「うっ……うぅっ……! 一夏の馬鹿ぁ……アホ……間抜け……!」
「よしよし……鈴さん、落ち着いて下さいな……」
昨日も見た光景だが、俺の部屋のベッドにて鈴がセシリアの膝に顔を埋めて泣いている。
俺はとりあえず二人分の紅茶を淹れてから自分のベッドへと座った。
「……鈴、大丈夫か?」
「うぅっ……悠、斗ぉ……」
「……はぁ、さっきのは確かに織斑も悪いんだろうがお前もやりすぎだ、あれでもし織斑がお前と仲違いしたらどうする?」
「ぐすっ……だ、だってあいつ……私の気も知らないで、勝手な事ばかり……!」
「……お前の気持ちが伝わっていないから今の状況だと思うんだが?」
「しかし悠斗さん、織斑さんのあの発言は鈴さんだけで無く中国を侮辱したのと同じ事ですわ……その、私がその発言に関してその様な事を言うのはおかしい話ですが、許される事では無いと思います」
「……セシリア、あの事はもう済んだ話で今はもう気にする必要は無い。 だがセシリアの言う通り、織斑のあの発言は許されるものでは無かったな」
只の口喧嘩であれば、二人を宥めて終わらせる事で済むのだが、織斑はよりによって中国に対して、更には鈴にとっての禁句の言葉を言ってしまった。
それとなくヒントは与えたが、流石にあれでわかるとは思えない。
なら、これからどうするか……。
「……鈴、こうなった以上俺はお前への協力を惜しむつもりは無い。 クラス対抗戦、全面的にお前に協力する」
「え……で、でも……私は2組だし……」
「クラスなんて関係無い、俺がしたいと思ったから協力するだけだ。 対抗戦で勝って、そしてそのままの勢いでお前の気持ちを伝えるべきだ」
「で、でも……」
「……お前の考えを否定するつもりじゃないが、お前はもう少し素直にあいつに接するべきだと思うぞ? あいつも恐らくはお前の事を悪くは思っていない筈だ、だがこのままお前が変わらないままだといつまでも友人止まりなんじゃ無いのか?」
「うっ……」
「不安なのはわかるが、俺達がついてる」
「そうですわ鈴さん……本当は織斑さんに気付いて欲しかったのですが恐らくはこのままでは無理かと思いますので、勿論告白の手助けは全力で致しますわ」
「うぅっ……悠斗、セシリア……あり、がとう……!」
「……だからもう泣くな」
再び泣き始める鈴、セシリアは何も言わずに自らの膝へと顔を埋めている鈴の頭を優しく撫で続けていた。
結局、鈴が泣き止んだのはそれから一時間程してからだった。
「ぐすっ……ごめん、もう大丈夫……」
「……顔を洗って来い、タオルは洗面所に新しいのが置いてある」
「うん……ありがと……」
鈴が弱々しい足取りで洗面所へと向かう。
その後ろ姿を見送ってから、俺は額を押さえながら大きく溜め息を吐き出した。
「悠斗さん……」
「……まさか、こんな事になるとはな」
良かれと思ってやった事で、二人の仲を悪くさせてしまった。
鈴にはあの様に言ったが、今回悪いのは鈴でも織斑でも無く、無理に話をさせようとした俺だ。
ISの話では無く、食堂で同席しつつ織斑と話をさせていれば今回の様な事にはならなかったのでは無いのか?
……鈴には、本当に申し訳ない事をした。
「悠斗さん、今回の件は悠斗さんが悪い訳ではありませんわ。 私だって二人をけしかけた訳ですし、私が余計な事を言ってしまったから鈴さんと織斑さんに無理をさせてしまったのですから……だから、悠斗さんは悪くはありません」
「……しかし」
「鈴さんだって、悠斗さんが悪いだなんて思っている筈がありません。 悠斗さんは鈴さんと織斑さんの間を取り持とうとして下さったのですから」
「そう、だろうか……」
「そうですわ、ですから……そんな顔を、しないで下さいまし」
そう言って、セシリアはベッドに座る俺の前へと移動して来ると、そのまま俺の頭を優しく抱き締めて来た。
柔らかく、甘い香りが俺を包み込む。
「セシリア……?」
「大丈夫ですわ、大丈夫……」
一瞬驚いたが、優しく語り掛けながら頭を撫でるセシリアの温もりに俺は身を委ねた。
その優しさに、今の弱気な感情を消して欲しいが為に。
「……すまない、セシリア」
「良いんですのよ、こうして慰めるのも彼女としての務めですもの……悠斗さんは一人で抱え込み過ぎなのですわ、もっと私を頼って下さいまし」
「……すまない」
「それから、謝られるよりもお礼の言葉を言われた方が私は嬉しいですわよ?」
「……そうだな、ありがとうセシリア」
「ふふっ、どう致しまして」
セシリアの背中へと腕を回し、より強く抱き付くとセシリアもそれに答える様に強く抱き締めてくれる。
本当に、セシリアと付き合って良かった。
「……あのさ、私がいるのに目の前でイチャつかないでよバカップル」
突然、背後から声が掛かる。
視線だけを向ければ恥ずかしそうとも、恨めしそうとも言える表情で俺達を睨んでいる鈴の姿が。
「申し訳ありません鈴さん、しかし生憎ですがやめるつもりはありませんの」
「……そういう事だ」
「うわ……昨日までの恥ずかしがってたセシリアは何処に行ったのよ? それに悠斗も、そんなセシリアに抱き締められた状態で格好良く言っても無理があるからね? というか寧ろ格好悪いわよ、何かこう、締まらないわよ」
「あら? そんな事ありませんわ、悠斗さんはどんな時でも格好良いですもの」
「うん、ごめん、私が悪かったからセシリアはちょっと黙ってて、ここぞとばかりに目を輝かせないで恐いから」
「黙る必要は無い、俺はもっとセシリアの声を聞いていたい」
「はいあんたも黙ってて、聞いてるこっちが恥ずかしいわ、よくそんなキザな台詞が言えるわね? 誰にでも言ってるのかってぐらい自然と言ってるけどそれ聞いてるだけで本当に恥ずかしいからね?」
「いや、セシリアにだから思った事を言っているだけだ、他の奴には言うつもりは無いが?」
「悠斗さん……」
「うん、本当にごめん、お願いだからそれ以上はやめて、私が惨めになるだけだからやめて、マジでやめろ!」
鈴の何やら必死な懇願に、渋々とだがセシリアと離れた。
「はぁ……何かもうどっと疲れたわ」
「さっきの織斑との事か?」
「今の一瞬でよ! わかりなさいよ! 上手く行ってなくて喧嘩までしちゃったのに目の前でイチャイチャされる身にもなりなさいよ!」
「……すまないがわからないな」
「申し訳ありません、私も……」
「もうやだこのバカップル!!」
頭を抱えながら叫ぶ鈴。
この部屋は束が細工して防音加工がしてあるから構わないが、普通の部屋なら回りから苦情が入るぞ?
それから暫くの間騒いでいた鈴だったが、セシリアの抱擁により落ち着きを取り戻したかと思えば真剣な表情で俺達を見てきた。
「……さっき宣言したけど、今度のクラス対抗戦で一夏を叩きのめす。 そして、その……悠斗の言う通り一夏に……こ、告白、するわ……だ、だからお願い! 協力して!」
鈴の言葉に、セシリアと顔を見合わせて同時に頷く。
「それならさっき言ったが、協力を惜しむつもりは無い、鈴に協力する」
「勿論私もですわ、それに事情はどうであれ織斑さんの乙女に対するあの侮辱の言葉、私はまだ許していませんから」
笑顔ではあるが目が笑っていないセシリアに俺も鈴も思わず固まってしまう。
そういえば、セシリアは元々男が苦手だと言っていたからな……後でそれとなく織斑に関してのフォローを入れておくべきだろうか。
それ程まで迫力があったセシリアだが、何とか二人で我に返る。
「……二人共、ありがとう!」
こうして、ここに三人の協力体制が明確に作られた。
それぞれの胸中にあるのは只一つ、鈴に対抗戦で織斑に勝たせ、尚且つ鈴の想いを織斑に伝え気付かせるという事。
その為に先ず何をするべきか、それは既に決まっているも同然だ。
「特訓よ! 二人共、協力して!」
気合い十分な様子の鈴、その瞳は闘志が剥き出しになっている。
そんな鈴の熱意に答える為、俺達はアリーナの使用許可を貰いに職員室、織斑千冬の元へと向かった。
「ん? アリーナなら暫くは予約で一杯だから使えないぞ?」
「…………へっ?」
職員室にて伝えられた一言で、俺達は早速出鼻を挫かれたのだった。