突然響いた放送に、思わず追撃の一手が一瞬だけ遅れてしまった。
その一瞬を突かれ、黒爪は避けられ腹部へと蹴りを繰り出された。
この動きは、俺の動きか……!?
「ぐっ……!?」
装甲が凹み、俺は後方へと吹き飛ばされた。
「悠斗さん!!」
吹き飛ばされた俺をセシリアが受け止めてくれる。
不味い、今の一撃でシールドエネルギーがかなり削られた上に搭乗者保護機能があるにも関わらず激痛が襲い掛かって来る。
「大丈夫ですか!?」
「くっ……まだ、動ける……」
自らの身体に鞭を打ち、セシリアに支えられながらも立ち上がる。
今の放送は、一体……?
『主様、アリーナの放送室に生体反応、恐らく逃げ遅れた生徒かと』
逃げ遅れた生徒だと!? だが、それなら今の放送は一体何なんだ!?
ハイパーセンサーで放送室のある場所を確認する。
アリーナを覆うシールドに面したガラス張りの場所、そこが放送室だ。
そのガラス越しに見えた姿に、思わず目を見開いてしまった。
「何故、あそこに篠ノ之がいるんだ……!?」
「篠ノ之さんが!? そんな、外に避難させた筈なのに!?」
セシリアの言葉に更に驚愕してしまう。
馬鹿な……一度避難していたのに、何故そこにいる!? 何故戻って来た!?
『一人ではありません、その直ぐ傍にも生徒がいる様です』
他にも!? 何を考えているんだ!?
『負けるな一夏! 何の為に特訓をして来たんだ! 勝つ為だろう!? そんな奴倒してしまえ!』
何を、言っているんだ……そんな言葉に何の意味がある……?
織斑はシールドエネルギーの問題で戦いに参加していないのは見ればわかる筈だろうが。
『頑張れ一夏! くっ……離せ!』
『何考えてるの!? 早く逃げないと!』
『ここは危険よ! 早く!』
『うるさい! 私はここで一夏を見届けないといけないんだ!』
『お願いだから聞いてよ!』
馬鹿が……今がどういう状況なのかわかっていないのか……!?
「悠斗さん!」
俺を支えるセシリアの声に我に返り、視線を奴へと向ける。
視線の先、無人機は既に俺達を見ていなかった。
その視線は俺達では無く、今正にこの放送を流している放送室へと向けられていた。
ゆっくりと、残っている右腕を放送室へと構え始める。
その腕の形状、それはあの高出力のレーザーを放っていたもの。
待て……それを、武装も何も無い生身の人間に向けるのか?
その威力は、アリーナのシールドを破る程の威力なんだぞ? それを生身の人間に撃てばどうなるか、考えなくともわかる筈だろ?
センサーが、奴の腕に高エネルギーが集まって行くのを感知している。
助けられるのか?
恐らく、今向かっても止められる保証は無い。
無理に止めに入れば、死ぬかもしれない。
それにあの場所にいるのは篠ノ之と名前も知らない生徒、俺に何の関係がある?
篠ノ之は、あいつは束を、俺の恩人であり家族である束を否定し、拒絶した。
束に、あんな表情をさせた。
そんな奴を助ける事に、何の意味がある?
あいつは束の……唯一の妹、血の繋がった肉親、代わりなんていない束の家族。
俺とは違う、血の繋がっていない俺とは違う、血の繋がった家族。
あいつがもし死ねば、束は……。
「っ……! うおおおおおおおっ!!」
激痛の走る身体を無理矢理動かし、最大出力で飛び出した。
背後からセシリアの悲鳴に近い声が響くが、
「やめろおおおおおおっ!!」
放たれる寸前に、奴の腕へとしがみ着いた。
その瞬間、あの高出力のレーザーが放たれ、射線に入ってしまっていた右腕を飲み込んだ。
レーザーにより装甲が砕け、先程の蹴りとは比べ物にならない程の激痛が、まるで直接脳内に叩き込まれたと思える程の激痛が襲い掛かった。
「ぐっ……!? がああああっ!?」
余りの激痛に意識が飛びそうになるが、歯を食い縛りまだ使える左腕で奴の腕を全力で押し返した。
「っ……あぁっ!!」
奴の顔面へと全力で蹴りを入れ、漸くレーザーが途切れる。
直ぐ様視線を放送室へと向ければ、レーザーは放送室から僅かに反れ、直ぐ隣の壁を粉砕していた。
間に、合った……。
「ぐっ……!?」
奴が近接ブレードで攻撃して来る。
それを寸での所で受け止めるが、右腕が使えない上に激痛により身体に上手く力が入らず、そのまま後ろに押される。
このままだと押し負ける……そう、このままだと。
まだだ、まだ終わっていない、俺は一人で戦っている訳じゃないんだよ……!
「っ……セシリア!!」
「はいっ!!」
ブレードを受け止めたまま、僅かに首を横へと倒す。
その瞬間、俺の頭の直ぐ横を寸分の狂いも無くレーザーが通り過ぎ、奴の顔面を貫いた。
顔面を貫かれた事で、奴の動きが一瞬止まる。
ここで、決める……!
「らああああああぁっ!!」
左腕の黒爪で、奴のコアを全力で貫いた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、ショートによる火花を散らせながら奴はそのまま地面へと倒れ伏し、完全に動きを止めた。
終わった、のか……。
それを理解した瞬間、一気に押し寄せて来た疲労と再度襲い来る激痛に耐える事が出来ずにその場に膝を着いてしまった。
「悠斗さん!」
「……セシ、リア」
「しっかりして下さい! 直ぐに医務室へ……!」
「……大丈夫、だ」
「そんな筈が無いではないですか! 直ぐに止血を!」
止血、その言葉に激痛の走る右腕を見れば、砕けた装甲から覗く腕が流血で赤く染まっていた。
……通りで痛い訳だ、だが腕が無くなっているよりはマシか。
「今鈴さんと織斑さんが先生方を呼びに行ってます! 直ぐに来て下さる筈ですわ!」
そう言いながら、セシリアはハンカチを取り出すと俺の腕の血を拭いて行く。
しかしハンカチ一枚では直ぐに血を吸ってしまう為に直ぐに意味が無くなってしまう。
すると突然、セシリアは制服の上着を脱ぐとハンカチの代わりに腕へと押し当てて来た。
「セシリア、制服が汚れてしまう……」
「そんな事構いませんわ!」
腕を押さえながら、セシリアの目からは止めどなく涙が溢れてしまっている。
「悠斗さん……お願いですから無茶をしないで下さい……!」
「……すまない」
涙を流しながら伝えられるセシリアの切実な言葉に、俺はただ謝る事しか出来なかった。
だがあの時、動かないという選択肢は選べなかった。
自分の命などどうでも良かった、束が、家族が悲しむ姿を見たく無かったのだ。
その時、何やら騒がしい声と共に、アリーナの入口から複数のISが俺達の所へと向かって来た。
恐らく教師共が漸くハッキングを解除出来たのだろう……今頃来た所で遅いがな、本当に役立たずだ。
『ゆう君!! 聞こえる!?』
呆れて何も言えずにいると、通信越しに束の大声が響いて来た。
しまったな、束には逃げろとか言われていたが完全に無視していた。
もしかすると小言を言われるか説教紛いの事を言われるかもしれない。
「……無人機なら、もう倒したから大丈夫だが」
『やっぱり……! 無人機は今何処にあるの!?』
「何処って、直ぐそこに転がってるが……」
『今すぐ離れて!!』
待て、何を言っている……。
『その無人機、証拠を残さない様にする為に爆破機能が付いてる!! そこから急いで離れて!!』
「っ……!?」
爆破機能、その言葉を理解した瞬間に俺は動いた。
黒爪を収納し、まだ動く左腕でセシリアを思い切り突き飛ばした。
突然の事に悲鳴を上げるセシリアと、倒れ伏している無人機の間に入って腕を広げた。
その瞬間、無人機から目映い閃光が放たれると同時に、俺は爆発による爆風と瓦礫と共に吹き飛ばされた。
搭乗者の危険を報せる黒狼の警告音と、遠くから微かに聞こえる俺を呼ぶ声を最後に、俺は意識を手放した。