インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第55話 結成

「……そんな事があったのか」

 

アリーナでの特訓を終え、食堂にていつもの面子で食事をしながらセシリアから事情を聞いていた。

 

ボーデヴィッヒの様子を見るに何かやらかすであろうと思っていたが、まさかISを展開していない相手に武装を繰り出そうとするとは。

 

「オルコットさん、大丈夫だったの……?」

 

「えぇ、幸いにも攻撃は当たらなかったので怪我も何もありませんでしたわ」

 

相川の言葉にそう答えるセシリアだが、あくまでもそれは運が良かっただけだ。

 

もし攻撃が当たっていたら……考えるだけで、恐ろしい。

 

「セシリア、事情はわかったが無茶はしないでくれ。 以前の事があるから俺が言う訳にはいかないんだが、もしセシリアの身に何かあったら……」

 

「申し訳ありません……しかし、ボーデヴィッヒさんのあの発言を許す訳にはいかなかったのです」

 

セシリアの気持ちは大いにわかる、過去に家族を亡くしたセシリアにとって、家族の絆を否定される事は何よりも許しがたいもの。

 

「……そうか、セシリアの行動を否定するつもりは無い、だが本当に気を付けてくれよ?」

 

「はい、心配をお掛けして申し訳ありませんでしたわ……」

 

「謝らないでくれ、セシリアが無事だったのならそれで良いんだ」

 

「悠斗さん……」

 

 

「あ、また始まった」

「ふふっ、もう見慣れた光景だよね」

「相変わらず二人は熱々~」

 

 

目の前の三人が何か言っているが、気にする事無くセシリアと見つめ合う。

 

「でもボーデヴィッヒさん、どうしてそこまで織斑君の事を目の敵にしてるんだろう?」

 

「……それがわからないのですわ、聞いたのは彼を織斑先生の弟として認めないと、弱い存在は織斑先生に必要無いと、ただそれだけを言っていましたので」

 

「納得出来ないな、何があったのかわからないが、ボーデヴィッヒに織斑を否定する権利なんて無い筈だ」

 

「悠斗さんの仰る通りですわ、だからこそ私もボーデヴィッヒさんの発言が許せませんでしたの」

 

織斑をあいつの弟として認めない、か。

 

どんな事情があれど二人は家族、その関係は一生変わらないものだ。

 

だが、何があったらそこまで織斑の事を否定するのだろうか?

 

織斑の様子を聞く限り、過去に何かあったのは明白だが……。

 

「……織斑はその事で何か言っていたのか?」

 

「いえ、とても話しづらそうな様子だったので言及はしていません」

 

「……そうか、なら織斑が話してくれるまで待つしか無いな」

 

無理に聞き出す様な事はしたく無い、本人が話してくれるまで待とう。

 

そのまま食事を済ませ自室へと戻り、いつもの様に俺の部屋へと来たセシリアと共に就寝するのだった。

 

 

 

 

 

 

「諸君、聞いている者もいると思うが、来週から学年別トーナメントが始まる。 例年までなら個人戦で行っていたのだが、今年は前回のクラス対抗戦でのアクシデントを考慮して二人一組、ツーマンセルで開催する事となった」

 

翌日、HRで織斑千冬から告げられた言葉に、クラス中がざわつく。

 

二人一組か、条件等が無ければセシリアと組む以外考えられないな。

 

「ちなみに組む相手は違うクラスの奴でも構わん、特別な条件も無い……そういう事だから五十嵐、オルコットの二人で組むのも構わんぞ」

 

「……それはありがたいな」

 

「だがお前達二人が組むからには情けない結果は出すなよ?」

 

「心配無用ですわ織斑先生、悠斗さんと組むからには優勝以外考えておりません。 織斑先生に私と悠斗さんの愛の成せる素晴らしいコンビネーションをお見せ致しますわ」

 

「え? あ、そ、そうか……」

 

「頑張りましょうね、悠斗さん!」

 

「あぁ、最善を尽くすつもりだ」

 

別に優勝に興味がある訳では無いが、セシリアと組むのなら負ける気はしない。

 

以前の無人機襲撃の際に実感したが、セシリアの後衛での支援はかなり心強い上に戦闘中のお互いの息も合っていた。

 

経験も実力も俺達よりも上である上級生が相手なら別だろうが、一年の中では負けない自信がある。

 

 

「うわっ!? 最強タッグが出来た!?」

「わかっていたけど、勝てる気がしない……!」

「くっ……! 最強夫婦が……!」

「い、五十嵐君は無理だけど、織斑君かデュノア君となら!」

 

 

何やらクラスの奴らの視線が織斑とデュノアに集まる。

 

すると織斑はその危機に気付いたらしく、慌ててデュノアへと視線を向けた。

 

「シャ、シャルル! 一緒に組もうぜ!」

 

「えっ? あ、うん、勿論良いよ?」

 

「よっしゃ!」

 

……まぁ、そうなるだろうな。

 

正直に言えば織斑には鈴と組んで欲しかったが、そうなるとデュノアが全員の餌食になってしまう。

 

鈴には悪いがこの二人が組むべきだろう。

 

 

「そんな……!?」

「神は……死んだ……」

「待って! ポジティブに考えるのよ!」

「そうよ! ベストカップルが出来たと思えば!」

「織×シャル、いやシャル×織!?」

「滾って来たわ……!」

 

 

訳のわからない言葉を発する一部の奴ら、心からこの話題に自分の名前が出なくて良かったと思える。

 

「静かにせんか! まだHRの最中だぞ!」

 

案の定織斑千冬が一喝すると、途端に静かになる。

 

「全く……ペアの申請は三日後までに済ませろ、それまで決まらなかった奴は此方で勝手にくじ引きで決めるからな」

 

そう言ってから山田に引き継ぎ、そのままHRが進められた。

 

その後の授業は特に何事も無く、昼休みを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

「悠斗さん、食堂に行きましょう?」

 

「あぁ、そうするか」

 

昼休みに入って直ぐにセシリアが俺のもとへとやって来る、そのままセシリアと共に食堂へと向かおうと立ち上がった所で織斑とデュノアが俺達の方へとやって来た。

 

「悠斗、良かったら昼一緒にどうだ?」

 

「ん? まぁ、別に構わないが……」

 

「本当か? 鈴も誘ってて先に行ってるみたいだから五人で食おうぜ!」

 

「ほう? それを聞いたら尚更行くしか無いな」

 

「うっ……あ、あんまり弄るなよ?」

 

「さあ、どうだろうな」

 

「……悠斗って意外と意地悪だよな」

 

それは心外だな、織斑と鈴の仲を応援しているだけなんだが。

 

「悠斗さん悠斗さん、私にも少しだけ意地悪して下さっても構いませんわよ?」

 

セシリアが何故か期待に満ちた目をしながら俺を見つめて来る。

 

「え? いや、セシリアにそんな事は……」

 

俺の言葉にセシリアは何やら残念そうな表情を浮かべてしまった。

 

……何故だ?

 

『主様、奥様は恐らく主様の普段とは違った姿を見たいのかと』

 

黒狼が何か言って来る。

 

普段と違う姿と言われてもな、冗談でもセシリアにそんな真似はしたく無いんだが……。

 

『男性も女性も、好意を抱く相手の普段とは違う姿に魅力や刺激を感じるもの。 奥様も主様にそれを求めておられるのかと』

 

自棄に詳しいな、何故そんな事を知っているんだ?

 

『ネットワーク経由で調べました。 評価等を見るに信憑性は高いと思われます』

 

……それは信憑性が高いと言えるのか?

 

気のせいだと思いたいが、最近黒狼が少し変わった様な気がする。

 

『いえ、主様と奥様の仲を取り持つのも主様に仕える従者として当然の事にございます』

 

そ、そうか……本当に、セシリアはそういったものを求めているのか?

 

『はい、間違い無いかと』

 

だが今目の前には織斑とデュノア、そして周りには他の奴らがいる。

 

普段は気にしないがこれに関しては余り見せたく無いな、なら……。

 

セシリアの耳へと顔を近付けさせる。

 

首を傾げるセシリアの耳元で、セシリアにしか聞こえない様に小さな声で囁いた。

 

 

「……夜になったら、部屋でしてやる」

 

「あぅ……!?」

 

 

俺の言葉に、セシリアは顔を耳まで赤くしながらも小さく頷き、そのまま腕へと強く抱き付いて来た。

 

『流石は主様、お見事でございます』

 

……やめてくれ、世辞でも言うな。

 

正直自分には似合わない上に我ながら恥ずかしい発言なのはわかってはいる……だが、セシリアが喜んでいるみたいだから良かった。

 

 

「えっ、ゆ、悠斗……? な、何を言ったんだ?」

 

「……何でも無い」

 

「わぁ……! うわぁ……!」

 

「……お前はお前で女みたいな反応をするな」

 

騒ぐ二人をあしらいつつ、俺達は食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!! またあのバカップルが何かやらかしてる気がする!?」

 

「……鈴音さん、何言ってるの?」

「つ、疲れてるのかな?」

「お~リンリンはエスパーだったんだ~」

 

食堂にて、そんな会話が繰り広げられていたとかいないとか。


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