屋上での一件の後、教室に戻った俺を織斑が何かあったのかとしつこく尋ねて来た。
馬鹿の癖にそういう所に鋭いとは、何とも厄介な奴だった。
それから昼休みが終わる直前にオルコットが教室へと戻って来たがあからさまに俺と視線を合わせようとせず、その後の休み時間にも此方に来る事は無かった。
……やはり、俺が変な事を言ったせいだろうか。
内心自己嫌悪に陥りながらも、その日の授業は終わった。
「なぁ悠斗、悠斗は自宅から通ってるのか?」
放課後になり、織斑が直ぐに俺の元へと来て話し掛けて来る。
本当はオルコットに謝りに行きたかったのだが邪魔されてしまったな。
視線を一瞬オルコットの方へと向ければ、オルコットは誰よりも先に教室から出て行ってしまった。
「悠斗? おーい、悠斗?」
「……うるさい、何度も呼ばなくても聞こえてる」
「な、何だよ? 俺何か怒らせる事したか?」
「……はぁ、何でも無い」
こいつに当たった所で何の意味も無いか。
「俺は自宅じゃない、近くのホテルからだ」
「あ、そうなのか? 俺は家からなんだけどさ、途中まで一緒に帰ろうぜ?」
「男子二人……家……ホテル……閃いた!」
「天真爛漫な織斑君とクールな五十嵐君……滾るわ!」
「どっちが攻めかな!?」
「それは勿論五十嵐君でしょ!?」
「逆も捨てがたいわね!」
「さ、誘い受けとか……」
『それも有りね!!』
何か、身の毛もよだつ会話が繰り広げられている、油断すると吐きそうだ。
「……一人で帰れ」
「えぇっ!? 何でだよ!? 俺は悠斗と一緒が良いんだ!」
『きゃあっ!?』
「織斑……頼むから黙れ……」
頭痛がしてきた。
この不毛な会話を早く終わらせたい。
「あっ! 良かった! 二人共まだ残っていたんですね!」
頭を抱えていると、何やら山田が俺達の元へと駆け寄って来た。
「山田先生? どうしたんですか?」
「えっとですね、お二人には今日からこの学園の学生寮に入居して頂く事になりましたので、それを伝えに来ました」
……何だって?
「え、今日からって……着替えとか荷物とか何もしていないのに……」
「それなら私が用意してやった」
山田の後ろから、織斑千冬がやって来た。
「一先ずは着替えと携帯の充電器さえあれば良いだろう、荷物は既に部屋に運んである、有りがたく思え。 五十嵐も、ホテルにあった荷物は部屋に運んでいるしチェックアウトも済ませている……とは言っても、着替えくらいしか無かったが」
……勝手な事を。
「これは必要な処置だ。 お前達二人はこの世界で唯一ISを動かす事の出来る男性操縦者、自宅やホテルよりも警備の整っている学園の方がお前達も安全だろう?」
「……監視もしやすいだろうしな」
「人聞きの悪い事を言うな五十嵐、お前達の身の安全を考慮した措置だ」
「はっ……物は言い様だな」
上体を逸らせば、出席簿が唸りを上げて通り過ぎて行く。
「避けるな、五十嵐」
「それは無理だな」
「全く……とにかくこれは決定事項だ、鍵を受け取り次第部屋へと向かえ」
「で、でも千冬姉……あだっ!?」
織斑の頭を、出席簿が襲い掛かった。
「織斑先生だ、何度も言わせるな馬鹿者が……しかし、やはりそう簡単に避けられる筈は無いんだがな」
出席簿を手にしながら俺を見てくるが何も言わずに無視する。
避けようと思えば避けられるだろうが。
「ま、まぁまぁ織斑先生落ち着いて下さい……では織斑君、五十嵐君、これが寮の部屋の鍵です。 一応スペアキーはありますけど、失くさない様に気を付けて下さいね?」
鍵を受け取り、部屋の番号を確認すると一つ疑問が。
「あれ? 山田先生、男子は俺達だけなのに部屋は別なんですか?」
そう、織斑の言う通り、俺の渡された鍵と織斑の渡された鍵はそれぞれ番号が違っていた。
普通は男は男で固める筈だが。
それにこの学園は女しかいない、男がそれぞれ別れて女と同室になると確実に面倒な事になる。
「すみません、まだ部屋割りの関係で二人の部屋を割り振れていないんです。 同室になる娘には予め伝えているので少しの間だけ我慢して下さい」
……まだ割り振れていないなら無理に寮に住む必要は無かっただろうが。
思わずそう言いそうになったが寸での所で我慢する。
「あ、それから寮には大浴場があるのですが二人は使用する事が出来ませんので、部屋に備え付けのシャワーを使って下さいね?」
「え? 何でですか?」
織斑の問いに、山田は顔を赤らめ、俺と織斑千冬は呆れた表情を浮かべる。
「馬鹿者が、女子が入っている大浴場にお前も一緒に入るつもりか?」
「え……あっ! ち、違います!」
「あの、織斑君……? えっと、男の子ですし、そういう事に興味のあるお年頃なのはわかりますけど教師として見過ごす訳には……」
「だ、だから違いますって! そんな事思ってません!」
「えぇっ!? 女の子に興味が無いんですか!? そ、それはそれで問題が……うぅ、間違った道に進まない様にするのも教師の務め……正す為に私が……」
「山田先生、貴女までおかしな事を言い出さないで貰えますか?」
「あぅ、織斑先生……いえ、お姉さんと呼んだ方が良いのでしょうか……?」
「山田先生?」
「あぁでも、教師と生徒だなんてそんな禁断の……」
「山田先生?」
……はぁ、馬鹿に付き合っていられない。
三人を残し、寮へと向かうのだった。
寮の中へと入り進んで行くと、案の定周囲から好奇の視線が俺に集まる。
「あっ! あれが噂の男子!?」
「二人の内の一人よね!?」
「もう一人はいないのかしら?」
「何でも二人共イケメンらしいよ!」
「うん! あの子がクール系で、もう一人が元気系だって!」
「きゃー! こっち向いてー!」
……はぁ、うるさい。
足を止めようものなら確実に面倒な事になる。
周りには一切目もくれず、真っ直ぐに部屋へと向かった。
「……ここか」
鍵の番号と部屋の番号を何度も見直し、間違いが無いかを確認する。
あいつらの言い方だと同室の女がいる筈、軽率な行動は面倒に繋がるだろう。
扉をノックして、少しだけ間を空けてから部屋へと入った。
「…………ん?」
そこで違和感を感じる。
二人で使うには少々広すぎる気がするが、きちんとベッドは二つあり、凝ったものでは無いがキッチンと冷蔵庫、洗濯機が設置されており奥にある扉が恐らくは浴室だろう。
見回してみて、違和感が何なのかを考えるとそれは直ぐにわかった。
どう見ても、同室の奴がいる気配が無い。
これは……?
「あぁ、やはりもう来ていたか」
扉の前に立つ俺の後ろから声が掛かり、振り向けば織斑千冬がいつの間にか立っていた。
「織斑には悪いが、お前は同室の者はいないから一人部屋だ」
「……それを聞いて安心だ」
「一人部屋だからと言って、無闇に女子を連れ込む事だけはするなよ?」
その言葉に何も言わずに後ろ手で扉を閉めた。
……まぁ、一人部屋になったのは素直にありがたい。
制服の上着をベッドへと放り投げ、先ず初めに荷物整理を始める事にした。
その際、遠くの方から微かに織斑の悲鳴らしき声と何かを砕く様な音が聞こえた気がしたが、深くは考えずに荷物整理を再開するのだった。