インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第41話 入浴での葛藤

授業が終わり放課後、俺達は約束通り2組の教室へと鈴を迎えに行く。

 

「失礼しますわ、鈴さんはいらっしゃいますか?」

 

セシリアが先に入り、その後ろに続いて教室へと入ると全員の視線が俺達に集まったかと思えばそれまで歓談していた奴らが急に静かになった。

 

……何やら、嫌な予感がする。

 

 

「えっ……えぇっ!?」

「り、鈴音さん! 呼ばれてるよ!」

「い、五十嵐君だ!」

「きゃー! 五十嵐くーん!」

「何であの二人が鈴音さんを!?」

「お、お姉様! 美しいです!」

「お姉様! 私を調教して下さい!」

 

 

……待て、騒がしくなるのは何となくわかってはいた。

 

わかってはいたが……セシリアに対して危うい視線が集まっているのは何故だ?

 

セシリアが目に見えて引いているのがわかる、口元を引きつらせながら俺の後ろへと隠れて行く。

 

「……失敗した、私があんた達のクラスに行けば良かったわ」

 

鈴がやって来ると何やら疲れきった表情をしている。

 

いや、疲れたいのはこっちなんだがな。

 

「……お前がクラス代表だろ、ちゃんと全員の手綱を握ってくれ」

 

「無理言わないでよ、私にそんな力は無いわ……」

 

自嘲気味に渇いた笑いを溢す鈴、その姿は心なしかいつもより小さく見える。

 

「……悪かったな」

 

余りにも哀れに思えた為に一言謝罪をしておく。

 

そのまま全員からの好奇の視線を集めながら、鈴を連れて俺達は寮へと向かった。

 

 

 

 

 

俺の部屋へと二人を通して二人には紅茶を、自分の分は珈琲を淹れ、セシリアと並んで座り目の前の鈴へと視線を向ける。

 

「それで? 話ってのは何だ?」

 

そう尋ねれば、鈴は背筋を伸ばしてから深く頭を下げ始めた。

 

「えっと、今回の事で改めてお礼を言わせて……本当に、ありがとう」

 

「別に礼を言われる様な事はしていないが?」

 

「そんな事無い、悠斗とセシリアのお陰で一夏とちゃんと向き合って話す事が出来たんだから……それでさ、そのお礼って訳じゃ無いんだけど、今度の休みに一緒に来て欲しい所があるんだよね」

 

「来て欲しい所、ですの?」

 

「うん、私と一夏がよくつるんでた友達の所に久しぶりに会いに行こうって話になったんだけど、良かったら二人もどうかな?」

 

「……それは、お前が織斑と二人で行くんじゃ無いのか?」

 

「そうですわね、せっかくのお二人のデートを邪魔するのは……」

 

「デ、デートじゃないってば! 本当に久しぶりに友達に会いに行くだけ! それで、良い奴だし……友達として、二人の事を紹介したいと思ってさ……」

 

その言葉に、思わず気恥ずかしくなってしまう。

 

「そいつの家が定食屋をやってて、凄い絶品なのよ。 会いに行くついでに、二人に私と一夏が好きだったその定食屋で一緒にご飯でもどうかと思って……どう、かな?」

 

……そんな事を言われて、断る理由は無いな。

 

視線をセシリアへと向ければ、笑みを浮かべて頷いている。

 

「わかった、構わない」

「私も是非とも行きたいですわ」

 

「本当に!? 良かった! なら次の振替の休みの時に行くつもりだから、時間は一夏と話して決まり次第伝えるわね!」

 

俺達の答えに、途端に嬉しそうにはしゃぐ鈴。

 

本当にこいつは、裏表が無いというか素直過ぎるというか……まぁ、そこが鈴の良い所でもあるんだけどな。

 

「話したかったのはそれだけ! じゃあまたね!」

 

そう言って颯爽と部屋から出て行った鈴の後ろ姿を見送り、一つ溜め息を溢す。

 

「全く、相変わらず騒がしい奴だな……」

 

「ふふっ、鈴さんらしくて私は良いと思いますわよ?」

 

「それは……まぁ、同感だが」

 

その答えにセシリアは微笑み、俺の肩へと頭を預けて来る。

 

優しく頭を撫でてやると、セシリアはそのまま顔を近付けて来る。

 

「ん……」

 

重なる唇、そっと触れるだけのキス。

 

ゆっくりと唇を離し、互いに見つめ合う。

 

「あの、悠斗さん……今日も此方で、宜しいでしょうか……?」

 

「あぁ、俺は構わない」

 

「っ! あ、ありがとうございます! あの、では私準備をしてきますわ!」

 

「セ、セシリア、時間はまだあるんだからそんなに慌てなくても……」

 

「悠斗さんとの時間は一秒たりとも無駄には出来ませんもの! 直ぐに行ってきますわ!」

 

そう言ってセシリアは急いで部屋から出て行ってしまった。

 

そんなに慌てる必要は無いんだけどな……まぁ、気持ちは嬉しいが。

 

そんな事を考えながら、三人分のカップを手に取りセシリアが戻って来る前に洗い物を済ませるのだった。

 

 

 

着替えて戻って来たセシリアと、ベッドに並んで座りながら寄り添い合う。

 

手を重ね、時折どちらからとも無くキスを繰り返す。

 

「ん……あ、そういえば悠斗さん、包帯を巻いていますが、シャワーはどうするんですの?」

 

ふと思い出したかの様にセシリアが尋ねて来る。

 

そういえばすっかり忘れていたが、右腕は未だに包帯を巻いたままだったな。

 

医務室の教員によれば濡らさなければ支障は無いとの事で上から被せる袋を貰ってはいたが……この学園は一応教材も医療機器も最新鋭のものが揃っている筈だが、何故これに関しては古典的なのだろうか?

 

医務室にいた時もそれでシャワーを浴びていたが、普通に考えればおかしい様な気がするんだが。

 

「一応包帯を濡らさなければシャワーを浴びても良いと言われている、包帯の上から被せる袋も貰っているからそれを使うが」

 

「そうですか……ですが、それですと身体を洗うのは不便ではありませんか?」

 

「……まぁ、仕方無いだろうな」

 

右腕が使えない為に左腕一本というのは想像よりもかなり洗いづらいが、こればかりは我慢するしか無いだろう。

 

他に方法は無いしシャワーを浴びないという選択肢は流石にな。

 

「……これは悠斗さんの為ですわ、決して疚しい気持ちはありません、そうですわ、お手伝いなのですから」

 

何やら、セシリアが小さな声で独り言を呟いている。

 

「セシリア……?」

 

「私がお手伝い致しますわ」

 

「…………ん?」

 

聞き間違い、だろうか?

 

「すまないセシリア、今何と言った?」

 

「ですから、私が悠斗さんの入浴のお手伝いを致しますわ!」

 

……聞き間違いでは、無かったか。

 

しかし、流石に手伝いと言ってもな。

 

「その、ご迷惑……でしょうか?」

 

不安そうに上目遣いで見つめて来るセシリア。

 

その目は、狡いだろ。

 

「……わ、わかった、洗うだけだが、頼んでも良いか?」

 

「はい! お任せ下さいまし!」

 

「ま、待て! 服は自分で脱げる!」

 

「大丈夫です! 遠慮なさらず!」

 

眩しい程の笑顔で、セシリアは俺の服へと手を伸ばして来た。

 

 

 

 

 

寮の部屋の浴室は、お世辞にも広いとは言えないぐらいのものだ。

 

一人で使うのも少し狭いと感じてしまう程に。

 

その浴室で腰にタオルを巻き、右腕に袋を被せて俺は立っている。

 

「失礼しますわ」

 

後ろから、セシリアが浴室に入って来る。

 

視界の端で確認すれば、バスタオルを巻いて身体を隠してはいるが、それだけだ。

 

「っ……その、頼む」

 

「はい、お任せ下さい」

 

セシリアがシャワーを手に取り温度を確認してから背中にお湯を掛けていく。

 

そしてボディーソープを手にし、そのまま背中へと触れて来る。

 

「ん……痒い所はありませんか?」

 

「……だ、大丈夫だ」

 

背中を洗いながら掛けられるセシリアの声に何とか平静を保って返事をする。

 

先に言った通り、この浴室は一人で使うのも狭いと感じてしまう程の広さ。 その浴室に二人で入れば、必然的にどうなるのか何てわかりきっている。

 

背中を伝うセシリアの手とは別に、時折セシリアの身体の一部が当たり、見えていない分感触が生々しい程に伝わって来る。

 

……落ち着け、冷静に、何も考えるな。

 

「では次に頭を洗いますわね? そのまま下を向いて下さいまし」

 

言われた通りに下を向くと頭にお湯を掛けられ、そのまま洗われる。

 

何故か横か前に来るのでは無く、後ろから身を乗り出して洗っている為に先程とは違い背中に身体が押し付けられていた。

 

落ち着け、落ち着け……!

 

唇を強く噛み締め、その痛みで何とか誤魔化す。

 

 

そしてシャワーを掛けられ、何とか無事に洗い終わった。

 

……正直、精神的にかなり疲れた気がする。

 

「……ありがとうセシリア、後は大丈夫だ」

 

「……悠斗さん、まだ終わっていませんわよね?」

 

「はっ?」

 

セシリアの口から告げられた言葉に、思わず驚いて振り向いたと同時に正面から抱き付かれた。

 

しかも、当たっている感触が違っている。

 

視線を下に向ければ、セシリアの足元に……何故か、先程まで巻いていた筈のバスタオルが落ちている。

 

……待て、これは……不味い。

 

「セ、セシリア……!?」

 

「……まだ、終わっていませんわ。 お手伝いをすると言ったのですから、ちゃんと……前も、洗わないといけません」

 

「ま、待て! その、前は大丈夫だ! 左腕一本でも問題無く洗える!」

 

「……お手伝いというのは、ただの口実です」

 

「セシリア……っ!?」

 

腕を首に回され、そのまま唇を塞がれる。

 

突然のキスで混乱していると、目の前にあるセシリアの瞳が熱を帯びているのがわかってしまった。

 

離れようにも、何度も言った様に浴室は狭い、抱き付かれた状態では思う様に身体を動かす事が出来ない。

 

「ん……あっ……悠斗、さん……」

 

強く求めて来るセシリア、押し付けられる度に強く感じる感触、段々と頭が痺れて来る。

 

結局、そのまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……洗うだけだと、言った筈だが?」

 

「も、申し訳ありません……我慢、出来なくて……」

 

浴室から出てベッドに座りながら隣のセシリアに横目で尋ねれば、セシリアは俯きながら小さな声で答える。

 

……俺も流されはしたが、まさかこうなるとは。

 

別に嫌という訳では無いんだが、やはり……。

 

「そ、その……ご迷惑、でしたか……?」

 

不安そうに尋ねて来るセシリアを、そっと抱き寄せた。

 

「そんな事思う筈が無い……ただ、以前といい今回といい、セシリアからだっただろ? こういうのは男である俺がリードするものの筈なのに、情けないと思ってしまってな」

 

「そんな! 悠斗さんは情けなくなんてありませんわ!」

 

「ありがとう、だが俺の気持ちの問題なんだ、だから次の時は……その、俺から誘う様にする」

 

「……悠斗さんなら、いつでも構いませんわ」

 

「……そうか」

 

そのまま暫くの間抱き締め合い、やがて二人並んでベッドへと横になろうと思った時、ふと思い出した。

 

……そういえば、あの事があったな。

 

「……セシリア、少し良いか?」

 

「はい? 何ですの?」

 

「……その、今晩セシリアは、恐らく夢を見ると思う」

 

「夢……?」

 

「正確には夢では無いんだが……」

 

迷いが生まれたがここで誤魔化しても意味は無い、正直に伝えよう。

 

「……セシリアは、ISに意思があると言われたら、どう思う?」

 

「ISに意思、ですか……?」

 

俺の質問に考え込むセシリアだが、やがて口を開いた。

 

「正直、科学的や理論的に考えて俄には信じがたいものですが……悠斗さんがそう仰るという事は、意思があるとお思いですの?」

 

「……あぁ、意思処か、頭の中で会話すら出来ている」

 

「会話が……それで、夢というのはそれと何か関係が?」

 

「……俺のIS、黒狼曰く、夢の中というのは所謂その人間の精神世界の様なものだと言っている。 そこに、セシリアの意識を呼び込む……らしい」

 

自分で言っていて不安しか無い。

 

突然こんな事を言い出せば、頭がおかしいと思うのが普通の考え……セシリアも、同様に……。

 

「……わかりましたわ、悠斗さんと一緒に眠ればその精神世界に私は入れるのですね?」

 

「っ……信じる、のか?」

 

「他の誰でも無い悠斗さんの仰る事ですもの、信じる事が出来ずに何の為の彼女ですの?」

 

その言葉に、知らず知らずの内に入っていた肩の力が抜けた。

 

黒狼の言っていた通りだった、セシリアは俺の事を信じてくれる。

 

信じずにいた自分に罪悪感が募る。

 

「悠斗さんは何も悪くありませんわ」

 

そっと、頬に手を添えられる。

 

落としていた視線を上げてセシリアに向ければ、セシリアは真っ直ぐに俺を見つめていた。

 

「話すのを躊躇ってしまうのは当たり前ですわ、私だって同じ状況になれば躊躇ってしまいますもの……だから、今後はお互いに抱え込まず、話す様にしましょう?」

 

「……ありがとうセシリア」

 

「ふふっ、お礼はいりませんわ、私はただ悠斗さんと一緒にいたいだけですもの」

 

笑みを浮かべながは告げられるその言葉。

 

セシリアが愛おしくなり、強く抱き締めればセシリアも首に腕を回して来てそのままキスをする。

 

「んっ……悠斗さん、では休みましょう? 悠斗さんのIS、黒狼に早くお会いしてみたいですから」

 

「わかった……本当にありがとう、セシリア」

 

「ふふっ、良いんですのよ」

 

そのままベッドへと横になり、右腕は無理な為に左腕を横に伸ばせばセシリアはそのまま頭を乗せて寄り添って来る。

 

……後は寝るだけだが、それで良いんだよな黒狼?

 

『左様にございます』

 

そうか、なら頼んだぞ。

 

「……おやすみなさい悠斗さん」

 

「……おやすみ、セシリア」

 

軽く触れるだけのキスをしてから、俺は目を閉じた。

 

 

本当に上手く行くのか……いや、ここは黒狼を信じよう。

 

セシリアも俺の言葉を信じてくれたんだ、それなのに俺が信じないでどうする。

 

寄り添うセシリアの温もりを感じながら、俺は押し寄せて来た微睡みに身を任せるのだった。





話が進むに連れてセシリアが着々と大胆になって行ってますが、どうしてもセシリアとのイチャイチャを書くにはこうなってしまいますね。
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