インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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セシリア視点



閑話 幸せは甘美な

鈴さん達と別れてから、悠斗さんと一緒にやって来たショッピングモール。

 

いつも学園で二人ではいますが、こうして二人きりで買い物に来るのは初めての事……これが所謂デート、というものなのですね。

 

正直お付き合いしてから恋人としての順番が色々と逆になったしまった様に思えますが……そ、それは構いませんわ、悠斗さんと一緒にいるだけで心地が良いですし、悠斗さんとの夜は……その……気持ち良くて、幸せですもの。

 

……そ、それは一先ず置いておきますわ。

 

初めに私のお気に入りの紅茶の専門店へ、恐らくこの様な紅茶の専門店は初めてなのか悠斗さんは興味深そうに店内を見渡していました。

 

何だかその様子が初めてのものを見る子供の様な可愛らしい姿に見えてしまいます。

 

次いで服を買いに来たのですが、悠斗さんに服を選んで頂きたくて伺うと悠斗さんは困った様な表情を浮かべましたが了承して下さいました。

 

そして私が黒と白のワンピースを手に尋ねると、悠斗さんは真剣な目付きで考え込んだ末に白のワンピースを選び、理由を尋ねれば白の方が上品で清楚な私のイメージに合っていると仰って下さったのです。

 

真っ直ぐに私を見つめる瞳と、嘘偽りの無い本心からの言葉に、思わず照れてしまいます。

 

……ふふっ、ですがそれ以上に、悠斗さんが私の事をその様に見て下さっていた事が嬉しいですわ。

 

そして迷わずその服を買おうとした際に悠斗さんが自分に代金を支払わせてくれと仰いました。

 

本当は申し訳無いので断ろうとしたのですが、悠斗さんはこうして初めて二人で買い物に来た記念だと、所謂プレゼントとして買って下さると。

 

……狡いですわ、そんな風に言われてしまったら断れないではないですの。

 

きちんとお礼を伝えてから会計を済ませ、私達はその店を後にしました。

 

 

 

 

 

それからショッピングモール内の店を二人で転々と回りました。

 

本屋、雑貨屋、男性用の服屋。

 

特に何を買うという訳では無いのですが、こうして二人で並んで歩いているだけで意味があると思います。

 

そんな時、ふと視線の先にある店を見て少しだけ悠斗さんをからかってみたいという悪戯心が芽生えました。

 

「悠斗さん、次はあのお店に寄っても宜しいでしょうか?」

 

「あぁ、わかっ……た……?」

 

私が指差した先のお店を見て、抱き締めている悠斗さんの腕が身体ごと硬直したのを感じました。

 

視線の先にあるショーウィンドウに並んでいるのは様々な色合いで形も大きさも様々な布を身に付けたマネキンが並ぶお店、女性用のランジェリーショップです。

 

「ありがとうございます、では行きましょうか?」

 

「ま、待て、待ってくれ、流石にあの店には入れない」

 

悠斗さんは慌てながら頑なに足を止めて首を横に振っていました。

 

ふふっ、私は悠斗さんには既にもう全てをお見せしていますので下着を見せても構わないですし、 悠斗さんのお好みの下着を買っても良かったのですが流石に可哀想でしたわね。

 

「ふふっ、冗談ですわ」

 

「……勘弁してくれ、流石に心臓に悪い」

 

冗談である事をお伝えすれば、悠斗さんは一瞬だけジト目で恨めしそうに見て来ましたが、直ぐに苦笑を溢して私の頭を撫でて下さいました。

 

他の方は余り気付いていない様ですが、悠斗さんは表情豊かな方ですの。

 

それを束さんとクロエさん以外でわかる事に、少しだけ優越感を感じました。

 

 

それから一通りショッピングモール内を見て回り、悠斗さんの提案で少し休憩をする事になりました。

 

見たところ悠斗さんは全く疲れている様には見えませんので、私を気遣って下さっての提案でしょう……その気遣いがとても嬉しいですわ。

 

休憩の為に入ったのはショッピングモール内にあるカフェ、時間帯というのもありますが幸いにも席はいくつか空いており、二人で窓際の席へと向かい合って座りました。

 

「ふふっ……」

 

目の前に座る悠斗さんの顔を見て、思わず笑みが溢れてしまいました。

 

こうして二人で一緒にいる幸せを、また共に同じ時間を過ごせる事を。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、ただこうして改めて考えてみますと、本当に幸せだと思ったのですわ」

 

「……そうか」

 

釣られて笑みを浮かべる悠斗さん……貴方も、私と同じ事を考えて下さっているのでしょうか?

 

 

それから私は紅茶を、悠斗さんは珈琲を、そしてお互いにケーキを頼みました。

 

運ばれて来る飲み物とケーキ、ちなみに私がフルーツタルトで悠斗さんがチーズケーキを頼んでいます。

 

お互いに違うものを頼んだのは、勿論一口ずつ交換する為でもありますわ。

 

「ある程度見て回ったが疲れてはいないか?」

 

「はい、お気遣いありがとうございます。 ですが私は大丈夫ですわ」

 

「そうか……それなら、まだ時間があるからもう少しこの辺りを見て回らないか?」

 

「えっ? 宜しいんですの?」

 

「あぁ、せっかくの外出だからまだ帰るには惜しいと思ってな、無理にとは言わないが……」

 

「そ、そんな事ありませんわ! えっと、悠斗さんともっと色々な所を見て回りたいです!」

 

「……良かった、なら行こう」

 

私の答えを聞いて優しく微笑む悠斗さん。

 

学園の他の方は知らない、私だけしか知らない私だけに向けて下さるその笑顔は、とても魅力的ですわ。

 

それからカフェを出て、悠斗さんの腕を抱き締めながら私達はショッピングモールを後にしました。

 

当てなど無い、目的地を決めずに二人並んで市内を歩いて回る。

 

今までに経験はありませんでしたが、愛する方とのデートとは例え当ても無く歩いているだけにも関わらず胸の内から幸せが込み上げて来るかの様に感じました。

 

そのまま歩き続け、やがて足を止めたのは市内から少し外れた場所にあった公園でした。

 

夕方近くで人の姿は無く、私達は公園内にあった噴水前のベンチへと並んで腰を下ろしました。

 

「セシリア、退屈はしなかったか?」

 

悠斗さんからの問い掛けに、私は何も言わずに悠斗さんの肩へと頭を乗せて寄りかかりました。

 

触れている場所から伝わる悠斗さんの温もり、もっと感じたくて、そのまま悠斗さんの手へと触れればそっと握り返して下さいました。

 

「……悠斗さんとご一緒にいられますのに、どうすれば退屈になるというのですか? こうして隣にいられるだけで、私は心の底から幸せなんですのよ?」

 

「……そうか、変な事を聞いてすまないな」

 

「ふふっ、では、謝るよりも……」

 

私の言葉にゆっくりと顔を近付けて来る悠斗さん、私も目を閉じて近付けて行き、そのままキスをしました。

 

私が一番幸せを感じる悠斗さんとのキス、周りに人がいなくて良かったですわ……いえ、例え人目があったとしても断る気はありませんが。

 

「……今日はありがとう」

 

「お礼を言いたいのは私の方ですわよ? 悠斗さんが遠慮をするなと仰って下さったからこうしてデートが出来たんですもの」

 

「デート……そうか、そうだな……」

 

デートという言葉を噛み締める様に呟く悠斗さんでしたが、そのまま私を見つめて来ました。

 

「セシリア、これからも、機会があればこうしてまたデートをしてくれるか?」

 

「勿論ですわ、私が悠斗さんとのデートをお断りになると思いまして?」

 

「……いや、思わないな」

 

そのまま見つめ合いながら、やがて同時に笑みを溢してしまいました。

 

「少し惜しいがそろそろ帰るか、日も暮れて来た」

 

立ち上がりながらそう口にする悠斗さん、時間を確認すれば確かにそろそろ帰らなければいけませんね。

 

「そうですわね、では帰りましょう?」

 

「寒くは無いか?」

 

「大丈夫ですわ、だって……」

 

立ち上がり、悠斗さんの腕へと強く抱き付けば再び感じる温もり。

 

「こうして悠斗さんの傍にいれば、温かいですから」

 

私の言葉に悠斗さんは笑みを溢し、一度だけ頭を撫でて下さってからそのまま駅へと向かって歩き始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お? 悠斗にオルコットさん?」

「げっ……」

 

駅に着き、ホームへと上がると丁度列車がやって来ました。

 

そして開いたドアの先、目の前には織斑さんと鈴さんの姿が……鈴さん、それは一体どういう意味ですの?

 

「お前達も今帰りか?」

 

「あぁ、思ったより盛り上がってこんな時間になっちゃったよ。一応門限まではまだ余裕はあるけどギリギリすぎると不味いだろ? 只でさえ寮長はあの千冬姉だしさ」

 

確かに寮長は織斑先生ですから余り遅くなりますと危険ですわね。

 

ですがこの時間に帰れば大丈夫……。

 

「ただ、なぁ……」

 

織斑さんが何やら困った様な表情で呟きました。

 

「どうかなさいましたの?」

 

「いや、確かこの時間って会社帰りのサラリーマンの帰宅ラッシュが……」

 

……えっ?

 

その瞬間列車が駅で止まり、ドアが開いたと同時にスーツ姿の男性が雪崩れ込んで来ました。

 

わ、私とした事が忘れていましたわ。

 

日本ではサラリーマンは車では無く列車で移動するもの、そしてそのラッシュの凄まじさは母国のイギリスや各国のものとは比べ物にはならないと。

 

「きゃっ……!?」

 

人波に押され、倒れそうになった私を悠斗さんがしっかりと支えて下さり、そのままドアの方へと誘導されると私を周りから守る様に立ち憚りました。

 

悠斗さんは私の肩越しで扉に腕を着いている為、まるで私を逃さない様に壁際に追い詰めている様な……こ、これは役得ですわ。

 

「セシリア、大丈夫か?」

 

「えっ……は、はい……」

 

後ろから大人数に押されている筈ですのに、表情一つ変えず逆に私を気遣って下さる悠斗さん。

 

私が全く苦しい思いをせずに普通に立っていられる事、そして涼しい顔で尋ねて下さる事、決して痩せ我慢では無い事がわかりますわ。

 

ふと視線を隣へと向ければ、人波にそのまま押し流され、扉と織斑さんとの間に挟まれながら苦し気な呻き声を上げている鈴さんの姿が。

 

「……すまないな、この時間はこうなるという事を見落としていた」

 

「い、いえ! 悠斗さんのお陰で平気ですから大丈夫ですわ!」

 

「そうか、もう少しの辛抱だ」

 

辛抱だなんて……正直、今のこの状況は私にとって嬉しいものです。

 

少しだけ目線を上に向ければ目の前には悠斗さんの顔、少し下に向ければ悠斗さんの逞しく厚い胸板、そして鼻腔を擽る悠斗さんの男性らしい香り。

 

ここが列車の中で無ければ、我慢出来ずにそのまま抱き付いていた所ですわ。

 

そんな事を考えていると次の駅へと止まり更に多くの乗客が、流石の悠斗さんも少しだけ押されて更に距離が近くなりました。

 

……もう、我慢出来ませんわ。

 

目の前の悠斗さんの胸元へと、そっと抱き付く。

 

少し驚いた表情を浮かべる悠斗さんでしたが、何も言わずに私の頭を優しく撫でて下さいました。

 

ふふっ……日本の満員電車というのも、悪く無いかもしれませんわね……。

 

 

「うぐぅ……こ、こんな場所で……イチャイチャしてんじゃ無いわよ……!」

 

隣から、鈴さんが何やら訴えて来ました。

 

「えっ? しかし、鈴さんも状況は同じですが?」

 

「ど、何処がよ……!? 降りたら、覚えてなさいよ……!?」

 

「り、鈴……あんま動くな……肋が痛い……!」

 

「だ、誰の胸が肋ですって……!?」

 

「違……そうじゃ無くて……マジ、痛い……!」

 

鈴さんと織斑さんの苦し気ながらも壮絶な言い合いが繰り広げられていましたが、私はそのまま駅へと着くまで悠斗さんの温もりを感じながらその胸元へと顔を押し付け続けるのでした。

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