インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第64話 罪と赦免

織斑からの連絡を受けて寮へとやって来た。

 

先にセシリアへと連絡を入れ、急用が出来てしまった為に医務室に行くのは遅くなると伝えている。

 

そのまま寮の廊下を進み、目的の部屋の前へと辿り着いた。

 

数回ノックをして反応を待つとゆっくりと扉が開かれて織斑が顔を覗かせた……のだが、何やら廊下を何度も見渡して誰もいない事を確認している。

 

何故そこまで警戒する必要があるんだ……?

 

「と、とりあえず入ってくれ」

 

「あぁ」

 

「……その、先に言っておくけど、驚かないでくれるか?」

 

「……あ?」

 

言葉の意味がわからないまま部屋へと入ると、二つ並んだベッドの片方に顔を俯かせているデュノアが座っていた。

 

シャワーを浴びた後なのかいつもは後ろで結んでいる髪をほどいている。

 

……いや、それだけじゃ無い、明らかにおかしい部分が。

 

上に来ているジャージの胸元、それまで無かった筈の二つの膨らみが存在していた。

 

これは……。

 

「……織斑、デュノア、どういう事か説明しろ」

 

「えっと、これは……」

 

「……一夏、僕から説明するよ」

 

織斑の言葉を遮り、デュノアが口を開いた。

 

「オルコットさんの事で悠斗が大変な時にごめんね……率直に言うと、僕は男性操縦者なんかじゃ無い、れっきとした女だよ」

 

「……だろうな、その身体で男と言われても信じられない」

 

「先ず何処から説明するべきかな……そうだ、悠斗はフランスのIS事業であるデュノア社は知ってる?」

 

「……多少は」

 

確か、今のIS事業で世界第三位のシェアを誇る大企業とも呼べる会社の一つで、授業でも使われている第2世代機のラファールの開発元もデュノア社だったな。

 

「僕の父親はそのデュノア社の社長なんだけどね、父からこの学園に男として入学して一夏と悠斗、二人の男性操縦者のデータを取って来る様に命令を受けた……所謂スパイってやつだね」

 

「自分の子供に、何故そんな真似を?」

 

「……僕はね、妾の子供なんだ」

 

妾、だと?

 

「僕のお母さんは本妻じゃない、父の愛人だったの。 それで僕を身籠って、二年前までお母さんと二人で暮らしていたんだけど病気で亡くなって、それからデュノア家に引き取られた際に僕のIS適性が高い事がわかって……それからはよくある話だよ、デュノア社のIS事業を向上させる為に僕を専属パイロットという名の体の良いモルモットとして使って、それでも情報と技術不足により第三世代機の研究に行き詰まったからこうして一夏と悠斗、男性操縦者という前代未聞の二人のデータと第三世代機のデータを取って来る様に言われたんだ」

 

デュノアの言葉に、俺は何も言わずに黙って耳を傾け続ける。

 

「このまま男として在籍し続けて、データを取り終わったら本国に戻される予定だったんだけど……それも、叶わないね」

 

「シャ、シャルル……」

 

「……さっき一夏に女である事がバレちゃったし、こうして悠斗にも打ち明けた。 もう僕がここにいる事は出来ないから」

 

「そんな……どうにか出来ないのか!?」

 

「……一夏は優しいね、皆を騙していた僕にそんな事を言ってくれるなんて……でも、もう無理だよ」

 

「バレたのが不味いなら俺達が黙っていれば済む話だろ!? このまま学園にいて、卒業するまでに何か手段を考えれば……!」

 

「……確かにそれも可能かもしれない、でも、僕はもうこれ以上皆を騙していたく無いんだ」

 

「シャルル……」

 

「……本当にごめんね」

 

顔を俯かせ、膝の上に置いた手を強く握り締める。

 

その姿を見た織斑が俺に詰め寄って来た。

 

「ゆ、悠斗! どうにかならないか!? このままだとシャルルが!」

 

「……何故、俺に言う? そもそも、今お前は黙っていればと言ったがそれなら俺に言わずにこの事をお前だけの秘密にしておけば良かったんじゃないのか?」

 

「それは……」

 

「……一つ言っておくぞ、俺はお前と同じ、男でISが使えるという事を除けば他に何も無い一般人だ。 そんな俺にフランスの一大企業であるデュノア社の事をどうこうする事なんか出来ると思うのか?」

 

「っ……ご、ごめん……」

 

「……はぁ」

 

目を伏せて謝る織斑に溜め息を溢しつつ、デュノアへと視線を向ける。

 

デュノアは変わらずに顔を俯かせたままだ。

 

 

 

愛人との間に出来た子供だとしても、血の繋がりがある筈の父親に命令された、か。

 

自分の子供に、血の繋がった肉親にそんなスパイ紛いの汚れ仕事をさせる……それが大人の、親のやる事なのか?

 

違うだろうが……親とは子を、家族を守るべき存在の筈だ。

 

例えそれが妾の子だろうと、血の繋がりは消える事は無いんだ。

 

……正直、首を突っ込めば面倒事に巻き込まれるのは目に見えている、俺には関係無いと一言言えば済む話だ。

 

しかし、沸々と、胸の内から感情が込み上げて来る。

 

 

 

 

「……はぁ、俺も、甘いな」

 

「えっ? そ、それって、どういう意味だ……?」

 

織斑の言葉に何も答えずにデュノアの前へと立つ。

 

「……答えろ、お前はどうするんだ?」

 

俺の問い掛けに、デュノアは顔を上げずに暫く黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

「……僕は、このまま本国に帰るよ。 命令された事も出来なかったから家に居場所なんて無いだろうし、性別を偽ってデータを盗もうとした事が発覚したらそのまま牢獄行きだと思うけど」

 

「……言い方を変えるぞ、お前は"どうしたい"んだ?」

 

「……えっ?」

 

「お前が今答えたのはお前自身の考えじゃ無い筈だ。 お前自身はこれからどうしたいのか、それを答えろ」

 

「僕が、どうしたいのか……?」

 

「お前にこんな真似をさせた父親の言いなりになったままか? お前自身に罪は無いのに、言いなりのまま自らの人生を台無しにするのか? それがお前の本心なのか?」

 

「……違う」

 

「違わない、結局は自分の考えを持たない人形のまま国に帰り、その下らない一生を終えるんだろ?」

 

「っ……おい悠斗!」

 

織斑が肩を掴んで来るが、構う事無くデュノアから視線を外さない。

 

「答えろ、お前の本心はどうなんだ?」

 

「……じゃ、ないか……」

 

小さく、か細い声がデュノアの口から漏れた。

 

「嫌に決まってるじゃないか!!」

 

大声と共に、デュノアが顔を上げた。

 

そのアメジストの瞳から止めどなく大粒の涙を流しながら、真っ直ぐに俺を睨み付けて来ている。

 

「僕だってこんな事したく無かったよ! だけど僕には何の力も権力も無い、身寄りも何も残されていない子供が一人で暮らしてなんて行けない! だから父に頼るしか無かった! 例えどんな扱いをされても、実験のモルモットになろうとも、毎日会話も無く邪険にされても……それでも僕にはどうしようも無かったんだ! 二人のデータを盗めば少しは父も認めてくれる、そんな考えを持ってしまって……」

 

デュノアの本心から語られる想い。

 

「……でも、本当はわかってる。 例え上手く二人のデータを盗めたとしても、父は僕を認めてはくれない。 今までと変わらずに、体の良い駒としか、実験のモルモットとしか僕の事を見てくれないって……もう、嫌だよ……僕だって、叶うのなら普通に女の子として学園に通いたい、普通に友達を作って皆と仲良く過ごしたい、親の言いなりになんかなりたく無いのに……何で僕は、僕だけが……!!」

 

再度俯いてしまったデュノアの姿は、とても小さく見える。

 

身寄りの無い、自分ではどうしようも無いという想いから震えるその姿に、過去の自分とクロの姿を重ねてしまう。

 

その考えが浮かんだ時には、勝手に身体は動いていた。

 

視線を合わせる為にデュノアの前に膝を着き、その俯いた頭へと手を伸ばして出来るだけ優しく触れる。

 

驚いて肩を震わせながら顔を上げたデュノアと、しっかりと目を合わせる。

 

「……よく、本心を答えてくれた。 お前の気持ちは十分伝わった」

 

「あ、え……ゆ、悠斗……?」

 

「……この学園の規約は知っているか?」

 

俺の言葉にデュノアは迷いながらもゆっくりと首を横に振った。

 

視界の端で織斑も横に振っていたが、入学したばかりのデュノアは仕方無いとして織斑は覚えていなければならない筈だが……まぁ良い。

 

「アラスカ条約によりこの学園はあらゆる国家機関に属さない、そして如何なる国も組織もこの学園に干渉する事は出来ない……気休めにしかならないだろうが、卒業までの時間稼ぎには使えるだろう」

 

「時間、稼ぎ……」

 

「当てになるかわからないが、伝手が一人いるから相談してみる。 それに学園にも事情を説明すれば助けになってくれる筈だ、代表候補生であるお前のISの操縦技術は学園側も目を付けているだろうからな」

 

「……助けに、なってくれるの……? 僕は、悠斗を騙していたのに……」

 

「別に騙されていた覚えは無いしデータはまだ盗まれた訳では無いから問題は無い。 寧ろお前の普段の反応を見ていて本当に男かと疑ってはいたからな。 それに、友人の助けになるのはおかしい事じゃ無いだろ?」

 

「友、人……僕が……?」

 

「違ったか?」

 

「……僕を、友達として見てくれるの……? 僕は、ここにいても、良いの……?」

 

「良いに決まってるだろうが、例え何を言われたとしても出来る限り助けになる……だから諦めるな、ここがお前の"居場所"だろ」

 

「っ……!? ぅ、あ……うわああああん!!」

 

突然、デュノアが俺の胸元に飛び付いて来たかと思えば、大声で泣き出してしまった。

 

セシリアの事を思えば直ぐに引き剥がすべきなんだろうが、今だけは許して貰おう………後できちんと事情を説明して、誠心誠意謝罪をしなければいけないが。

 

泣き続けるデュノアを落ち着かせる為に、その頭をなるべく優しく撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

恐かった。

 

一夏に女だとバレて、混乱する一夏が僕に待つように言ったと思えば誰かに連絡を入れて、そして悠斗が部屋にやって来た。

 

一夏はお人好しが過ぎる程に優しいと知っていたけど、悠斗は……正直、わからなかった。

 

オルコットさんに対しては恋人だから優しかったし、友達である鳳さんと一夏、それから同じクラスの相川さんに鏡さん、布仏さんには優しかった。

 

だけど授業で友達では無い女子には容赦無く痛め付けていたし、同じ転校生のボーデヴィッヒさんがオルコットさんに危うく命に関わる程の怪我をさせた時の悠斗は恐い処じゃ無かった。

 

医務室でのあの表情と殺気に、身体の震えが止まらなかった。

 

だから男だと偽って入学してデータを盗もうとした事を、皆を騙していた事を知ったらきっと悠斗は僕の事を許さないと思っていた。

 

だけど、僕はわかっていなかった。

 

悠斗という人物を、彼がどんな人物なのかを。

 

 

『お前はどうしたいんだ?』

 

僕が、どうしたいか……?

 

そんなの、こんな僕に決める事なんて……。

 

そして、悠斗は僕に言った。

 

父親の言いなりのままなのかと、自分の考えを持たない人形のまま国に帰って一生を終えるのかと。

 

何も言わないつもりだったけど、込み上げて来る感情のままに僕は訴えた。

 

こんな事したく無かったと、父親の言いなりになんかなりたく無かったと、こんな皆を騙す様な事をせずに普通の女の子として学園に通いたかったと、友達を作って楽しく過ごしたかったと。

 

今更こんな僕に出来る筈は無いとわかっていたけど、意味なんて無いとわかっているけど、口に出したら止まらなかった。

 

言葉と共に涙が溢れて来たけれど構っていられない。

 

この吐き出す感情を、誰かに聞いて欲しかったんだと思う。

 

まるで悲劇のヒロイン気取りに思えて自分が嫌になるけど、誰かに救って欲しかった、誰かに僕を必要として欲しかった……本当の僕を、見て欲しかった。

 

だけど、もう叶わないんだ。

 

他人を騙す様な人間の言葉を、誰が信じると言うのだろうか。

 

もう、僕の居場所なんて……何処にも……。

 

 

「……よく、本心を答えてくれた。 お前の気持ちは十分伝わった」

 

 

その言葉と共に頭に感じたのは固い手の感触と、優しさを感じる温もり。

 

顔を上げると、悠斗が僕に視線を合わせる様にしゃがみ込みながら僕の頭を撫でてくれていた。

 

何で……どうして……こんな僕に、優しさを見せるの……?

 

そして悠斗は僕に言ってくれた。

 

僕の事を友達だと、僕の助けになると、諦めるなと……そして、この学園を僕の居場所だと。

 

その言葉を聞いて、僕は我慢出来なかった。

 

目の前の悠斗の胸に飛び付いて、恥ずかしいぐらいに大声で泣いてしまった。

 

そんな僕の頭を優しく撫でてくれたから尚更嬉しくて、更に強く抱き付く。

 

後でオルコットさんに謝らないといけない。

 

悠斗とオルコットさんは本当にお似合いで、見ていて羨ましいぐらいに仲が良くて、他人が割って入る余地なんて無いとわかってる。

 

だけど今だけは、悠斗の温もりを感じていたい。

 

この優しさに、包まれていたい。

 

 

 

もしも、僕に兄弟がいたなら、悠斗みたいなお兄ちゃんが良いな……。

 

 

 

そんな事を考えながら、泣き止むまで暫くの間悠斗の温もりを感じていた。




「ところで、何故織斑はデュノアが女だと気付いたんだ?」

「えっ!?」
「あ、ぅ……」

「……織斑、お前」

「ち、違う! その……あれは事故で……!」

「……一夏のえっち」

「シャ、シャルル!?」

「……織斑」

「ち、違うって! そんな目で見ないでくれよ!?」

「「…………」」

「悠斗!? シャルル!? 頼むからその目止めてくれよ!?」


その後、部屋でそんな会話が繰り広げられたとか
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