インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第51話 模擬戦

「……あー、色々あったが、模擬戦を始めるぞ」

 

落ち着きを取り戻した鈴さんと並び、目の前にいる山田先生と対峙しました。

 

普段の山田先生の姿しか知りませんが、先程の織斑先生の話を聞く限り決して油断出来ない相手ですわ。

 

……恐らく、少し前の私でしたら完全に油断していたでしょう。

 

普段の山田先生の姿から代表候補生として訓練を受けていた私でしたら大丈夫だと、多少苦戦する可能性はあっても負ける筈が無いと考え、自らの実力に傲り無様な姿を晒していたでしょう。

 

しかし、今は違う。

 

あのクラス代表を決める試合、搭乗経験の少ない悠斗さんに敗れ、織斑さんにも辛勝という結果……勿論お二人共、経験をものともせずに強い方だっただけの話でしょう。

 

そしてあの無人機襲撃事件、私は代表候補生でありながら悠斗さんに守られ、悠斗さんは大怪我を負ってしまった。

 

もう二度と、あの様な事あってはならない。

 

その為にも私は強くならなければなりません、決して傲らず、油断せず、精進しなければならないのです。

 

その為にもこの模擬戦、負ける訳にはいきませんわ。

 

『……鈴さん、聞こえますわね?』

 

プライベート・チャネルにて鈴さんに通信を繋げ、声を掛ける。

 

『聞こえてるわよ』

 

『私が遠距離からサポート致しますので鈴さんは近距離から山田先生に攻撃を、私も隙を見つけ次第遠慮無く撃ちますわ』

 

『了解、それにしても随分と気合い入ってるわね?』

 

『当然ですわ、相手はあの織斑先生が実力を認める教師、そんな相手と戦う事の出来る機会なんて中々ありませんもの、それに、例え模擬戦だとしても代表候補生として負ける訳にはいきません』

 

『確かにね、私だって代表候補生としてのプライドってものがあるし』

 

『それに、他の誰でも無い悠斗さんが見ていらっしゃるんですもの、情けない姿を見せる訳にはいきませんわ』

 

『あ~はいはい、プライベート・チャネルでまで私はツッコまないからね』

 

『えっ? ですがそれが鈴さんの役割では?』

 

『ふざっけんじゃ無いわよ! 私はコメディアンでも何でも無いからね!?』

 

『そ、そうだったんですの……!?』

 

『……セシリア、山田先生と戦う前にあんたとやっても良いのよ? てかそうやって私を弄るとか悠斗みたいな事しないで……あ、やば』

 

『ふふっ、だって夫婦は似るものですから』

 

『だーっ!? やっぱり! 今のは私の失言だったけど本当に言ったし!?』

 

頭を抱えながらその場で悶える鈴さん、織斑先生と他の方達の視線が集まっていますわ。

 

「鳳? どうかしたのか?」

 

「……何でも無いです、今すぐ戦いたくて堪りません」

 

「そ、そうか? では……始め!!」

 

織斑先生の言葉と共に私と鈴さんは思考を直ぐ様切り替え、上空へと飛び立ちました。

 

山田先生は少し遅れて飛び立ち、私達の少し下を飛んでいます。

 

 

山田先生の乗る機体は《ラファール・リヴァイブ》

 

フランスの第二世代の量産機、遠距離攻撃を主軸にした汎用機。

 

手にしているのはアサルトライフルとショットガン、恐らくは遠距離と近距離それぞれに対応出来る筈ですわね。

 

……織斑先生の認めるその実力、見せて貰いますわ。

 

「ビット!」

 

出し惜しみなんてするつもりはありません、最初から全力で行かせて頂きますわ。

 

計六つのビットがそれぞれ違った軌道を描きながら山田先生へと向かう。

 

その合間を縫って鈴さんが近接ブレードを手に山田先生へと斬り掛かる。

 

しかしその攻撃を軽く避け反撃とばかりにショットガンで鈴さんへと攻撃、更には私への牽制としてアサルトライフルを放ちながら一定の距離を保たれる。

 

これは……わかってはいましたが、一筋縄では行きませんわね。

 

 

しかし、負ける訳にはいきませんわ……!

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

上空で始まった戦闘。

 

デュノアが織斑千冬に言われて山田の乗る機体、ラファール・リヴァイブの説明をしているが、俺はそれに耳を傾ける事無く上空を飛び回るセシリアの姿を見守っていた。

 

セシリアのビットと狙撃、その合間を縫って繰り出される鈴の近接ブレード。

 

普通に考えれば圧倒的に山田が不利の筈だが、山田は端から見ても冷静に見える。

 

確実に攻撃を避けながら手にした銃で反撃を行っている。

 

「な、なぁ悠斗、どっちが勝つと思う?」

 

隣から尋ねて来る織斑に、少し考えてから口を開く。

 

「……何とも言えないな、セシリアに勝って欲しいのは事実だが、山田の操縦技術を見るに一筋縄では行かないのは明白だ」

 

「そ、そうだよな……うわ、あれを避けるのかよ……」

 

どちらも回避しつつ反撃を繰り返し均衡を保っていたが、それが崩れた。

 

痺れを切らした鈴が突出し過ぎ、山田はそれを冷静に対処。

 

近接ブレードの一撃を僅かな動きで避け、至近距離から銃を連射し、その攻撃で体勢を崩した鈴を援護に向かおうとしたセシリアへと向かって蹴り飛ばす。

 

そして咄嗟に受け止めたセシリアへと向かって何かを投げ付けたのを見て、俺は直ぐ様黒狼を展開して最大速度で飛び出した。

 

爆音と共に視線の先で爆発に巻き込まれ戦闘不能になるセシリアと鈴、機体が制御不能となり落下してきたセシリアを受け止めた。

 

 

「ちょっ!? 私はああああああっ!?」

 

 

その隣を落下していった鈴を一瞥してから、腕の中のセシリアへと視線を向ける。

 

「セシリア、大丈夫か?」

 

「ゆ、悠斗さん!? あの、えっと……大丈夫、ですわ……」

 

「そうか、良かった」

 

「……申し訳ありません、お見苦しい姿を……」

 

「……いや、今のは痺れを切らして突出し過ぎた鈴が原因だろ? あそこで鈴がもう少し耐えていれば違った結果になった筈だ」

 

「し、しかし……」

 

「セシリアが俺に言ってくれただろ? もっと自信を持てと……良い戦術だったぞ」

 

「悠斗さん……」

 

首に腕を回して強く抱き付いて来るセシリア、その背中を擦ってやりながら目の前へと来た山田へと視線を向ける。

 

「……惜しいな、あいつに止められていなければ俺もお前に挑みたかったんだが」

 

「い、五十嵐君もですか? えっと、私は構いませんが……」

 

「……あ? ならやるか?」

 

「わ、私だって教師として、元日本代表候補生としてのプライドがあるんですから!」

 

「面白い……なら……」

 

 

『五十嵐! 山田先生! 今すぐ降りて来い!』

 

 

下から響いて来た声、俺も山田も意識がそちらへと向いてしまった。

 

……ちっ、興が削がれた。

 

「セシリア、一度降りるぞ?」

 

「あ、は、はい……」

 

セシリアを抱き抱えたまま、山田を一瞥してから俺は地上へと向かって降下した。

 

仕方無い、セシリアをここから落とす訳にはいかないからな、今は戦う訳にはいかない。

 

「……あ、危なかった」

 

後ろで山田が何か呟いた様な気がしたが、よく聞こえなかった。

 

……まぁ良い、その内機会を設けて挑むとしよう。

 

 

 

 

「諸君、今の模擬戦を見てわかったと思うが、山田先生はその腕前と技術によってこのIS学園の教師の座に着いている。 これからはきちんと敬う様に」

 

地上へと降りて来て直ぐ、織斑千冬が地面へとめり込んでいる鈴をそのままに他の奴らに対して話していた。

 

鈴はめり込んだまま何も言葉を発していない。

 

「……哀れだな」

 

「やかましいわよ!」

 

自力で起き上がった鈴が凄まじい剣幕で迫って来る。

 

「幾らなんでもあそこでセシリアだけ受け止める!? 私の事も受け止めなさいよ!」

 

「代表候補生ならそれくらい自分で何とかしろ」

 

「それセシリアも同じだからね!? てかセシリアはいつまで抱き付いてるのよ!? 早く降りなさい!」

 

「えっ……嫌ですわ……」

 

「嫌じゃないの! あ、こら! 何で降りろって言ってるのにもっと強く抱き付いてんのよ!? てか何で地面に激突した私がこうして立ってるのにセシリアは抱き抱えられてんの!? おかしいでしょうが!」

 

「ふざけるな、セシリアとお前を同等に扱う訳が無いだろうが、セシリアは特別だ」

「悠斗さん……!」

 

「だぁーっ!? もう嫌だこいつらー!?」

 

頭を掻き毟りながら叫ぶ鈴……相変わらず騒がしい奴だ。

 

 

 

「お前達、いつまで騒いでいるつもりだ? 授業を再開するぞ」

 

織斑千冬の言葉に、恨めしそうに俺達を睨みながらも漸く大人しくなる鈴。

 

セシリアを降ろしてから列へと戻った。

 

「今日は訓練機を使って実際に搭乗する事でISに慣れて貰う。 その際個人個人でやるのは効率が悪い為に専用機持ちがそれぞれ数人のグループに教える様に」

 

専用機持ち……つまり、俺もか。

 

 

「専用機持ち、って事は……!」

「織斑君に……!」

「デュノア君に……!」

「五十嵐君は駄目よ!」

「オルコットさん一筋だもん!」

「でも、あの冷たい目で厳しく教えて欲しい……!」

『わかる!!』

 

 

女共の視線が俺達男子に向けられたかと思えば、一気にそれぞれの元へと詰め寄って来た。

 

『五十嵐君!』

『織斑君!』

『デュノア君!』

 

『教えてー!!』

 

……喧しい、第一そんな下らない理由でこうして騒ぎ立てれば。

 

「この馬鹿共が……出席番号順にさっさとグループに別れんか!!」

 

織斑千冬の怒号が、グラウンドへと響き渡るのだった。

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