インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第4話 青空の下で

「悠斗! 飯食いに行こうぜ!」

 

あれから午前の授業が終わり、担当の教師が教室から出て行ったと同時に織斑が俺の元へと駆け寄って来ると開口一番そう告げて来た。

 

「……食堂か?」

 

「あぁ! 一週間後の試合について話もしたいしさ、一緒に行こうぜ!」

 

何故か無駄に元気な織斑、しかし生憎俺にはやる事がある。

 

「悪いが用事がある、一人で行ってくれ」

 

「えぇっ!? 用事って何だよ!?」

 

「用事は用事だ、別に一人じゃ行けないって訳じゃ無いだろ?」

 

「せっかく男子二人なんだぜ!?」

 

「朝に話していた奴がいるだろ? そいつとでも行って来い」

 

「で、でも……」

 

それでも渋る織斑、面倒な奴だな。

 

「……はぁ、別にずっとじゃない、今回は偶々用事があるだけで次は行ける」

 

「本当か!? わかった、なら今度は一緒に行こうな!」

 

そう言って騒ぐだけ騒ぐと織斑は朝に話していた奴の元へと向かい、そのまま食堂へと向かった。

 

その際、教室にいた大半の奴らが織斑の後を追う様にして一斉に移動を始めた為教室は閑散とした。

 

……さて、煩いのがいなくなった所で用事を済ませるか。

 

「あ、あの……」

 

背後から声を掛けられる。

 

振り向けばオルコットが顔を俯かせながら直ぐ後ろに立っていた。

 

「……何だ?」

 

「あ、その……先程は本当に、申し訳……」

 

「待て」

 

オルコットの言葉を途中で遮ると、オルコットは戸惑いを隠せない様子で俺を見つめて来る。

 

「その言葉は試合の後にしてくれ、正直不服だが試合をする事になった以上正々堂々勝負をしたいんだ。 だから変に気負わず、さっきの織斑に対して向けていたぐらいの気迫で勝負して欲しいんだ」

 

「し、しかし……」

 

俺の言葉にそれでも渋るオルコット、さてどうしたものか。

 

「誰にだって頭に血が昇る事はある、それにお前にも理由があったんだろ? 信念やプライド、そして自分自身の誇りが」

 

「あ……」

 

「それを否定する気は無いしさせるつもりも無い、寧ろ尊敬に値するものだと思う」

 

……今になって、我ながら恥ずかしい事を言っている気がしてきた。

 

「……まぁ、その、何だ? 余り気にするな、他の奴らも言えばわかってくれる筈だ」

 

「は、はい……ふふっ」

 

突然、オルコットが笑みを溢した。

 

やはり恥ずかしい事を言ったか?

 

「すみません、ですが貴方が余りにも優しい方でしたので……私、誤解していましたわ」

 

「優しい? いや、そんな事無いが?」

 

「それこそ、そんな事ありませんわ……貴方のお陰で気持ちを切り替える事が出来ましたわ、ありがとうございます」

 

「……まぁ、それは何よりだ」

 

「では、失礼致しますわ」

 

頭を上げ、オルコットはそのまま教室を後にした。

 

その後ろ姿を見送っていたが、一瞬だけ見えた横顔が嬉しそうに微笑んでいた様に見えたが……気のせい、だろうか?

 

「あ、あの……」

 

そのまま固まっていると、再度後ろから声を掛けられた。

 

今度は誰だ?

 

振り向くと深く頭を下げた女がいた。

 

「その、ごめんなさい……」

 

「何の事だ?」

 

「勝手に推薦して、五十嵐君に迷惑を掛けちゃって……」

 

……あぁ、さっき俺の名前を出していた奴か。

 

「……頭を上げろよ」

 

俺の言葉に女は戸惑いつつもゆっくりと顔を上げて俺を見つめて来る。

 

「なったものはしょうがないだろ、それにオルコットを止めた時点であいつが俺を入れるのは目に見えていたからな」

 

「あ、あいつって……?」

 

「織斑千冬だよ、あいつの事だ、何かしらの理由を付けてでも俺を入れるつもりだったんだろ」

 

「お、織斑先生をあいつって呼ぶ人、初めて見たよ?」

 

「あいつなんざあいつで十分だ……そういう事だから、別に謝る必要は無い」

 

「でも、それじゃ……」

 

それでも渋る女、なら仕方ないな。

 

「なら一つ頼みがあるんだが、良いか?」

 

「っ! う、うん! 何でも言って!」

 

何でもは言わないが……余り男に対してそういう事を軽はずみに言うものじゃ無いんだがな。

 

「食堂は面倒だから購買に行きたいんだが場所がわからない、案内してくれないか?」

 

「……へっ? それだけ?」

 

「あぁ、それだけだが?」

 

「……ふふっ、わかった! じゃあ案内するね! 私は相川清香、宜しくね!」

 

女……相川はそう言って、購買へと案内してくれた。

 

 

 

 

「ここが購買よ」

 

相川の案内で辿り着いた購買、ほとんどの生徒が食堂を利用しているのか全くと言って良い程に人がいない。

 

これなら明日以降も購買でも良いかと考えてしまったが、織斑にあぁ言ってしまった手前、そういう訳にもいかないか。

 

「感謝する」

 

「感謝するって……ちょっと固くない? 普通にありがとうで良いよ?」

 

「そうか……ありがとう」

 

「どういたしまして、でも私、誤解しちゃってたみたい」

 

誤解? 何をだ?

 

「五十嵐君って先生に対してあんな態度を取ったり言葉遣いも敬語を使わないからもっと恐い人なのかと思ってたけど、オルコットさんの説得だったり今の反応だったり、普通の男の子なんだなって思って」

 

「……普通、か」

 

どうだろうな、俺で普通だったら、この世界の大半の人間が普通って事になってしまうが……まぁ良い。

 

「ところで何を買うの?」

 

「適当に買う」

 

その言葉通り、ガラス棚に並べられた物を一通り見て行く。

 

そして選んだのは大きなおにぎりを三つとおかずの詰め合わせ、そしてお茶だ。

 

「うわぁ……やっぱり男の子だね? そんなにいっぱい食べるんだ……?」

 

「いつもはもっと食べるが?」

 

「えっ!? へ、へぇ、そうなんだ……」

 

唖然とする相川、確かに男と女だと食べる量は違うからな。

 

「付き合わせて悪かったな、俺は適当な場所で食べて来る」

 

「あ、うん! また頼みたい事があったら言ってね!」

 

「その時は頼む」

 

そこで相川と別れ、適当な場所を求めて歩き始めた。

 

 

 

 

「……ここで良いか」

 

歩く事数分、階段を登った所に屋上へと続く扉を見付けた。

 

幸いにも出入りは自由の様で鍵は掛かっていない、そのまま扉を開けて屋上へと出た。

 

「……あら? 五十嵐、さん?」

 

外に出たと同時に声を掛けられる。

 

視線を向ければ備え付けのベンチにオルコットが座っており、驚いた表情を浮かべていた。

 

「……悪い、先客がいるとは思わなかった」

 

「い、いえいえ! 私専用という訳でも無いですし構いませんわ!」

 

「そうか、悪いが俺もここで食べさせて貰っても良いか?」

 

「ですから構いませんわ……あの、宜しければ、ご一緒に如何ですか?」

 

オルコットからの申し出に、いつもであれば何かしら理由を付けて断るのだが、無意識の内に頷いてオルコットの座るベンチへと近寄っていた。

 

そしてそのまま一人分のスペースを空けて腰を降ろす。

 

「……いただきます」

 

手を合わせ、先程買ったものを早速食べ始める。

 

……うん、中々美味いな、おにぎりの塩加減の塩梅も、おかずの卵焼きと唐揚げの味付けも絶妙だ。

 

食堂に行かない日は購買で食べよう、俺は内心でそう決めた。

 

「す、凄い量ですのね……?」

 

「ん?」

 

「あ、いえその……やはり男性は、それくらいが普通なんですの?」

 

「他の奴がどうかわからないが、俺は大体これくらいだな」

 

「そ、そうなんですの……」

 

「逆に、よくそれで足りるな?」

 

オルコットの手元に視線を向ける。

 

そこにあるのは具が野菜だけの小さなサンドイッチ、それも二切れのみ。

 

いくらなんでも少ない気がするんだが。

 

「あ、これは……その、ダイエットですわ」

 

「……十分痩せていると思うが?」

 

隣に座るオルコットの身体は、制服の上から見ても十分スタイルの良い様に見える。

 

確かに女は無闇矢鱈に痩せようとする奴が多いが、オルコットに関しては必要無いと思う。

 

「そ、そんなにじろじろと見ないで下さいまし!?」

 

俺の視線から隠す様に自らの身体を腕で抱き、顔を真っ赤にしながら抗議された。

 

しまった……。

 

「す、すまない、不躾過ぎた」

 

素直に謝り、深く頭を下げた。

 

幾ら服の上からだとしても、女の身体を無遠慮に見るものでは無い。

 

「あ、そんな! 頭を上げて下さいまし!」

 

「だが……」

 

「その、私が恥ずかしくなっただけで五十嵐さんは何も悪くありませんわ! それに、私には試合が終わるまで謝るなと仰いましたのに五十嵐さんが謝るのはおかしいですわ」

 

確かにそう言ったが、今のは明らかに俺に非がある。

 

「確かにデリカシーに欠ける言葉でしたが、悪気があって言ったものでは無いとわかります。 それに、その、嘘でもそう言って頂けるのは嬉しいと言いますか……」

 

「……嘘なんて言っていない、本心からそう思ったから言ったんだが?」

 

「……えっ?」

 

「今のままでも、十分魅力的だと思ったんだが……」

 

「……はひっ!?」

 

オルコットがそんな奇声と共に顔を真っ赤にして固まってしまった。

 

我ながら、らしくない物言いをしてしまった。

 

だが本心から思った事を言ったまでだ、失言だとは思っていない。

 

「……ごちそうさまでした」

 

残りのおにぎりをお茶で流し込んでから手を合わせ、ベンチから立ち上がる。

 

「先に戻る、変な事を言って悪かった」

 

まだ固まったままのオルコットにそれだけ伝え、俺は屋上を後にした。

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