「あ、そうだ、まだ皆帰らないだろ? 久しぶりに上がって行けよ」
それぞれの話が終わり、弾が突然そんな事を言い出した。
「え? 良いのか?」
「勿論! 鈴も交えていつぞやの再戦と行こうぜ! 鈴には俺も一夏も蘭も負け越してるからな、今日こそ勝たせて貰うぜ!」
「ふん、また返り討ちにしてやるわよ……蘭も良いわよね?」
「……そうですね、今日こそ勝たせて貰います」
どうやら二人はこのまま五反田兄妹と遊ぶ様だ、会話を聞く限りどうやらゲームの様だが……俺はゲームはやらないから残っても仕方無いな。
「セシリアはどうする?」
「えっと、恐らくはゲーム……の様ですし、私はそういったものに疎いのでご遠慮しますわ」
「そうか……ならすまないが俺とセシリアは先に帰るぞ」
「帰るのか? わかった、 また食べに来てくれよな!」
「……また奢ってくれるのか?」
「うっ……そ、それはもう勘弁……」
「冗談だ、次に来た時は自分で払う」
「た、助かった……」
流石に何度も奢って貰うのは弾に悪い、それにこれだけ美味い店だ、自分で払って食うのが筋だろう。
「五反田さん、今日はありがとうございました。 私まで食事代を払って頂いてしまって」
「良いんすよ! オルコットさん程の美人と知り合えたなら奢った甲斐があるってもんすから!」
「……おい」
「あ、やべ……と、とにかくオルコットさんもまた悠斗と一緒に来て下さいよ、何時でも待ってますんで!」
「ふふっ、ではお言葉に甘えさせて頂きますわ」
セシリアと二人で席を立った。
そのまま出口へと向かう……前に、店主のいるカウンターへと向かう。
「さっきの件、礼を言わせて欲しい……ありがとう」
「おう、まぁ俺も大人げなかった、兄ちゃんの食いっぷりは見ていて気持ち良かったからな、また来てくれや」
「あぁ、とても素晴らしい料理だった、また食べに来させて貰う」
「あ、あの、本当に美味しかったですわ! 次に来る時までにお箸の使い方を覚えますので!」
「ん……まぁ、兄ちゃんが食わせてくれるなら無理に覚える事は無いんじゃねぇか? きちんと残さず食ってくれるなら俺も文句は言わん」
「えっ? よ、宜しいんですの?」
「構わねぇよ、姉ちゃんも兄ちゃんもその方が良いだろ? だからまた二人で来てくれや」
「あ、ありがとうございます!」
深々と頭を下げるセシリア、それに習い俺も深く頭を下げた。
この店主、話がわかるな。
やはり是非ともまたこの店に来なければ。
「う、嘘だろ!? じいちゃんがあれを許したのか!?」
「げ、厳さんが飯の時のああいうのを許すなんて!?」
「あぁもう……絶対に私は一緒に来ないわよ……」
「えっ? えっ? な、何かあったの?」
後ろで四人が何やら俺達の事を言っている様だが気にせず、そのまま再度店主に礼を言ってから店を出た。
店を出ると、直ぐにセシリアが腕へと抱き付いて来る。
「ふふっ、恐い方かと思っていましたがとても優しい方でしたわね」
「あぁ、また来たいな」
「その時はまた悠斗さんが食べさせて下さるんですのよね?」
「そのつもりだ、だが箸の使い方自体は覚えておいた方が良いぞ?」
「それは勿論ですわ、いつまでも使えないのは恥ずかしいですし……将来、"子供"が出来た時に教えられないですもの」
不意討ちで言われた"子供"という言葉に思わず驚いてしまった。
だが、そうか……子供か……。
「……その時までには覚えないといけないな、それに俺も洋食のテーブルマナーというものを覚えていた方が良いかもしれない」
「ふふっ、それでしたら私が手取り足取り教えて差し上げますわ」
「その時は宜しく頼む」
「はい!」
腕を組んだまま、俺達は駅へと歩き始めた。
駅へと戻って来たのだが時間はまだ昼過ぎ、このまま帰っても構わないのだが、せっかく外出申請を出しているのだから少し勿体無いかもしれない。
「セシリア、今からどうする?」
隣のセシリアにそう尋ねれば、少し考え込んでから静かに口を開いた。
「その、悠斗さんが宜しければ何処かに寄って行きませんか? せっかくの外出ですし、勿論悠斗さんが帰るのであればそれで構いませんけども……」
「セシリア、前にも言ったが俺に対して遠慮はしないでくれ、俺はセシリアと一緒にいれるのならそれで構わないんだ。 少しぐらい我が儘を言ってくれても良いんだぞ?」
「悠斗さん……」
俺の言葉にセシリアは目を見開き、より一層強く腕を抱き締めて来る。
「申し訳ありません……」
「謝らなくて良い、だが今言った通り、遠慮せずに言ってくれ」
「ありがとうございます……では悠斗さん、このままご一緒に宜しいでしょうか?」
「あぁ、勿論構わない」
腕を組んだまま駅へと入り、そのまま切符を購入して電車へと乗り込んだ。
その際何やら電車の乗客……主に男がセシリアへと視線を向けていた為に睨み付ければ直ぐに視線を逸らし、そのまま隣の車両へと逃げる様に移動して行った。
「あら? 皆さん移動していますが、何かあったのでしょうか?」
「……さぁな、わからん」
セシリアは俺に言う前に自分の容姿の事を自覚した方が良いと思うんだがな。
少し危機感が足りないのではと思ってしまう。
そのまま電車に乗る事数分、先程の駅と学園の中間に当たる駅で電車を降りる。
ここは市内でも大きな繁華街で、中央には巨大なショッピングモールがあり、セシリアと一緒に回るには持ってこいの場所だ。
そのまま駅から出てショッピングモールへと歩き始める。
「セシリアは来た事はあるのか?」
「はい、入学してから二回程ですが、悠斗さんはあるのですか?」
「元々学園の寮に入る前はこの近くのホテルから通っていたからな、それ程歩き回った訳では無いが多少はわかる」
「では悠斗さん、エスコートして頂けますか?」
「セシリアが退屈しない様、出来る限り務めよう」
「ふふっ、その心配はいりませんわ、悠斗さんと一緒にいるのですから」
「……そうか」
そのまま歩いていたのだが、何やら周囲から視線を集めている。
またセシリアを見ているのか?
そう思って周囲をさりげなく見回してみたのだが、視線を向けているのは男だけでは無く女の姿もあった……何故だ?
そんな疑問を抱いたが、余り気にも留めずにセシリアと並んで歩き続ける。
やって来たショッピングモール、レゾナンス。
この辺りでは一番大きなモールで、ここに来れば大半のものが買えるぐらいの品揃えを誇っている。
幸いにも今日は月曜日、つまりは平日の為にそこまで人は多くは無い様だ。
「……すまない、エスコートすると言ったが、セシリアは何か買いたい物はあったか?」
「えっと、服を新調したいのと、ここに紅茶の専門店がありまして、そこで紅茶を買いたいですわね」
「そうか、なら先に紅茶の方が良いか? その方が服よりも荷物にはならない筈だ」
俺の言葉にセシリアは頷き、先に紅茶の専門店へと向かった。
「凄いな……」
店に入り、俺は開口一番にそんな呟きを漏らしてしまった。
紅茶の専門店というだけあって陳列棚にはかなりの種類の茶葉が並んでいる。
店に入る前から既に紅茶の香りが鼻腔を擽っていたが、まさかここまで種類があるとは思わなかったな。
「恐らく市内でここまで取り揃えている専門店は他には無いと思います。 私の好きで良く飲んでいる茶葉も置いているんですの」
「……もし良ければ、今度その紅茶を飲ませて貰えないだろうか? 普段は珈琲だが、セシリアが気に入っている紅茶というのも一度飲んでみたいんだが」
「勿論ですわ! 最高の紅茶を振る舞って差し上げます!」
「ありがとう、その時は頼む」
そんな約束をしながら茶葉を買い、次に服を買う為に店を出て上の階へと向かった。
そしてやって来たのだが、取り扱っている服の種類が男の物とは比べ物にならないぐらいに多い。
今のご時世は女尊男卑の社会で仕方無い事だとは言えども、ここまではっきりと差があるのはどうかと思うな。
そのまま店内へとセシリアと並んで入って行くが、女物の服を取り扱っている店に男である俺が入った為に周りの店員や客の視線が集まってしまう。
「あの、悠斗さんに服を選んで頂きたいのですが宜しいでしょうか?」
「俺に? すまないが服は詳しく無いから当てにはならないと思う、それにセシリアならどんな服でも似合うと思うが?」
「あ、ありがとうございます……ですが、悠斗さんに選んで頂く事に意味があるのですわ」
「そういうものか……わかった」
そのまま服を見て回るが、正直他の奴らから向けられる視線が鬱陶しい。
こういった場所では女尊男卑の社会に染まり自分が偉いと勘違いしている馬鹿が変な難癖をつけて来る事があるからな。
しかし、警戒していたのだが不思議な事に向けられる視線に敵意等は無かった。
……今日は、そういう奴はいないのか?
「悠斗さん、此方なのですが、どちらが良いと思いますか?」
セシリアの問い掛けに周りに向けていた意識を戻す。
手にしていたのはどちらもワンピース、一着は黒で落ち着いた大人らしい雰囲気のもの、セシリアが着ればそのまま舞踏会にいる淑女そのものだろう。
そしてもう一着は対照的に純白のワンピース、セシリアの上品で清楚なイメージそのものを表している様に思える。
どちらも悩みがたいが、両方のワンピースを着たセシリアをイメージして直ぐに答えは出た。
「……白、の方が良いと思う」
「あの、理由を伺っても?」
「黒も似合うと思うが、白の方が上品で清楚なイメージのセシリアに似合うと思ったからだ」
「え、あぅ……そ、そうですの……」
思った事を正直に伝えれば、セシリアは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら視線を逸らしてしまった。
何やら近くにいる奴らから意味深な視線が向けられるが、なるべく気にしない様にする。
「あ、ありがとうございます……あの、では買って来ますわね?」
「他には見ないのか?」
てっきり他にも色々と見るのだと思っていたのだが。
「はい、元々何着も買うつもりはありませんでしたし、ここで時間を取るよりも悠斗さんと一緒に色々と見て回りたいですから」
「……そうか」
思わず視線を逸らしてしまう。
笑顔でそんな事を言われると、嬉しいと思う反面少し気恥ずかしい。
そこでふと考える、こうして二人で出掛けて買い物をするのは思えば初めての筈だ。
「……その服の代金は俺が払っても良いか?」
「えっ? そ、そんな! それは申し訳ないですわ!」
「構わない、こうしてセシリアと二人で買い物に来るのは初めてだから、その記念の様なものだ」
「あぅ……」
迷いながらも、セシリアはゆっくりと頷いてくれた。
実際昼代が浮いた事もあるが、男である俺のIS搭乗データを定期的に送る事でそれなりの報酬を貰っている。
既に束から貰っていた金に関して使った分は直ぐに返せる状態だ……束から受け取った黒狼で稼いだ様なものだが、黒狼の詳細は一切送ってはいないから許して貰えると思いたい。
まぁ、そういう事である程度の収入が入る様になったからここはセシリアにプレゼントという意味合いで俺が払ってやりたい。
セシリアと共にレジへと向かい、そのまま服を購入する。
レジの奴の視線が鬱陶しかったが、そのまま支払いを終えて店を後にした。