朝食の後、織斑が来るのを待ち合流してから移動を開始する。
ISを展開する事は無い為、今回はアリーナでは無く寮にある談話室へとやって来た。
幸いと言っても良いのか、他の奴らは誰もいなかった為に俺達四人しかいない。
「三人共ありがとな、ただ話す前に……鈴、昨日はごめんな」
「えっ? な、何がよ?」
「昨日、鈴を怒らせたみたいだから、何が悪かったのかわからないけど、俺が悪かったんだろうから話をする前に謝りたかったんだ……だから、ごめん」
「べ、別に良いわよ、私が勝手に怒っただけだから……わ、私も、いきなり怒ってごめん」
互いに謝り合う二人、織斑は昨日の言葉を守ってくれた様だな。
正直、織斑は鈴の怒っていた理由がわかっていない様だったから謝罪はしないと思っていたが……少し、織斑に対する認識を改めないといけないか?
「よし……じゃあ改めて、三人共今日は宜しくな」
「……別に構わない、どうせ俺から教えられる事は無いからな」
「えっ? だって悠斗は滅茶苦茶強いだろ?」
「俺はどちらかと言えば感覚派だからな、人に教えるのは無理だから二人に聞いてくれ」
「それでしたら私も、織斑さんは近距離特化の機体ですから遠距離特化の私が教えられる事は少ないですわ。 遠距離攻撃による手段や対処を教える事は出来なくはありませんが、私よりも鈴さんに聞いた方が宜しいと思います」
俺とセシリアの言葉に、鈴が何やら恨めしそうな目を向けて来るが無視する。
これもお前の為だ、大人しく織斑に教えろ。
「そっか、それなら仕方ないな……じゃあ鈴、良いかな?」
「そ、そこまで言うのなら特別に教えてあげるわよ、クラス対抗戦で勝負をするのに弱い奴を相手にするより手応えのある勝負をしたいしね」
「うっ……た、確かに俺は弱いけど、もっと言い方あるだろ?」
「事実でしょ、良いから聞きたい事聞きなさいよ」
……はぁ、織斑の言う通りもっと言い方があるだろうが。
それに織斑に気持ちに気付いて欲しい、織斑から言って欲しいと自分で言ってたのだから先ずは普段の会話から意識させるべきじゃないのか?
こんなので本当に大丈夫なのか……?
そんな不安や心配はあったものの、いざ話を始めると鈴は戦術や立ち回り等、的確にそれでいてわかりやすく説明していた。
勝手に鈴も感覚的な思考をしていると思っていたが、案外理論的な所もあったんだな。
流石、努力して代表候補生に登り詰めた実力は伊達では無い。
「じゃあそうなったら下手に距離を取らない方が良いんだな」
「そうね、あんたのISが近距離特化なら尚更、距離を取ったらそれこそ相手の思う壺よ? だから相手を自分の間合いから逃がさない事を重要視した方が良いわ」
「成る程……けどもし相手が近距離武装も持っていた時は?」
「そうなったら完全に近距離で勝負を仕掛けるしか無いでしょ? 近距離特化なのに自分の間合いで競り負けたら意味無いじゃない」
「あ、それもそうか……」
何だかんだ話は上手く進んでいる。
初めは遠距離攻撃への対策として間合いの取り方を一緒に教えていたセシリアだが、直ぐに鈴へと任せて自らは傍観する側に回った。
今は二人の様子を俺と並んで座りながら眺めている。
「……よし、ありがとな鈴! 何となくだけどイメージが掴めた様な気がするよ!」
「ふ、ふん! まぁこの私が教えてあげたんだから感謝しなさいよね! これで直ぐに負けなんて言ったら承知しないんだから!」
「おう! それにしても、鈴が代表候補生なんてなぁ……」
「何? 見直した?」
得意気な表情を浮かべながら胸を張る鈴、しかし対する織斑は何やら首を傾げるだけだった。
「いや、正直似合わねぇ」
「はぁっ!? 何それ!?」
「だって鈴だぞ? 代表候補生って言ったらもっとこう、何て言うか……凄い人がなるもんだと思ってた」
「ちょっとそれどういう意味よ!?」
……何やら、雲行きが怪しくなってきた。
「オルコットさんみたいな人が代表候補生ってのは何となくわかるけど、鈴も同じ代表候補生って……背もちっこいままだし、もしかして他に人がいなかったのか?」
「あ、あんたねぇ!?」
鈴が勢い良く織斑に掴み掛かって行く。
「私は努力して代表候補生まで登り詰めたのよ! あんたみたいに適当にのらりくらりやって来た訳じゃ無いのよ!?」
「はぁ!? 誰がのらりくらりやって来たんだよ!?」
「あんたに決まってるでしょ!? 人の気も知らないで! そもそも私はあんたに……っ!?」
そこまで言って言葉に詰まる鈴。
何だ、そのまま勢いで言えば良かっただろうに。
「俺に? 何だよ?」
「っ……な、何でも無いわよ馬鹿!」
「はぁっ!? 誰が馬鹿だよ!?」
「あんたに決まってるでしょ! 馬鹿馬鹿馬鹿!」
「この……っ! 言わせておけば! お前だって俺と変わんなかっただろ!?」
「昔の話でしょ!? 今は代表候補生になってISも学科も評価は上の方よ! あんたと違ってね!」
「ぐっ……!? う、うるせぇな! このチビ!」
「んなっ!? 誰がチビですって!? 言うに事欠いて、自分が身長伸びたからって……! 身長だけ伸びても馬鹿なのは変わらない奴に言われたく無いわよこの馬鹿!」
……流石にこれ以上は不味いな。
「鈴、落ち着け」
「そ、そうですわ鈴さん、織斑さんも」
セシリアと二人を止めに入ったが、二人の言い合いは尚も続いて収まらない。
「男でIS乗れたからってちやほやされて舞い上がってんでしょ!? 良いご身分ね!」
「んな事思ってねぇよ! 勝手な事言うな!」
「へぇ!? 昨日、一年の女子に差し入れのお菓子貰って手を握られながら鼻の下伸ばしてた癖に!?」
鈴の言葉に、セシリアの鋭い視線が織斑へと突き刺さる。
「おまっ……!? み、見てたのかよ!? べ、別にあれはせっかくくれたから喜んでただけで、鼻の下伸ばしてなんかねぇよ!」
「どうかしらね!? 可愛いしスタイルも良かったけど!?」
「違うって言ってるだろ! いい加減にしろよ! ふん、まぁ確かにお前とは全然違う娘だったけどな! だってお前はチビだし……!」
ふと、嫌な予感が頭を過った。
急いで織斑の言葉を止める為に口を押さえようと手を伸ばしたが、遅かった。
「貧乳だもんな!!」
その瞬間、まるでその場の時間が止まったのではと錯覚する程の静寂が流れた。
鈴へと視線を向ければ、肩を震わせながら顔を俯かせてしまっている。
その姿を見て、織斑も失言に気付いたのか気まずそうに言葉を詰まらせた。
「あ……り、鈴……?」
「……言ったわね、言ってしまったわね? 私に禁句であるその言葉を、あんたは」
まるで地の底から響いて来る様な威圧感の込められた声。
「お、おい鈴、落ち着けって……」
「この……バカアアアアアアアアッ!!」
目にも止まらぬ速さで振り抜かれた張り手は、寸分違わずに織斑の頬を鋭い音と共に捕らえた。
「痛えええええええええっ!?」
張り手を喰らった織斑は頬を押さえながら床をのたうち回り、その姿を鈴が鋭い視線で見下している。
「この馬鹿!! 屑!! 間抜け!! 本当に最っ低!!」
「ぐぅっ……!? り、鈴!?」
「覚えときなさい! クラス対抗戦、絶対にあんたをぎったぎたにぶっ潰してやるんだから!!」
そう宣言し、鈴は走り去ってしまった。
その場には俺とセシリア、そして織斑だけが残される。
「痛ぇ……な、何だよ鈴の奴……ひぃっ!?」
悪態を吐きながら顔を上げた織斑だが、直ぐに怯えた様に短い悲鳴を漏らした。
その視線の先、セシリアが、視線だけで殺せるのではと思える程の絶対零度の視線で織斑を見下していた。
「……織斑さん、貴方、自分が何を言ったのかわかっていますの?」
「な、何って……」
「……只の口喧嘩であれば何も言いませんが、乙女に対する侮辱の言葉、万死に値しますわ」
「い、いや、あれは鈴が……」
「お黙りなさい!!」
「ひぃっ!?」
哀れだな。
「鈴さんの仰った通り、覚悟しておいて下さいまし。 乙女の心を踏みにじり傷付けた罰、その身にとくと味合わせて差し上げますわ」
そう言って、セシリアは織斑から視線を外してゆっくりとした足取りで去って行った。
残された織斑は、何も言えずにただただ呆然と固まる事しか出来ていない。
「……はぁ、擁護の余地も無いな」
「ゆ、悠斗……?」
「悪いが、今のはお前に非があると思うぞ」
「そ、そんな!? 今のは鈴が!」
「確かにお互いに熱くなって売り言葉に買い言葉になってはいたし鈴も言い過ぎている所はあった、だが女に対して言って良い事と悪い事はあると思うが?」
「うっ……」
「……何故鈴が代表候補生になってまで再び日本に来たのか、何故お前に真っ先に会いに来たのか、それが幼馴染みだけの理由だと思うか?」
「えっ? それって、どういう意味だ……?」
「……俺から言えるのはここまでだ、だがその事を少し考えてみてくれ」
それだけ伝え、俺もその場を後にした。
プライベート・チャネルにてセシリアに通信で尋ねれば、鈴と共に何故か俺の部屋の前に戻っているとの事。
それを聞いて、俺も急ぎ自室へと向かうのだった。