インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第56話 衝突

「では先に行ってますわね?」

 

「あぁ、すまないな」

 

「大丈夫ですわ、少し遅れるだけですもの」

 

「……なるべく早く終わらせる」

 

「はい、では後程」

 

触れるだけのキスをしてから、私は教室を後にしました。

 

クラスに残っていた方達から悲鳴に似た声が上がっていましたが特に気には止めません。

 

織斑先生から告げられ、悠斗さんとのペアを申請した翌日、以前から私の申請していたアリーナの申請が漸く通った為に学年別トーナメントの戦術確認の為に悠斗さんと放課後に特訓をする事になっていました。

 

しかし、今回もまた悠斗さんは織斑先生に呼ばれてしまったので先に一人でアリーナへと向かう事に。

 

国からの申請ですから文句は言えませんが……早く悠斗さんと特訓したいですわ。

 

鈴さん達にも声を掛けはしましたが、鈴さんは他のアリーナでクラスの方へISの指南を、織斑さんはデュノアさんに学園内を案内するとの事。

 

その為悠斗さんと二人きりで特訓が出来ると思っていたのですが、あの時と同様に放課後になったと同時に織斑先生に呼び止められてしまいました。

 

「……はぁ」

 

アリーナへとやって来ましたが、悠斗さんがいない事を考え思わず溜め息を吐いてしまいました。

 

他に使用しているかた方がいれば悠斗さんが来るまでその方達と一緒にと思っていましたが、運悪く今はまだ他の利用者の方は来ていません。

 

……考えても仕方ないですわね。

 

一先ずブルー・ティアーズを展開、悠斗さんが来る前に武装や機体各部の点検を行う事にしました。

 

 

私に今必要なのはビットを使用した際、機体の動きが止まってしまわないようにする事。

 

スターライトmkⅢの同時使用は出来ますが、ビットを使用している間は意識を集中させなければいけない為に機体を動かす事が出来ない……いえ、機体性能を考えれば動かす事は出来ますが、私自身の集中力が足りていないだけ。

 

同時使用が出来る様になれば、戦略はかなり広がるのですが……。

 

「ビット!」

 

ビットを展開し、それぞれ違う軌道を描きながら相手がいる事を仮定して向かわせる。

 

そしてそのまま機体を……。

 

「……っ!」

 

やはり、動かせない。

 

少しでも意識を機体の方へと向けるとビットの軌道が思う様に行かない、こんな軌道では相手に攻撃を当てる事など出来る筈が無い。

 

ビットを一度戻し、手を強く握り締める。

 

「……やはり、まだ足りませんわ」

 

経験が、鍛練が、圧倒的に足りていない。

 

アリーナを使用出来る機会はどうしても限られてしまう、授業でも始まったばかりである今は他の方達の為に基本動作のみ。

 

アリーナ以外で使用出来れば少しは変わるのでしょうけど、基本的に学園内外でのISの私的利用は禁止されている。

 

「……はぁ」

 

再度、溜め息が漏れてしまいました。

 

幸いにも今回悠斗さんと組む上での私の役割は後衛、前衛である悠斗さんのサポートや相手への牽制が主になる為に最悪同時使用が出来なくとも何とかなりはしますが……。

 

「……それでは、意味が無いではありませんか」

 

悠斗さんは前衛と言っても黒狼さんには遠距離武装が装備されていますし、悠斗さん自身の射撃精度もかなり高い。

 

そんな悠斗さんの後衛を担うのに、こんな有り様では役に立てる筈が無いですわ。

 

近接戦ではブルー・ティアーズの性能と私自身の実力を考えれば良くて攻撃を多少防げる程度、そうなるとやはりビットと機体の同時運用が前提条件。

 

更に欲を言えばこのビット、機体の名の由来となったブルー・ティアーズの"能力"を使えれば。

 

 

"偏光制御射撃(フレキシブル)"

 

 

四機のビットから放たれるレーザーを操縦者の意のままに"曲げる"事が出来るというもの。

 

IS適正がA以上であり、ビットの稼働率が最高状態になれば使用は可能。

 

IS適正に問題は無い、しかし稼働率がまだ最高値に達していない為に私にはまだ使用する事が出来ない能力。

 

ビットをもう一度展開させ、アリーナ中央へと向けてレーザーを放つ。

 

意識を放たれた四つのレーザーに集中しますが、無情にもレーザーは直線のまま反対側のアリーナのシールドへと着弾して消えてしまいました。

 

それから数回、同じ様にレーザーを放ちその度に意識を集中させますがレーザーは一度たりとも曲がる事はありませんでした。

 

「……やはり、駄目ですわ」

 

最大稼働、一体どうすればそこに到達するのかがわからない。

 

……私には、無理だと言うのでしょうか?

 

「……っ!!」

 

強く、自らの頬を両手で叩きました。

 

機体の搭乗者保護機能により痛みはありませんが、強い衝撃が顔を襲います。

 

「弱気になるなんて、私らしくありませんわ」

 

そうですわ、今は無理かもしれませんが、諦めてはそこで終わってしまいます。

 

私が目指すのはあくまでも国家代表、今の代表候補生で終わらせるつもりはありませんわ。

 

悠斗さんの操縦技術は既に各国の代表候補生を上回っている、恐らく条件さえ調えば国家代表になるのは容易いでしょう。

 

そんな悠斗さんとこれからもずっと一緒にいると決めたんですもの、このまま諦めてしまっては悠斗さんの隣に立つ資格なんてありませんわ。

 

再度、ビットを展開しようとした……その時でした。

 

 

 

 

 

 

ブルー・ティアーズから鳴り響くロックオンされた事によるけたたましい程の警告音。

 

直ぐ様その場から飛び退くと同時に、今まで私が立っていた地面が爆発と共に吹き飛びました。

 

「ほう、今のを避けるとは……曲がりなりにもイギリスの代表候補生か」

 

その声に視線を向ければ、あの時と同じく黒く荒々しさを感じる機体を身に纏ったボーデヴィッヒさんの姿がありました。

 

「イギリスのブルー・ティアーズか……何だ、データで見た方が強そうに見えたが」

 

「随分な挨拶ですこと、そもそも貴女をお誘いした覚えはありませんが?」

 

「関係無い、それに言った筈だ……貴様に、あの発言を後悔させてやると」

 

「あら、まだそれを言いますのね? ですが私は自分の言葉を後悔した事はありませ……いえ、"あの時"の発言だけは今でも後悔していますが、それ以外ではもう後悔なんてしませんもの」

 

「……お前が何を言っているのかわからないが、私には関係無いな」

 

両肩に装備された砲塔……確かレールカノンだった筈ですわね、二つの砲塔が私へと向けられました。

 

「それに、甘ったれた考えしか持っていない代表候補生を潰すのに理由なんていらない」

 

「おかしな事を言いますのね、私は一度たりとも甘い考えなど持った事はありませ……あ、いえ、確かに悠斗さんとご一緒の時は甘くて素晴らしい時間ではありますが……それも甘い考え、なのでしょうか?」

 

「……だからお前はさっきから何を言っているんだ?」

 

ボーデヴィッヒさんとほぼ同じタイミングで首を傾げてしまいました。

 

私としては重要な事なのですが……。

 

「ま、まぁいい……とにかく、お前を潰す」

 

「申し訳ありませんが、以前お伝えした様に私は無用な争いは嫌いですの。 試合なら今度の学年別トーナメントで受けますので」

 

「……逃げるのか? 代表候補生の癖に腰抜けか?」

 

「……はぁ、そんな安い挑発には乗りません。 そういう訳では無く校則で私情での戦闘は禁止されているというだけで」

 

「所詮、お前も"あの男"も腰抜けか」

 

 

 

ピキッ……

 

 

 

頭の中で、何かが切れる様な感覚。

 

今、彼女は何と言いましたの?

 

「……あの男というのは、誰の事ですの?」

 

「"両方"だな、織斑一夏は勿論の事、あの五十嵐悠斗という奴も所詮は腰抜けだ。 ISに乗る事が出来るにも関わらず仲良し子好しなんて腑抜けた考えをしているだろうが」

 

「……悠斗さんの事を、腰抜けですって?」

 

「ふん、だからそう言って……」

 

「撤回しなさい」

 

「……何?」

 

「悠斗さんは、私の愛するあの方は決して腰抜けなどではありません。 誰よりも強く、優しい方ですわ……貴女など、足元にも及ばない程に」

 

「何を言うかと思えば……実に下らん」

 

「無用な争いは嫌いではあります、代表候補生としてこの学園にいる限り校則を破る様な事はしないつもりでしたがその様な事を言われて黙っていられる程私はまだ大人ではありませんの……覚悟なさい」

 

スターライトmkⅢを構え、ビットを展開しながらボーデヴィッヒさんに照準を合わせました。

 

「ふん、やっとその気になったか、抵抗しない奴をいたぶるよりも多少は歯応えのある方が此方としても面白いからな」

 

「その減らず口がいつまで続けられるか見物ですわね?」

 

「抜かせ、お前如き本気を出すまでも無い」

 

「あら、おかしな事を言いますのね? 本気を出さなければ……」

 

スターライトmkⅢのトリガーへと指を掛ける。

 

 

 

「問答無用で、落としますわよ?」

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