あれから女共の妨害を受ける事無く無事に更衣室へとやって来た。
時間もまだ開始まで余裕がある、さっさと着替えてしまおう。
制服を脱ぎ、ISスーツを着込んで行く。
「うわ……わっ……!?」
ふと隣から変な声が。
視線を向ければ、何やらデュノアが俺の方を見ながら顔を赤くしていた。
「……何だ?」
「えっ!? あ、いや……その……」
尋ねたのだが、デュノアはしどろもどろにしか答えない。
「あ、やっぱりシャルルも悠斗の身体が気になるか? だよなぁ、悠斗のその筋肉が羨ましいよ」
「……えっ? あ、そうそう! 僕もそう思って!」
俺の身体? 筋肉?
一体何を言っているんだこいつらは、男の俺の身体を見て羨ましいだなんて。
「な、なぁ悠斗、ちょっとだけで良いからさ……その、触らせてくれないか?」
「…………は?」
「頼む! 一回だけ! ちょっと触るだけだから!」
待て……こいつはさっきから何を言っているんだ?
それにデュノアも、何やら頬を赤く染めながら俺の身体を見ている。
人の身体を見てごちゃごちゃと、況してや男の身体を触りたいだなんて。
まさか、織斑が鈴の告白に未だに答えないのは……。
「……織斑、デュノア、俺の半径二メートルに近付くな」
「はぁっ!? ちょ、何でだよ!?」
「えぇっ!? 僕も!?」
「単純に気持ち悪い」
「そんな事言うなよ! ほら、その、ちょっとだけだから!」
「煩い……おい、寄って来るな」
「頼むよ~! そんな事言わずにさ~!」
にじり寄って来る織斑の頭を押さえ付けながら、それ以上の接近を阻止する。
こいつが鈴の告白に返事をしないのは、わからないのでは無く"そっち"の気があるからなのでは……だとしたら、不味い。
「悠斗~!」
「煩い、来るな、寄るな」
「そんな事言わずに……って痛てててっ!? ちょ、悠斗握力! 握力強いって!?」
よく束にやる方法で織斑の顔面を掴んで思い切り力を込めて行けば、途端に織斑は痛みでもがき苦しむ。
そのまま暫く掴み続けてから解放すれば、織斑は手で顔を覆いながら床をのたうち回っていた。
それを一瞥してから着替えを再開しようと視線を外せば、今のいざこざの間にデュノアが既に着替え終えていた。
「……早いな」
「えっ? あ、う、うん! 着替えの早さには自信があって!」
少し様子がおかしい様に見えたが、気にする事無く着替えを再開する……そこで、また隣から視線を感じた。
「……お前も織斑と同じ目に遭いたいか?」
「……えっ? あ、ご、ごめんなさい!」
横目でそう尋ねれば、デュノアは慌てて俺から視線を外した。
頼むからこいつも、そして織斑も、そういう厄介事を起こさないでくれ。
それから着替え終えて外へと向かう。
「織斑、いつまで転げ回ってるつもりだ?」
「ぐおぉ……えっ? あぁっ! ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺まだ制服すら脱いで無いんだけど!?」
「知るか、さっさと着替えて来い」
「えぇっ!?」
慌てて着替えを始める織斑を置いて俺は更衣室を後にした。
デュノアも迷って俺と織斑を交互に見ていたが、遅れるのは嫌なのか俺の後ろに着いて来る。
「ゆ、悠斗と一夏っていつもあんな感じなの……?」
「いや、そんな事は無い、織斑とはもう友人だから手荒な事はしないつもりだったんだが……今のは織斑が単純に気持ち悪かったから仕方無くやっただけだ」
「そ、そうなんだ?」
「……お前も、やられたく無ければ変な目で見てくるな」
「変な目!? ま、待ってよ! 一夏はわからないけど僕は悠斗の事を疚しい気持ちで見てないよ!?」
「どうだかな、見てたのは事実だろうが」
「だ、だって……その、逞しい身体だなぁって思ったから、つい……」
「…………」
「あっ! ま、待ってよ! 悠斗!?」
何も言わすにデュノアから一歩離れ、騒ぐデュノアを無視しながらそのまま歩き始めた。
「ねぇ、聞いた……?」
「織斑君とデュノア君が……」
「五十嵐君を狙ってる……?」
「まさかの三角関係に……!?」
「これは……!」
『滾るわ!!』
遠くで叫ばれた声に、背中に冷たいものが流れた様な気がした。
寒気が止まらない。
割りと本気で、こいつらと一緒に行動したく無いと考えてしまった。
「あ、悠斗さん!」
グラウンドへとやって来ると、いち早くセシリアが俺の姿を見て駆け寄って来た。
「……セシリア」
「随分と遅かった様ですけど、何かあったんですの? それに何か疲れている様ですが……」
「何でも……いや、そうでも無いな」
「悠斗さん? ひゃっ……!?」
俺の言葉に首を傾げるセシリアをそっと抱き寄せた。
周囲から悲鳴の様な声が上がるが気にしていられない、まだ朝なのに先程の一件で正直精神的にかなり疲れた。
「ん、もう……大丈夫ですの……?」
優しい声音で抱き締めながら背中を擦ってくれるセシリア。
その優しさが今はとてもありがたい。
「うわ……ちょっとあんたら、皆の前で何やってんのよ……」
後ろから声を掛けられた。
しかし振り返ったが姿が見えない、空耳だろうか? それとも幻聴が聞こえる程までに疲れていたのか?
「下よ下! あんたまたその下りをするつもり!?」
「……何だ、鈴か」
「何だとは何よ!?」
「今忙しい、話なら後にしろ」
「忙しいってセシリアとイチャイチャしてるだけでしょうが! セシリアもさっさと離れなさいよ!」
「鈴さん、後でちゃんとお相手して差し上げますから少々お待ち下さいね?」
「え? お母さん? 旦那とイチャイチャして子供の相手を後回しにするお母さん?」
「嫌ですわ鈴さん、お母さんだなんて、まだ子供を作るつもりはありませんわよ?」
「いやそうじゃないのよ、私が言いたいのはそういう事じゃないの、わかってセシリア」
「あ、ですが結婚式の披露宴では友人代表のスピーチを是非とも鈴さんにして欲しいですわ」
「いや結婚するのは決定なの? 確かにこないだ否定しなかったけどさ……いやそうじゃ無くて、私が言いたいのはそういう事でも無いのよ」
「違うのですか? あ、勿論鈴さんだけで無く織斑さんや他の方もちゃんと招待致しますので安心して下さい」
「やめて、お願いだからこれ以上私を巻き込まないで」
そう言って何やら膝から崩れ落ちる鈴。
一体何がしたいんだ?
「わぁっ……!」
そんな鈴の傍に立っているデュノアは何やら目を輝かせながら俺とセシリアを見ている。
……そういえばさっき、織斑と彼女がどうこうと言っていたな。
「あら? そういえば貴方とはちゃんと自己紹介していませんでしたわね? 私はセシリア・オルコット、悠斗さんの恋人でイギリスの代表候補生ですわ」
「そ、その言い方だと何だか代表候補生がついでみたいだね……えっと、シャルル・デュノアです。 フランスの代表候補生をしています」
「フランスの……宜しくお願い致しますわ」
「うん、宜しくね」
「ほら鈴さん、いつまでそうしているんですの?」
未だに崩れ落ちている鈴にセシリアがそう声を掛ければゆっくりとだが漸く鈴が立ち上がる。
「はぁ……中国の代表候補生の鳳鈴音よ、呼び方は鈴で良いから」
「鈴だね? シャルル・デュノアです、宜しく」
「……ところで一夏は? 一緒じゃなかったの?」
「一夏なら……えっと……」
デュノアが俺に視線を向けて来る。
「……置いてきた」
「えっ? 何で?」
「……気持ち悪かったからだ」
「はぁ?」
首を傾げる鈴だが、鈴の為にもそれ以上の事は言わずに理由は伏せておく。
まさか好きな相手にそっちの気があるかもしれない等と、口が裂けても言える筈が無い。
「……悪い事は言わない、さっさと織斑を落としてくっついてくれ」
「うぇっ!? な、何よ急に!?」
「そうじゃないと危険だからだ」
「はぁ? あんたさっきから何言って……いや、そんな事よりさっさと離れなさいってば! こら!」
それから授業が始まるまで、鈴にごちゃごちゃと小言を言われながらも無視してセシリアを抱き締め続けた。
ちなみに織斑はチャイムの鳴る直前、ギリギリのところで全力疾走した来た為に何とか間に合っていた。