「……何だ馬鹿?」
「ば、馬鹿って言うなよ!?」
授業が終わって直ぐに俺の元へと来た織斑に対してそう呼び掛けると織斑は途端に罰の悪そうな顔になる。
「……馬鹿に馬鹿と言って何が悪い? 参考書と古い電話帳をどうやったら間違えるんだ?」
「うぐっ……じゃ、じゃあ悠斗はさっきの授業の内容わかったのか?」
「はぁ……さっきのはISの基礎中の基礎、普通は授業処か一時間も使ってやる様な内容じゃないぞ?」
「マ、マジかよ……?」
驚愕の表情を浮かべ、ふらふらと自らの席へと戻って行く織斑。
その後ろ姿を見送っていると隣にオルコットがやって来た。
「あれが本当に織斑先生の弟なんですの?」
「そうらしいが、何かおかしいのか?」
「おかしいに決まっていますわ、織斑先生は第1回モンド・グロッソで多大なる戦績を残し世界中にその名を轟かせたのですわよ? その弟というからどの様な方なのかと思えば……本当にがっかりですわ」
「……蓋を開けばただの馬鹿だからな」
「貴方は大丈夫ですの?」
「流石にあそこまで馬鹿じゃない、見くびるな」
「あ、その……も、申し訳ありません……」
何故か目を伏せて謝るオルコット、別にそこまでしなくても良いんだが……。
「別に怒っている訳じゃない、そんなに怯えられるとこっちが困る」
「ほ、本当ですの……?」
「あぁ、ところで聞きたい事がある。 教科書に書いてあるこの部分なんだが」
「あら? もうこんな所まで進めてましたの? これは……」
休み時間の間に色々と聞く事が出来た。
流石は代表候補生、他の奴らだったらここまで教えられる奴はいなかった筈だ。
それに説明も丁寧でわかりやすい、やはり根は優しい奴なんだな。
そのまま休み時間が終わり、次の授業が始まった所で問題は起きた。
「さて、授業を始める前に決めなければならない事がある。 この学園ではクラス対抗戦があり、それに伴いクラス代表となる者を一人選出する必要があるのだが、自薦他薦どちらでも構わん、やりたい奴は名乗り出ろ」
クラス対抗戦の代表、ならそれに見合ったIS操縦者という事か。
普通に考えて代表候補生であるオルコットがなるべきだろう。
「はい! 織斑君が良いと思います!」
……は?
「あ、私も賛成です!」
……正気か?
「あ、えっと……五十嵐君も有りかなぁ、なんて……」
「あぁ?」
「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!?」
こいつら、単に男である織斑と俺を物珍しさから出しやがったな?
そんなふざけた選出をすれば……。
「納得出来ませんわ!!」
……こうなる、か。
机を叩きながら、そんな大声と共にオルコットが立ち上がる。
「そんな選出、認められる筈がありません!」
そう言って、オルコットは鋭い目で織斑を睨み付ける。
少し話をしていたからか、オルコットの言葉は完全に織斑に対してだけ向けられていた。
「そんな何も知らない、参考書を古い電話帳と間違って捨てるなんて馬鹿な事をする男をクラス代表だなんて!」
「ぐふっ……」
何やら織斑から苦し気な声が聞こえたが、事実であるから仕方ない。
「第一! 男をクラス代表だなんて良い恥晒しですわ! その様な屈辱を一年間耐えろと言うんですの!?」
成る程、代表候補生としてのプライドもある為に尚更納得出来ないのだろう。
……だが、大丈夫か? 頭に血が登りすぎている。
「こんな極東の猿にクラス代表だなんておかしいですわ! 私はここにISの修行を目的として来ているんですのよ!? 決して極東の辺鄙な田舎に暇潰しに来ている訳では……!」
「っ! おいお前いい加減に……!」
「……待て、織斑」
立ち上がり、オルコットに喰って掛かろうとする織斑を呼び止める。
「でも悠斗……っ!?」
「いいから、黙ってろ」
一睨みで織斑を黙らせ、立ち上がってからオルコットへと向き直る。
「今の選出は確かに納得出来るものじゃ無い、それは同意する。 電話帳馬鹿や何処の馬の骨かわからない様な奴を、物珍しさで選出するのは間違っている」
「あ、その……電話帳はそうですが、貴方はそんな……」
『電話帳電話帳言うなよ!?』と騒ぐ声が聞こえたが無視する。
「……だが、今の言葉は駄目だ。 極東の辺鄙な田舎と言ったが俺も織斑も、そしてこの学園にいる大半の奴ら、それに俺にさっき言ったモンド・グロッソで多大な戦績を残した教師も、ISを作り出した"変わり者の天才"も日本人だ。 別に俺は愛国心なんてものは微塵も持ち合わせていないが、今のお前の言葉はその全員の反感を買う事になる。 それにお前の言葉は一人の人間としての言葉じゃない、"イギリスの代表候補生"であるお前の言葉は謂わばイギリス国家としての言葉であると捉えられてもおかしくは無い筈だ」
「っ……!?」
俺の言葉に顔から血の気が引いて行き顔を青ざめさせるオルコット……落ち着いたな。
「確かに納得出来ないんだろうが、今のお前は俺達と同じこの学園の一人の生徒だ。 代表になりたいのなら言葉じゃなく結果で示すしか無いだろ」
そこまで言って織斑千冬へと視線を向ける。
「俺はオルコットを推薦する、推薦者が複数人なら何かしらの方法を取るんだろ?」
「だから敬語を……まぁ良い、お前の言う通りだ。 推薦者が複数いる場合は試合をして貰い勝者がクラスの代表になって貰う手筈になっている。 その方が分かりやすくて手っ取り早いだろう?」
その言葉にオルコットと織斑が頷く、何とか収まったな……。
「では推薦された"三名"は一週間後に試合をして貰う、それで異論は無いな?」
「…………ん?」
三名……三名と言ったか?
「どうした五十嵐、まさか自分が入っていないとでも思っていたか? お前も推薦されたのだからちゃんと試合をして貰うぞ?」
……あぁ、そういえば誰かはわからないが俺の名前を出していたな。
「……ちっ、わかった」
苛立ちを隠さずにそう返事をしてから首を横に倒す。
その瞬間、丁度額のあった辺りを凄まじい速さでチョークが飛んで行った。
「本当に良い反射神経をしているな」
「……どうも」
「褒めてはいないぞ馬鹿者、敬語を使えと言っているだろう? そして教師に対して堂々と舌打ちをするな」
「気が向いたらな」
俺の言葉に織斑千冬は大きく溜め息を吐きながらも手を叩いて授業の再開を促した。
その際、後ろから視線を感じたが振り向く事無く黙って前を見続けた。