校舎の廊下を、全力で駆ける。
校舎に残っている他の奴らが何事かと驚きの目を俺に向けて来るがそんな事を気にしている余裕など俺には無かった。
ドイツの代表候補生、あのボーデヴィッヒが何故セシリアに!? あいつの狙いは織斑だったんじゃ無いのか!?
織斑は基本的に鈴かデュノアと一緒にいる事が多い、俺がいなくともあいつは問題無いと考えていた、狙いは織斑ならば他の奴は問題無いと。
だからこそ、セシリアを一人で待たせる事に不安や危険を感じていなかった。
「っ……! クソが……!」
自分の考えが足りなかった事への苛立ちから、思わず悪態を吐いてしまう。
『主様! 落ち着いて下さい!』
落ち着いていられるか! セシリアが危険なんだぞ!?
『っ……も、申し訳ありません』
アリーナの状況はわからないのか!? 束の様にカメラをハッキングは!?
『も、申し訳ありません……束様と違い、IS以外の機器に干渉する事はまだ……』
沈んだ声音になる黒狼に、一度頭を振る。
っ……すまない、お前に当たるなんて……。
『い、いえ……』
だが、現在のアリーナの状況がわからないとなれば尚更急がなければいけない。
最悪の考えが一瞬頭を過るが、再度頭を振って無理矢理その考えを消し去る。
大丈夫……セシリアなら大丈夫だ……イギリスの代表候補生であり、あれ程の実力を持っているのなら。
校舎を出て、アリーナへと向かう。
使用許可が出たのは第2アリーナ、幸いにもここから距離はそれ程遠く無い。
「悠斗!」
突然呼ばれ視線を隣へと向ければISスーツを着た鈴の姿が、そのまま隣へと並走して来る。
「セシリアが危険ってどういう事なの!?」
「聞いたのか!?」
「他のクラスの娘が私を呼びに来たのよ! あのドイツから来た転校生がセシリアに戦闘を仕掛けたって!」
「畜生が……!」
鈴の言葉、間違いであって欲しかったがやはり間違い無い様だ。
更に走るスピードを上げ、並走していた鈴を置き去りに急ぎ第2アリーナへと向かう。
「ちょ!? 速っ!? ま、待ってよ!!」
「い、五十嵐君!!」
前方に漸く見えてきた第2アリーナの入口、騒ぎを聞き付けた他の奴らが野次馬の様に集まり人だかりが出来ている。
その中に鏡の姿があり、俺を見付けると慌てて駆け寄って来た。
「た、大変なの! オルコットさんが……オルコットさんが……!」
必死に訴え掛けて来る鏡、その目には堪えきれずに涙が浮かんでいる。
その涙に、中で起こっている事が、先程頭を過った最悪の事態が再度浮かんで来た。
「っ……!! そこを通せ!! 退けろ!!」
鏡の横を抜け、集まっていた奴らを押し退けながら進む。
違う、そんな筈が無い、セシリアなら……セシリアなら大丈夫だ……。
そして、俺は思わず呆然と固まってしまった。
アリーナ内に響き渡る衝撃音と金属音。
視線の先で、セシリアがブルー・ティアーズに搭乗したまま一方的な蹂躙を受けていた。
ワイヤーの様な物がセシリアの首に巻き付いており、力任せに振り回されてアリーナの壁や地面へと何度も叩き付けられている。
既に装甲は見るも無惨なまでに砕けており、搭乗者保護機能は既に限界に近い事が目に見えている。
「……黒狼」
『……主様の意のままに』
黒狼を展開、次いで手足に武装、黒爪を展開させた。
身体が熱い、今俺はどんな顔をしている? 自分ではわからない、わかるのは、怒りが振り切っているという事だけだ。
傍にいた奴らが俺を見て何かを察したのか慌てて離れ始める。
視線の先で、より高くセシリアが振り上げられそのまま頭から地面へと叩き付けられようとしている。
初速で最高速度に達し、その場から飛び出した。
一瞬でセシリアの元へと辿り着き、首に巻き付いていたワイヤーを叩き切る。
そして出来る限り優しく、衝撃を与えない様細心の注意を払いながらセシリアを抱き止めた。
「セシリア……!」
「……ふふっ、悠斗さんなら来て下さると思っていました……やはり私にとって悠斗さんは
やはり保護機能は限界だったのか、俺を見るセシリアの目は虚ろで意識の混濁が見られる。
「良かった……本当に……悠斗さんが、来て……下さって……」
「……あぁ、もう大丈夫だ」
「はい……」
俺の言葉にセシリアは一度笑みを浮かべると、そのまま俺の腕の中で気を失ってしまった。
呼吸や脈拍を見るが規則的である所を見るに幸いにも命に別状は無いのだと理解出来る。
……だが、だからと言って、胸の奥底から沸き上がる怒りは静まる事は無かった。
「セシリア!!」
漸く追い付いて来た鈴が腕の中のセシリアを見て表情を怒りに変える。
「っ……! ちょっとあんた!!」
「……鈴、お前は下がってろ」
「でも悠斗……っ!?」
振り返った鈴が、俺の顔を見て顔を強張らせた。
振り切れている筈の怒りが、止まる事を知らないかの様に沸き上がり続ける。
「……あいつの相手は俺がやる」
「ゆ、悠斗……」
「……鈴、セシリアを頼む」
戸惑いながらも、鈴はゆっくりと頷いてくれた為にそのままセシリアの身を預ける。
立ち上がり、ボーデヴィッヒへと向き直った。
……この屑が、セシリアをこんな目に。
「ほう……貴様、専用機持ちだったのか」
「……何故、セシリアにこんな事をした?」
「何故? おかしな事を聞くな、学生気分の腑抜けた代表候補生を矯正してやるのに理由が必要か?」
「腑抜けた、だと……?」
「わかりやすい奴だった、普通の挑発には乗らなかったが、お前の事を言えば途端に目の色を変えていた……まぁ、多少はやる奴だったが所詮は甘ったれた考えを持っていた。 どうでも良い学生を庇ったせいで自分に不利な戦況を作ったんだからな」
そうか、こんな時まで、セシリアは俺の為に怒ってくれたのか……それに他の奴を守る為に……。
そして、その優しさにこいつはつけ込んだ。
そこまでして、俺を怒らせたいのか。
「丁度良い、お前も私の邪魔をした一人、ここでお前も潰してやる」
「……潰す? それは、俺の台詞だ」
『主様、あの機体はドイツで作られた第三世代機《シュヴァルツェア・レーゲン》です。
そうか……すまない黒狼、少し無理をさせる。
『私は主様と一心同体、この身は全て主様に』
……頼む。
前傾姿勢を取り、脚部と背部のスラスターに熱が込められて行く。
「お前を……殺す」
「貴様など、私の敵では無い……!」
ボーデヴィッヒの機体から三対、計六本のワイヤーブレードが展開されると俺に向かって超高速で振るわれた。
スラスターに込められていた熱を一気に放出、爆発的な加速で前進する。
「
直ぐ様ワイヤーブレードを操作し、それぞれが複雑な軌道を描きながらあらゆる方向から迫って来る。
……だが、関係無い。
黒爪の能力を解放、迫り来る全てのワイヤーブレードを避けつつ最大速度を維持しながらそのままボーデヴィッヒへと迫る。
「馬鹿な!?
驚愕の表情を浮かべるボーデヴィッヒへと、黒爪を振り下ろす。
そのまま黒爪はボーデヴィッヒに届くかと思われた瞬間、まるで見えない何かに押さえ付けられたかの様に動きが強制的に止められた。
更には視界に表示される機体制御不能の文字。
……成る程、これがAICというやつか。
「っ……ふ、ははっ……! 例え
「……黙れよ」
黒狼、行くぞ。
『勿論でございます』
意識を集中、黒狼の稼働率が急激に上昇して行く。
それと同時に機体の制御不能が一部解除されたのを確認、直ぐ様牙狼砲を展開して驚きで目を見開くボーデヴィッヒ……では無く、足元へと砲弾を放った。
爆発と共に衝撃波と大量の石や砂が俺とボーデヴィッヒへと襲い掛かり、俺自身もダメージを負うが微々たるものである為構わない。
それに狙いはダメージを与える事では無い、予想が正しければこれで……。
「ぐっ……!?」
ボーデヴィッヒが腕で顔を庇ったその瞬間、身体の自由が戻り機体制御が正常に戻った。
恐らくは直接ボーデヴィッヒを狙えば砲弾さえも受け止められる可能性があった為に地面を撃ち抜いたが、止められなかった所を見ると正解だった。
予想通り、このAICとやらは同時に複数のものを捕える事は出来ない、只でさえ相手や攻撃を止めるだけでもかなりの集中力が必要だろうからな。
解除されたと同時にこの近距離から
「ぐ、うっ……!?」
くの字になりながら後方へと吹き飛ぶボーデヴィッヒへと、追撃の為に
最高速度を維持したまま黒爪で貫いた……が、寸での所でボーデヴィッヒは回避。
身体を捻る事で黒爪の一撃を避けると手首から展開した近接ブレードを振るって来る。
その一撃を受け止め、黒爪の能力で空中を蹴りそのままの勢いで脇腹へと蹴りを入れ、更に身体を捻り肩にある砲塔を切り落として破壊した。
破壊された砲塔を驚愕の表情で見つめるボーデヴィッヒに再度蹴りを見舞うと、そのまま後方へと吹き飛び地面を転がって行った。
「あ……ぐ、ぅっ……」
立ち上がろうとするよりも早く接近、コアもろともボーデヴィッヒ自身を貫くつもりで黒爪を振り上げ、そのまま躊躇い無く振り下ろした。
「……何故、お前がここにいる?」
振り下ろした筈の黒爪が、近接ブレードにより止められていた。
目の前に立つのは訓練機の打鉄、身に纏い必死の表情で俺を睨み付けているのは織斑千冬だった。
流石はモンド・グロッソとか言う大会でかなりの戦績を残しただけはある、たかだか近接ブレード一本で黒爪が受け止められ拮抗を保たれている。
「くっ……! 落ち着け、五十嵐!」
「……落ち着け? 何を言っているんだ?」
「許可の無い生徒同士の戦闘行為は禁止されている! それはお前も知っているだろう!?」
「あぁ、勿論知っている。 俺もセシリアも、他の奴らも、そして入学したばかりのその屑もな。 だがそいつはセシリアに何をした? 一方的な、蹂躙であれば規約に反する事は無い、まさかそんな事を抜かす訳じゃ無いだろうな?」
「そ、そんな事は言っていない! だが教師として見過ごす訳にはいかないだろう!? それに五十嵐、今のお前の一撃は不味い! 殺すつもりか!?」
「……おかしな事を聞くな? 殺す以外に、何がある?」
俺の答えに、織斑千冬は驚愕で目を見開いた。
「正気か!? 代表候補生に手をあげたとなれば生徒としてでは無い、国としてお前に処分が下るんだぞ!?」
「なら、さっきまでのそいつの行為を見逃せとでも言うのか?」
「そんな事は言っていない! 私達教師陣が責任を持って処分を下す! だから武器を下ろせ!」
「……信じられると思うのか?」
出力を上げ、拮抗を保っていた黒爪と近接ブレードだが少しずつ押し返して行く。
「くっ……!? 五十嵐……!」
拮抗が崩れ掛けた、その時だった。
「悠斗!! それ以上は駄目よ!!」
背後から掛けられる声、聞き覚えのあるこの声は……。
「……鈴、邪魔をするな」
「邪魔とかそういう問題じゃない! あんたが怒るのは当然だし気持ちはわかるわよ! でも今はそんな事よりもやるべき事があるでしょ!? 早く、早くセシリアを医務室に連れて行かないと……!」
……セシリアを……医務室に?
それまでボーデヴィッヒに対する殺意しか無かった意識が、消え失せて行く。
「悠斗! お願い!」
「っ……!」
武器を下ろし、黒狼を解除する。
そのまま織斑千冬の後ろで膝を着き、驚愕と恐怖で染まった表情を俺に向けていたボーデヴィッヒを一瞥してから背を向け、直ぐ様セシリアへと駆け寄る。
鈴に支えられながら横たわるセシリアを抱き抱え、医務室に向かって全速力で駆け出した。
「ちょっ!? ま、待ってよ! 私も行くってば!?」
後ろから響く鈴の声に構わず、足を決して止める事無く医務室へと向かうのだった。
一応、書き貯めていた分はここまでとなります。
次話から更新の頻度が落ちますのでご了承下さい。