前話からもう半年以上も経っていたのか……
読んで頂いている皆様、遅れてしまい大変申し訳ありません。
詳しくは活動報告の方にあげておりますのでご確認頂ければ幸いです。
大浴場で一夏と風呂に入った翌日、俺はセシリアと鈴と共に寮の談話室へとやって来た。
本来であれば授業のある平日だが学年別トーナメントでの一件で教師陣が対応に追われている為にいつかと同じ様に臨時休校となり、そんな中で朝から談話室へとやって来た理由だが……。
「あ、三人共おはよう」
俺達を出迎えたのは一夏、そしてその直ぐ後ろに控えているのは篠ノ之だ。
「おはようございます織斑さん……篠ノ之さんも、おはようございます」
「あ……その……」
「……ほら、箒」
顔を伏せ言葉に詰まる篠ノ之だが、一夏がその背中を押して篠ノ之を俺達の前へと出る様に促した。
そのまま顔を伏せ続ける篠ノ之だったが、暫くしてから顔を上げ俺達とそれぞれしっかり視線を合わせてから深く頭を下げた。
「すまなかった!」
その謝罪の言葉に、俺達は何も言わずに続く言葉へと耳を傾ける。
「三人の事情を何も知らなかったのに、私とは比べ用が無い程に辛い思いをして来たのに、自分が一番不幸だと考えてしまっていて……五十嵐が食堂で私の同席を一夏と鈴音の為に許してくれたのに皆を不快にさせる態度を取ってしまった上に、オルコットに当たる様な真似をしてしまった……それに五十嵐には、以前のトーナメントの際に私の安易で馬鹿な行動で大怪我をさせてしまった。 謝っても許されないのは理解している、今更何を言っても取り返しがつかないのは知っている、だが、どうしても謝罪したかった……」
「……篠ノ之さん、お一つだけ伺っても?」
俺は黙っていたが、セシリアが口を開いて問い掛けた。
「私達へと謝罪したいというお気持ちはわかりました、しかし根本的な、貴女のお姉様である束さんとは和解しましたの?」
「それ、は……」
「していないのですか?」
「……い、今更姉さんに何と言えば良いのか、わからなくて……」
「……はぁ、悠斗さん」
「あぁ、わかった」
セシリアが何を言いたいのかは直ぐにわかった為、何時ぞやと同じ様に黒狼を部分展開する。
昨日、一夏から今日の事を言われた後直ぐに俺は束へと連絡を入れていた。
俺か、俺が言わなくともセシリアが、その事について言及すると思っていたからな。
「な、何を……?」
「まどろっこしいのは嫌いでな」
開かれた電子ウィンドウに映し出された人物を見て、篠ノ之が表情を強張らせた。
「ね、姉さん……?」
『……箒ちゃん』
束も篠ノ之も、互いの顔を見てはいるがどちらも言葉を発する事が出来ない様子だったが、暫しの沈黙の後束が口を開いた。
『……えっと、画面越しだから直接とは言えないけど、こうして顔を合わせるのも久しぶりだね……?』
「……うん」
『……箒ちゃん、ごめんね』
「えっ……?」
『私がISを開発してから、箒ちゃんには辛い思いをさせちゃったよね……いきなり離れ離れにされて、私の事を恨んでるってわかってはいたの』
束の独白は続く。
『今更何を言っても許して貰えるとは思ってないよ、でも……箒ちゃんは私にとって大切な妹だから、大好きなたった一人の妹だから、どうしてもちゃんと謝りたかった』
「姉さん……」
『本当に、ごめんね』
謝罪と共に深く頭を下げる束、対する篠ノ之の答えは……。
「……ね、姉さん、その、頭を上げてくれ」
『箒ちゃん……』
「……謝るのは、私の方だ。 姉さんが突然いなくなって連絡も取れなくなってから、私はずっと姉さんが私やお父さん、お母さんの事をどうでも良くなったんだと思っていた。 家族と離れ離れになって、今姉さんが言った様に姉さんの事を恨んでいた……でも、五十嵐に言われてから気付いたんだ。 確かにお父さんとお母さんとは離れ離れにはなったけど、会おうと思えばいつでも会える。 そして姉さんが本当に私達家族の事を何とも思っていないのか、私達の事を見捨てたのか、姉さんの本心はどうなのかと考え直す事が出来た」
あの日、篠ノ之に対して言った事か。
あの時はつい感情的になって怒鳴ってしまったな。
「今の姉さんの言葉で、私が勝手に勘違いしていただけで姉さんが私の事を大切に思っているんだとわかった……直ぐに気持ちを切り替える事は難しいけど、少しずつ、気持ちを整理していくから……だからその時は、また昔みたいに、仲良くして欲しい」
『っ……! うん……うん……!』
「ね、姉さん……何も泣かなくても……」
『だ、だって! もう箒ちゃんと仲直りは出来ないって思ってたから……嬉しくて……うぅ〜!』
泣き出す……いや、最早大号泣と言っても良い程に涙を溢す束に戸惑う篠ノ之。
だが、これで束がもうあんな悲しそうな表情を浮かべる事は無いのだと思うと俺も思う所はある。
「……良かったな、束」
『ゆう君……本当に、ありがと……うっ……うぇえええ……!』
涙は止まらず、おまけに良く見れば鼻水まで垂らして見るに耐えない顔となっていた。
「……はぁ、クロ、そこにいるな? 束にハンカチか何か渡してやるか拭いてやるなりしてくれ、見るに耐えない顔になってる」
『わかりましたお兄様』
画面外にいたのであろうクロはそう答えてから束の顔へとタオルを押し当ててそのまま拭き始める。
『あうぅ……ありがとクーちゃん……って、痛たたたた!? クーちゃん目ぇ! 目に入ってるぅ!』
『動かないで下さい束様、上手く拭けません』
『痛いってば……んぐぇ!? クーちゃん待って! 鼻水! 鼻水垂れてるのにそのまま拭かずに伸ばしちゃってる! このままじゃ酷い顔になっちゃう! 見せられない顔になっちゃう!』
『安心して下さい、先程からそんな顔ですから』
『酷い!? それにこれよく見たら雑巾だよね!? 何かやけにオイル臭いと思ったら……ちょ、待ってってば! せめて一旦通信を……んぎゃあ!? 目染みるぅ!?』
『あ、お見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありませんお兄様、皆様、一度通信の方を切らせて頂きます』
『酷い! クーちゃんが酷い! まるでゆう君みたいな事言って……はっ! これが俗に言う、反抗期……!?』
『違います、では切ります』
そんな会話を最後に通信が切られ、その場に静寂が訪れた。
「「「「「…………」」」」」
全員が思わず罰の悪そうな顔をしているのを見るに、恐らく俺も同じ顔をしているんだろうか。
……何とも締まらない奴だな。
「……はぁ、とりあえず、束との仲違いは解決出来たな?」
「あ、あぁ……その、いつの間にかあんなに変わっていたんだな……」
「最初からあんな感じだったが?」
「えっ!? あ、いや、そうか……」
確かに初めて会った時や研究で集中している時に見せる真面目な表情からは想像したくないが、普段の私生活のだらし無さや騒がしさは相当だからな。
「その、本当にありがとう」
「礼を言われる事はしていない、後の事はお前次第だろうが」
「……それでもだ、こうして言われなければきっかけが掴めずにいつまでも話す事も出来なかった。 だから、礼を言わせてくれ」
「そうか、なら勝手にしてくれ」
「あぁ、そうさせ貰う……それから改めて、すまなかった」
頭を下げる篠ノ之にセシリアと鈴が俺の顔を見てくるが、俺としてはもう終わった事だと思っているからな、それにこいつは一夏の幼馴染みで親友、昨日一夏が言っていた様にこいつなりに悩んでいてあの様な事を口走ったのだと理解出来た。
それならばこれ以上俺から何かを言ったりする必要は無い。
「……俺は束との仲違いが無くなるならこれ以上とやかく言うつもりは無い、以前の束に対する発言も事情を知った今となっては仕方の無いものだろ? それに俺も以前頭に血が登りすぎて言い過ぎたからな」
「い、いや、それだけじゃ無い、以前アリーナの未確認機襲撃の時の事も……」
「その事については別に何も気にしていない、あれは俺が勝手にやって勝手に負傷しただけだ」
俺の言葉に、篠ノ之は唖然とした様子で固まる。
「悠斗さんは、それで宜しいのですか?」
そう尋ねて来るセシリアに無言で頷くと、セシリアはそれ以上何も言わずに笑みを浮かべる。
「そ、そんな……そ、それにオルコットにも酷い事を……」
「悠斗さんがこれ以上気にする事は無いと仰るのであれば私も何も言う事はありませんわ、そもそも私だってつい熱くなってしまって貴女に強く言い過ぎてしまいましたから責める権利なんてありませんもの」
「そんな……! 私はオルコットの過去を何も知らないのにあんな事を言ってしまったんだぞ!? 責められて当然だ!」
「話していない事を知らなくて当然ですわ、それに私も貴女が束さんと仲直り出来て嬉しいんですの。 束さんはご家族の事をとても大切に思っている方、その事をわかって頂けたのなら私は何も気にしません……私の方こそ、勝手に自分の過去を理由に貴女に強く当たってしまい、申し訳ありませんでした」
「オ、オルコットが謝る必要なんて……! 謝らなければならないのは私の方だ!」
「それでしたら、これで何も蟠りが無くなったという事でこれから同じクラスメイトとして、そして束さんとご家族として仲良くして下さいませんか?」
「そんな……ん? 姉さんの家族として、というのは……?」
「あら、束さんと貴女は姉妹、そして束さんにとって悠斗さんは家族、つまり貴女と悠斗さんは兄妹という事になりますわよね? そして私は悠斗さんといつまでも御一緒にいるので何れは貴女とも家族になるのではなくて?」
「え? いや……んんっ?」
……確かにセシリアとはこれから先も共にいる、そして何れは……結婚、したいと思うが、突然そんな事を言うものだから篠ノ之が目を点にして呆然としている。
そもそも俺と束の関係をきちんと理解していないだろうからな、後で教えておいてやるか。
「あのさセシリア、あんたのせいでこいつ面食らってるから、そもそも気が早過ぎるから」
「あら鈴さん、決して早過ぎるという事はありませんわよ? それに鈴さんには以前お話した通り友人代表としてスピーチをお願い致しましたし」
「いや了承した覚え無いんだけど!? あれ本気なの!? いや、普段の言動からして本気なんだろうけど!」
「勿論本気ですわ、恋愛はいつ如何なる時も本気で無ければいけないんですのよ? 鈴さんも普段からそう心掛けるべきですわ」
「そんな事聞いて無いわ! つうか余計なお世話よ! ちょっと悠斗! あんた彼氏ならきちんと手綱握ってやりなさいよ! 最早暴走でしょこれ!」
「手綱……つまりリード、という事ですの? それはつまり……成程、刺激を求める為にその様な激しい行為もありますのね? では用意して近い内に……」
「馬鹿ああああああっ!! 誰もそんな事言って無いわよ!! 何なの!? 頭の中年中春真っ盛りなの!? 他の人に聞かれたらヤバいからそういう事言うなって私言ったわよね!?」
「えっ? ですが鈴さんがそう仰ったではないですか?」
「言って無ぁあああああい!!」
騒ぎ始めた鈴はこの際置いておくとして、確かにセシリアの言葉は余り聞かれて良いものでは無い。
思わず目の前にいる一夏と篠ノ之の様子を伺う。
「手綱を握るって、そういえば何で言うんだ?」
「む? 一般的には手綱を締める、だな。 馬の手綱から来ていて馬を制御するのに使われた事から他人を制御するという意味合いで使われるものだ」
「へぇ、成程なぁ……なら何で鈴はあんな真っ赤になって怒ってるんだ?」
「むぅ……過去に、馬に関する事で何か嫌な事でもあったのだろうか?」
「あ……そっか、ならあんまり馬の事は言わないでいた方が良さそうだな」
……何も心配いらないみたいだな。
「そ、その……鳳、ちょっと良いだろうか?」
「はぁ……はぁ……何よ!? ちょっと今この頭の中春爛漫お嬢様の相手が忙しいんだけど!?」
「い、いや……鳳にも、きちんと謝りたくて……」
「は? 別に私、謝られる様な事されて無いけど?」
「そんな!? その、食堂で酷い態度を……!」
「あぁ、あれなら別に対した事じゃ無いわよ? あんなの気にする程私細かく無いし、謝る必要は無し、これで良いでしょ?」
「え、あの……」
「悪いけど今忙しいから……セシリア! 話はまだ終わって無いからね!? あんたはいつもいつもそうやって……あ、ちょっと、また同じ手を……あふぅ」
その言葉とその後直ぐにいつぞやと同じ様にセシリアに抱き締められ脱力する鈴の姿に再度呆然とする篠ノ之、最早何も言えずに固まる事しか出来ない様だ。
「な? だから言っただろ? 皆良い奴らだから心配いらないって」
「い、一夏……」
「悠斗、ありがとな」
「礼を言われる事はしていない、俺はただ親友の頼みを聞いだけだ。 それにさっき束との仲違いが無くなるのならそれで構わないと言っただろ?」
「い、五十嵐……その、お前と姉さんは一体……?」
丁度良い、この際だから説明しておくとしよう。
俺の過去、そして束との出会いとこの学園に入学するまでの事を事細かに説明してやった。
「……そうか、姉さんと一緒に……あの時、あんなに怒っていたのはそういう事だったのだな」
「そうだな、あの時はつい頭に血が登ってしまった」
「い、いや、事情を知った今となっては怒って当然だ……その、本当にすまなかった」
「だから謝る必要は無いと言ってるだろうが……いや、そうだな、頭に血が登った事をチャラにしてくれるならそれで構わない。 それで貸し借りは無しにしてくれ」
「わ、わかった……あ、ありがとう……」
「よし! 仲直り出来たなら仲直りの握手だな!」
突然、一夏がそう言って俺と篠ノ之の手を取って無理矢理握手させてきた。
仲直りの握手……そういう事をするものなのだろうか?
その後、握手をしている事に気付いたセシリアが何故か鋭い視線で一夏を睨み付け、睨まれた一夏が怯えながら土下座をし始めたが、それはまた別の話だ。
おまけ:攻める(攻め過ぎてしまった)鈴ちゃん
「ねぇ、ちょっと良い?」
急に土下座し始めた一夏、その前で絶対零度の視線で見下すセシリア、何とかセシリアを宥めようとする悠斗。
三人がそっちに集中している状況、丁度良いわね。
「な、何だろうか?」
「あんたさ、一夏の事をどう思っているのよ?」
「い、一夏の事を? えっと、大切な存在だと、私は思っているが……」
へぇ……大切な……へぇ……。
篠ノ之箒、私が小学生の頃に転校して来るまで一夏と幼馴染みで、学園でも一夏といつも仲よさげで、あの篠ノ之博士の妹。
そして何より……その身体にぶら下げたバカでかい二つの膨らみ。
……何なのよ! 何食べたらそんな育つのよ!? しかも身長もあってモデル体系で! メロンみたいなバカでかい膨らみあって!
同い年よ!? 何で同い年でこんなに差がつくのよ!? おかしいでしょ!?
こんなダイナマイトボディが一夏に迫ったりなんかしたら……負ける訳にはいかないわ!
「成程ね……でもね、私にとっても一夏は幼馴染みで大切なんだから! あんたには負けないんだから!」
例え胸の大きさが負けてても、身長が私の方が低くても、体付きで負けてても、胸の大きさが……胸……ぐすん。
で、でも! 一夏が好きって気持ちだけは、誰にも負けないんだから!
「負け……? えっと、何の話をしているんだ?」
「だから! あんたも一夏の事が好きなんでしょうけど、私だって好きって気持ちは誰にも負けないんだからね!? 何なら返事はまだだけど、私はもう告白してるんだから私の方がリードしてるのよ! 例えあんたがその気でも絶対に譲らないんだから!」
ビシッと指を差しながら宣言する……決まった。
ちょっと熱くなって思ったより声が大きくなっちゃったけど、かなり大胆な事を言っちゃったけど、これは我ながら完璧に決まったわね。
「告白……そ、そうなのか、その、おめでとう……」
…………ん?
「……おめでとう? どういう事? あんたも一夏が好きなんじゃないの?」
「その、確かに一夏の事は好きだが、それは友達としてで……そもそも私が一夏に抱いているのは憧れに似たもので、恋愛感情では無いのだが……」
「え? だ、だって、この前食堂で……」
「あ、あの時は初対面だからどう会話すれば良いのかわからなくて……昔から人見知りだったから何とか一夏を間に挟んで話題を作ろうとしたのだが、あの様な態度を取ってしまって……」
…………ゑ?
恋愛感情は無い?
友達としか思って無い?
それって、つまり……。
その時、ふと視線を感じてまるで壊れたブリキの玩具の様にゆっくりと振り返る。
「あらあら〜」
「何だ、言えるじゃないか」
さっきまでの絶対零度が嘘の様に微笑ましいものを見る温かい視線でこっちを見るセシリア、何処か感心している様な視線でこっちを見る悠斗。
そしてその隣、顔を真っ赤にして気まずそうに頬を掻きながらチラチラと私の顔を見る一夏。
それが意味するのは、ただ一つ。
「…………ふぇ」
私は駆け出した。
ひたすらに走った。
それはもう、全力で走った。
あいつが一夏に恋愛感情が無いのは正直安心した、でもそれとこれとは話が違う。
本当に、本っ当に恥ずかしいぃ!!
寮の自室に辿り着くまで、私は全力で走り続けるのだった。
その後、何故か陸上部の娘から何度も勧誘された。
断った。