インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第27話 歓談

いつもの時間に目を覚ませば、目の前には静かに寝息を立てるセシリアの顔が。

 

俺の腕を枕にしたままなのは寝る前と変わらないが、寝ている間にいつの間にか俺の身体へと抱き付いている。

 

いつもの様に走りに行こうとしていたがこれは仕方ない、その為だけにセシリアを起こすのも申し訳ない……今日はこのままゆっくりしているか。

 

それからセシリアが目を覚ますまでの暫くの間、俺は目の前のセシリアの寝顔をただ眺めていた。

 

 

 

 

「ん……ふぁ……」

 

「起きたか?」

 

「ふぇ……? あ、おはよう、ございます……」

 

「あぁ、おはようセシリア」

 

「……ふふっ、目が覚めて直ぐ、目の前に悠斗さんがいるなんて幸せですわね……」

 

「そうだな……それに、セシリアの寝顔を見る事が出来た」

 

「あぅ……もう、悠斗さんたら……」

 

ゆっくりと身体を起こし、大きく伸びをする。

 

それから首、肩を小気味良い音を鳴らしてからポットで湯を沸かし始める。

 

「珈琲を淹れるがセシリアも飲むか? 一応この間の事があるから紅茶も用意しているが」

 

「ありがとうございます、では紅茶を頂けますか?」

 

「本場の味とは程遠いが、それは許してくれ」

 

「い、いえ! 大丈夫ですわ!」

 

そう言って貰えると助かる。

 

セシリアの出身国であるイギリスは紅茶の本場、それなのにこんなインスタントの紅茶を飲ませるのは忍びないと思っていたからな。

 

カップにそれぞれ珈琲と紅茶を淹れ、紅茶をセシリアへと差し出してから隣に座る。

 

「今日は土曜日で授業はありませんけど、悠斗さんはいつもこんなに早く起きていらっしゃるんですの?」

 

「ん? いや、いつももう少し早く起きてトレーニングをしているな」

 

「あ、その……申し訳ありません、私がいたから起きれなかったのでは……?」

 

「いや、入学してから毎日トレーニングをしていたからな、たまにはこうして休むのも必要だから気にしないでくれ。 それにゆっくりしていたからこそ、良いものも見れたからな」

 

「あぅ……もう、乙女の寝顔を見るなんて、悠斗さんでなければ怒っていましたわよ?」

 

「すまないな」

 

そっと頭を撫でてやれば途端に笑みを溢すセシリア、思えばこうして朝をゆっくりと過ごすのは本当に久しぶりだな。

 

こういう日も、たまには良いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「あ、二人共おはよ……って、朝から見せ付けてくれるわね」

 

食堂へと入る直前に、後ろから鈴がやって来て開口一番そんな事を言って来た。

 

「おはようございます鈴さん」

「おはよう」

 

鈴の言う見せ付けるというのは、昨晩と同じ腕に抱き付いている事だろうか?

 

「何か問題でもあるか?」

 

「いや、別に良いんだけどさ……それより、その、どうだった?」

 

「……結論から言えば、余り良くは無かったな」

 

「……そっか、そうだよね」

 

目に見えて沈んだ表情となる鈴に、すかさずセシリアがフォローを入れる。

 

「鈴さん、そんな顔をしないで下さい。 確かに成果は余り良くはありませんでしたが、織斑さんには言質を取る事が出来ましたから」

 

「言質……?」

 

「昨晩俺とセシリアで同じ結論となったんだが、今織斑がISの教えを乞いているのは篠ノ之らしい。 そして特訓と言いつつやっているのは体力作りと剣道だけ、確かに織斑のISは近接特化の機体だが素人の奴がそれだけで遠距離、中距離相手に対策を取れるとは思えない」

 

「そこで、私と悠斗さんで鈴さんにISについて聞く様に提案したんですの」

 

「うん……うん? えぇっ!?」

 

突然驚いた様に大声を出す鈴。

 

何だ? もっと喜べ。

 

「だ、だって私一回断られてるよ!?」

 

「知っている、だから馬鹿正直に聞くのでは無く、戦略や相手の対策を取る上で必要な知識や立ち回りを聞く様に言ってある。 今日あいつから鈴に聞いて来る筈だ」

 

「嘘……本当に……?」

 

「嘘ではありませんわ、その後に色々とありましたが……今日きちんと話し掛けて来る筈ですから大丈夫ですわ」

 

最早驚きで固まってしまっている鈴、仕方ない奴だな。

 

固まる鈴の額を軽く小突いてやった。

 

「あうっ!?」

 

「何を固まっているんだ? まさかとは思うが出来ないとでも言うつもりか? お前の織斑に対する思いはその程度なのか?」

 

俺の言葉に鈴ははっとした顔をして勢い良く首を横に何度も振った。

 

……全く、世話の焼ける奴だな。

 

「なら堂々と構えてろ、お前と会って日は浅いが、お前の取り柄はその小さい身体に似合わない堂々さだろ?」

 

「う、うん……って、誰が小さい身体よ!? 危なくスルーしそうになったけど!」

 

「……何だ、出来るだろうが」

 

「え……あっ」

 

それまでの弱気な態度から一変、大声で喚く鈴にそう言えば鈴は目を見開いた。

 

「その調子で織斑に教えてやれ、その方が織斑も変に気を遣わずに普段通り接してくれる筈だ」

 

「……ありがと」

 

素直に礼を言って来る鈴。

 

これもまた鈴の取り柄で良い所だろう、物言いがたまに強く出る所があるが基本的に相手への礼儀があり、今の様に相手に素直になれる。

 

そんな鈴だからこそ、織斑と上手く行って欲しいんだけどな。

 

「ふふっ、悠斗さん、何だか嬉しそうですわね?」

 

そんな事を考えていると、隣のセシリアがそんな事を言いながら俺を見上げて来た。

 

そんなつもりは無かったのだが、セシリアに言われると強く否定出来ない。

 

「……まぁそんな事より、俺は飯が食いたい」

 

話を逸らす為にそう言えば、二人は何やら意味深な笑みを浮かべつつも了承し、そのまま三人で食堂へと入った。

 

休日の朝という事もあり、いつも賑やかな筈の食堂も人が疎らだった。

 

そのまま食事を受け取り、空いている席へと向かおうとする。

 

「あっ! 五十嵐君にオルコットさん! こっちこっち!」

 

俺達を呼ぶ声に視線を向ければ既に見慣れた三人、相川と鏡、布仏の姿が。

 

丁度席も三人分空いており、鈴を連れて席へと向かう。

 

「あれ? その娘って確か2組に転入してきた……」

 

「あぁ、鈴も同席させるが良いか?」

 

「勿論だよ! 座って!」

 

「あ、ありがとう……」

 

礼を言いつつ俺が真ん中に座り、両側にそれぞれセシリアと鈴が座った。

 

「初めましてじゃないけど自己紹介してないよね? 私は1組の相川清香、宜しくね!」

「お、同じ1組の鏡ナギです、宜しくね?」

「布仏本音だよ~宜しく~!」

 

「えっと、中国から2組に転入してきた鳳鈴音よ、宜しく」

 

「鈴音……ん~じゃあリンリンだ~!」

 

鈴が早速布仏の餌食となった。

 

「リ、リンリン!? 何かそれパンダみたいで嫌なんだけど!?」

 

「え~? 良いじゃんリンリン~」

 

「やめてー!?」

 

布仏のペースに圧倒されながらも反抗する鈴、その様子を笑いながら見る相川と鏡、早速馴染めたみたいだな。

 

「ふふっ、良かったですわね鈴さん」

 

「何処が!? リンリンって、リンリンって!?」

 

「あら、可愛らしいと思いますわよ? それにそれを言ったら私も布仏さんにはセシリーと呼ばれていますし」

 

「そうだよ~それからゆうゆう~!」

 

「……不本意だが、そう呼ばれている」

 

「あー……何か、ごめん」

 

謝らないで欲しい、確かに俺達の呼び方は安直でありまるでガキ扱いの様ではある。

 

だが鈴は本人が真っ先に言ったが、まるでパンダの様だ。

 

それに比べたらまだマシだと思う……まぁ、こいつはパンダと比べ物にならないぐらい小さいからな、パンダに失礼か。

 

「ちょっと悠斗、今何か失礼な事考えなかった?」

 

「……気のせいだ」

 

「目逸らすんじゃないわよ、こっち見なさいってば、こら」

 

「うるさいぞ、食事中は静かにするのがマナーだ。 ガキじゃないんだから騒がずに静かにしてろ、そしてパンダに謝れ」

 

「何をー!?」

 

喚きながら掴み掛かって来る鈴を片手で押さえながら食事の手は止めない。

 

うん、今日も変わらず美味いな。

 

「あはは、何か三人が並んでるとまるで仲睦まじい家族みたいだね?」

 

「はぁっ!? 何よそれ!? 私が小さいって言いたいの!?」

 

「……確かに小さいがな」

 

「な、何ですって!? あのね、私だってあんた達と家族は嫌なんだけど!? て言うか先ず家族って事に対してあんた達も否定するか恥ずかしがるかしなさいよ!?」

 

「セシリアとはいずれなるつもりだから否定する気は無いが?」

 

「んなっ!?」

 

「ふふっ、そうですわね、私も否定はしませんわ」

 

「うえええっ!?」

 

鈴は何やら驚愕の表情で固まり、やがて諦めの表情で項垂れてしまった。

 

「あぁもう……あんたらに勝てる気がしないわよ……このバカップル……」

 

「……誰の事だ?」

 

「あんたら二人よ! わかれよ!」

 

大声で喚き散らす鈴、朝から騒がしい奴だな。

 

「それより五十嵐君とオルコットさん、いつの間に……あ、鈴音さんって呼ぶね? 鈴音さんと仲良くなってたの?」

 

「色々ありまして、私と悠斗さんで鈴さんに協力していますの」

 

「「「協力?」」」

 

「……詳しくは鈴の為にも黙秘するが、そういう事だ」

 

「ふーん? でも二人が協力するって事は鈴音さんは良い人って事だから安心だし、私達も宜しくね!」

 

「う、うん、宜しく……」

 

途端に恥ずかしそうに俯く鈴。

 

まだクラスには馴染めていない様子だが、この三人となら直ぐに馴染めるだろうと同席したのが当たりだったな。

 

 

 

「あ、皆おはよう」

 

後ろから誰かに声を掛けられた。

 

誰かなんて、この学園で男の声と言えば俺以外に一人しかいない。

 

振り向けば案の定織斑が立っていた。

 

「あ、おはよう織斑君!」

 

「おはよう、話してるとこ悪いけどちょっと良いかな?」

 

「別に大丈夫だけど、どうしたの?」

 

「えっと、ちょっと鈴に用があってさ……鈴、良いか?」

 

「……何?」

 

それまでの態度が嘘の様に素っ気ない態度を取る鈴……そこで意地を張ってどうする、俺とセシリアが説明しただろうに。

 

「ISの事で聞きたい事があるんだ、休みの日に悪いけどちょっと付き合ってくれないか?」

 

「べ、別に良いけど……悠斗とセシリアも一緒で良い? ISの事なら私だけじゃなくて二人もいた方が効率が良いだろうし」

 

「「……え?」」

 

「それもそうだな、なら食べ終わったら早速良いか?」

 

「わかったわよ、仕方ないけど付き合ってあげる」

 

「そっか! ありがとな鈴!」

 

そう言うと織斑は食事を取りにカウンターへと向かい、その後ろ姿を見送っていた鈴だが勢い良く俺達の方へと振り返る。

 

「お願い二人共! 一緒に来て!」

 

必死にそう懇願してくる鈴に、俺とセシリアは一度視線を合わせてから同時に溜め息を溢す。

 

「……お前な、何の為に織斑をけしかけたと思ってるんだ?」

 

「ま、まぁまぁ悠斗さん……別に構いませんわ、ただし私達はあくまでも付き添いの様なものですので鈴さんがきちんと織斑さんに教えて下さいね?」

 

「あ、ありがとうセシリア!」

 

心底安堵した様子の鈴に再度溜め息を溢す……仕方ない、セシリアの言う通り付き添いとして着いて行くか。

 

「え? 何々? もしかしてそういう事?」

 

相川が俺達へと尋ねて来て、鏡と布仏も気になるのか視線を向けて来る。

 

「えっ、と……その……」

 

否定しようとしたのだろうが、顔を赤らめながらたどたどしく話す様はどう見ても否定出来ないだろう。

 

嘘が吐けないというか、単純というか。

 

「まぁそういう事だな、出来れば他の奴らには他言無用にしてくれると助かる」

 

「やっぱり! へ~織斑君の事がね~?」

 

「ぅ……ちょっと悠斗……」

 

「俺とセシリアがいるが、協力者は多い方が良いだろう?」

 

「そ、そうかもしれないけど……」

 

「はぁ……さっきも言ったが堂々と、自分の気持ちを隠すよりも自信を持って構えてろ、その方がお前らしいだろ」

 

「……う、うん」

 

「はぁ、全く……」

 

「ふふっ、何だか五十嵐君、頼りになる面倒見の良いお兄ちゃんみたいだね」

 

「……勘弁してくれ」

 

「えー? 似合うと思うけどな?」

「た、確かに、頼りになりますし……」

「優しいからね~ゆうゆうじゃなくてお兄ちゃんって呼んだ方が良いかな~?」

 

そんな呼び方やめて欲しい。

 

確かにクロには兄と呼ばれているが、他の奴らに呼ばれても別に何とも思わない。

 

どう答えれば良いのかわからず、面倒に思って来た所で隣から軽く服を引っ張られ、視線を向ければセシリアが何やら俺を上目遣いで見ていた。

 

その上目遣いに思わず固まってしまった、その時。

 

 

 

「あ、の……えっと……お兄、ちゃん?」

 

 

 

「っ!?」

 

完全な不意打ちを喰らった、顔がどんどん熱くなって行くのを感じる。

 

クロには何度も呼ばれていた筈なのに、セシリアに上目遣いで呼ばれた瞬間、まるで破裂したかと錯覚する程に心臓の鼓動が跳ね上がった。

 

今のは、駄目だろ……。

 

「うわ……わかりやす……」

 

「……黙ってろチビ」

 

「んなっ!? 何ですって!?」

 

再度、鈴との一方的な攻防戦が始まる。

 

「あぅ……は、恥ずかしいですわ……」

 

「いや、夫婦発言より恥ずかしく無いよね?」

「う、うん、私もそう思うけど……」

「あははは! ゆうゆうもセシリーも顔が真っ赤っか~!」

 

周囲から無駄に視線を集めながらも、何とか食事を済ませる事が出来た。

 

……はぁ、あの発言のせいだ……覚えてろよ、相川。

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