インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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久しぶりの投稿です。
読んで頂いている皆様、更新が遅れてしまい大変申し訳ございません。
仕事とプライベートと何方も忙しかったもので……け、決して某ウマ育成ゲームに熱中し過ぎていた訳ではありませんよ(汗)



第70話 親子

場所を移し、一度俺の部屋へと戻って来た。

 

ベッドに座り、隣にはセシリアが。

 

そしてもう一つあるベッドに先程ISのプライベートチャネルで呼び出した一夏と鈴、そしてシャルロットの三人が座っている。

 

「えっと……悠斗? 何かあったのか?」

 

一夏が無言の空間に耐えられなかったのか口を開いた。

 

「あぁ、とりあえずボーデヴィッヒの件は片付いたが問題はもう一つあるだろ?」

 

「もう一つ?」

 

「シャルロットの事だ」

 

「えっ? ぼ、僕……?」

 

名前を呼ばれたシャルロットは驚いた様子を見せる。

 

性別を偽っての編入、そして俺と一夏のデータを盗む様に親から言われたとの事だが、束の調べを聞いて引っ掛かった為に更に調べて貰っていた。

 

そして先程束からの追加報告があり、確かめる事が出来たのだ。

 

「お前の親が今までお前に対して行って来た仕打ちだが、恐らくお前に何か隠している」

 

「……どういう、事?」

 

「前に伝手があると言っていたが……実際に見た方が早いな」

 

黒狼、頼む。

 

『畏まりました主様』

 

黒狼を右腕だけ部分展開して手を開くと、掌から二〇センチ四方程の小さな電子ウィンドウが開かれ、そこにある人物が映し出された。

 

『あーあー、ちゃんと聞こえてるかな?』

 

「あぁ、問題無く聞こえている」

 

『おぉ! 流石私、天才だね!』

 

「た、束さん!?」

「篠ノ之博士!?」

 

『おぉ〜いっくんにりんちゃん、元気〜?』

 

一夏と鈴が驚き、何故か慌てて姿勢を正している。

 

そしてシャルロットは映し出された人物の姿に呆然と目を点にして固まってしまっていた。

 

「束さん、お久しぶりですわ」

 

『うん! 久しぶりせっちゃん! 何だかまた綺麗になった?』

 

「あらあら束さんたら冗談が御上手ですこと、そんな事ありませんわよ?」

 

『それこそそんな事無いと思うよ? むふふ、毎日ゆう君とラブラブだから自然と磨きが掛かってるんじゃない?』

 

「ふふっ、でしたら悠斗さんのお陰ですわね」

 

逆にセシリアは束との会話を楽しんでいる様だ……今度、束にセシリアの回線を教えても良いか聞いてみるか。

 

「し、篠ノ之博士……ほ、本物なの……?」

 

『あ、その金髪がゆう君の相談してきた奴だね?』

 

「あぁ」

 

「は、初めまして! えっと、フランスの代表候補生のシャルロット・デュノアです!」

 

『……これもゆう君の友達?』

 

「こ、これって……」

 

束の言葉に戸惑うシャルロットだが、いつもの事だから仕方無い。

 

「そうだな、まだ出会って日は浅いが俺は一夏や鈴と同じ様に大切な友人だと思っている」

 

「ゆ、悠斗……!」

「な、何か恥ずかしいわね……」

 

『ふーん……わかった。 ん〜シャルロット……シャル……あ〜ネタが浮かばないや、また今度までに呼び方は考えておくね』

 

「えっと、はい……?」

 

「束、シャルロットに説明を頼む」

 

『任せてゆう君! と言っても、ゆう君に頼まれたから君の親の事を調べてたってだけなんだけどね』

 

「えっ? ぼ、僕の親を……? 」

 

『君を男として編入させてゆう君といっくんの機体データを盗む様に指示した事だけど、調べてみたらな~んか怪しいんだよね』

 

「怪しいとは、どういう事ですの?」

 

『ん〜それがわからないんだよね、君が今まで何度か報告していたと思うけど、その報告を受けて何か開発に取り組んでいるかと思えばな〜んにも作って無いんだよね。 私ってISとか科学的なものには強いけど人間の精神とか心理学的な……所謂人の感情、って言えば良いのかな? そういうのに関して大事な人ならまだしも興味の無い有象無象はからっきしだからどんな考えかはわからないや。 ただ一つ言えるのは、その指示には何か理由があるって事は確かだよ』

 

「デュノア社の技術の為だけじゃ無い、という事か……」

 

シャルロットの話を聞く限り、実の子供を利用して技術を盗もうとしていただけにしか思えなかったが。

 

……ここは、仕掛けてみるか。

 

「一つ提案がある、だがそれは賭けだ。 成功する可能性は限り無く低い上にシャルロットを深く傷付ける事になり兼ねない」

 

俺の言葉に、全員の顔が俺に向けられる。

 

「だがこのままだと、シャルロットと父親の間に蟠りが残り続ける。 血の繋がった肉親ならそういった蟠りは無くすべきだと思うんだが、どうする?」

 

俺の問い掛けに、迷っているのか顔を俯かせるシャルロット……確かに簡単には決断は出来ないだろうな。

 

 

 

その時、隣に座るセシリアが立ち上がったかと思えばシャルロットの傍に行き、膝の上で握り締められていた手を優しく包み込んだ。

 

「シャルロットさん、大丈夫です」

 

「えっ? セ、セシリア……」

 

「不安なのは大いに理解出来ますわ、しかし悠斗さんがそう仰るのですから大丈夫です」

 

「でも……」

 

セシリアの言葉にまだ不安が消えないシャルロット、その時。

 

「大丈夫だろ!」

 

突然大きな声でそう口にした一夏に、全員の視線が一夏へと集まる。

 

「他の誰でも無い悠斗が考えたなら失敗なんかする訳が無いって! 今日だって悠斗が考えた作戦でボーデヴィッヒに勝ったんだぜ? だから大丈夫だ!」

 

「そうね、何やかんや言っても悠斗が考える作戦は上手く行くし……たまに力でゴリ押しするけど、そんじょそこらの奴らとは比べ物にならないくらいに信用出来るわよ」

 

一夏に次いで鈴の言葉に呆気に取られるシャルロット、かく言う俺も二人の言葉に思わず何も言えなくなる。

 

「シャルロットさん、織斑さんと鈴さんが仰った様に悠斗さんが考えた作戦ならばきっと上手く行きますわ。 それとも、悠斗さんや私達の言葉は信じられませんか?」

 

「そ、そんな事無いよ! 皆は、こんな僕の事を許してくれて、友達だって言ってくれて……」

 

「それならば、信じて下さいませんか? 悠斗さんの事を、私達の事を、きっと上手く行きます……ですから、信じて下さい、ね?」

 

セシリアに諭す様に言われたシャルロットだが、顔を俯かせてしまった。

 

恐れ、葛藤、様々なものが渦巻いているのだろう。

 

父親に引き取られてから今まで受けて来た仕打ち、それが父親の本心からのものなのか、それとも何らかの理由による偽りの姿だったのか。

 

もしそれが本心からのものだった場合、深く傷付くのは他の誰でも無い自分自身、恐れるのは当然だ。

 

シャルロットが望まないと言うのであれば、これ以上俺達は何も言わずにこのまま何もせずに他の方法を卒業までに考えるしか無い。

 

震える身体、しかし、拳を強く握ったかと思うと顔を上げ真っ直ぐに俺を見据えて来た。

 

その表情に、先程までの不安の色は無かった。

 

「僕、皆を、お兄ちゃんを信じる。 このまま逃げていたっていつまでも変わらない……例えどんな答えだとしても、向き合わないといけないから」

 

「シャルロット……」

 

「それに、もしお父さんが僕の事を見放したとしても、僕にはお兄ちゃんが、皆がいる。 例えデュノア社に僕の居場所が無くなっても、僕にはこの場所がある。 卒業までに身の振りを考えれば良いだけだから……僕は、皆を信じるよ」

 

「……そうか、ありがとう」

 

眩しい程の笑みを浮かべるシャルロットの頭へと手を伸ばし、そのまま優しく撫でてやる……勿論、直ぐ隣にいるセシリアも撫でる事を忘れない。

 

「よし! 決まりだな! それで悠斗、どんな作戦なんだ?」

 

一夏の言葉に全員の視線が俺に集まる。

 

誰一人として疑っていない、皆が俺を信じている真っ直ぐな瞳だった。

 

……先程も言った様にこれは賭けだ、だが皆が信じてくれているんだ、決して失敗する訳にはいかない。

 

『主様、大丈夫で御座います』

 

黒狼?

 

『奥様や皆様の仰る通り、主様の考えた作戦ならばきっと上手く行きます。 勿論、私もそう信じております』

 

……そうか、ありがとう黒狼。

 

『ふふっ、主様に仕える身として、そして主様の専用機として、当然に御座います』

 

……本当に、俺には勿体無い奴らばかりだ。

 

「今からやる事はシャルロットは勿論、束の協力が必要なんだが……頼めるか?」

 

「うん!」

『勿論! 束さんにお任せあれ!』

 

「ありがとう……なら、説明するぞ」

 

皆に、作戦の概要を伝えた。

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

束のハッキングにより、テーブルの上に置かれたPCの画面に件の相手であろう金髪で顎髭を生やした厳格な男が映し出された。

 

こいつがシャルロットの父親、アルベール・デュノアか。

 

「こっちの声は聞こえるか? あぁ、そもそも日本語は通じるか?」

 

『……何故、この回線を知っている? そもそも貴様は一体……』

 

「日本語はわかるのか、なら話は早いな。 俺は五十嵐悠斗、今世界中で騒がれている二人目の男性操縦者だ」

 

『っ……! ならば尚更、そんな人間が何故私に?』

 

「心当たりは無いと白を切るのか? お前の"一人娘"の事だ」

 

俺の言葉に、男の顔付きが変わる。

 

『な、何を……』

 

「三人目の男性操縦者として学園に送り込んだらしいが、随分とお粗末な変装だったな? あれでバレないとでも思っていたのか? ……あぁ、もし疑っているのなら証拠でも見せるか?」

 

そう言って、男に見える様にある物を掲げた。

 

『っ!?』

 

男の目が驚きで見開かれる。

 

掲げた物、それは金の細工が施されたネックレスだった。

 

「……確か、お前の妾だったシャルロットの実の母親の形見、だったか?」

 

『き、貴様……! な、何をした!?』

 

「おかしな事を聞くな? 俺と一夏のデータを盗む様に指示したのはお前だろう? そしてそれは、決して許されない犯罪である事を理解している筈だ……あぁ、安心しろ、学園側には報告はしていない。 せっかく手に入れた"玩具"を手放すのは惜しいからな」

 

『な、何を言って……』

 

 

 

「むーっ!! んんっ!!」

 

 

 

『っ!? ま、待て! 今の声は!?』

 

「言っただろ? 玩具を手に入れたと……良い声と表情をしてくれるな、お前の娘は」

 

男には見えない画面の外へと意味深に視線を向けながらそう告げれば、男の顔から見る見る内に血の気が引いて蒼白になっていた。

 

「この学園で男は肩身が狭くてな、周りに女しかいないと言っても下手に手を出せなかったんだがこれで"色々と"解消出来そうだ……今言っていた要件だが、このままシャルロットを俺達に渡してくれたら性別を偽っている事は黙っててやっても良い。 何ならお前が今喉から手が出る程に欲しがっている俺達の機体データ、それで足りなければ伝手があるから第三世代機の開発データを渡してやっても良いぞ、悪い話じゃ無いだろう?」

 

俺の言葉に、男は呆気に取られているのか口を開けたまま微動だにしない。

 

「ん? 疑っているのか? 簡単な話だ、お前はシャルロット、俺達はISのデータ、お前にはメリットしか無い条件だ」

 

男は、何も答えない。

 

「どうせ妾の子だろ? お前にとって邪魔でしか無かった娘を有効活用したらどうだ?」

 

再度、問い掛ける。

 

肩を震わせる、男の答えは……。

 

 

 

 

『ふざけるな!!』

 

 

 

凄まじい怒声と共に、男が勢い良く机を叩き一瞬向こう側の画面が激しく揺れる。

 

「……何がだ? お前は実の娘を使い捨ての駒として学園に寄越したんじゃ無いのか?」

 

『そんな筈があるか!! あの娘は、シャルロットは、私の大切な一人娘だ!! 貴様等の様な下衆に娘を渡す筈があるか!! 今すぐ娘から離れろ!!』

 

「それはおかしな話だな、話を聞いた限りお前が今までシャルロットにやって来た事は決してお前の言う大切な一人娘とやらにして良い行いじゃ無かった様だが?」

 

『っ……確かに、あの娘には酷い行いをした、だがそれは……あの娘を守る為には仕方無い事だった。 だが、私にとって……いいや、"私達"にとって、あの娘は掛け替えの無い大切な娘だ!!』

 

「ほう……?」

 

成程、二人共か。

 

『シャルロットにそれ以上手を出してみろ!! 私自らの手で貴様を殺してやる!! 必ずだ!!』

 

 

激昂する男、その目は敵意を向き出しにしており決して今の言葉が嘘では無い事を物語っている。

 

……賭けに、勝った。

 

 

「……だそうだ、シャルロット」

 

PCを横へとずらし"ずっと隣に並んで座っていた"シャルロットを映した。

 

『…………は?』

 

男が間の抜けた声と共に固まった。

 

その目は俺とシャルロットを交互に映し、シャルロットの隣に寄り添う様に座るセシリアを映し、更には俺達の後ろで演技していた鈴とその隣に立つ一夏を映し、理解出来ずに混乱している事が見て取れる。

 

『なん……で……どう、して……』

 

「……お父さん、今のは、どういう事なの?」

 

シャルロットが問い掛けるが、未だに混乱している為に何も答えられずにいる男へとここで種明かしをする。

 

「初めから目的はお前の本心を暴く事だ。 お前が本当にシャルロットの事を使い捨ての駒にしか思っていなかったのか、実の子供だと思っていなかったのかをな……ちなみに一応言っておくが、シャルロットには何もしていないからな」

 

ん? いや、そういえば一夏は以前の事があるから何もしていない訳では無いが……まぁ良いか。

 

『……私は、まんまと嵌められた訳か』

 

一度大きく息を吐き出し、男が顔を手で覆いながら宙を仰ぐ。

 

「……お父さん、説明して」

 

再度シャルロットから問い掛けられ、男はやがて諦めた様にゆっくりと語り出した。

 

『……お前を引き取った時、私は真っ先にお前をデュノア社の、私の跡取りとして迎え入れるつもりだった。 当然だ、血の繋がりの無い、地位を求めるだけの欲に塗れた者達を跡継ぎにする気は微塵も無かったからな』

 

シャルロットに促され静かに語るその言葉を、俺達は黙って聞き続ける。

 

『だが、それを知った者達がお前の暗殺を企てている事を知ったんだ、私の血の繋がった肉親を消し、デュノア社社長という地位と権力を欲するが故にな』

 

「……じゃあ、今までのは」

 

『……今更何を言っても言い訳にしか聞こえないかもしれない、都合の良い話だと思うかもしれない。 だが私にとって、お前もお前の母親も、心から愛する大切な存在だった。 それだけは決して揺るぎ無い、私の本心だ』

 

「っ……!」

 

『本当に、すまなかった』

 

画面の向こうで、深く頭を下げながら謝罪の言葉を口にする男にシャルロットは顔を俯かせて肩を震わせていた。

 

「……今までの事は……全部、僕の為に?」

 

『……そうだ』

 

「……"あの人"も、同じだって言うの?」

 

『……妻も、私と同じくらいお前の事を大切に想っている』

 

「……何なのさ、それ」

 

『……お前の身を守る為にはああするしか無かった、IS学園に入学出来れば一時凌ぎとは言え身の安全は確保出来る。 学園の教員の一部には事情を説明して例え性別が知れてしまっても対処してくれる様に頼み込んでいた。 私が見放した様に、使い捨てのスパイとして送り出せば暗殺を企てていた者達が油断して尻尾を掴めると思ったんだ。 だが、その結果お前を悲しませてしまって……私は、父親失格だ』

 

「……ぃでよ」

 

『シャ、シャルロット……』

 

「ふざけないでよ!!」

 

シャルロットの口から放たれたその言葉、そして次の瞬間シャルロットは勢い良くテーブルを叩きながらPCへと詰め寄った。

 

「僕が、僕が今までどんな気持ちだったか知ってるの!? 味方なんて誰もいない、居場所は何処にも無い、誰も頼れない! 僕が今まで、今までどんな気持ちだったか……!!」

 

大粒の涙を溢しながら、シャルロットは大声で訴える。

 

「お母さんが死んで、僕が唯一頼れるのはお父さんだけだった! それなのにあんな仕打ちを受けて! スパイ紛いの事をさせて、学園で出会った皆を騙すなんて最低な事をさせて! お父さんが憎くて、憎くて堪らなかった! それなのに……っ!」

 

『シャル、ロット……』

 

「全部、僕の為にして来た事だなんて、何も知らなくて……今更僕の事を、お母さんの事を愛してるだなんて言って……」

 

溢れる涙を何度も拭うシャルロットに、男は何も言う事が出来ずに沈痛な面持ちで俯いていた。

 

「狡いよ……僕は、お父さんにとって、あの人にとって、邪魔な存在でしか無いと思っていたのに……そんな事……」

 

『……邪魔だなんて思う筈が無い、お前を引き取ったあの日から……いいや、お前という命が彼女に宿ったあの日から、お前は私にとって大切な娘だ』

 

ゆっくりと、溢れる涙はそのままに、シャルロットが顔を上げて男を真っ直ぐに見つめながら上擦った声で尋ねる。

 

「……僕は、お父さんの子供でいて良いの? 僕の居場所は、そこにあるの?」

 

『……当然だ、誰に何を言われようと、お前は私の娘だ。 ここが、この家が、お前の帰る家だ』

 

「っ……! う、ぁ……うわああああああん!!」

 

大声で泣き出すシャルロットを、セシリアが立ち上がりそっと抱き締める。

 

その胸元に顔を押し付け、爆発した感情のままに、シャルロットは泣き続けた。

 

その姿から視線を外し、先程よりも何処かすっきりとした表情を浮かべていた男へと向ける。

 

「アルベール・デュノアだったな? 本心を教えてくれて感謝する」

 

『……よく言う、全て君の作戦では無いのか?』

 

「確かに提案したのは俺だが、協力してくれる心強い仲間がいたから成功したんだ。 何より、シャルロットが決断してくれたからこそ決行出来た訳だからな」

 

『……成程、各国で流れる噂を聞いてはいたがまさかこれ程とは』

 

……噂って、一体どんな噂が流れているんだ?

 

その時、束から通信が入った。

 

「どうだった?」

 

『通話履歴にメール、その他諸々調べて暗殺に関わった奴らは全員特定出来たよ。 まぁ束さんの手に掛かればちょちょいのちょいだね』

 

「そうか、ありがとう束、そのリストと"例のもの"を向こうに送ってくれ」

 

『オッケー! 任せてよ!』

 

例のもの、それは…‥今、デュノア社が直面している問題である第三世代機の開発データだった。

 

「……すまないな、結局束に任せっきりな上に貴重なデータを……」

 

『ゆう君、謝らないで? 私にとって今更第三世代機の開発データなんて大して重要なものでも無いし、そんな事よりも私はこんなにゆう君が頼ってくれる事の方が嬉しいんだから』

 

「それでもだ、結局俺は束に助けて貰ってばかりだろ、今回の事も実際は束や皆が協力してくれたから実現したものだ」

 

『……あのねゆう君、ゆう君と出会ったあの日から、私はゆう君の助けになろうって決めたの。 でもそれは安い義務感とか正義感なんかじゃ無い、あの日から私にとってゆう君は家族として大切な存在で、家族なら助けて当然でしょ? だから謝らないで、お礼を言ってくれた方が束さん嬉しいな?』

 

「束……ありがとう、本当に、ありがとう」

 

『うんうん、やっぱりその方が良いね! それじゃ送るよ?』

 

「あぁ、頼む」

 

視線をもう一度男へと向ければ、束が送ったデータに気付いたのか何やら操作している。

 

『こ、これは……』

 

「通話履歴やメール等を調べてシャルロットの暗殺に関与していた奴らの一覧リスト、それから第三世代機の開発データも一緒に送られている筈だ」

 

『ば、馬鹿な!? 一体どうやって……!? それに第三世代機の開発データをこんな簡単に提供するなんて……!?』

 

……構わないか。

 

「さっき言った俺の伝手である篠ノ之束が今の一瞬で調べてくれた、どんなものよりも信用出来るデータだ」

 

『篠ノ之……し、篠ノ之博士!? そ、そんな!? 君は彼女と面識があるのか!?』

 

「……束は俺の大切な家族だ、今回シャルロットを救う為に協力して貰っていた」

 

『家族……いや、そうか、君が言うのならば真実だろう。 本当に、君には感謝してもし切れない』

 

「感謝すべきは俺では無く決断したシャルロットとデータを提供した束の二人だ、俺は何もしていないからな」

 

『……君程の素晴らしい男がいるとは、是非とも我がデュノア社に欲しい人材だ』

 

「は?」

 

『まだ会って間も無い筈の娘が君を信じ決断した事も、あの篠ノ之博士が他人である私の私情の為に協力してくれた事も、そして今君の周りにいる子達も君の為に協力してくれたのだろう? 君は何もしていないと言ったが、普通の人間にここまでの事は出来ない。 君には人を惹きつける魅力やリーダーとしての素質があると見た』

 

「いや、俺は……」

 

「ふふっ、正しく仰る通りですわ」

 

いつの間にか隣に立っていたセシリアが俺の腕を抱き締めながら突然そんな事を口にした。

 

『君は……確か、イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさんだったかな?』

 

「はい、貴方の仰る通り悠斗さんは周りの方を惹きつける魅力があるのです。 私や皆さんが決断し協力出来たのも悠斗さんが考えた作戦があったからです、流石は私の愛する方ですわ」

 

『愛する……つまり、君達は……』

 

「えぇ、私と悠斗さんはお付き合いさせて頂いてますわ」

 

『成程……では私が誘っても無理か、君さえ良ければ卒業後に我がデュノア社に来て欲しかったが』

 

「生憎だが、卒業後もセシリアと共にいるつもりだから無理だな」

 

そう答えればセシリアが腕から身体へと抱き着くのを変えた為にしっかりと抱き止め、そのまま背中と頭を撫でてやる。

 

『流石に恋仲である若者を無理矢理引き離す様な外道では無いさ』

 

「そうか、俺からの話は以上だ。 そっちにはやる事があるだろうからこれで……」

 

そこで、直ぐ傍でいつの間にか泣き止んで俺とセシリアを見て何やら目を輝かせているシャルロットが目に入った。

 

「……終わらせるが、親子水入らずで話したい事があるんじゃ無いのか? 束が弄っているから盗聴や傍受される危険性も無い、勿論話している間俺達は部屋から出ている」

 

『……すまない、君からのこの恩は必ず返そう』

 

「何も返す必要は無い、俺はただ友人を助けただけだからな」

 

『……そうか、本当に、ありがとう』

 

「礼はいらない……シャルロット、そういう事だから俺達は行くぞ、話が終わったら教えてくれ」

 

「……うん、本当にありがとう"お兄ちゃん"」

 

『……ん? んんっ!? お、おに……シャ、シャルロット!? 今何て言った!? き、君! シャルロットは友人だと……ま、待ちたまえ!』

 

後ろから聞こえて来る声を無視し、セシリア達を連れて部屋から出た。

 

 

 

 

最後はどうであれ、これでシャルロットの親との蟠りは消えたな……本当に、良かった。

 

「へへっ、流石悠斗だな!」

「そうね、やっぱあんたは凄いわ」

 

廊下へと出て直ぐに一夏がそう言って俺の肩を、鈴も俺の背中を叩いて来た。

 

突然の事に思わず文句を言いそうになったが、二人共満面の笑みを浮かべていた為にその気は失せてしまった。

 

「俺一人じゃ無い、シャルロットと束が協力してくれて、皆が俺の事を信じてくれたから成功したんだ。 だから改めて礼を言わせてくれ、ありがとう二人共」

 

「謙遜すんなって! マジで凄かったぜ!? 悠斗にあんな演技力あると思わなかったよ!」

 

「…………そうだな」

 

「ん? 何かあったのか?」

 

「…………いや、何でも無い」

 

「いや何でも無くは無いだろ? 滅茶苦茶目泳いでるし、悠斗のそんな顔初めて見るぞ?」

 

「…………頼む、それ以上聞かないでくれ」

 

俺の訴えに、一夏は首を傾げつつもそれ以上何も追及して来なかった。

 

……流石に、な。

 

 

 

 

「ふふっ、うふふふふっ」

 

「……ねぇセシリア、まさかとは思うけど、あんた」

 

「えっ? 何でしょう?」

 

「……いや、やっぱいいわ、聞いたら何か悠斗が可哀想だから」

 

 

隣で行われる会話を聞き、内心で鈴に感謝するのだった。




その後の会話


「でも流石悠斗さんですわ、表情と言い声の抑揚と言い、本当にそうしていたかの様な迫力と臨場感でした」

「いや、まぁ……あ、相手を騙す為にな」

「ふふっ、"あの時"にやって頂いていた甲斐がありましたわね?」

「セ、セシリア、それは……」

「怪我も治りましたし、また"あの時"と同じ様に……お願い出来ますでしょうか?」

「…………ぜ、善処する」


「な、なぁ鈴? 二人は何を話してるんだ?」

「やめときなさい一夏、あれに関わるとろくな事にならないし悠斗の為を思うなら知らない方が良いわ」

「え? そ、そうなのか?」

「……はぁ、このバカップルは……いや、悠斗にはちょっと同情するけど」


『ご安心下さいませ主様、私も先程の演技は素晴らしいものだと感じました。 あの夜の奥様との経験が生かされた、正に主様にしか出来ないものでしょう』

…………黒狼、何も言うな。

『ご謙遜なさらず、奥様のバイタルを見るに主様のあの演技に性的興ふ……』

…………頼むから、黙っていてくれ。


後に鈴は語る、五十嵐悠斗はアルベール・デュノアとの対談よりも、何故かその後の方が疲れ切った表情を浮かべていたと。
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