インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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今回もセシリア視点


第37話 叱責

「悠斗さん……!」

「ゆう君!!」

 

声の主、悠斗さんが目を覚まし、束さんを真剣な表情で見ていました。

 

「……確かにお前は天才だ、この世界中の誰よりも、だがだからと言って何も失敗しないとでも思っているのか?」

 

「で、でもゆう君……」

 

「お前は俺にあの無人機の事を真っ先に教えてくれた。 それを聞いた上で無人機と戦う事を選び、自分の意思で無人機の攻撃を止めに行き、そしてセシリアを庇った。 この怪我は誰のせいでも無い、俺の責任だ」

 

その言葉に、束さんは目を見開きました。

 

「元はお前が開発したものだが、学園を襲撃させたのは他の奴だ。 それなのにお前を非難すると思うか? 俺はお前に感謝こそすれど恨んだり責めるつもりは微塵も無い、覚えておけ」

 

「っ……! ゆ、ゆう君……!」

 

束さんが、横になっている悠斗さんへと飛び付きました。

 

「ごめんね……ありがとう、ありがとう……!」

 

「……わかったから泣くな」

 

そのまま胸元へと顔を押し付け、泣きながら何度も感謝の言葉を口にしています。

 

そして悠斗さんは、呆れつつも束さんの頭を優しく撫でていました。

 

まるで、本当の家族の様に。

 

「……セシリア、心配を掛けてしまったな」

 

「……本当ですわ、心配、したんですから」

 

「……すまなかった」

 

「謝らないで下さい……私が聞きたいのは、そんな言葉ではありません……」

 

「……束、少し離れてくれ」

 

「うん、わかったよ……ほら、せっちゃん」

 

束さんは悠斗さんから離れると、そのまま私の傍へと来て背中を押して下さいました。

 

ゆっくりと、悠斗さんの傍へ。

 

「セシリア……」

 

腕を伸ばし、私に差し出して下さる悠斗さん。

 

もう、我慢出来ませんわ……。

 

「悠斗さん……!」

 

悠斗さんへと勢い良く抱き付き、そのまま強く抱き締めました。

 

そんな私の背中を、左手で優しく擦って下さりながら。

 

「心配、したんですから……!」

 

「……あぁ」

 

「本当に、心配して……!」

 

「……心配を掛けてすまない」

 

感じる温もり、鼻腔を擽る悠斗さんの香り、耳元で囁いて下さる声。

 

恐かった、もう二度と、悠斗さんとこうして抱き締め合う事が出来ないのではと。

 

 

「五十嵐……」

 

「……何だ?」

 

「……すまなかった、本当なら教師である我々が対応すべき事だったのに、何も出来なかった。 お前が動かなければ怪我人……下手をすれば死人も出ていたかもしれない。 本当に、感謝している、ありがとう」

 

「……はぁ」

 

織斑先生の言葉に対する悠斗さんの答えは溜め息、しかしそれは呆れや不満では無い様に感じました。

 

「別に謝られる事も、礼を言われる様な事も、俺はしていない。 俺は俺に出来る事をやった、ただそれだけだ」

 

「そんな事は無い! お前がいなければ……!」

 

「……くどい、それに今回の様な事は前例が無い事なんだろ? 恐らくは織斑と俺、二人の男のIS操縦者が出て来た事に対する不満を持つ奴が動いたんじゃ無いのか?」

 

「……その筈だ、それにお前の言う通り学園が襲撃されるなんて前代未聞、ハッキングされたのもだ」

 

「なら対応が遅れるのは仕方無い事だ。 あの時は事態が事態だったからあの様に言ったが、今回は怪我人も出なかったんだ、ならそれで良いだろうが」

 

「っ……怪我人は出た! お前がそうだろう!?」

 

「……他の奴は無事だっただろ、俺は別に構わない」

 

その言葉を聞いて、私の中で沸々と怒りが沸いて来ました。

 

「それに放送室にいた奴らにも怪我は無かった、俺一人どうなろうが何の問題も無い」

 

「五十嵐……!」

 

織斑先生が声を荒げますがそれは私の心も同じ……今にも、この感情が爆発してしまいそうな程に。

 

「……どうせ昔死んでいてもおかしく無かった命だ、他の奴が助かったのなら、俺一人の命ぐらい安いものだろ」

 

"俺一人の命ぐらい安いもの"

 

その瞬間、沸き上がっていた感情が、振り切れた。

 

 

 

 

「ふざけないで下さい!!」

 

 

 

医務室に響き渡った私の声、突然の事に三人は驚きで目を見開いていますがそんな事構っていられません。

 

呆気に取られている悠斗さんを、鋭く睨み付けながら言葉を続けました。

 

「構わない? そんな筈ありませんわ! 今回は運が良かっただけで、一歩間違えれば命を落としていたかもしれなかったんですのよ!? そうなったら束さんが、クロエさんが悲しむのは悠斗さんもわかっている筈でしょう!?」

 

「セ、セシリア……?」

 

「人の命に安いも何もありません! 例え他の方が無事だったとしても、悠斗さんが命を落としてしまったら何の意味も無いですわ!」

 

感情的に怒鳴り続ける事で、我慢出来ずに涙が止まらない。

 

しかし涙を拭う事無く、悠斗さんから決して視線を逸らしませんでした。

 

「……私だって、悠斗さんが目の前で爆発に巻き込まれてしまった時、本当に胸が張り裂けてしまうかと思いました。 怪我をして、意識の無い悠斗さんをずっと見続けながら、このまま二度と目を覚まさないのではと、二度と悠斗さんと触れ合う事も、抱き締め合う事も出来なくなるのではと。 きっと目を覚まして下さると、大丈夫だと思っていても、心の奥でそんな不安に駆られてしまって」

 

我慢出来ずに、そのまま悠斗さんの胸元の服を強く掴みながら、顔を押し付けました。

 

「お願いです、そんな事、二度と言わないで下さい……私には、束さんとクロエさんには、悠斗さんが心から大切な方なんですのよ? 私を置いて、いなくなる様な事をしようとしないで下さい……!」

 

「……すま、ない」

 

悠斗さんの掠れた、とても小さくか細い声。

 

「せっちゃんの言う通りだよ? ゆう君は私とクーちゃんにとって掛け替えの無い大切な家族、本当は今すぐにでも盗んだ奴らを見つけ出してこの手で殺してやりたい。 だけど、何よりもゆう君が心配で無理矢理ここに来たんだから……ゆう君、お願いだから自分の身を蔑ろにしないで、もっと大切にして……」

 

「束……」

 

束さんの仰る通りですわ。

 

悠斗さんは自分の身を蔑ろにし、他の方を優先し過ぎです。

 

「……二人共、すまなかった」

 

「謝るよりも、約束して下さい。 悠斗さんは優しい方ですから、今回の様な事があればきっと助けると思います……しかし、例え助けるとしても、二度と御自分の事を蔑ろにしないで下さい」

 

「……あぁ、約束する。 束とクロを……そしてセシリアを、もう悲しませたく無い」

 

そう言って、優しく抱き締めて下さる悠斗さん……本当に恐かった、もうこうして抱き締め合う事も、お話する事も叶わなくなるのではと。

 

悠斗さんをもっと感じたくて、悠斗さんの首に腕を回して、より一層強く悠斗さんに抱き付きました。

 

「お、おい……あくまでお前達はまだ学生なんだからそういうのは……」

 

「まぁまぁちーちゃん、今時の子達はこれくらいが普通だよ? それに今の二人に口出しするなんて野暮ってものじゃん?」

 

「し、しかし私は教師として……」

 

「なら、私はちーちゃんの幼馴染みとして、今だけは教師とか学生とか関係無く、二人の事を何も言わずに見守ってあげてよ」

 

「む、ぅ……」

 

後ろで束さんが私達のフォローをして下さっている事を嬉しく思いつつ、私は暫くの間悠斗さんと抱き締め合っていました。

 

もう、あんな悲しい思いは、したく無いですもの……。

 

 

 

 

 

「失礼します……って、悠斗!? 目が覚めたの!?」

 

「本当か!? 悠斗! 大丈夫か!?」

 

突然医務室に響いた声、それはお見舞いに来た鈴さんと織斑さんのもの。

 

お二人もあの事件の当事者であり、私と同じで悠斗さんの事を心配していましたから仕方無いと思いますけど……正直、今はまだ来て欲しく無かったですわ。

 

「……うるさい、余り医務室で騒ぐな」

 

「だ、だってあんた、あの爆発に巻き込まれたのよ!? 心配して当然でしょ!?」

 

「それでもここは医務室だ、それに俺は今忙しい」

 

「いや忙しいって単にセシリアとイチャイチャしたいだけよね!? 私達だって心配したんだけど!?」

 

「……心配させたのは申し訳ないが、セシリアとお前を比べられると思うか?」

「悠斗さん……」

 

「だーっ!? だからイチャイチャすんなー!?」

 

頭を抱えながら騒ぐ鈴さん。

 

ふふっ……悠斗さんたら、本当は心配して下さっていた事が嬉しいのに、恥ずかしさを隠す為に鈴さんをからかっていますわね。

 

そういう可愛らしい所も、悠斗さんの魅力の一つですわ。

 

「ま、まぁまぁ鈴、落ち着け……って、束さん!?」

 

「やっほ~いっくん、久しぶりだね」

 

織斑さんが今やっと束さんの存在に気付いた様で、驚きの声を上げました。

 

「束さんって……えぇっ!? もしかして、篠ノ之博士!?」

 

「ん? そっちのは?」

 

「……そのちっこいのは中国の代表候補生、鳳鈴音だ」

 

「誰がちっこいのよ!? あんたいい加減ぶっ飛ばすわよ!?」

 

「ふーん……ねぇゆう君、これもゆう君の大事なもの?」

 

「も、ものって……」

 

戸惑いと驚きを隠せない鈴さんですが、これが普段の束さんの対応ですものね。

 

しかし……。

 

「束、鈴は……その、俺とセシリアの大事な友人だ。 それに織斑の親友で幼馴染み、だからものだとかそういう事は言わないでくれ」

 

「束さん、私からもお願い致しますわ、鈴さんはこの学園で出会った大事なご友人ですの」

 

「悠斗……セシリア……!」

 

「……そっか、二人がそう言うって事は大切な"人"なんだ?」

 

束さんの雰囲気が変わり、ゆっくりと鈴さんへと歩み寄りました。

 

鈴さんは緊張した面持ちで直立不動となりますが、束さんは真っ直ぐに鈴さんを見つめます。

 

「もう一度、今度はきちんと君から名前を教えてくれるかな?」

 

「は、はい! えっと、鳳鈴音です!」

 

「中国って事は鈴音が名前だよね? ん~鈴音……鈴……うん! ならりんちゃんだね!」

 

「うぇっ!? そんな、私なんかに!?」

 

「ごめんね、私って今までの事があるから余り他の有象無象には興味が無いからさっきみたいな事を言っちゃったけど、ゆう君とせっちゃんの友達なら話は別、君は名前を覚える価値があるよ」

 

「あ、えっと……ありがとう、ございます……」

 

良かったですわ、鈴さんは私と悠斗さんにとって親友と呼べる方、そんな鈴さんをものだなんて言われて欲しく無かった。

 

ですが束さんはきちんと鈴さんの事を認めて下さいましたから、安心しました。

 

「……何か束さん、変わったな」

 

「お前もそう思うか? 良かった……私がおかしい訳では無いんだな……」

 

何やら織斑先生と織斑さんが姉弟同士で話していますが、はっきりとは聞き取れませんでした。

 

 

 

「さて、ゆう君の無事もわかった事だし、私はやる事があるからもう行くね?」

 

「えっ? もう行くんですか?」

 

思わずと言った様に言葉を漏らす織斑さん、鈴さんも驚いていました。

 

しかし、私も悠斗さんも、そして織斑先生も束さんの仰った"やる事"が何なのか直ぐに理解しました。

 

「うん、私のデータを盗んだだけじゃ無く、私の大事なゆう君に怪我をさせた身の程知らずのゴミには、相応の罰を与えないとね」

 

そう言って笑みを浮かべる束さんに、私は恐怖から思わず固まってしまいました。

 

その瞳の奥に宿る、隠し切る事の出来ない憤怒の感情に。

 

「束、さん……」

 

「せっちゃん、私はもう行くけどゆう君を宜しくね? さっきみたいにちゃんとゆう君を心配して怒ってくれるのはせっちゃんだけなんだから」

 

「……勿論ですわ、だって私は悠斗さんの恋人ですもの」

 

「ふふっ、宜しくねせっちゃん……ゆう君、また暫くの間は会えないけど、またね」

 

「あぁ、クロにも心配を掛けてすまなかったと伝えてくれ」

 

「私から伝えるよりも先に、直ぐに連絡が来ると思うから直接言ってあげて、その方がクーちゃんもゆう君の声を聞けるから」

 

「……そうだな、わかった」

 

「じゃあまたねゆう君……ちーちゃん、いっくん、りんちゃんもばいばーい!」

 

手を振りながら、束さんは来た時と同様に窓から身を乗り出すとそのまま夜の闇に消えて行きました。

 

もう……窓からでは無く、普通に帰れないのでしょうか?

 

「……相変わらずだな」

 

「ふふっ、そうですわね」

 

思わず呟いた悠斗さんですが、その表情には優しい笑みを浮かべていました。

 

悠斗さんも、束さんが来て下さって嬉しいのでしょうね。

 

「はぁ、全く……ほらお前達、寮の時間が迫っているんだからさっさと部屋に戻れ」

 

手を叩きながら告げられた言葉、時計を見れば確かに寮の門限が迫っていました。

 

「あんまり話せなかったけど……悠斗、本当に無事で良かったよ、また明日お見舞いに来ても良いか?」

 

「……確認なんていらない、来たければ来れば良い」

 

「そっか、ありがとな」

 

「……あの時、キツく言いすぎた、悪かったな……お前も無事で良かった」

 

「「えっ?」」

 

悠斗さんの言葉に、織斑さんと鈴さんの口から驚きの声が漏れました。

 

確かに私も驚いてしまいました、悠斗さんが織斑さんに対してその様な事を言った事に。

 

「ゆ、悠斗が俺に謝った……!?」

「あ、明日は雪が降るんじゃ……!?」

 

それは、流石に失礼では……?

 

「……さっさと帰れ、明日ももう来るな」

 

「わあっ!? ごめん悠斗! つい!」

 

慌てて謝る織斑さん、しかし悠斗さんの言葉は単に照れ隠しですわね、だって織斑さん達に見えない様に顔を背けていますが私には真っ赤になっている顔が見えていますもの。

 

「大丈夫ですわ織斑さん、悠斗さんも本心からそう仰っている訳ではありませんから。 お二人が来て下さった事も喜んでいますし」

 

「お、おいセシリア……」

 

「へぇ~? 何よ何よ、案外可愛い所あるじゃない」

 

「……黙ってろチビ」

 

「何をー!?」

 

詰め寄る鈴さんですが、怪我の事を考えて傍まで行って大声で騒ぐだけに留まっていました。

 

「お二人共、悠斗さんはまだ目が覚めたばかりですからお話の続きはまた明日にして下さいまし」

 

「あ、あぁ……オルコットさんがそう言うのなら……」

 

「仕方無いわね……って、ちょっと待ちなさい、セシリアも戻るんだからね?」

 

「えっ?」

 

「『えっ?』じゃないわよ!? セシリアも戻るの! 医務室で悠斗と二人きりにさせたら何をするかわからないんだから!」

 

「むっ、失礼ですわね、きちんと看病致しますわよ?」

 

「いやいや、絶対に看病だけじゃ終わらせないでしょ!? 確実に夜の看病【意味深】でしょ!? そもそも学園側の許可無しに許される筈無いからね!?」

 

「しかし、悠斗さんを一人にするなんて……」

 

「オルコット、鳳の言う通りだ、いくら看病だとしても男女を一晩同じ部屋に置いておく事は出来ない」

 

「あら? 確か織斑さんは他の女子生徒と同室と聞いておりますがそれは宜しいのに?」

 

「はぁっ!? 何それ聞いて無いわよ!?」

「うわっ!? 痛ぇって鈴!?」

 

鈴さんが織斑さんに掴み掛かりながら問い詰めていますが、構っていられませんわ。

 

「はぁ……オルコット、お前が五十嵐の事を心配していた事も、親切心からそう言っている事もわかってはいるが、今回はわかってくれ」

 

「し、しかし!」

 

「セシリア」

 

悠斗さんに呼ばれ、振り向けば悠斗さんが私を見つめていました。

 

「俺は大丈夫だから、セシリアも今日は休んでくれ。 顔も疲れている様だし、恐らくまともに眠っていないだろう?」

 

その指摘に、私は何も言えませんでした。

 

悠斗さんの仰る通り、昨日悠斗さんが医務室に運ばれてから一睡も出来ずにずっと医務室で見守っていましたから。

 

「また明日会えるだろ? それに怪我もこうしてきちんと治療されているから直ぐに俺も寮に戻れる。 セシリアがそんな疲れた表情をしていたら俺も気が気で無い」

 

「むぅ……わかり、ましたわ……」

 

「……セシリア」

 

渋々とですが納得すると、悠斗さんがそっと私の手を取りゆっくりと引き寄せて来ました。

 

悠斗さんの考えている事を直ぐに理解し、私もそのまま身を寄せて悠斗さんの肩に手を置きながら互いに顔を近付け……そのまま、触れるだけのキスをしました。

 

 

「んなっ!?」

「うわ!?」

「ちょっ!?」

 

 

後ろから三人の驚いた声が聞こえましたが、構わずにゆっくりと唇を離しました。

 

「……おやすみ、セシリア」

 

「……えぇ、おやすみなさい、悠斗さん」

 

そのまま手を離し、未だに呆然と固まる三人の前を通って私は医務室を後にしました。

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