織斑千冬がやって来ると、それまで話をしていた奴らは口を閉じて全員が整列する。
「ぜぇ……ぜぇ……ゆ、悠斗、何で置いてったんだよ……」
「……置いていったのは謝るが、それ以上寄るな」
「な、何で……ぜぇ……だよ……」
「ゆ、悠斗さん? 本当に何があったんですの?」
「……どうでも良い事だ」
織斑の尊厳の為にもそれ以上は言わないでおく。
膝に手を当てながら未だに肩で息を荒げている織斑から視線を外して前へと向ける。
「よし、全員揃っているな?」
織斑千冬が全員を見渡しながらそう尋ねる。
山田がいない様だが、今日はこいつ一人か?
「今日は1組と2組の合同授業だが、訓練機を使ってのIS搭乗訓練をする。 だがその前に……オルコットと鳳、前に出ろ」
突然名前を呼ばれたセシリアと鈴が前へと出る。
「国の代表候補生であり専用機を持つお前達には全員の手本となる様に試合をして貰う」
「試合、ですか……それは鈴さんとですの?」
「いや、相手は違う、そろそろ来ると思うんだが……」
「ひゃあああっ!? ど、退いて下さ~い!?」
突如上空から響いた声に全員の視線が上へと向けられる。
上空から落下してくる何か……いや、声で何となくわかっていたが、ISを身に纏った山田が体勢を崩しながら落下して来ていた。
……何故そうなる?
「……はぁ、五十嵐か織斑、どちらでも構わんから受け止めてやれ」
「……織斑、任せる」
「えっ!? 俺かよ!?」
驚きながらも直ぐ様白式を展開する織斑、その展開速度は以前の授業よりもかなり速く、特訓の成果がかなり身に付いている様だ。
そのまま落下地点へと入り落下してきた山田を受け止めた……が、落下速度が尋常では無かった為にそのまま衝撃を抑える事が出来ず、砂埃を巻き上げながら二人纏めて転がって行った。
「う……痛たたた……」
舞っていた砂埃が晴れて行き、その中から織斑が身体を起こしていた。
「あぅ……あ、あの、織斑君……?」
「……へっ?」
「その、退いて下さい……」
完全に砂埃が晴れるとその惨状が目の当たりとなった。
身体を起こす為に手を着いた織斑だったのだが、その手は織斑の下敷きとなっていた山田の胸を鷲掴みにしていた。
……だから、何故そうなる?
「う、うわああああああっ!?」
慌てて飛び退いた織斑……だが何やら手を何度か動かしながら、まるで今の感触を確かめる様な動きを見せた。
織斑が気付いているのかわからないが、そんな織斑をまるで道端のゴミを見る様な冷めた目でセシリアと鈴が見ている。
「す、すみません!!」
「あぅ……そんな……私は教師で相手は生徒、況してや織斑先生の弟さんなのに……そんな禁断の……」
「えっ?」
何やら頬を両手で押さえながらおかしな発言をしている山田、織斑も思わず首を傾げてしまっている……頭でも打ったか?
「はぁ……織斑、列に戻れ。 山田先生、授業の最中なのですから」
「あぁ……織斑先生……いえ、お姉さん……」
「…………ふんっ!」
凄まじい速さで出席簿が山田の頭を襲った。
「あ痛ぁっ!? へっ? あの、ここは……?」
「……山田先生、授業を始めます。 直ぐに準備を」
「あ、す、すみません!」
立ち上がり何度も頭を下げる山田、ふと殺気を感じて視線を向ければ鈴が山田の方を、正確には山田の身体の一部をまるで親の仇かの如く恨めしそうに睨み付けていた。
そして隣に戻って来た織斑も、謝る為に何度も頭を下げる山田の身体の一部をじっと見続けている。
とりあえず、そんな織斑の頭を割りと強目にひっぱたいた。
「全く……色々あったが、オルコットと鳳には山田先生と模擬戦をして貰う」
「山田先生と……?」
「えっ? 二対一で……?」
二人の反応は最もだ。
幾ら教師だとしてもセシリアと鈴、二人の代表候補生を相手に模擬戦をするのは厳しい筈……況してや先程あんな飛び方をしていた奴が。
「何、心配はいらんさ、山田先生はこう見えても元日本の代表候補生だ。 現役時代の私が唯一私の後を継げる人物だと思っていた程、今でも実力は私の現役時代に匹敵するぞ?」
「そ、そんな、過大評価し過ぎですよ……」
……ほう?
普段はドジを踏んでばかりで余り役に立たない様なこいつが元日本の代表候補生、しかも織斑千冬が自らの現役時代に匹敵すると認める程の実力を持っているのか。
無駄な試合はしたく無いが、そんな事を聞いたら一度相手をして貰いたい。
あの無人機との戦闘で、自分の実力不足を痛感した。
結果的に倒せたが、かなりギリギリだった上に俺一人では倒せなかった。
鈴に織斑……そして、セシリアを危険に晒してしまった。
二度とあの様な事にならない様に、そしてセシリアとの約束を守る為にも、俺は強くならなければならない。
セシリアを、束を、クロを、友人を守る為に強く……。
「……五十嵐、お前は駄目だぞ」
「……あ?」
織斑千冬に呼ばれて漸く気付く。
いつの間にか、俺は一歩前へと歩み出ていた。
「模擬戦をするのは二人だ、お前は下がれ」
「……ISでも生徒を教育するのが教師なんじゃないのか?」
「お前は加減を知らない、山田先生と戦わせる訳にはいかん」
「……ちっ」
舌打ちをしたと同時に、飛来して来たペンを片手で掴んだ。
視線を前へと向ければ織斑千冬が腕を振り下ろした状態で俺を睨み付けていた。
「……ペンを投げるな」
「お前なら問題無いだろ? それに敬語はもう諦めたが、教師に向かって堂々と舌打ちをするな」
そのまま互いに睨み合いが続いたが、突然隣から腕を掴まれた。
視線を隣へと向け、思わず固まってしまう。
「セシリア……?」
セシリアが、俺の腕を掴んだまま鋭い視線を向けて来ていた。
「悠斗さん? 先生に対してその様な態度はいけませんわ」
「……だが」
「いけないものはいけません、目上の方は敬うべきですわ」
「む、ぅ……」
「悠斗さん?」
「……はぁ、わかった」
セシリアの圧に負けてしまった。
そこまで言われてしまうとどうしようも無い、それにセシリアに逆らう事は出来ない。
「織斑先生、申し訳ありませんでした」
「えっ? あ、いや、あぁ……」
俺の代わりに頭を下げるセシリア……いや、流石にそこまでやらなくても……。
「いや何でセシリアが謝ってるのよ? 別に止めるだけで良いじゃない」
「えっ? ですが"夫"の代わりに謝るのも"妻"の役目では無いのですか?」
「待って、色々と待って、いつからあんた達は夫婦になったのよ? いや、そんな不思議そうな顔されても私が困るんだけど……てか悠斗、あんたも否定しなさいよ? いや何そのお前は何を言ってるんだみたいな顔は、私がおかしいんじゃ無いからね? 皆の声を代弁してるだけなのわかってる? あ、その顔は二人してわかって無いでしょ? いやわかれよ、頼むからわかってよ!」
一人でひたすらに騒ぐ鈴、相変わらず煩い奴だな。
「シャルル、あれが鈴の特技の漫才だぜ」
「わぁ……! 凄い、これがジャパニーズ漫才なんだね……!」
「喧しいわ! 特技でも漫才でも無いわよ! てかジャパニーズって私は日本人じゃなくて中国人!」
「シャルル、あれがツッコミって奴だぜ」
「は、初めて見た、ジャパニーズツッコミ……!」
「いい加減にしろー!!」
グラウンドに、鈴の悲痛な叫びが響き渡るのだった。