「んんっ! 先程は失礼しました」
あれから数分後、先程奥へと引っ込んで行った女が戻って来た。
何故か服装が先程のラフなものから変わっており、部屋着にしては自棄に張り切った服装になっているが……何も言わない方が良いのだろうか?
「おいおい何だよ、思いっきり猫被りやがって」
「ふんっ!!」
「ぐえぇっ!?」
五反田の鳩尾へと的確な拳が入った。
今のは見事だな、迷いも無く踏み込みもしっかりしている……いや、違うか。
やはり下手な事は言ってやらない方が良さそうだ。
「……えっと、本当にお久しぶりです一夏さん……鈴音さんも」
「……そうね、久しぶり蘭」
何やら鈴との間に火花が散っている様に見える。
……先程織斑に気付いた時の反応と言い、今の鈴との空気と言い、まさかとは思うがこいつも織斑の事が?
「あ、悠斗とオルコットさんに紹介して無かったよな、この子は弾の妹なんだ」
「えっと、五反田蘭です、宜しくお願いします」
「そうだったんですのね? 初めまして、私はセシリア・オルコット、鈴さんと織斑さんとはIS学園での同級生ですわ」
「わぁ……き、綺麗な人……」
「ふふっ、ありがとうございます」
「五十嵐悠斗だ、セシリアと同じく二人とは同級生だ」
「えっ? あの、もしかして噂の二人目の男性操縦者って……」
「多分俺の事だな」
「あ、えっと……宜しくお願いします」
「あぁ」
互いに自己紹介を済ませたのだが何やら俺の顔を見て何か言いたげな女……蘭だったな、何か付いてるのか?
「……俺の顔に何か付いてるか?」
「えっ!? あ、いえ!」
「むっ……」
蘭の反応を見て、隣に座るセシリアが口を尖らせる。
「悠斗の顔が恐いんじゃないの? あんた顔は良いけど目付き悪いしいつも怒ってる様な顔してるし」
「うるさいぞチビ」
「何をー!?」
向かい側から飛び掛かって両手を振り回して来る鈴を片手で押さえながら蘭へと視線を戻す。
「……まぁ、こいつが言った通りかもしれないが、別に怒っている訳じゃ無い」
「ち、違うんです! その、か、格好良い人だなぁって……思いまして……」
「は?」
「むぅ……!」
セシリアが更に頬を膨らませた。
流石にこれ以上はいけない、鈴を押さえながらセシリアの頭を撫でてやる。
「セシリア、落ち着いてくれ」
「むぅ……わかりましたわ」
口を尖らせたままではあるが、セシリアは何とか落ち着いてくれた様だ。
「おい蘭、あんまり悠斗に絡んでやるなよ? 隣に彼女さんがいるんだからよ」
痛みにもがいて転がっていたが、漸く起き上がった五反田……いや、それだとややこしいな、弾の言葉に蘭は驚きを隠せない様子で俺を見てくる。
「えっ!? 彼女!? も、もしかして鈴音さん!?」
「……何故そうなる?」
「こら蘭! 何で私がこいつの彼女になんのよ!?」
「えっ!? じゃ、じゃあ……」
「んんっ、蘭さん? 間違えるのは仕方のない事かもしれませんが、悠斗さんとお付き合いしているのは私ですのでお間違いにならないで下さいますか?」
セシリアが俺の腕へと強く抱き付いて来ながら蘭へとはっきりと告げた。
それを見て蘭が何やら口元を押さえながら目を輝かせ、鈴が口をへの字に歪ませている。
……鈴はいつも通りだとしても、蘭は一体何だ?
「わぁ……! 凄い……こんな美男美女のカップル、初めて見た……!」
……確かにセシリアは美女だが、俺は違うだろ。
「すみません、私ったら失礼な事を……」
「わかって頂けたのなら良いんですのよ」
「そ、その、オルコットさんは……」
「セシリアで結構ですわ、私も蘭さんとお呼びしましたから」
「えっ!? あの、じゃあ……セ、セシリアさん! 付き合った時の事とか、色々と聞いても良いですか!?」
「えぇ、勿論構いませんわ」
……やはり、こういった恋愛絡みの話題が好きなのか。
蘭からの質問に、セシリアは事細かに俺との馴れ初めやら告白の時の事、普段の学園での事を話し始めた。
最初は蘭だけだったのだが、いつの間にか鈴と織斑までもがセシリアの話に夢中になって聞き入っている。
だが、セシリアは普通に話しているのだろうが、どれも話を盛っているというか、美化し過ぎていないか?
聞いているこっちが恥ずかしくなって来た為に一つ隣の席へと移動してお茶を飲んでいた。
「随分とべた褒めされてるな~?」
「……からかうな」
弾が向かいの席へとやって来ると俺にニヤニヤとした表情を向けて来る。
……いつぞやの織斑の顔を思い出すな、一発入れて良いだろうか?
「んや? 別にからかってねぇよ、オルコットさんがあれだけ言うって事は悠斗がそれだけオルコットさんに対して真摯に向き合ってるって事だろ? なら恥ずかしがらずに誇れば良いんじゃないのか?」
弾の言葉に思わず驚いてしまった。
「ん? どした?」
「……いや、まさかそんな事を言われるとは思わなくてな」
人は見掛けとは違う、という事なのか。
「おいおい俺を何だと思ってるんだよ? 俺はただ……」
そこまで言って、急に真剣な顔付きになったかと思えば膝に手を置いて勢い良く頭を下げて来た。
「どうすればあんな美人と付き合えるのか、ご教授下さい先生!!」
……俺の感動を返して欲しい。
見た目や言動と違って真面目で良い奴かと思ったが、そんな下心満載だったのか。
「先生!!」
「誰が先生だ、変な呼び方をするな」
「なぁ~頼むよ~! 俺も彼女が欲しいんだよ~!」
「知るか、自分で何とかしろ」
「それが出来ないから聞いてるんだろ!? 何が問題なんだよ!? 顔か!? やっぱり顔なのか!?」
頭を抱えながら喚く弾、それを言ったら俺はどうなるんだ。
「おい弾、どうしたらんだよ急に叫んだりして」
「一夏! お前にも俺の気持ちはわかるだろ!? モテたいよな!? 彼女が欲しいよな!?」
「いや……俺はまだそういうのがわからないし……」
「お前は顔が良いんだから選り取り見取りだるぉ!? しかもIS学園と言えば男からすれば女の子の楽園、どうせ告白の一つや二つされてんだろ!?」
「えっ……あ、その……」
「お前えええっ!? まさかマジで告白されたのか!? 誰だ!? 可愛いのか!? 美人なのか!? 畜生羨ましいんだよ何で昔からお前ばっかり誰か紹介して下さいお願いします!!」
うるさい奴だな、その織斑に告白した奴は直ぐそこにいるんだが……顔を耳まで真っ赤にしながら。
セシリアは弾を残念なものを見る様な哀れみの目で、蘭はまるで道端に落ちているゴミを見る目でそれぞれ弾を見ている。
「……いつもこうなのか?」
そんな蘭に尋ねると何とも気まずそうに頬を掻いている。
「……お恥ずかしながら、こんなのが兄だなんて信じたくはありませんが」
「そうか……だが、例え性格がどうであれ、血の繋がった兄なら大切な存在に変わりは無いんだ、大事にしてやれよ?」
「えっ? あ、はい……」
何やら目を丸くする蘭、何だ?
「こ、これがセシリアさんの言っていた五十嵐さんの優しさ……!」
「そうですわ蘭さん、悠斗さんはとても優しいんですの」
「……セシリア、余り変な事を教えないでくれ」
「あら? ただ悠斗さんの良い所を教えて差し上げただけですわよ?」
「いや……はぁ、わかった」
セシリアには悪気が一切無い分、何と言えば良いのか。
結局そのままセシリアと蘭、鈴の三人は再び会話に華を咲かせ、その間弾は織斑にずっと質問責めにしていた。
「……はぁ、すまない、待っている間に胡麻団子とマンゴープリン、それから杏仁豆腐をもう一つお願いしたい」
一先ず店主に代金を払ってデザートを追加で頼むのだった。