「……面倒だな」
「あのな五十嵐……面倒なのはわかるが昨日説明した様にお前はかなり特殊な扱いになる。 男でISに乗れるのは織斑と一緒だが、お前の専用機は468個目のISコアを使用している上にそれを乗りこなし、操縦技術は既に各国の代表候補生を上回っていると言っても過言では無い。 そんなお前がこのまま何処にも所属せずに野放しでいられる筈が無いだろう?」
昨日と同じ、以前も使った応接室にて俺は織斑千冬から日本からの申請の件で話を聞いていた。
要約すると、今の俺は何処の国にも属していない専用機持ち、その為に今現在暮らしている日本に籍を置いて日本の代表候補生、そして近い内に国家代表になって欲しいというものだった。
その見返りとしてかなり高額の報奨が支払われる上に、国家代表になった暁には軍事に置けるあらゆる際の特別権利を与えられる。
だがその分柵が出来るらしく、他国への入国の際には面倒な手続きが付き纏う事となるのだ。
……それに確かに自分の身を、そしてセシリアと束、クロを守る上でISは戦力と呼べるが、束の夢を知っている身としてISを兵器として扱いたくは無い。
軍事に置ける権利など、俺には必要無いのだ。
「これは前代未聞の措置だ、受けていて損は無いだろう?」
「報奨に関しては魅力的なんだろうが、柵が出来る上に他国への移動が面倒になるのは避けたいんだがな」
「それは仕方無いだろう? 今はまだ極一部にしか情報は明かされていないが、各国がお前とお前の専用機の存在を知ったらあらゆる手段を使ってでもお前を引き入れようと躍起になるぞ」
「それは、わかっているんだがな……」
束はあくまでも俺の身の安全を考慮し、防衛の為に専用機を渡したが、専用機を持つという事はそれ相応の覚悟が必要であると理解はしていた。
しかし自由に出入国が出来ないのは避けたい、近い内にイギリスに、セシリアの両親の墓へと行きたいと考えているのだ。
それにこの学園を卒業した後もセシリアと一緒にいるつもりだが、セシリアは祖国であるイギリスの国家代表を目指している筈。
互いに国家代表という立場になってしまえば自由に会う事すら儘ならない。
「……いっその事、イギリスに籍を置いても良いかもしれないな」
「は? はぁっ!? ま、待て五十嵐! 本気で言ってるのか!?」
「割りと本気だが?」
俺の言葉に驚いて慌てた様子の織斑千冬に至って冷静にそう返す。
「っ……! そ、それは、オルコットと関係しているのか?」
「あぁ、ここを卒業してからもセシリアと一緒にいるつもりだからな、それならイギリスに交渉して向こうで話を聞いても恐らくは似た様な条件を出す筈だ。 それに、どうせ日本に残っていても俺には肉親もいなければ故郷と呼べる場所も無いからな」
「それは……っ」
何かを言い掛ける織斑千冬だったが、やがて何も言わずに俯いてしまった。
そういう顔をされると俺が困るんだがな。
「……はぁ、別にお前が悪い訳じゃないだろ? お前も政府やIS委員会から色々と言われているんだろうから今直ぐに決断するつもりは無い。 卒業までという条件で搭乗データは定期的に送り続ける、それで一先ずは上に伝えておいてくれ」
「……すまないな、わかった。 先方にはそう伝えておこう」
「お前程の奴でも、教師という立場は楽じゃないんだな」
すっかり萎れた様子の織斑千冬に何の気なしにそう言った途端、何故かその目が鋭いものに変わった。
「楽なものか! 只でさえお前と織斑の件で大変なのに無人機襲撃にお前の国家代表案、そして代表候補生の転校生二人にその内一人のラウラは転校初日の初っぱなから問題を起こそうとするし……あぁ、そういえばあの時は止めて貰って助かった。 いや、だがお前もお前だ、オルコットと恋仲なのは構わないし私がとやかく言うつもりは無いが学園内でくっついたり……その、キ、キスしたり……節度を持てと言った筈だろう!? 他の生徒から苦情が半分、二人には何も言わずに見守って欲しいという言葉が半分、それぞれ上がっているんだぞ!?」
「……半々なら別に良いんじゃないのか?」
「良くない! 第一お前達は人目も憚らずに……私だって相手もいないのに……束も言ってたが今時の奴はそれが普通なのか……?」
何やらぶつぶつと呟き始める、これは地雷を踏んだかもしれないな。
ふと壁に掛けられた時計に目を向ければ既に時間は三〇分を経過していた。
「話はもう終わりで良いか? セシリアを待たせているしアリーナの使用時間は限られているんだが?」
「ちっ……仕方無い……」
恨めしそうに睨んで来る視線から顔を背けつつ立ち上がる。
その時、突然扉が開かれた。
「い、いた!」
「五十嵐君! 良かった!」
入って来たのは二人の女……名前はわからないが、確か同じ一年で違うクラスの奴だった様な……。
「俺に何か用か?」
「は、早くアリーナに来て!」
「オ、オルコットさんが大変なの!」
その言葉に、思わず頭が真っ白になった。
待て、何故そこでセシリアの名前が出る? 大変って、どういう事だ?
「あ、あの転校生の娘がオルコットさんを……!」
「オルコットさん、私達を庇って……!」
「っ……! セシリア……!」
二人を押し退け、後ろから響く俺を呼び止める声を無視して応接室を飛び出した。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「くっ……!」
迫り来る砲弾、それを寸での所で回避してからスターライトmkⅢで撃ち返す。
放たれたレーザーは寸分違わずに彼女へと迫りますが、同じく寸での所で避けられてしまう。
「っ……ビット!!」
ビットを四機展開、そのまま彼女へと向かわせそれぞれの方向からレーザーを放つと同時に手にしたスターライトmkⅢを放つ。
「ちぃっ……!!」
計五つのレーザーをボーデヴィッヒさんは身体を捻って回避行動を取る。
当てられたのは一発だけ、それも装甲を僅かに掠めただけでした。
ボーデヴィッヒさんの機体、ドイツの第三世代機。
本国の話ではまだ試験段階と聞いていましたが、実用化されていたのですね。
しかし、本国から聞いた話が本当であれば、余り時間を掛けては確実に不利になる。
だからこそ、短期決戦で落としますわ……!
ビットへと意識を集中、軌道を更に複雑なものとしながら彼女へと迫る。
彼女はあろう事か悠斗さんを、私の愛する方を貶した。
悠斗さんの事を何も知らないのに、以前の無人機襲撃事件の時にどれだけ他の方達の為に奔走したのか知らないのに……自分では無く人を守る為に、大怪我まで負った事を知らないのに。
何も知らないのに、悠斗さんを貶すなんて、絶対に許さない……いえ、許す訳にはいかない。
四機のビットがそれぞれの方向からレーザーを放つ。
それを彼女はその場からスラスターを使用して避けた。
違う、"避けさせた"
四機のビットから放たれたレーザーは一ヶ所だけ避けられる軌道で放っていました。
そして彼女は、その軌道に気付いて避ける。
その瞬間を見逃さずスターライトmkⅢで狙撃、放たれたレーザーは寸分違わずに彼女の機体を捕えました。
「ぐぅっ……!?」
レーザーがまともに入った事で体勢が崩れるボーデヴィッヒさん、その隙を逃さずに
「がっ……!?」
地面を抉りながら後方へと吹き飛ぶボーデヴィッヒさん、追撃はしませんがスターライトmkⅢを構えつつビットを展開してそれぞれで照準を合わせました。
「……立ちなさい、まだ終わっていませんわよ?」
「ちっ……遠距離特化の機体で接近戦、しかも打撃とはな」
「悠斗さんの真似をしてみましたが上手く行きましたわ、剣術の心得はありませんがこれならいざという時に不意打ちとして使えますわね……後で悠斗さんにちゃんとご指導して頂きましょうか」
「はっ、見た目と違ってとんだじゃじゃ馬だな……!」
「あら? こう見えて私、意外とお転婆なのですわよ?」
軽口を言い合いながらも決して隙を見せない。
今伝えた様にまだ終わっていません、このまま完膚無きまでに叩き、悠斗さんへの発言を撤回させるまでは……あ、それと織斑さんへの発言もでしたわね。
いけませんわね、つい悠斗さんの事で頭に血が登ってしまって忘れていましたわ。
「貴女がどの様な思想を持っているのか、何が貴女をここまでさせるのかわかりませんが貴女の発言を許す訳にはいきません」
「許すか許さないかなど知った事では無いな……それに、勝つのは私だ」
「何を言うかと思えば……」
ボーデヴィッヒさんの言葉は只のはったり、そう考えていたその時でした。
「あれ? オルコットさんと、転校生の娘だ」
私の直ぐ近くから聞こえて来た声、視線を入口へと向けるとそこには今日アリーナを使う予定である違うクラスの方がISスーツを着て立っていました。
それを見て、嫌な予感が頭を過る。
視線を前へと戻した時、既に振り下ろされていた。
風を切る鋭い音と共に飛来して来るのは以前私に向けていたワイヤーブレード、しかし以前と違うのは、向かっているのは私にでは無く今正にアリーナへとやって来た方達。
あの時と同じ、ISを展開していない、彼女達に対して。
「っ!? 危ない!!」
「えっ? きゃあっ!?」
咄嗟に、
間一髪、彼女達に届く前に私の機体へとワイヤーブレードは突き立てられました。
肩の装甲が僅かに欠けてしまいましたが、機体に影響が出る程では……。
《警告 機体制御不能》
「なっ……!?」
視界に表示されたブルー・ティアーズからの警告に、思わず私は驚愕してしまいました。
しかしそこで私は思い出す。
ボーデヴィッヒさんの機体、ドイツで開発された第三世代機《シュヴァルツェア・レーゲン》
あの機体に搭載されている、AICと呼ばれる機能の事を。
「くっ……早く逃げて下さい……!」
「で、でもオルコットさん……」
「私は良いので、早く……!!」
そう訴え掛ければ、彼女達は戸惑いながらもその場から逃げて行きました。
彼女達に怪我が無くて、良かったですわ……。
「ふん、やはりな、お前の様な奴であればこうするとわかっていた」
いつの間にか直ぐ傍に立っていたボーデヴィッヒさんから掛けられる声。
「こんな事……ISに搭乗していない、関係の無い方に攻撃するなんて、何を考えていますの……?」
「その場で使える手段や戦略は躊躇わずに使う、軍人として当然の考えだろう?」
「軍人、ですか……貴女の国の軍人が皆その様な考えを持っているのでしたら、酷い話ですわね……」
「貴様……祖国の軍を愚弄するのか!」
「軍人とは国民を、一般人を救うべくあるべき存在ですわ……貴女の様な考え方は、決して軍人とは呼べません」
「何処までも癪に触る奴め……その減らず口、黙らせてやる。 お前の強がりがいつまで続くか見物だ」
ボーデヴィッヒさんの機体から、ワイヤーブレードが再度展開されました。
そして、そのまま……。