少し時間が取れて、思ったより筆が進んだので投稿させて頂きます。
「なぁ悠斗、オルコットさん、シャル見なかったか?」
あれから三日後、セシリアと共に教室へと向かってる最中一夏から声を掛けられた。
「いや、俺は見ていないな」
「私も見ていませんわね」
「そっか……いや、朝起きたらもう部屋にいなくて、連絡しても出ないからさ」
そういえばこの三日間、何やら職員室へと何度も足を運んでいたな。
なら、恐らく考えられるのは……。
「……一夏、耳を素早く塞げる様に身構えてた方が良いぞ」
「は? 耳? どういう事だ?」
「あくまでも勘だ、とにかくいつでも塞げる様にしておけ」
今一理解出来ていない一夏、そして恐らく気付いたであろうセシリアと共に教室へと向かった。
「怪我をしていたボーデヴィッヒが今日から授業に復帰する」
教室にて織斑千冬が隣にボーデヴィッヒを立たせながら伝えた言葉に大半の奴らが顔を見合わせている。
しかし早いな、見た感じ骨折した筈の腕はギプスすら取れている様だが……いや、そういえばクロも多少の怪我なら下手するとその日の内に治っていたな。
確かナノマシンがどうとか言っていたが、俺が使われた医療用ナノマシンとやらが体内にあるのだろう。
「代表候補生だから数日程度で遅れを取る事は無いだろう、このまま授業に参加を……」
「教官、その前に……」
織斑千冬の言葉を、ボーデヴィッヒが遮り何かを伝えようとする……が、何やら織斑千冬は瞬時に真顔となり表情が消えた。
「織斑先生だ」
「あ、いえ、その……」
「織斑先生だ」
「皆に話を……」
「織斑先生だ」
「きょ……」
「織・斑・先・生・だ」
「……お、織斑先生、授業の前に話をしても宜しいでしょうか?」
「あぁ、良いだろう」
漸く許可が出されると、ボーデヴィッヒは緊張した面持ちで教壇の前へと出てから席に座る全員を一度見渡し、そして深く頭を下げた。
「編入してからの皆への態度、発言、全てにおいてすまなかった」
突然の行動に教室中の奴らが隠す事なく驚きで目を見開いている。
「私の身勝手な考えと行動で、多大な迷惑を掛けてしまった。 この場を借りて、謝罪させて欲しい」
ボーデヴィッヒの言葉に俺以外の全員が目を点にして固まってしまっている。
そんな中でボーデヴィッヒは初めに織斑の元へと歩みを進め、転入初日の事があった為に身構える織斑の前に立つとそのまま深く頭を下げた。
「本当に、すまなかった」
「お、俺は別に……」
「きょ……お、織斑先生の事で、勝手な私情を挟んでしまいお前に対して不快にさせる言動を取ってしまった。 その事を、きちんと謝罪したい」
「あ、えっと、それなら俺も私情になるんだけどさ、悠斗からボーデヴィッヒの事はこの前聞いてたんだよ、それに俺も悠斗には同じ事をして貰ったから今度は俺の番なんだ。 俺は謝罪を受け入れるよ、それに俺もちふ……」
「織斑先生だ」
「……えっと、織斑先生が凄い人なのに、俺が全然ISの事を理解して無くて情けなかったからボーデヴィッヒが怒るのも仕方無い事だろ? 確かに急にISを動かして急にこの学園に入学する事になって全然わからない事だらけだけど今必死に皆に追い付こうとしてる所だからさ、ボーデヴィッヒはドイツの代表候補生なんだよな? 良かったら授業とかISの事とか色々と教えてくれよ、せっかくクラスメイトになったんだから仲良くしたいからさ!」
そう言って笑顔で手を差し出す一夏、俺との約束を守ってくれたんだな。
笑顔で手を差し出す一夏に驚きで目を見開くボーデヴィッヒだが、やがて深く頭を下げる。
「……すまない、感謝する」
そう言って"差し出された手を取らずに"一夏の前を後にするボーデヴィッヒ。
……やはり、仲直りに握手を必ずするという訳では無いんだな。
掴まれる事無く宙を彷徨う手と、笑みを浮かべたまま固まる横顔が何処か哀れに見えた。
そんな一夏に構う事無く、ボーデヴィッヒは次いでセシリアの前へと立つ。
その表情は一夏に対して見せていたものとは大きく変わり、両手を強く握り目を伏せながら緊張している様子が伺える。
「その……私は、オルコットに対して……」
「……ボーデヴィッヒさん? 話をする時は、きちんと相手の目を見て話すべきですわ」
静かに、それでいてはっきりと告げたセシリアに、ボーデヴィッヒは身体を震わせながらも視線をセシリアへと向ける。
「あの……その……」
「……ゆっくりで構いません、きちんと、お話して下さい」
「っ……本当に、すまなかった! 私の勝手な解釈と、勝手なプライドでオルコットにあんな酷い仕打ちをしてしまい……正面からやって勝てないからと言ってあんな汚い手段を使い、それで勝ったつもりになり思い上がって……本当に、本当にすまない!」
堪える事が出来ないのか、目に涙を浮かべながら必死な様子で謝罪し続けるボーデヴィッヒに、セシリアは何も言わずに視線を向け続ける。
「い、今更、謝罪したとしても許されないのはわかっている! こんな言葉だけの謝罪程度で意味は無いのはわかっている! だ、だが……だが、どうしても直接謝罪したいのだ! 許さなくてもいい、オルコットが望むのならば如何なる罰も受け入れる!」
「如何なる……成程、わかりましたわ」
感情的に言葉を連ねたボーデヴィッヒに対しセシリアは静かにそう言うと立ち上がり、そのまま机を回ってボーデヴィッヒの直ぐ目の前へと立った。
「あの時、貴女が巻き込み掛けた二人には謝罪しましたの?」
「っ……ま、まだ、謝罪していない……許されないだろうが、放課後に、行こうと思っていて……」
「そうですか……では」
教室にいる全員が次にどうなるのか固唾を呑んで見守る中、ボーデヴィッヒの顔へと手を伸ばすセシリア。
恐らくは殴られるか、それとも叩かれると思ったのであろうボーデヴィッヒは強く目を閉じた。
ペチン
「あぅ……!?」
何とも、弱々しい音が鳴った。
その正体はセシリアの伸ばした手の先、ボーデヴィッヒの額へと虫すら仕留められない程弱い力で放った所謂デコピンというものだった。
想像していたであろうものよりもかなり弱いその一発に、驚きで目を白黒させながらボーデヴィッヒはセシリアを見上げる。
「これでおあいこですわね?」
「……は? い、いや! こ、こんなものでおあいこも何も無い! もっとこう……殴るとか、罵倒するのではないのか!?」
「そんな事しませんわ。 貴女はきちんと反省して誠心誠意謝罪したではありませんか、それなら私はその謝罪を受け入れますし許します」
「そんな……!」
まるで理解出来ない様子のボーデヴィッヒを、セシリアは身体を屈ませながら両腕でしっかりと抱き締めた。
「っ!?」
「貴女の姿を、表情を見て僅かですがお気持ちはわかりましたわ、とても辛かったでしょう、とても苦しかったでしょう」
突然の事に驚くボーデヴィッヒの耳元で、静かに語り掛ける。
「っ……!」
「どの様な過去があったのか口にするのが辛いのでしたら詳しくは聞きません。 しかし貴女は今、国の代表候補生となっていらっしゃるという事はとても苦労して、その頑張りが認められたのでしょう? 私も同じ代表候補生ですからお気持ちは理解出来ますし、そんな貴女を責める事なんてしませんわ」
「だ、だが私は……お前に……そしてあの二人の生徒に……」
「人とは誰しもが過ちを犯してしまうもの、勿論私も同じですわ。 入学当初の私も同じ様に過ちを犯してしまいましたがそんな私を許して下さり、認めて下さった方がいましたの。 大事なのはそれを決してやってはならない過ちだと理解し、そして同じ過ちを決して犯さぬ様に反省する事です。 貴女はそれが出来ているのですから大丈夫ですわ、あの二人もきっと許して下さいます。 もし一人で不安なのであれば私もご一緒しますから、きちんと謝罪しに行きましょう?」
「あ……ぅ……」
「これ以上自分自身を責めないで下さい、例え何があったとしても私は貴女の味方になって差し上げますわ。 貴女は変わる事が出来ます、きっと皆さんわかって下さいますから大丈夫ですわ」
「変わる事が出来る……五十嵐悠斗にも、同じ事を言われた……」
「あら……ふふっ、だって夫婦は似るものですから。 ですがほら、私だけで無く悠斗さんも貴女の味方になって下さったのでしょう? それに先程織斑さんも、ですからきっと大丈夫ですわ」
「……こんな、こんな私の事を、許してくれるのか? 本当に、味方になって……くれるのか……?」
「勿論ですわ、私嘘は嫌いなんですの……だから私の事を、信じて下さい」
その言葉を聞いて、ボーデヴィッヒは目を見開くと同時に感情が爆発したかの様に涙と共に嗚咽を漏らし始める。
「っ……ぅっ……ごめ……なさ……ごめん、なさい……! ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「……大丈夫、大丈夫ですわ」
泣きながら謝り続けるボーデヴィッヒの背を、小さな子供をあやすかの様に優しく擦りながら言葉を掛け続けるセシリア。
思っていた通り、セシリアと一夏なら必ずボーデヴィッヒの事を許してくれると信じていた。
他の誰でも無い、大切な二人だから。
「子供をあやす母親の様な姿……」
「正しく聖母……」
「お姉様でありながら、お母様としても……」
「ママァ……」
「バブゥ……」
「私も……諭されたい……」
「よしよしされたら昇天しても良い……」
「ちょっとだけ、厳しくされても良いかも……」
「確かに……こう、何て言うか……『めっ!』って……」
「叱られた後に優しく抱き締められたい……」
『わかりみ……』
何やら一部の奴らからおかしな発言が飛び交っているが、一先ずは無視しよう。
「……ボーデヴィッヒ、話が終わったのなら席に着け、これ以上時間を取る訳にはいかないぞ」
数分程経ってから織斑千冬が漸く発言した。
しかしその目元は少々涙ぐんでいる様にも見える……山田に関しては隠す事無くハンカチで涙を拭いているからまだマシなのかもしれないが。
「ぐすっ……も、申し訳ありません、お時間を取らせてしまい……」
「……構わん、だがもう一つ伝えなければならない事があるから早く席に着け」
その言葉に、教室に向かってる最中の織斑との会話が頭を過る。
一瞬だけセシリアと一夏へと目配せするがセシリアは気付いたものの一夏はまるで気付いていない様だ。
戦闘の際の勘は鋭いのにこういった時は鈍い……まぁ、忠告はしていたからな、後の事は知らん。
「待たせたな、入って良いぞ」
織斑千冬が廊下で待っているであろう人物にそう声を掛けると、一人の生徒が教室へと入って来た。
その顔は勿論知っている顔、これまでと違うのは制服が男子指定の制服から女子のものに変わっている事、そして今まではサラシか何かで押さえていたのであろう胸元の膨らみ。
クラス全員が呆けた様に口を開ける中、シャルロットは教壇の前に立つとそのまま体の向きを変えて全員の顔を見渡す。
「シャルロット・デュノアです。 改めて、宜しくお願いします」
「えっと……デュノア"君"では無くて……デュノア"ちゃん"という事でした……あぁ、せっかく決めた部屋割りが……また残業がぁ……」
山田がおどおどと、しかし絶望した様子でそう口にした瞬間、教室の空気が一気に変わった。
……来る。
素早く一瞬で耳を塞ぐ俺とセシリア、教壇の前に立つシャルロットと織斑千冬、そして気配を感じるに咄嗟に篠ノ之とボーデヴィッヒも同じ行動を取った様だ。
そしてその直後、決して誇張等では無く、教室が揺れた。
新しい校舎の為決して老朽化は無いにも関わらず、一部の窓ガラスに無数の罅が入っていた。
この一件が後日、校内新聞の一面を飾ったのは言うまでもないだろう。
ちなみに後から聞いた話だが、一夏曰く。
「……スタングレネードってあるだろ、それだった」
隣のクラスにいた鈴曰く。
「冗談抜きでまた無人機の襲撃かボーデヴィッヒのISが暴走したかと思ったわ、衝撃で一瞬跳んだのよ? 私の身体、マジで」
そして黒狼曰く。
『瞬間的ではありますが確かに同等のデシベル数を検知しました。 彼の言っている事は信憑性は高いかと』
本物のスタングレネードがどういう物かは知らないが、そう語った一夏の何処か遠くを見る様な目と、鈴の余りにも本気の目、尚且つ黒狼から告げられた言葉で思わず頭が痛くなって来た為にそれ以上深く追求するのは止めたのだった。