インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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鈴視点



第59話 込み上げる感情

場所は医務室、備え付けのベッドで静かに目を閉じ横たわるセシリアの手を握りながら悠斗は傍に置いてある椅子に座っている。

 

悠斗があれ程までに怒りで我を忘れ取り乱し、こうして心配している姿なんて初めて見た。

 

以前の無人機襲撃事件の時には自らが大怪我をしたにも関わらず終始冷静沈着だった悠斗だけど、自分以外が傷付く事は別なのだろう。

 

あの後に話を聞いたら、私達が来る前にセシリアにかなりの剣幕で怒られたらしく考えを改めたみたいだけど、まだ根本的に変わっていないみたい。

 

「……セシリア」

 

普段の態度が嘘の様に、時折弱々しくセシリアの名を呼んでいる。

 

「悠斗……」

 

「……これじゃあ、人の事を言えないだろうが」

 

俯いている上に、私に背を向けているからその表情は見えない。

 

しかし、その肩が怒りと悔しさからか震えている。

 

壮絶な過去を持つ悠斗にとってセシリアは恋人として掛け替えの無い特別な存在、そんなセシリアがこんな酷い目にあったのだからその怒りは理解出来る。

 

 

……アリーナであのドイツの代表候補生、ボーデヴィッヒと戦闘を繰り広げた悠斗を見て間違い無く代表候補生レベルでは悠斗に勝てないのだと感じた。

 

操縦技術、スピード、パワー、反射神経、全てにおいて各国の代表候補生を上回っていた……いいえ、比べる事も出来ない程に別格に思えた。

 

最後の一撃は、千冬さんが止めていなければ間違い無くボーデヴィッヒの命は無かった筈。

 

止めた千冬さんも、かなりギリギリで拮抗していた……いや、あのまま悠斗が引き下がらなかったら千冬さんでも止められなかったかもしれない。

 

何故悠斗がそれ程まで強いのか、セシリアは何かを知っている様だったけど教えてはくれなかった。

 

別にそれを責めるつもりは無い、偶然聞いてしまったから知っているけれど悠斗の過去は壮絶なもので、恐らく悠斗の強さにも想像出来ない様な理由があるからなんだと思う。

 

……それに、二人ならいつか話してくれると信じているから。

 

その圧倒的な力に恐ろしいと感じてしまったけれど、恐らく悠斗は自分の為だけにその力は使わない、セシリアと束博士の為にしか本気の力は使わないだろう。

 

好きな相手の為にそこまでする悠斗、少しだけセシリアの事が羨ましく思ってしまう。

 

 

「……ん、っ……」

 

 

静寂が流れていた病室に聞こえた、微かな声。

 

その声は、間違い無くセシリアの口から発せられたものだった。

 

「っ! セ、セシリア!」

「目が覚めたの!?」

 

急いで悠斗の隣に立ち、二人で目を閉じているセシリアを見つめる。

 

そして、セシリアの目がゆっくりと開かれた。

 

「ん……悠斗、さん……」

 

「セシリア……良かった……」

 

握っていたセシリアの手に、悠斗がそっと額を付けた。

 

「悠斗さん……鈴さんも……申し訳ありません……心配、お掛けしました……」

 

「っ……! ほ、本当よ! 心配したんだから……!」

 

セシリアが目覚めた事が嬉しくて、思わず鼻の奥がツンと痛くなるけど頭を振って無理矢理堪える。

 

……だけど、本当に良かった。

 

「セシリア、身体に支障は無いか? 何処か痛んだり、違和感は……」

 

「大丈夫ですわ……悠斗さん、申し訳ありませんが、起き上がるのを手伝って頂けますか……?」

 

「……あぁ」

 

その要望に悠斗は直ぐセシリアの背中へと手を差し入れ、ゆっくりと起き上がらせる。

 

そのまま自らを支える悠斗の背中に腕を回して、セシリアは悠斗へと強く抱き付いた。

 

いつもなら目の前でこんな事をされたら文句の一つや二つ、三つ四つ五つ……んんっ! 普段なら出てくるけれども今回ばかりは何も言うつもりは起きなかった。

 

「悠斗さん……心配をお掛けして、本当に申し訳ありません……」

 

「……本当に、無事で良かった」

 

確かめる様にお互い強く抱き締め合う二人。

 

そのまま暫くの間抱き締め合っていた二人はやがてゆっくりと身体を離した。

 

「……セシリア、何故ボーデヴィッヒは戦闘を仕掛けて来た?」

 

悠斗の問い掛けに、セシリアは迷う様な素振りを見せたけどゆっくりと話し始めた。

 

「……ボーデヴィッヒさんは只一言、甘い考えを持つ腑抜けた代表候補生を潰すと、それだけ仰っていましたわ」

 

「だがあいつも生徒同士の、況してや専用機を使っての戦闘行為は禁止だと知っている筈だろう?」

 

「そ、そうよ、それにあいつも国の代表候補生でしょ? そんな事をすれば、いくら代表候補生と言ってもこの学園は外部や国家から一切の干渉を受けないんだからどんな処分を下されてもおかしくは無いってわかってる筈よね? それにセシリアはイギリスの代表候補生なんだから、国家間の問題も起きるのよ?」

 

「勿論、私も校則で禁止されているとお伝えしましたし、流石に言わずとも代表候補生同士でその様な争いをすれば国家間の問題が起こるとわかっていると思っていました。 しかし彼女はそんな事は関係無いと仰った上に……悠斗さんの事を、侮辱したんです」

 

悔しそうに表情を歪めるセシリア。

 

確かに前にあいつが絡んで来た時のセシリアは一切手を出さず、況してやISすらも展開していなかった。

 

そんなセシリアが何故今回は展開していたのか、それが気になっていたけど……悠斗の事を、言われてたのね。

 

「……セシリアが怪我をするぐらいなら、俺は別に何を言われても構わない」

 

「悠斗さんでしたらそう仰るとわかってはいました。 しかし、許せなかったんですの……彼女は何も知らないのに、悠斗さんの強さも、以前の無人機襲撃の時に他の生徒を避難させる為に奔走し多くの方を救った事も、助ける為に大怪我を負った事も、何も知らないのに……悠斗さんの事を侮辱するなんて、許せなかったんですの。 それに彼女は無関係の武装すら身に付けていない一般生徒に対して攻撃をして……その結果、負けた上にこうして医務室へと運ばれるなんて情けない姿を晒してしまいましたが」

 

自嘲めいた笑みを浮かべるセシリア、だけど、私は驚きと怒りで何も声を掛けられなかった。

 

恐らく、セシリアが悠斗と付き合っていて、大切な存在である事を知っていた上でセシリアを挑発したのだ。

 

それに以前もそうだったけど、ISを展開していない相手に対して攻撃するなんて何があろうと決して許される事では無い。

 

思わず沸いて来る怒り……だけど、それ以上に隣から最早怒りを通り越して殺気に近い感情が溢れていた。

 

ゆっくりと視線を横へと向ければ、悠斗の顔には一切の感情が無かった。

 

だからこそ、その身体から滲み出る殺気が、とても危険なものだと直感する。

 

「……セシリア、何故俺に連絡をくれなかったんだ? それに近くのアリーナに鈴もいるとわかっていた、助けを求める事は出来た筈だ」

 

悠斗の言葉に、セシリアは顔を俯かせて黙り込む。

 

そのまま暫くの間黙っていたけど、やがて俯いたまま話し始めた。

 

「……挑発に乗って負けたのは私ですわ、それなのにお二人に助けを求めるだなんて情けない事が出来るとお思いですの?」

 

「あくまでも只の喧嘩で済んでいたのなら俺もここまでとやかく言うつもりは無かった。 だが今回の戦闘は喧嘩なんて甘いものじゃ無い、最後のあの一撃は俺が間に合わなかったらかなり危険だったのはわかっているだろう?」

 

「……代表候補生でありながら情けないですわね、私の弱さが招いた結果、それだけの事ですわ」

 

「情けない? そんな事無い、それにセシリアは決して弱く無い、他の生徒を庇ったからあいつの機体の能力……AICに捕えられたんだろう?」

 

「……どの様な理由があっても負けた事実は変わりませんわ、危険に陥ったのも私自身に問題があっただけですもの」

 

おかしい、いつものセシリアならこんな事は言わない、況してや話している相手は悠斗なのに。

 

表情は俯いたままだからわからない、恐らく完膚無きまでに負けた事で自暴自棄になっているんだろうけど、心配している悠斗に対してその態度と発言は流石に無いじゃない。

 

「ちょっとセシリア、あんたさっきから……!」

 

「待て」

 

悠斗の言葉と同時に手で制されて、私はそれ以上何も言えなかった。

 

悠斗を見れば、私の方は見ずに真っ直ぐ俯いたままのセシリアを見つめている。

 

「……セシリア、以前俺に言ったよな? 自分の身を蔑ろにするなと」

 

「……えぇ、確かにそう言いましたわ」

 

「ならば何故、あれ程危険な目に会ったのに助けを求めなかった? 駆け付けた時には既にISの搭乗者保護機能は限界を迎えていた程だったのに」

 

「……仰る通りですわね、ですが私は、悠斗さんならばきっと来て下さると信じていましたから」

 

「それは結果論だ、もしあの時俺が間に合わなかったらどうするつもりだったんだ?」

 

「……その時は、私の認識が甘かったというだけですわ……えぇ、只それだけの事です」

 

「……セシリア」

 

悠斗が、そっとセシリアの手を包み込んだ。

 

そこで私も漸く気づいた。

 

握り締められたセシリアの手が、微かに震えていた事に。

 

「無理をするな」

 

「無理だなんて……私は……」

 

「前にも言った筈だ、俺に対して遠慮をしないでくれと」

 

「っ……!」

 

「……助けに行くのが、遅れてしまってすまなかった」

 

悠斗がそう言ったと同時に、セシリアの手を包み込む悠斗の手に落ちる雫。

 

それはセシリアの頬を伝って落ちる涙だった。

 

「あ……申し訳、ありません……」

 

「……謝らないでくれ、謝るのは寧ろ俺の方だ」

 

「私……恐かった……間に合わないと、このまま死ぬかもしれないと、そう考えてしまって……」

 

「……あぁ」

 

「悠斗さんが来て下さって……助けて下さって……本当に、良かった……うっ、うぅっ……!」

 

「……大丈夫、もう、大丈夫だ」

 

「う、うぁ……ああああっ……!!」

 

泣きじゃくるセシリアをそっと抱き締め、優しく頭を撫でる悠斗。

 

 

 

……恐らく、セシリアは泣いているから気付いていないだろう。

 

セシリアを抱き締める悠斗の目が、今まで見た事の無い背筋が凍り付いてしまいそうになる程に冷たく、どす黒いものになっている事を。

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