インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第63話 約束

翌朝、いつも通りトレーニングを終えて準備をしてから医務室へと向かう。

 

そのまま中へと入るとセシリアは既に目を覚ましており、横になったまま俺へと視線を向けて途端に笑みを浮かべた。

 

「悠斗さん、おはようございます」

 

「おはよう、セシリア」

 

そのままベッドの傍に置いてある椅子へと座る……前に、ベッドへと近付いてセシリアと触れるだけのキスをする。

 

「ん……身体の調子はどうだ?」

 

「まだ少し痛みますが問題はありませんわ、今日と明日に検査をして問題が無ければ明後日には部屋に戻っても構わないと先生は仰っていましたので」

 

「そうか……良かった……」

 

椅子へと座り、横になるセシリアの手に優しく触れればセシリアも俺の手をそっと握り返して来る。

 

そのまま互いに何も言わず、ただ手の温もりを感じ合っていた。

 

「……セシリアには、謝らなければならない」

 

「私、に……?」

 

「……昨日伝えていなかったが、俺は感情のままにあいつを殺そうと考えていた。 それ以外考えられなかったが、もしそうしていたらこの学園にいられなかったかもしれない、セシリアと一緒にいられなかったかもしれない、とんでもない過ちを犯してしまう所だった」

 

俺の言葉にセシリアは何も言わずにただ黙って聞いている。

 

「鈴が止めてくれなければ、俺は……」

 

「悠斗さん」

 

強く、手を握られた。

 

いつの間にか俯かせてしまっていた顔を上げれば、セシリアが真剣な表情で俺を見つめている。

 

「悠斗さんがそれ程まで私の為に怒って下さる事は嬉しいです。 しかし、例えどの様な事があろうとも殺すなんて絶対にいけない事ですわ」

 

「……わかっている」

 

「私は悠斗さんにその様な事をして欲しくなんてありません、この怪我は私自身の実力不足が招いたもの、ですから悠斗さんが思い悩む事はありません」

 

「そんな事無い、セシリアは決して……」

 

「悠斗さん、私が目指しているのは国家代表、今のままで満足していては何も意味はありませんわ……実はあの時、ボーデヴィッヒさんが来るまで私はこのままの実力で悠斗さんの隣に立つ資格があるのか、そう考えていましたの」

 

その言葉を、俺は直ぐに否定したかった。

 

しかし、セシリアの真剣な表情に何も言葉を発する事が出来ない。

 

「悠斗さんはいつだって私を、誰かを守って下さります。 しかし私は国家代表候補生として、そして悠斗さんの恋人として、いつまでも守られる側にいるのでは無く守る立場になりたい、悠斗さんと対等の立場になりたいのです」

 

「セシリア……」

 

「私の我が儘なのは重々承知していますわ。 しかし、今回の件は私が弱かったから招いたものなのです。 だから……」

 

セシリアがそっと俺の頬へと手を伸ばして来てそのまま触れて来る。

 

「お願いです、私の為にその様な事を考えないで下さい……いつかきっと、悠斗さんの隣に立つのに相応しい実力を手にします、国家代表まで登り詰めてみせます……だからどうか、どうか私から離れて行くなんて事をしないで下さいまし……」

 

セシリアの決意と訴え、俺は頬に触れているセシリアの手をそっと掴んだ。

 

「……約束する、もう二度とそんな事は考えない。 セシリアの傍に居続ける、いつまでも、ずっとだ」

 

「……悠斗さん」

 

身体を寄せ、セシリアと深くキスをする。

 

俺はセシリアに、セシリアは俺に、一種の依存をしているのだろう。

 

何があろうと離れたく無い、傍にいて欲しい、そんな考えを抱いている。

 

だから、二度とあんな考えは持たない、持ってはいけない。

 

いつまでも、セシリアと一緒に居続ける為に。

 

時間の許す限り、俺とセシリアはキスを繰り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、五十嵐君!」

 

医務室から食堂へとやって来ると背後から掛けられる声。

 

振り向くと相川と鏡、布仏の三人が駆け寄って来ていた。

 

「……おはよう」

 

「あ、うん、おはよう。 あの、オルコットさんは大丈夫なの……?」

 

「あぁ、機体のダメージは大きいが幸いにも身体には支障は無いらしい、明後日には授業に復帰出来るそうだ」

 

「そうなんだ、良かった……」

 

俺の言葉に安心した様に息を吐き出す相川達。

 

そのまま朝食を受け取り、四人で空いている席へと着いた。

 

「五十嵐君、大丈夫……?」

 

「……何がだ?」

 

食べ始めて直ぐの相川からの問い掛けに聞き返す。

 

「えっと、オルコットさんがあんな事になって、ナギがアリーナでの事を見ていたから……その……」

 

「……あぁ、そういう事か」

 

恐らく、俺の精神面の事を聞きたいのだろう。

 

「……初めは感情のまま奴を殺そうと考えていたし織斑千冬とも言い合いになった……だが、鈴が説得してくれたから思い直す事が出来たんだ。 そんな事をすればこの学園にいられなくなる、セシリアと一緒にいる事も出来なくなる、そうなったら他の誰でも無いセシリアを悲しませる事になると」

 

「鈴音さんが……」

 

「それに今朝、セシリアとも約束をした。 そんな事を二度と考えないと、これから先どんな事があろうともセシリアと共にいるとな」

 

「……そっか」

 

「……いらん心配をさせたな、悪かった」

 

「う、ううん! そんな事無いよ!」

「そ、そうだよ!」

 

相川と鏡が慌てて両手を振りながらそんな事を言って来る。

 

そんな中で、布仏だけが何も言わずに普段の笑みの無い真面目な表情で俺の顔を見つめていた。

 

「……何だ?」

 

「ゆうゆう、無理はしないでね?」

 

「別に無理は……」

 

「ゆうゆうにとって一番信頼していて大好きなのはセシリーだけど、私達もゆうゆうの友達なんだから頼っても良いんだよ?」

 

その言葉に思わず口を嗣ぐんでしまった。

 

「私達に出来る事はそんなに無いけど、話を聞いたり相談に乗る事は出来るんだからね?」

 

「……すまない、ありがとう布仏」

 

「どう致しまして~」

 

それまでの表情から一転していつもの笑みを浮かべる布仏、普段はふざけている事が多いがこいつなりに俺の事を思ってくれているのだろう。

 

それに相川と鏡の二人も……鈴と言い織斑と言い、こんな俺に歩み寄って来てくれて友人と言ってくれる、本当に感謝してもしきれないな。

 

「そうそう、私も友達なんだから頼ってよね? いくらお兄ちゃんだとしても鈴音さんばかりに頼らないでさ」

 

「……思い出した」

 

そうだ、今の今まですっかり忘れていた。

 

俺の言葉に首を傾げる相川の頬へと手を伸ばす。

 

テーブルを挟んでいるとは言ってもそれ程広い訳では無い、他の奴がどうかわからないが俺なら手を伸ばせば簡単に向かい側に座る奴に届く。

 

そのまま、相川の両頬をやや強目に摘まんだ。

 

「あふぁ!? い、いふぁい!?」

 

「い、五十嵐君!?」

「ゆ、ゆうゆう~!? どうしたの~!?」

 

「お前がそういう事を言うから俺が鈴の兄だと学園中に広まってるんだよ、織斑千冬にまで言われたんだが?」

 

「ご、ごえんなふぁい~!?」

 

「ったく……」

 

涙目になり始めた為に離してやれば頬を両手で押さえながら呻いている。

 

そして鏡が驚いた表情で俺を見ていた。

 

「い、五十嵐君も、こういう事するんだ……?」

 

「……普段はしない、だが今回はな」

 

「えぇ~でもゆうゆうはお兄ちゃんでもう定着しちゃってるよ~?」

 

「……お前もやられたいのか?」

 

「ふふ~ん、私にそんな脅しは効かないのだ~」

 

何やら胸を張ってそんな事を抜かす布仏、これはやられる覚悟があると捉えても良いんだな?

 

素早く手を伸ばし、片手で布仏の頬を摘まんだ。

 

「あぅ~いふぁい~!?」

 

「痛くしているからな」

 

「いふぁい~えへへ~」

 

……何故か、摘ままれているにも関わらず布仏は笑っていた。

 

不思議に思いながらも手を離す。

 

「……何故笑ってるんだ?」

 

「えへへ~だって、何だかゆうゆうとの距離が縮まった様に感じるから~」

 

その言葉に、思わず口を嗣ぐんでしまった。

 

確かに、言われてみればこういう事をした覚えは無い。

 

「え、えっと……わ、私も言った方が良いの……!?」

 

「いや、鏡は唯一の良心だから出来ればやめて欲しい」

 

「え……そ、そっか……」

 

何やら少し残念そうに目を伏せる鏡。

 

……はぁ、仕方無い。

 

手を伸ばし、出来るだけ優しく摘まんでやった……鼻を。

 

「ぷぎゅ!?」

 

驚きながら謎の奇声を発した。

 

普段の鏡からはまず聞く事は無いであろうその奇声に思わず笑ってしまう。

 

「……これで良いか?」

 

「え、あぅ……」

 

頬を赤らめながら顔を伏せる鏡、その反応を見た相川が勢い良くテーブルに手を着きながら顔を寄せて来る。

 

「ちょっと!? 私と全然違う!」

 

「元々の発端はお前だろうが」

 

「そうだけど! 私もそういう……何かこう……ときめくやつが良い!」

 

「……お前は何を言ってるんだ?」

 

「とにかく! ナギだけ狡い!」

 

「だから何の事だ?」

 

目の前で騒ぐ相川、未だに顔を俯かせたまま頬を赤らめる鏡、その様子をいつもの満面の笑みで眺めている布仏。

 

いつもの面子だが、初めて見る光景に朝から周りの視線を集めていた。

 

 

 

 

そして授業が終わり放課後、直ぐにセシリアのいる医務室へと向かおうとしたその時、通信が入った。

 

相手は……織斑?

 

授業が終わったと同時に慌てた様子で教室から出て行ったが……そういえば同室になったと言うデュノアが体調不良で休んだが、その事だろうか?

 

疑問を抱きつつも通信を繋げる。

 

「織斑、どうかしたのか?」

 

『ゆ、悠斗……えっと……』

 

何やら歯切れの悪い話し方、益々疑問だ。

 

『……その、話があるからとにかく部屋に来て欲しいんだけど……』

 

「デュノアが体調を崩している筈だが、大丈夫なのか?」

 

「えっと、その事で話があるって言うか……」

 

「……わかった」

 

話が見えないが、一先ず教室を後にするのだった。

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