアが知らなかったから上手く行ったのであって、あくまでも運が良かっただけだ」

 

「もう、悠斗さん? 何度も言ったではありませんか?」

 

「……すまない、セシリアは能力だけでは無いと言ってくれるが、あの能力があったから不意を突く事が出来たのも事実だ。 例えば黒狼を徹底的に分析され、武装の能力が知られていれば距離を取られて俺は手も足も出なかった筈、だからお前も白式の武装が近接ブレードだけなら尚更何かしらの対策を練るべきだ」

 

「そう……だよな……」

 

「だからお前も俺やセシリア、もしくは他の誰かに助力を得るべきだと思うぞ? 例えば、鈴はどうなんだ?」

 

ここで鈴の名前を出しておく。

 

そうすれば、次の言葉は決まっているからだ。

 

「いや、鈴にはそう言われたんだけど、鈴は2組の代表になってるから断ったんだよ。 対戦する前に俺の対策が練られたら意味無いし」

 

知っている、断るとわかっていたからな。

 

「確かにそうだな、だが何かしらのヒントを得る事なら構わないんじゃないか? 馬鹿正直に全てを話して聞いていたら試合で不利にはなるが鈴は中国の代表候補生、下手な奴に聞くよりも戦術を練るには持ってこいだと思う。 知らない仲では無いなら、今日は流石に無理だとしても明日にでも聞いてみたらどうだ?」

 

「いや……それが、今日の放課後に何か鈴が急に怒ってさ、少し話し掛けづらいって言うか……」

 

一瞬、視界の端に見えるセシリアの口角がピクリと震えた様に見えた。

 

「なら尚更、せっかく昔からの仲なんだろうからきちんと話して仲直りして来い、そういった繋がりはそう簡単に切って良いものじゃ無いだろうが」

 

「そう、だよな……わかった、明日は丁度土曜日で授業も無いから朝一で聞いてみるよ」

 

「……その前に謝れよ?」

 

しかし、とりあえず第一段階はクリアだ。

 

「ところで織斑、詳しくは知らないから聞きたいんだが、鈴とはどういった経緯で知り合ったんだ?」

 

「それは私も気になりますわね、是非聞かせて頂きたいですわ」

 

俺の質問にセシリアも直ぐに乗ってきて、織斑に断る選択肢を選ばせない様にする。

 

流石だな。

 

「鈴か? えっと、軽く話した様な気がするけど、鈴は小学五年の時に俺の通う小学校に転校して来たんだよ。 その時に仲良くなって、中学二年の時に中国に戻るまで他の仲が良かった奴と一緒に遊んだり馬鹿やったり……親友、いや悪友の一人って感じだな」

 

親友か悪友、か。

 

鈴が当時何処まで織斑にアピールしていたかわからないが、あの性格だから感情を隠し切る事は無理だと思うんだが。

 

「織斑さん、スクール……えっと、小学校から中学校まで一緒に過ごしていた訳ですが、その年頃の男性と女性であれば特別な感情を抱いたりしなかったんですの?」

 

流石はセシリア、どのタイミングで聞くか迷っていた質問を意図も簡単に尋ねる。

 

しかし、当の織斑はセシリアの問いに首を傾げただけだった。

 

「えっ? 特別な感情って……まぁ、仲が良かったし親友として大事に思ってたぜ?」

 

「「……は?」」

 

思わず、俺とセシリアの声が重なる。

 

待て、鈴はずっとお前の事を思って、中国に戻ってからも必死に努力して、代表候補生まで登り詰めて日本に戻って来たんだぞ?

 

それを、友人としか見ていないのか?

 

「それに鈴だぞ? 俺にそんな感情がある訳無いだろ、何か酢豚を奢ってやるとか言うぐらいだし、俺と友達に会ってまた一緒に馬鹿したいとしか思って無いって」

 

「「……はぁっ?」」

 

再度、先程よりも大きな声でセシリアと声が重なる。

 

そんな、まさか……。

 

「……織斑さん、それは本当に思っているのでしょうか?」

 

セシリアが、感情を押し殺しながら織斑に尋ねた。

 

「えっ? そりゃそうだよ、だって鈴だぞ? そんなの天地が引っくり返っても有り得ないって、あははははっ」

 

呑気に笑っている織斑だが、セシリアからひしひしと伝わるものに気付いていない様だ。

 

……これは、セシリアがキレている。

 

「……織斑さん、最後の確認ですわ」

 

「あははは……えっ?」

 

「……本当に、何も、思わなかったのですね?」

 

「な、何もって、何を……?」

 

その答えを聞いたセシリアは溜め息を一つ溢し、残っていたパスタを纏めて口の中に詰め込んだ。

 

初めて見る頬を膨らませながら必死に頬張るセシリアに何も言わず水と紙ナプキンを差し出し、次に何を言うのかを察した俺も残っていた食事を口に放り込む。

 

「ん……っ! 織斑さん、私はこれで失礼しますわ」

 

「えっ……えっ?」

 

「……織斑、悪い事は言わない、今は何も言わず黙っていた方がお前の身の為だ」

 

「え、あ、はい……?」

 

「悠斗さん、行きましょう」

 

「あぁ、わかった」

 

来る時と同様、セシリアに腕を貸しながら俺達は食堂を後にした。

 

……織斑の馬鹿さ加減には、呆れるばかりだな。

 

 

「セシリア、このまま部屋まで送るぞ」

 

「ありがとうございます……ですが」

 

食堂を出てからそう伝えれば、セシリアは何かを言いたげに言葉を濁した。

 

「どうかしたか?」

 

「あの……今晩、悠斗さんの部屋に泊まってはいけませんか……?」

 

「……何?」

 

それは……俺は構わないが、寮長をしているのはあの織斑千冬だ。

 

流石に部屋の中まで入って来る事は無いが、セシリアの同室の奴が報告をすればセシリアが処罰を受けるかもしれない。

 

「……駄目、でしょうか?」

 

「いや、俺は構わないんだがセシリアの同室の奴はどうするんだ?」

 

「それは今から交渉して説得しますわ」

 

「……わかった、ならセシリアの部屋に行こう。 同室の奴は今部屋にいるのか?」

 

「はい、先程食堂から出て行ったのを見ましたので部屋に戻っている筈ですわ」

 

なら行くしか無いな。

 

セシリアと共に部屋へと向かった。

 

 

 

 

寮の一室、その扉の前に立つとセシリアは鍵を取り出して開ける。

 

「えっと、一緒に来て頂けますか?」

 

「……わかった」

 

女の部屋に入るのは気が引けたが、セシリアの為にそのまま部屋へと入った。

 

「あ、セシリア戻ったの……って、ええええええええっ!? い、五十嵐君!?」

 

セシリアの同室であろう女がベッドに横になりながら雑誌を読んでいたのだが、此方へと振り向いて俺と目が合った瞬間に大声で騒ぎ始めた。

 

「如月さん! 静かに!」

 

「っ! ご、ごめん!」

 

セシリアが騒ぎ始めた女をすかさず黙らせる。

 

「あ、えっと……どうして五十嵐君が部屋に……?」

 

「その事でお話が……先ずは悠斗さん、彼女が同室の如月さんですわ」

 

「あ、よ、宜しくね!」

 

「……あぁ、五十嵐だ」

 

一先ず互いに簡単に自己紹介を済ませる。

 

「それで如月さん、お願いがあるのですが……話を、合わせて頂けないでしょうか?」

 

「……へっ? どういう事?」

 

「えっと、今晩……悠斗さんの部屋に、泊まりたいのですが……」

 

「……はは~ん?」

 

セシリアからの言葉を聞いて女、如月は何やら笑みを浮かべながらセシリアに詰め寄って来た。

 

「成る程成る程、つまりセシリアは今晩、ちゃんと部屋にいましたって事にすれば良いんだね?」

 

「そ、そうですわ……」

「……悪いがそういう事だ、頼む」

 

「同室の誼みだからね、良いわよ? でも後でちゃんと話を聞かせて貰うからね?」

 

「話、ですの……?」

 

「むふふ、遂にセシリアが大人の階段を昇る訳だね?」

 

「あ、それは……もう、昇ったと、言いますか……」

 

「…………えっ?」

 

セシリア、そこは適当にはぐらかせば良いんじゃ無いのか?

 

……まぁ、事実と言えば事実ではあるが。

 

「……すまないがセシリアを連れて行くぞ?」

 

「えっ、あ、はい……ちょっとセシリア!? 帰って来たら詳しく聞かせて貰うからね!?」

 

同室からの了承は得た、着替えを持ったセシリアを連れ俺は自室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

シャワーは先程浴びた為、服だけ着替える。

 

セシリアも部屋から持って来た寝間着、確かネグリジェと言うんだったか? それに着替えるとそのまま俺に抱き付いて来た。

 

「っと……どうした?」

 

「何でもありませんわ、ただ悠斗さんの温もりを感じたいだけです」

 

「そうか」

 

優しく抱き返し、そのまま優しく頭を撫でてやった。

 

暫くの間そうしてから、ベッドへと並んで横になる。

 

「悠斗さん、先程は申し訳ありませんでした……」

 

「織斑の事か? それなら大丈夫だ、流石にあれは酷すぎたからな」

 

「……はい、余りにも鈴さんが可哀想ですわ」

 

鈍感だというのは正直俺もそんなに変わらない為に強く言えないが、あいつに関しては鈴との事があるから何とかしてやりたい。

 

「明日、鈴さんにお話しますわ、出来ればその時に織斑さんに話をさせましょう」

 

「それが良いだろうな……だが今日は休んだ方が良い、疲れただろ?」

 

そう言って腕を差し出せば、直ぐに頭を乗せて身を預けて来る。

 

「ん……そうですわね……あの、腕は辛くありませんか?」

 

「気にしなくても良い、それにセシリアを感じられるから苦には思わないな」

 

「あぅ……狡いですわ……」

 

頬を赤らめながらも、セシリアは更に身を寄せて来る。

 

そのまま空いた手で頭を撫でてやれば気持ち良さそうに目を細める。

 

「ん……お休みなさい、悠斗さん」

 

「……お休み、セシリア」

 

軽く触れるだけのキスをしてから、俺達は眠りに着いたのだった。

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