インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第52話 教育

さて、織斑千冬の一声でそれぞれのグループへと分けられた訳だが。

 

目の前に集まった数人の女共が妙に目を輝かせながら俺を見ている。

 

仕方無いとは言え、やはり下らない考えを持つ奴らに教えないといけないのか。

 

「……はぁ」

 

「あ、あの、五十嵐君? えっと、宜しくね?」

 

「鏡……」

 

唯一の救いはその中に友人である鏡がいる事か。

 

相川と布仏はそれぞれ違うグループになってしまっているが、学園内で貴重とも言える常識人であり良心である鏡がいるのは正直助かった。

 

「正直、上手く教えられる気はしないがな」

 

「そ、そんな事無いよ! 五十嵐君なら大丈夫!」

 

両手を目の前で握りながら励ましてくれる鏡、やはり優しい奴だな。

 

「ありがとう……じゃあ始めるか」

 

しかし始めるのは良いが……黒狼、悪いが色々と聞いても良いか?

 

『はい、何なりとお申し付け下さい』

 

ISに慣れろと言っていたが、具体的に何から始めるべきだ? 俺の時は飛行から入ったが。

 

『そうですね、先ずは機体に慣れる為に歩行訓練から入った方が宜しいかと、主様は飛行から入りましたが他の方達にいきなり飛行訓練をさせるのは厳しいかと思われます』

 

成る程、一理あるな。

 

なら歩行訓練から始めるとしよう。

 

「先ずはISに慣れる為に一人ずつ搭乗して歩行訓練をして貰う。 初歩的な動作ではあるがISは一度搭乗すれば己の身体の一部、歩行すら儘ならなければ飛行なんてもっての他だ」

 

『はーい! 五十嵐先生!』

「えっ? あ、えっと、はい……」

 

鏡以外の奴らから発せられた言葉に思わず顔をしかめてしまう。

 

誰が先生だ、馬鹿なのかこいつらは。

 

「……妙な呼び方をするな、初めは誰から乗る?」

 

「あ、はいはい! じゃあ私が乗りたい!」

 

一人の女が挙手しながら一歩前へと出て来た。

 

その際、何やら他の女共と小声で話をしていたが……まぁ、ここで変にごちゃごちゃと騒がないで済むなら良いか。

 

そいつを待機状態のIS、日本の量産機である打鉄へと搭乗させつつ俺も黒狼を展開する。

 

「先ず歩く前に、その場で手足の動きや感覚を確かめてみろ」

 

「う、うん」

 

言われた通りにその場で打鉄を動かしながら確認する女、見た限りでは問題無さそうだな。

 

「なら次、そのまま歩いてみろ、ゆっくりで構わない」

 

そう伝えれば、女は緊張した面持ちながらもゆっくりと歩き始めた。

 

多少のぎこちなさはあるが、転倒する事無く数メートル程歩く事が出来ていた。

 

「少し動きがぎこちないが、何度か乗る内に慣れるだろう」

 

「はい!」

 

「よし、なら次の奴と交替だ。 ISを待機状態に戻して……」

 

言い終える前に、女が何やら意味深な笑みを浮かべたかと思えば直立のままその場でISから降りてしまった。

 

おかしい、授業で既に教わっている筈だが、所持者が身に付けられる待機状態となる専用機と違って、訓練機であるこの機体は体勢を低くさせてから降りなければ搭乗位置が高く乗り込むのが難しい。

 

「おい、何を……」

 

「あ、ごめーん! そのまま降りちゃった! このままだと乗れないから次の人は五十嵐君に載せて貰わないといけないよね!」

 

「……あぁ?」

 

……成る程、そういう事か。

 

先程乗る前に何かこそこそと話していたが、初めからそれが狙いだったのか。

 

『主様、奥様が此方を見ています』

 

知っている、恐らく今の会話をISのハイパーセンサーで聞いていたのだろう。

 

セシリアが此方を、正確にはこの状況を作り出した女共を見て……いや、睨んでいる。

 

セシリアの教えているグループの奴や周りのグループの奴らがその余りの迫力に固まってしまっている程だが、こいつらは気付いていないらしい。

 

「五十嵐君、お願い出来る?」

 

してやったりの笑みを浮かべながら話し掛けて来る女。

 

どうやら俺を嵌める事が出来たと思い込んでいるのだろう。

 

……良い度胸だ。

 

黒狼、この訓練機をハッキング出来るか?

 

『主様? 何を……』

 

出来るのかを聞いている。

 

『は、はい、可能でございますが』

 

なら、データを書き換えて搭乗者を感知すると同時に機体が展開する様に弄ってくれ。

 

『……成る程、そういう事でございますか、畏まりました』

 

俺の意図を理解した黒狼、流石だな。

 

『いえ、主様の専用機として当然の事でございます……完了致しました、いつでも可能でございます』

 

「……次の奴は誰だ?」

 

「はい! はいはい! 私です!」

 

嬉々とした表情で駆け寄って来る別の女。

 

恐らく、こいつも先程と同様に降りる時はそのままの状態にするつもりなのだろう。

 

次に控えている奴らもまた、期待に満ちた目で女を見ている為にわかる。

 

「高いから、勿論五十嵐君が乗せてくれるんだよね?」

 

悪びれる様子も無くそう尋ねて来る女に、少し考える素振りを見せてから頷く。

 

「……あぁ、そうするしか無いだろうな」

 

「やったっ! じゃあお願いします!」

 

俺に近寄って来る女、その瞬間に更に強くなるセシリアの圧。

 

最早セシリアの近くにいる奴らが顔を青ざめさせながら数人で身を寄せあっている。

 

セシリアの為、そして周りの奴らの為にも、これ以上セシリアの機嫌を悪くさせる訳にはいかないな。

 

「念の為に聞くが、本当に俺が乗せてやって良いんだな?」

 

「勿論!」

 

「そうか、わかった……なら行くぞ」

 

「はーい! って、えっ? あの……待っ……きゃああああああっ!?」

 

女の腰の辺りに腕を回して持ち上げ、そのまま力任せに待機状態の打鉄へと向かって全力で投げ飛ばした。

 

そして待機状態の打鉄にぶつかる瞬間、黒狼のハッキングにより打鉄は搭乗者を感知したと同時に展開、そのまま飛んで来た女を包み込むと同時に後ろへと勢い良く倒れた。

 

その一連の動きと女の悲鳴を聞いた周囲の奴らが何事かと此方を見て来る。

 

「きゅぅ……」

 

昏倒する女を一瞥してから、唖然とした表情で固まる他の女共へと視線を向ける。

 

「この様に、限界はあるが例え負傷する程の衝撃を受けたとしてもISの搭乗者保護システムによって怪我も無く搭乗者は守られる……こうして自ら良い見本になってくれるとは、本当に助かった」

 

俺の言葉を聞いて顔を青ざめさせて一言も発しない女共。

 

「ん? あぁ安心しろ、今の説明の通りこいつは怪我はしていない、少し気絶しているだけだ」

 

そう言いながら肩へと牙狼砲を展開すると、途端に全員が身体をびくりと震わせた。

 

「そうだな、次はこいつで追撃で吹き飛ばされても怪我をしないという事を試すか?」

 

『ひぃっ!?』

 

「……わかったなら下らない考えはやめろ、次に似た様な事をすれば本気で吹き飛ばすぞ」

 

俺の言葉に勢い良く何度も首を縦に振り続ける女共、全く……。

 

その様子を見てからプライベート・チャネルにてセシリアへと通信を繋げる。

 

「セシリア、解決したからもう大丈夫だ。 そっちの奴らに教える事に集中してくれ」

 

『わ、わかりました……ふふっ、悠斗さんらしいですわね、ですが余り乱暴なのは駄目ですわよ?』

 

「この方が手っ取り早かった、一応怪我はしない様に気を付けてはいるさ……それに、例え何をされてもセシリア以外に靡く事は無い、俺はセシリア一筋だ」

 

『悠斗さん……ありがとうございます、では後程』

 

「あぁ、後でな……さて、そいつが気絶したから次の奴だ」

 

通信を切り女共に向き直るが、途端に互いに顔を見合わせて躊躇う様子を見せる。

 

……少しやり過ぎたか?

 

「あ、い、五十嵐君、私が乗ります」

 

他の奴らの様子を見て鏡が名乗り出た。

 

鏡なら安心だな、何の心配もいらないだろう。

 

気絶した女を再度黒狼によるハッキングでISを解除させ、鏡に乗る様に促す。

 

「わっ!? た、高い……!?」

 

「落ち着け、搭乗さえすれば例え転倒しても怪我をする事は無い。 それにもし倒れそうになったとしても俺が支えてやるから大丈夫だ」

 

「う、うん……」

 

俺の言葉を聞いてぎこちない動きで一歩ずつ歩き始める鏡……が、今にも倒れそうな程にふらふらとした足取りだ。

 

……仕方無いな。

 

「鏡、掴まれ」

 

「えっ!? あ、えっと、あうぅ……」

 

ぎこちなく歩く鏡の両手を取り、そのまま誘導する様にして歩かせる。

 

すると何やら恥ずかしそうに顔を俯かせてしまう鏡、もしかするとこうして支えて貰えないとまともに歩けない事が恥ずかしいんだろうか?

 

「大丈夫だ、最初の内はこうして覚えた方が早く慣れる、別に恥ずかしい事じゃないさ」

 

「ち、違うんですぅ……うぅっ……」

 

違うとは、どういう意味だろうか?

 

倒れてしまう事で恐怖心が芽生えてしまうよりも、最初からこうして慣らした方が安心出来ると思うからやっているんだが……。

 

『あ、主様、奥様が此方を見ています! 今回は主様を!』

 

……何故だ?

 

 

 

 

そのまま鏡を支えてやりながら歩行を続け、少ししてから慣れて来たのを確認してから手を離して一人で歩かせる。

 

それから残りの奴らの搭乗を終え、その後は何の問題も無く授業を終える事が出来た。

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