「悠斗さん!」
授業が終わり各々がグラウンドから移動を始める中、何故か他の奴らから詰め寄られて慌てふためいている鏡を遠目から見ているとセシリアが駆け寄って来てそのまま勢い良く俺に飛び付いて来た。
突然の事に驚いたが、直ぐ様反応して難なく抱き止める。
周囲から何やら羨望の眼差しが向けられているが、特に気にも止めずに腕の中のセシリアへと視線を向ける。
「セシリア、どうしたんだ?」
「むぅ……先程、鏡さんの手を握っていましたわ、鏡さんは友人だとしても少し嫉妬してしまいます」
成る程、さっきセシリアが俺の事を見ていたのはそういう事だったのか。
「そういう事か、すまない」
「……その、面倒臭いでしょうか?」
「ん? 何がだ?」
「その、悠斗さんは他意など無いとわかっているのですが、他の女性の手を握っていただけで嫉妬してしまう私の事が……」
不安そうに上目遣いで尋ねて来るセシリアに、俺は出来る限り優しく頭を撫でてやった。
「そんな事思う筈が無い、それだけセシリアに想われているんだからな」
「本当、ですの……?」
「あぁ、セシリアに嘘は吐かない」
「悠斗さん……」
「こらこらこらこら、皆の前でイチャイチャすんなって何回言えばわかるのよ」
背後から掛けられる声、しかし振り向いたが姿が見えな……。
「悠斗! 何回その下りをするつもりなのよ!? そろそろ本気でキレるわよ!?」
大声で騒ぐ鈴……全く、冗談の通じない奴だな。
「ったくもう……ほらセシリア、さっさと離れなさいよ」
「そんな……まだ悠斗さん成分が補充されていませんのに……」
「いや何よその謎の成分は、駄目なものは駄目なの、周りの皆に悪影響だから」
「あ、お気になさらずとも大丈夫ですわ、私は構いませんから」
「あんたらはどうでも良いのよ! こっちが気にするの! 良いからさっさと離れなさい!」
凄まじい剣幕で捲し立てて来る鈴に、セシリアが渋々といった様子で離れた。
「ったく本当にこの二人は……」
「まあまあ鈴、そんなに怒るなよ」
鈴の後ろから織斑とデュノアがやって来た。
突然後ろから声を掛けられ、一瞬だけ肩を震わせた鈴だったが何とか表情には出さずにいる。
「怒りたくもなるわよ、ちょっと前まではこんな事しなかったのに……」
「あ、あはは……じゃあ最近はずっとこんな感じなんだ……」
「はぁ……で? 一夏は何か用があったの?」
「あぁ、良かったらさ、今日の昼にシャルルと一緒に皆で飯食わないか? シャルルの歓迎会的な感じも兼ねてさ」
歓迎会、か……正直いつもの面子で食べていた方が楽なんだがな。
いや、待てよ? 織斑がここにいる面々を誘っているという事は必然的に鈴も同席するという事……鈴の為にも誘いに乗るべきだな。
ふと視線をセシリアへと向ければ何も言わずに一度頷いた、恐らく俺と同じ考えに至った様だ。
「俺は別に構わないぞ」
「私も構いませんわ」
「お! ありがとう二人共! 鈴も来てくれるか?」
「し、仕方無いわね、別に……あ、あんたと一緒なら良いわよ」
「えっ!? お、おう……そっか、ありがとな……」
互いに顔を赤くしながら俯く二人、その様子をセシリアとデュノアが目を輝かせながら見ている。
いやセシリアはわかるが、デュノアは男だろうが、何だその反応は……。
「……はっ!? ば、場所は食堂で良いの!?」
「……えっ!? あ、いや、場所は屋上にしようと思ってるんだ。 食堂だと俺達男子の周りが騒がしくなるだろうし」
……確かにな、それぞれ別で食っていれば大丈夫だが、三人集まっていれば話どころでは無くなりそうだ。
「じゃあ昼休みに屋上に行けば良いのね?」
「あぁ、皆それぞれ購買で買ってから集合にしようぜ、シャルルに購買の場所教えておいた方が良いしな」
「オッケー、なら昼休みにね」
そう言うと鈴は先に教室へと戻って行った。
それに習い俺達も着替える為に更衣室へ、セシリアは教室へとそれぞれ向かうのだった。
その後、授業が終わり俺とセシリアは一度相川達に昼は屋上で食べるという事を伝えてから教室を出る。
ちなみに織斑とデュノアは俺達が話をしている間にいち早く購買へと向かった様で、恐らくは鈴も既に向かっている筈だ。
三人を待たせる訳にはいかない為に直ぐに購買へと向かう。
セシリアは以前と同じでサンドイッチを、俺はおにぎりとおかずを数種類買い込んでから屋上へと向かった。
「お、来た来た」
屋上へと出ると、やはり三人は既に集まっており俺達が最後だった。
「申し訳ありません、お待たせしましたわ」
「いやいや、俺達も今来たばかりだからさ、それに一番早かったのは鈴だしな」
「い、言わなくても良いでしょ!」
鈴、余程織斑と一緒に食べるのが楽しみだったのか。
それから五人で屋上の一角に輪になって座った。
「じゃあとりあえず改めて、IS学園にようこそ! これから宜しくなシャルル!」
「うん、ありがとう一夏」
織斑の言葉で食事を始める。
黙々と食べているとふと視線を感じた為に顔を上げれば、デュノアが何やら俺の手元を見ている。
「何だ?」
「うわぁ……いや、悠斗って凄く食べるんだね?」
「いや、いつもよりは少ないが?」
「えっ!? 嘘!? これで!?」
「これで驚いてたら普段の量を見たら卒倒するわよ? 見てるだけで胸焼けするぐらいだし、まぁ図体デカい分食べる量が多いんでしょうけど……はん、燃費の悪い身体よね」
「煩いぞチビ」
「何をー!?」
掴み掛かって来る鈴を、おにぎりを食べながら片手で押さえる。
食事中に騒ぐな、全く。
「ふふっ、ですが普段は格好良いのに、沢山美味しそうに食べる悠斗さんはとても可愛らしいんですのよ?」
「はい待った、隙あらば惚気るのやめて貰えない?」
「惚気る? 私はただ思っている事を言っただけですが……?」
「無自覚でこれよ、普段聞かされる身にもなって欲しいわ」
「あら、普段お話するのはほんの一部だけですのよ? 宜しければ今度のお休みにもっと詳しくお話致しますが?」
「やめて、そんなの聞いてたら身体中の至るところから砂糖が吹き出して来そうだわ」
「あ、申し訳ありません鈴さん、お休みの日は悠斗さんと一緒にいなければいけませんので残念ですが……」
「いや聞いて無いから、一緒にいないといけないなんて決まりは無いから、てか何よその決まりは?」
「あら? 愛する方とは片時も離れたく無いもの、それは世の常ではありませんの?」
「ごめん、私が悪かったからやめて、お願いだからこれ以上私にダメージを与えないで」
セシリアと鈴の会話が続く中、最後のおにぎりを食べ終える。
すると向かいに座っていた織斑が俺に話し掛けて来た。
「なぁ悠斗、確かに二人は付き合ってるしいつも仲が良いってわかるんだけどさ、いつもオルコットさんからしかそういう事を聞かないけど悠斗は言わないのか?」
「……何をだ?」
「いや、好きなんだってのはわかるけど、オルコットさんみたいに直接好きとかってあんまり聞いた事無い様な気がしてさ」
「あ、僕も気になるな!」
「あっ、馬鹿! 余計な事言うな!」
……別に、言わない訳では無いんだがな。
「確かに俺は他の奴とそんなに話す方じゃ無いが、セシリアに対しては別だ。 それにここ最近は俺の気持ちも伝えてはいると思うが?」
「いや、確かに言ってるけどこう……直接言ってる所を聞いた事無いから」
「そうだったか? 勿論俺はセシリアの事が好きだ、初めて会った時から惹かれていた、一目惚れというやつだな。 その綺麗な蒼い瞳に、己に厳しく何処までも高みを目指す強さに、そして優しさに、全てにおいて美しいと思った……それに、こんな俺に好意を抱いてくれて俺の気持ちに答えてくれたからな」
「おぉ……! で、でも悠斗、この学園って下心無しにしても綺麗な女子も可愛い女子も多いし、今日の授業でもそうだったけど悠斗はオルコットさんと付き合ってるのに未だに猛アプローチを受けてるだろ? その、気持ちが揺らぐというか、靡いたりしないのか?」
「無いな、今言った様に俺はセシリア一筋だ。 そもそも俺は所謂浮気だとかそういった事が大嫌いなんだよ、例え他の誰かに何を言われたとしてもセシリアを好きだという気持ちは揺らがない。 セシリア本人に拒絶されない限り、身も心もセシリア以外に捧げるつもりは微塵も無い」
「「おぉ……!」」
「っ……! 悠斗さん……!」
俺の言葉を聞いたセシリアが隣から抱き付いて来る。
「私が悠斗さんを拒絶する事なんて絶対に有り得ませんわ! 例え何があろうとも、私は一生悠斗さんだけを愛し続けます!」
「……あぁ、俺もずっとセシリアを愛し続ける」
強く抱き締めて来るセシリアの背を優しく擦りながら、互いに強く抱き合う。
「わぁ……! うわぁ……!」
「あれ……? 漬物が、甘い……?」
「だから言ったじゃないこの馬鹿! そっちのあんたも! 男の癖に女子みたいに目を輝かせてんじゃ無いわよ!」
目の前で騒ぐ三人に構う事無く、時間が許す限りセシリアの温もりを感じているのだった。