インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第66話 兄妹?

「はぁっ!!」

 

気合いの込められた声と共に上段からの鋭い一撃が迫る。

 

それを黒鉄で受け流し、体勢を崩した織斑へと横薙ぎに黒鉄を振るう……が、その一撃を織斑は驚異的な反射速度でギリギリで避けた。

 

いや、恐らくこれが鈴の言っていた織斑の"勘"なのかもしれない。

 

今のは体勢を崩した上に完全に死角から放った、確実に一撃入れられるものだった筈、それにも関わらず織斑は見る事もせずに避けたのだ。

 

あぁ……本当にこいつは……。

 

「……面白いな、本当に」

 

「いやいやいや!? 全然面白くねぇよ!? 今のマジで首ごと切り落とされるかと思ったんだけど!?」

 

慌てて距離を取ろうとする織斑を瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰め肉薄し、目を見開く織斑へと黒鉄を振り下ろすとブレードで受け止められる。

 

「釣れないな、離れるなよ」

 

「ぐっ!? この……っ! 本当に悠斗はドSだな!」

 

「そんな事は無いが?」

 

「自覚無いのかよ!?」

 

そのまま拮抗していたが、元々距離を取ろうと後退していた織斑の方が体勢的に不利になっている。

 

力で押し込むと体勢を崩した織斑へと黒鉄で切り付け、織斑の肩から袈裟斬りで斬撃が通った。

 

「ぐっ……!?」

 

後ろへと吹き飛ぶ織斑へと追撃……はせずにその場で黒鉄を構え直し、膝に手を当てながら立ち上がる織斑へと言葉を投げ掛ける。

 

「今の一撃で黒鉄の威力が底上げされた。 攻撃が当たれば当たる程気を付けないと危ないぞ?」

 

「い、今よりも威力が上がるのかよ……!?」

 

「あぁ、確かめたいなら受けてみるか?」

 

「いや受けねぇよ!? 危ないって言われてるのに自分から攻撃を受けに行く程馬鹿じゃ無いからな!?」

 

「そうか、それは残念だな」

 

「……悠斗、何かオルコットさんと付き合ってから変わったよな」

 

「そうか?」

 

「最初の頃は何て言うか……凄く尖ってたって言うか、近寄り難い雰囲気だったけど、今はかなり柔らかくなったよな。 そんですげぇ意地悪になった、ドSだし」

 

「……馬鹿にしてないか?」

 

「違うって……俺は、今の悠斗の方が良いと思うんだ。 たまに恐いけど接しやすくて、冗談を言ってくれて、何やかんやで面倒見が良くて、今の悠斗の方が俺は好きだぜ?」

 

「……は?」

 

 

 

 

『きゃああああっ!!??』

 

 

 

 

織斑の言葉は他意は無いのだとわかる、純粋に友人として思っている事を言っているだけなのだとわかる、友人としてそう言って貰えるのは嬉しいと思う。

 

だが、織斑はよりによってオープンチャットのままでその発言をした為にアリーナ中に今の会話が丸聞こえとなっていた。

 

 

 

「今……今確かに……!」

「好きって……好きって……!?」

「これは尊い……いえ、てぇてぇですわ……!」

「戦いの中で芽生える恋心……次のネタはこれに決まりよ!!」

「そしてそれを悲し気な目で見る金髪の貴公子……」

「さ、三角関係……!?」

「これ以上更に尊くなると言うの!?」

「問題はデュノア君がどっちに想いを寄せてるかよ!」

「で、でもこの前、デュノア君が五十嵐君の身体に見惚れてたって……」

「な、何ですって!?」

「こ、これ以上は身体が持たな……ぶふっ!?」

「し、しっかりして! 衛生兵(メディック)衛生兵(メディック)!!」

 

 

 

……観客席の至る所から嫌でも聞こえて来る会話に、思わず頭を抱えてしまいそうになる。

 

何故、そういう話題にしようとする? ただの試合、友人同士の真剣な試合なんだが?

 

離れた場所で戦闘中の鈴が何やらニヤニヤと満面の笑みを浮かべながら俺を見ている……後で絶対に締め上げる。

 

そして対するデュノアは……何故か、織斑へと恨めしそうとも怒っているとも思える表情で睨んでいた。

 

あの反応……まさか、デュノアは織斑の事が? だとしたら不味い、織斑は出来る事なら鈴と結ばれて欲しい。

 

しかしデュノアも友人の一人、それなのにその想いを否定する事は出来ないのだが……と思っていると、何故か次いで俺に何とも言えない微妙な表情を向けて来た。

 

……何なんだ?

 

「……織斑、とりあえずオープンチャットはもう切れ、これ以上は耐えられないんだが?」

 

「あ、うん、ごめん……って、あれ? これってどうすれば切れるんだ?」

 

「…………はぁ、もういい」

 

仕方無い、このまま続けるしか無さそうだ。

 

周囲からの視線や会話は出来る限り無視するしか無いだろうな……黒狼、周りからの情報をシャットアウトする事は出来ないか?

 

『申し訳ありません主様、そうしますと戦闘に支障を来す可能性が』

 

……やはり駄目か。

 

「……織斑、悪いが早目に終わらせるぞ」

 

「お、おぉ……わかった……」

 

ブレードを構える織斑に、俺も黒鉄を構え直す。

 

そのまま暫しの沈黙、そして同時に動いた。

 

互いに瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を一気に詰め、同時にブレードを振るう。

 

手を伸ばせば互いに触れる事の出来る程の至近距離で、何度もブレードを振るい合う。

 

切りつける、避けられる、切りつけられる、避ける。

 

最低限の身のこなしで避け、お返しとばかりにブレードを振るう。

 

そこで気付く、織斑の反応速度が先程までと比べて、上がっているのだ。

 

こっちのスピードに着いて来ているだけで無く、斬撃のスピードや鋭さまでもが上がっている。

 

……やはり、面白い。

 

互いに避け切れない斬撃が装甲を掠め、僅かなダメージが蓄積されて行く。

 

だが、俺も織斑も決して離れようとしない……いや違う、今離れる訳にはいかないのだ。

 

男同士の真剣勝負、ここで逃げるだなんて不躾な真似が許される筈が無い。

 

目の前の織斑の表情は必死で、真剣で鋭い瞳だ……対して、俺はまたもや勝手に口角が吊り上がるのを感じていた。

 

この戦い、互いに認め合った相手との全力の戦闘、全身の血が沸き上がるかの様な高揚感。

 

あぁ……楽しくて、楽しくて……堪らないな……!

 

「らあああっ!!」

「うおおおっ!!」

 

ブレード同士がぶつかり合い、互いに一度大きく身体が仰け反る。

 

その瞬間、織斑の表情が変わったと同時に何かを感じ全身が総毛立つ。

 

来るか……!

 

織斑が大きく構えたブレードから、眩い程の閃光が放たれる。

 

織斑が言っていた単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、これをまともに受ければ確実に落とされる。

 

誰がどう考えても避ける以外の選択肢は有り得ないだろうが……それは違うよな、織斑。

 

黒鉄によりそれまで溜め込んでいたエネルギーを一気に放出、膨大なエネルギーの解放により織斑のブレード程では無いが刀身から閃光が放たれる。

 

「行くぞ、悠斗!!」

「来い、織斑!!」

 

互いに大きく一歩踏み込み、ブレードを振るう。

 

「はああああああっ!!」

「うおおおおおおっ!!」

 

ブレードがぶつかり合った瞬間、周囲は目を開けていられない程の閃光により包まれたのだった。

 

 

 

『っ……シ、シールドエネルギー0!! 織斑選手、戦闘不能!!』

 

アリーナに響き渡る放送、そしてアリーナ中が震える程の歓声が沸き上がった。

 

黒鉄を収納し、目の前で大の字で倒れる織斑を見下ろす。

 

「はぁ……はぁ……くっそ~やっぱり勝てなかったか~!」

 

「いや、正直かなりギリギリだった」

 

これは事実で、最後の互いの一撃により六〇パーセント残っていた筈のシールドエネルギーがもう二〇パーセントを切っていた。

 

織斑の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の一撃は、かなりの威力が貯まっていた黒鉄の一撃と同等……いや、それ以上の威力を誇っていた。

 

幸いにも先程までの攻防で織斑の機体ダメージの方が上だった為に勝つ事は出来たが、本当に僅差だった。

 

「いや、完全に俺の負けだよ、だって悠斗はそのブレードしか使って無いだろ? あの遠距離武装も爪の武装も使って無い、使われてたら単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を使う暇も無く落とされてるって」

 

「どうだろうな、鈴も言っていたがお前の戦闘中の勘はずば抜けている。 例え黒爪や牙狼砲を使っていたとしても勝敗はわからないかもしれないぞ?」

 

「……だと良いんだけどな」

 

そのまま空を仰ぐ織斑から視線を外し、鈴とデュノアの方へと移そうとした時だった。

 

 

 

 

『おーっと!! 此方も一進一退の攻防に終止符が打たれました!! シールドエネルギー0、鈴音選手がここで戦闘不能となりました!!』

 

 

 

 

視線の先で、鈴が何かしらの攻撃を受けたのかアリーナの壁際まで吹き飛ばされていた。

 

……不味いな、織斑との戦闘でシールドエネルギーは少ない、対するデュノアのシールドエネルギーは減ってはいる様だがまだ五〇パーセントは残っている。

 

『ご、ごめん悠斗……油断したわ……』

 

「……構わない、後は任せろ」

 

通信を切り、デュノアの元へと向かう。

 

油断したと言った鈴だが互角に戦っていた筈、それを逆転させる程の武装を装備しているという事か……だがここで負ける訳にはいかない、出し惜しみはせずに黒爪を展開した。

 

「あ、ま、待って待って!!」

 

「あ?」

 

そのままデュノアへと攻撃を繰り出そうとしたその時、突然デュノアが武装を収納したかと思うと戦意は無いとでも言う様に両手を上げた。

 

「……どういう事だ?」

 

「悠斗はオルコットさんの為に次の試合に進まないといけないでしょ? だから、僕はここで棄権するよ」

 

「俺としては好都合だが……良いのか? 今戦えば確実にお前が勝つが?」

 

「うん、僕は構わないよ、それに悠斗には返しきれない借りがあるんだから」

 

借り……男装の事と、家の事情の事か?

 

「……借りと言ったがあれは俺が勝手にやった事だ、貸しを作ったつもりは無い」

 

「そう、なんだ……じゃ、じゃあさ、その代わりなんだけど」

 

「ん?」

 

デュノアが何やら口ごもりながら目を泳がせている……何だろうか?

 

「えっと……その……悠斗に、一つお願いを聞いて貰えないかな?」

 

「……お願い?」

 

「う、うん……べ、別に変な事はしないよ!? あ、いや、ちょっと変かもしれないけど、悠斗にしか頼めない事なんだ!」

 

……まぁ、そこまで言うのなら。

 

それに変な事はしないと言っているし、このまま戦う事無く次に進めるのなら構わないか。

 

「……わかった、構わない」

 

「っ……! あ、ありがとう悠斗!」

 

「礼を言うのは俺の方だと思うが……まぁ良いか」

 

「じゃあ後で……えっと、そういう事だから、僕は棄権します!」

 

 

 

『あ、はい……えーっと、試合終了!! デュノア選手の棄権により勝者、五十嵐選手、鈴音選手ペア!!』

 

 

 

放送が響き渡り、試合が終了した。

 

壁際で倒れている鈴を回収しつつ控室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ごめん」

 

「謝るな、結果的に勝ち進む事は出来たんだ」

 

控室で項垂れながら何度も謝る鈴、その隣にセシリアが座り頭を撫でながらずっと宥めているが効果は薄い様だ。

 

余程負けた事を気にしているらしい。

 

「……はぁ、いつまでも負けた事を気にしていても仕方無いだろうが、それなら次の試合で巻き返すしか無いだろ?」

 

「……うん」

 

……全く、仕方無い奴だ。

 

未だに項垂れる鈴の頭を、やや乱暴にだが撫でてやった。

 

「うわ!? ちょ、何!?」

 

「いつまでもくよくよするな、お前はそんなに弱い奴じゃ無いだろうが、何故今回俺がお前にペアを頼んだと思っているんだ?」

 

「で、でも……」

 

「……俺は気にしていないと言ってるだろ? 今回のトーナメントのペアはお前なんだ。 パートナーであるお前を許さないなんて事はしないし、お前もパートナーなら俺に少しぐらい迷惑を掛けても構わないぐらいの考えを持て」

 

「悠斗……」

 

「今回のトーナメント一番の目的は次の試合だ、その試合に望むのにパートナーのお前がいつまでもそんなだと頼る事も出来ない。 それでもまだ気にすると言うのなら次の試合、俺一人で出るぞ? そしてお前をこれから先、たった一度負けただけでくよくよするヘタレのチビと呼ぶが、それで良いんだな?」

 

「はぁっ!?」

 

「文句あるのか? たった一度負けただけでくよくよするヘタレのチビ」

 

「っ……! わ、わかったわよ! もうくよくよしないわよ! 次の試合で巻き返してやるわよ!」

 

「……そうか、なら頼むぞ鈴」

 

最後に一度強く撫で、鈴の頭から手を離す。

 

「……ありがと」

 

「礼はいらない、だが今回パートナーとして俺が頼れるのはお前だけだという事を覚えておいてくれ」

 

「……うん」

 

さて、少々荒療治になったが鈴はもう大丈夫だな。

 

次は……頬を膨らませながら俺を見ているセシリアだ。

 

セシリアの隣に腰を下ろしてそっと抱き寄せ、そのまま頭を撫でてやればセシリアは途端に表情を綻ばせる。

 

鈴から何やら恨めしそうな視線を感じるが全力で無視を決め込む。

 

 

 

「失礼するね……わわっ!?」

 

控室の扉が開かれ、その言葉と共にデュノアと織斑が入って来た。

 

そして何やらデュノアが俺とセシリアの方を見て驚きつつも目を輝かせている。

 

「どうかしたか?」

 

「え、あ、うん……えっとね、さっきの試合で言った事なんだけど……」

 

「……あぁ、俺に頼みたい事だったか?」

 

「う、うん……」

 

デュノアの言葉に他の三人が不思議そうに首を傾げていた為、ざっくりと説明をする。

 

「悠斗さんに頼みたい事、ですの?」

 

「え、何? あんた遂にそっちに目覚めたの……痛だだだだだだ!?」

 

とんでもない事を口にする鈴の顔面を掴んで万力の如く締め上げると途端に苦し気な声を上げる鈴。

 

そのまま視線を外しデュノアへと向ける。

 

「……それで? 俺に頼みたい事というのは何だ?」

 

「う、うん……ただその前に、オルコットさんには予めちゃんと言っておくけど、僕は決して変な意味があったりとかオルコットさんの邪魔をしたい訳じゃ無いからね?」

 

「……はい?」

 

首を傾げるセシリア、俺も意味がわからずにいるとデュノアは大きく深呼吸をして顔を真っ赤にしながら俺を真っ直ぐに見てきた。

 

 

 

「えっと……悠斗の事を……お、"お兄ちゃん"って呼んでも良いかな!?」

 

 

 

「「「「は?」」」」

 

思わず、俺も含めその場にいる四人の口から間抜けな声が上がった。

 

待て、今デュノアは何と言った?

 

「ご、ごめんね!? 自分でも変な事を言ってるのはわかっているんだ!! でも、その、どうしてもそう呼びたくて!!」

 

「……待て、少し待ってくれ」

 

どういう事だ? 何故俺をそう呼びたがる? いや、確かに試合が始まる前に何やら俺の名前を呼ぶ前に何かを言い掛けていたが……駄目だ、全くわからん。

 

「……とりあえず、理由を説明してくれ」

 

「う、うん……えっと、僕が一人っ子なのは悠斗は知ってるよね? それで、この間部屋で悠斗が優しくしてくれて、もしも僕に兄弟がいたらこんな風に優しくしてくれたのかなぁって……思いまして……」

 

「……部屋で」

「……優しく?」

 

セシリアと鈴が訝し気な表情で俺を見てくる、セシリアに至っては目が据わっており、その目を見た織斑が短い悲鳴と共にデュノアの後ろへと隠れた。

 

これは……説明するしか無いか。

 

「デュノア、二人には説明した方が良い」

 

「え、でも……」

 

「大丈夫だ、二人なら信用出来る」

 

「……うん」

 

 

それから、デュノアが女でありながら性別を偽って編入した事、そしてそうなった経緯である生い立ちや家庭の事を二人へと説明するのだった。

 

 

「……成る程」

 

デュノアの話を聞いたセシリアがそれだけ言うと腕を組んだ。

 

そして鈴は性別を偽って織斑と同室になっている事に大層ご立腹の様で、織斑の胸ぐらを掴んで控室の壁際へと追い詰めている。

 

「……デュノアさん、わかっておりますの? 事情はどうであれ性別を偽っての編入、そして未遂とは言え男性操縦者である悠斗さんと織斑さんのデータを盗もうとした、これは重大な犯罪ですのよ?」

 

「……わかって、ます」

 

セシリアの言葉に顔を俯かせるデュノア、そんなデュノアの様子を見てセシリアは溜め息を溢す。

 

「この事を学園に報告しましたの?」

 

「……まだ、一夏と悠斗にしか話してません」

 

「何故個人を巻き込む様な事を? この学園の生徒となったからには真っ先に教師に相談すべきですわ」

 

「……はい」

 

「貴女の生い立ちが複雑で、家族や国に頼る事が出来なかったのはわかりました。 しかし、だからと言って国家の問題になる様な重大な件に特殊な事情によってこの学園に入学し、まだ何処の国にも所属していないお二人を巻き込むのは危険だと少し考えればわかる筈ですわ」

 

セシリアは鋭い視線で淡々と言葉を連ねる。

 

その言葉は間違っていない、全て正論である為に俺も何も言う事が出来ないでいた。

 

「デュノアさん、人と話す時は目を見て話すべきです」

 

セシリアの言葉に、デュノアはゆっくりと顔を上げる。

 

その目は既に涙目になっており、堪える様に口を真一文字に閉じている。

 

「その……本当に、ごめんなさい……」

 

上擦った声でそれだけ言い、デュノアは再度顔を俯かせてしまう。

 

思わずセシリアを見れば、セシリアは何も言わずに立ち上がりデュノアの傍へと歩み寄る。

 

自らに近付くセシリアに身体を震わせて手を強く握り締めるデュノア……その身体を、セシリアはそっと優しく抱き締めた。

 

「あ……え……? オ、オルコット、さん……?」

 

「……とても辛い思いを、して来たのですわね」

 

「っ……!?」

 

「申し訳ありません、少々厳しい事を言ってしまいましたが、他に頼れる方がおらず学園側にも相談する事を躊躇っていらしたのでしょう?」

 

「ぼ、僕は……」

 

「どうしようも無い板挟みの状態になるのはとても恐ろしい事でしょう、そんな時にお二人に助けを求めてしまうのは当然の事ですわ。 ですが先程お話した様に悠斗さんも織斑さんも何処の国にも所属していない方、悠斗さんには強力な後ろ楯になって下さる方がいらっしゃいますが、国家の問題ともなれば簡単には行かないと思います。 ですから、私も微力ながらデュノアさんの助けにならせて下さいませんか?」

 

思わずセシリアを見れば、セシリアは力強い眼差しで頷いた。

 

「私は国家代表候補生、国家代表にはまだ遠く及びませんが祖国にこの件を伝えれば何かしらの手段を取ってくれるかもしれません。 もし無理だったとしても、卒業までこの学園でデュノアさんの助けになりますわ」

 

「あ、ぅ……」

 

「……ですから、私の事も頼って下さいな」

 

「う、ぁ……うわああああん!!」

 

セシリアの胸元に強く頭を押し付け、デュノアは大きな声で泣き出した。

 

その身体を優しく抱き締め、落ち着かせる様に何度も頭を撫でるセシリア。

 

「悠斗さん、そういう事ですので私もデュノアさんの助けになりますわ」

 

「……あぁ、セシリアが味方なら心強い」

 

「恐らく悠斗さんも同じ考えを抱いたかと思いますが、例え複雑な事情があったとしても実の子供にこんな事をさせるのは間違っていますわ。 デュノアさんのお父様には然るべき処分を受けて頂かなくては」

 

やはり、セシリアも同じ考えだったか。

 

「しかし、この事を私に言って下さらなかった事にも少々思う所があるのですが?」

 

「……すまない、巻き込む様な事をしたく無かった」

 

「それは違いますわ、先程私もその様な事を言ってしまいましたが悠斗さん一人が抱え込んでしまって悩んでしまったら、私は何の為の恋人なんですの? 私はどの様な事があっても巻き込まれたと言うつもりはありません、どの様な事でも一言相談して頂きたかったですわ」

 

「……すまない」

 

巻き込みたく無かった、それは俺の勝手な言い分だ。

 

国家的な問題になる今回の件にセシリアを巻き込めば、国家の代表候補生であるセシリアに迷惑が掛かると思ってしまっていた。

 

「悠斗さん」

 

名前を呼ばれ、セシリアへと視線を向ければセシリアは真剣な瞳で真っ直ぐ俺を見ている。

 

「悠斗さんは私に言って下さいましたよね? 遠慮をしないで欲しいと……私も恋人として、これから先も共にいたい悠斗さんに、遠慮をして欲しくは無いのです。 ですから、これからは私にも相談して頂きたいですわ」

 

「……あぁ、約束する」

 

セシリアに歩み寄り、その頬へと手を伸ばす。

 

頬へと触れる俺の手にセシリアも自らの手を重ね、そのまま顔を寄せて行き触れるだけのキスをした。

 

「わぁっ……!!」

 

ふと我に返り、そういえばデュノアがセシリアに抱き締められたままである為に直ぐ傍にいたのだと思い出す。

 

「あ、そういえばデュノアさん? 貴女の事情はわかりましたが、悠斗さんに対する想いについて詳しく教えて頂けますか? 場合によってはきちんとお話しなければなりませんので」

 

「オ、オルコットさんが心配する様な感情は無いよ? お兄ちゃんの事は優しくて頼りになるお兄ちゃんとしてしか見てないから、恋愛感情とかは本当に無いんだ。 それに、僕はお兄ちゃんとオルコットさんの二人が仲良くしている所を見るのが好きで、出来ればずっと見ていたいと言うか……」

 

「それでしたら……問題は無い、のでしょうか?」

 

「……いや、問題無い訳では無いが」

 

周りの奴らから勝手に言われるのも困るが、こうして面と向かって本人の意思で呼ばれるのもな。

 

そもそも既に普通に呼んでいるが、呼び方はもう決定なのだろうか?

 

 

「ったく、本当にもう……!」

 

「うぅ……痛ぇ……」

 

話し合い、もとい尋問が終わったのか鈴と織斑が戻って来る。

 

「終わったのか?」

 

「色々と聞き出したわよ、本当にこのスケベ野郎は……」

 

「あ、あれは事故だったんだよ!」

 

「何かあったんですの?」

 

「こいつ、デュノアがシャワー浴びてる所を覗いたんですって」

 

「の、覗いたんじゃなくてボディーソープが切れてたから!」

 

「……最低ですわね」

 

「オルコットさん!? その目やめて貰えますか!? それ地味にトラウマなんですけど!?」

 

必死に訴える織斑だったが、セシリアは特に気にも止めずにデュノアを抱き締める。

 

「可哀想なデュノアさん……好意を寄せている方ならまだしも、そうでは無い男性に肌を見られるなんて」

 

「え、悪いのは俺なのか? この場合どっちもどっちとかそういうのは……あ、すみません、何でも無いです。 だからその目はやめて下さいお願いします」

 

一睨みで織斑を黙らせるセシリア……まぁ確かに、いくらその時性別が男だと思っていたとしてもシャワー中にいきなり開けるのはな……せめて外から一声掛けるなりしていればこんな事にはなっていなかった可能性もあるが。

 

いや、だがそれだとデュノアが一人でずっと悩んでいた可能性もあったから、織斑の行動は正しかった……のか?

 

「あ、あの……僕の事はデュノアじゃ無くて名前で、シャルルじゃ無くてシャルロットで良いよ? その、デュノアとは、もう余り呼ばれたくなくて……」

 

「あ、申し訳ありません、配慮が足りませんでしたわね、ではシャルロットさんと呼ばせて頂きますわ。 では私の事もセシリアとお呼び下さい」

 

「うん……宜しくね、セシリア」

 

「はい、此方こそ宜しくお願い致しますわね、シャルロットさん」

 

手を取り合いながら互いに笑みを浮かべるセシリアとデュノ……いや、俺もちゃんとシャルロットと呼ぶべきか。

 

「ま、話を聞いたからには私も手助けぐらいはするわよ……あと、何も知らなかったからって女男とか言ってごめん」

 

「ううん、そんな事無いよ、僕が男装している事を自覚していなかったから」

 

「……確かに、しょっちゅう男らしく無い言動は目立ってたけど」

 

「あ、あはは……その、鈴音さんもシャルロットって呼んでくれないかな?」

 

「ん、なら私の事も鈴で良いわよ、さん付けで呼ばれると他人行儀みたいであんまり好きじゃないから」

 

「うん、宜しくね、鈴」

 

鈴も大丈夫か、同性で尚且つ代表候補生二人が味方になってくれるのなら俺達男二人よりも安心するだろう。

 

さて、二人が助けになってくれると言ってくれたが、俺も最初にシャルロットに言った手前動かなければな。

 

四人には聞かれない様にプライベート・チャネルで通信を始める。

 

 

『はいは~い! ゆう君の愛する素敵でプリティーな束さんだよ~!』

 

…………。

 

「切るぞ」

 

『わぁっ!? ごめんごめん! 真面目に話すから切らないで~!?』

 

「全く……"頼んでいた件"、どうだった?」

 

『ん、予想通り黒、それも凄く真っ黒だったよ。 第三世代機の開発が遅れてる事で形振り構っていられないみたいだね、これだから凡人で頭の悪い人間は……』

 

「……そうか、少しも実の子であるシャルロットの事を気にしている気配は無いのか?」

 

『しゃるろっと……? あぁ、その金髪の事だね? う~ん、ゆう君に頼まれてから調べてたけど、男の方は何か隠してるみたいだよ? 女の方は妾がいた事に大層ご立腹なのかデータを盗み次第完全に縁を切って、第三世代機の製造確立って言う成果と名誉が欲しいみたい』

 

隠している……成る程、まだ事実は不明だが、現段階で障害となり得るのが確立しているのは本妻の方という事か。

 

「わかった、他に何かわかったら連絡してくれ」

 

『勿論! 何でも言ってね!』

 

「……自棄に嬉しそうだな?」

 

『うん! だってゆう君が私の事をこうして頼ってくれるなんて初めてだからね!』

 

そうだったか?

 

……いや、そうだったな、考えてみれば今まで束が何も言わなくても俺に色々な物を与えてくれて、俺から何かを求めたり頼る事は無かった。

 

『ゆう君、私達は誰に何を言われようと家族なんだよ? だから、私の事をもっと頼って良いの。 クーちゃんも、それに今はせっちゃんもいる、皆がゆう君の事を頼りにしているけど、ゆう君からも頼って欲しいんだからね?』

 

「……そうか、ありがとう束」

 

『どういたしまして、じゃあ私はもう少し調べてみるね……わわっ!?』

『お兄様!!』

 

突然通信が乱れたかと思うと、通信越しにクロの声が響いた。

 

「クロ?」

 

『お兄様、束様が仰った様に私の事も頼って下さい! 私もお兄様の役に立ちたいのですから!』

 

「……あぁ、頼りにさせて貰うよ、クロは俺にとって唯一人の大切な妹だからな」

 

『お兄様……!』

 

「以前学園に来て以来会っていないからな……今は何処にいるかわからないが、もし可能なら束に頼んで日本に連れて来て貰うと良い、外出申請を出して久しぶりに一緒に出掛けよう」

 

『は、はい! 必ず行きます! 束様! 今すぐ日本に行きますよ!』

 

『ク、クーちゃん!? 今すぐはちょっと束さんでも厳しいよ!?』

 

『それをどうにかするのが束様ですよ!』

 

『えぇっ!?』

 

はしゃいだ様子で束に無理難題を言い出すクロに、流石の束も珍しく慌てている。

 

「クロ、それくらいにしてやれ、今すぐだと俺も簡単には外出申請は出せないぞ。 予め日程を教えてくれると助かるんだが?」

 

『は、はい……ですが! 必ず行きますから一緒にお出掛けしましょうね! 約束ですよ!?』

 

「あぁ、約束だ……それじゃあまたな、クロ」

 

『はい!』

 

そこで通信を切り、改めて束からの報告を頭の中で纏める。

 

シャルロットの父親は何かを隠している、つまりまだシャルロットとの関係を修復出来る可能性があるかもしれない。

 

セシリアと鈴と笑い合うシャルロットへと視線を向ける。

 

……血の繋がった家族だ、シャルロットに対して今まで行って来た事はとても許せるものでは無いが、その関係を崩して良い訳では無い。

 

束に調べて貰っている為に俺に出来る事は限られているが、せめてシャルロットの居場所を取り戻せる様に尽力しよう。

 

……だが、その前に。

 

先ずは、俺の大切な存在であるセシリアへの借りを、返すとしようか。

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