インフィニット・ストラトス 漆黒の獣   作:田舎野郎♂

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第8話 歩み寄る心

「……えっ? い、五十嵐さん?」

 

「ん?」

 

あれから寮へと戻り、部屋の鍵を開けた所で後ろから声が聞こえた。

 

振り向くと、そこには驚いた表情を浮かべるオルコットの姿が。

 

「オルコット……」

 

「あ、その……い、五十嵐さんも此方の寮に住みますの?」

 

「あぁ、放課後に急に言われてな」

 

「そう、なんですの……」

 

そこで会話は終わってしまった。

 

違う、昼の事を謝罪したいんだが……いや、謝罪はオルコットに止められているから出来ない。

 

どうするべきか……。

 

そこでふとオルコットの表情をよく見てみれば、オルコットもまた何かを言いたそうにしている様に見えた。

 

「……立ち話もなんだ、部屋に入るか? 飲み物ぐらいなら出せるが」

 

「はぇっ!?」

 

何処から出したんだ、今の声は……。

 

「あ、その……えっと……お邪魔、しますわ……」

 

了承の返事を聞いてから、扉を開けてオルコットを部屋に通す。

 

初日から、織斑千冬に冗談で言われた事をしたのだと気付いたのは、後から指摘されてからだった。

 

 

 

 

「珈琲しか無いが、大丈夫か?」

 

「は、はいっ!」

 

俺の使う予定では無い方のベッドへと座らせ、最初から備え付けで用意されていた珈琲を淹れる。

 

何やらオルコットが先程から様子がおかしいが……。

 

疑問に思いながらも淹れた珈琲をオルコットへと差し出し、俺ももう片方のベッドに向かい合う形で座る。

 

「どうかしたのか?」

 

「え? い、いえ! 何でもありませんわ!」

 

「……なら、良いんだが」

 

明らかに何でも無い訳が無いんだが……先程から視線をあちこちにさ迷わせ、顔も僅かに赤い様な気がする。

 

「まさか、体調が悪いのか? もしそうなら無理せずに部屋に戻った方が……」

 

「ほ、本当に大丈夫ですから!」

 

そう言って受け取った珈琲を大きく一口飲み、途端に顔をしかめた。

 

「あぅ……に、苦いですわ……」

 

「あぁすまない、ブラックで淹れていた」

 

立ち上がり、キッチンから角砂糖を持って来る。

 

そのままオルコットに手渡せば、珈琲にそこそこの量を入れてから恐る恐るといった様子で再度口を付けた。

 

「ふぅ……よくこんなに苦いものが飲めますわね? うぅ、まだ口の中がおかしいですわ……」

 

「……ふっ、くくっ」

 

その本当に苦そうに舌を出しながら言う姿に、堪えきる事が出来ずに思わず笑ってしまった。

 

「むぅ……笑わないで下さい」

 

「悪い、完璧だと思っていたのにこんな弱点があるとは思わなくてな」

 

「べ、別に私は完璧なんかではありませんわ」

 

「そうか?」

 

「そう言って頂けるのは光栄ですが、私はまだまだ至らない事ばかり。 もっと自分自身を磨かなければいけませんもの」

 

今の年齢で代表候補生まで登り詰めているにも関わらず、傲る事無く精進し更なる高みを目指すその姿に思わず感心した。

 

普通なら代表候補生になった時点で自分の事をエリート扱いする奴が大半の筈だ。

 

しかしオルコットは初めの口調こそ高圧的ではあったが、ISの事を尋ねた俺にきちんと分かりやすく説明し てくれた。

 

今日の様に時折プライドから熱くなりやすい所がある様だが、話を聞いてちゃんと考え直す事が出来る。

 

 

「あの、ところで五十嵐さん、一つお聞きしたいのですが宜しいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「その首に付けているのは……チョーカー、ですの? その様な物を付けていたのですか?」

 

「……そうだな、オルコットには伝えておきたい。 出来れば他の奴には内密に頼む」

 

その言葉にオルコットは表情を真面目なものに変える。

 

「こいつは黒狼、俺の専用機になったISだ」

 

「っ!? せ、専用機を持っていらしたんですの!?」

 

「いや、ついさっき受け取った。 468個目のISコアを使用した第三世代機だ」

 

「468個目……それはつまり、篠ノ乃博士の……!?」

 

「……そういう事だ」

 

驚き唖然とするオルコットだったが、やがて表情が変わった。

 

「……五十嵐さん、私はイギリスの代表候補生ですのよ? 私がその機体の事を本国に報告するとは考えなかったのですか?」

 

真剣で、鋭い瞳が俺を真っ直ぐに見つめて来る。

 

 

……蒼く、美しい色だ。

 

「……オルコットなら信用しても良いと思ったんだ。 それに今回の試合、今日伝えた様に俺は正々堂々と戦いたい」

 

「私がそんなに甘い人間だと思っておりますの? 機体だって、私がこのまま何も貴方に伝えなければ貴方が勝手に情報を晒して不利になっただけですわ」

 

「確かにそうだな、だがオルコットはそんな事をする様な奴じゃない、そう思ったから伝えた」

 

俺の言葉に、オルコットは表情を変える事無く黙っている。

 

そのまま沈黙が続くが、互いに視線は逸らさない。

 

 

 

 

「……はぁ、参りましたわ、私の負けです」

 

オルコットが小さく笑みを溢すと、それまでの雰囲気が嘘の様に感じる。

 

「ご安心下さい、貴方が仰った様に本国に報告なんてしませんわ」

 

「……俺から言っておいて何だが、それでも良いのか?」

 

「確かに代表候補生として、この話は本国に報告しなければならないのかもしれません。 しかしそれは貴方の信用を裏切る行為、オルコット家の誇りに傷を付ける行為ですわ……それに、貴方の信用を、失いたくありませんもの」

 

そう言って柔らかい笑みを浮かべるオルコット、その眩しい程の笑みに俺は思わず見惚れてしまった。

 

「五十嵐さん? どうしましたの?」

 

思わず惚けてしまったが、オルコットの呼び掛けに我に返る。

 

「悪い、何でも無い」

 

「そ、そうですの?」

 

首を傾げるオルコットにそれだけ返し、残った珈琲を一口に呷る。

 

「……武装はまだデータとしてしか見ていないが、近距離と遠距離両方の武装が備わっている、試合までどれくらい使えるのかわからないから俺から教える事が出来るのはこれだけだ」

 

「教えるって……普通、試合をする相手に武装を教えるなんて考えられない事ですのよ?」

 

「そうだな、だが今回の試合に関しては別だと思っている。 オルコットにしっかりと向き合って試合がしたい……まぁ、俺の勝手な意地だが」

 

「それは、男としてのプライドというものですの?」

 

「……そうだな」

 

下らないと一蹴される、鼻で笑われる、そう考えていたがオルコットは何故か優しい笑みを浮かべているだけだった。

 

「わかりましたわ、ですが武装を教える必要はありません。 ISの事を教えて頂けるだけで私は構いませんわ」

 

そう言うとオルコットは髪を耳に掛け、耳に付けられたイヤーカフスを俺に見せて来た。

 

「私の機体は第三世代機《ブルー・ティアーズ》ですわ。 遠距離攻撃を主体にし、大型のレーザーライフルと遠隔無線誘導型の『BT兵器』を装備しています」

 

突然告げられた言葉に、思わず固まってしまった。

 

「これで対等になりましたわね?」

 

「な、何故、そんな……」

 

「私だけが聞くなんておかしいと思いませんの? それに五十嵐さんがきちんと向き合い正々堂々勝負をしたいと仰った様に、私も向き合って勝負をしたい、そう思ったんです」

 

「そう、なのか」

 

「……正直に言いますと、今回の五十嵐さんとの試合、勝ち負けには拘っていませんの。 私はただ五十嵐さんの意思を、心を確かめたいのですわ」

 

その言葉に、目を見開く。

 

こんな風に、真剣に俺に踏み込もうとしてくれたのは只一人、束だけだった。

 

オルコットが、ここまで真剣に向き合おうとしてくれているとは知らなかった。

 

「ですから五十嵐さんが望む様に、私も正々堂々勝負をさせて頂きますわ」

 

……あぁ、そうか。

 

束だけじゃ無かったんだな。

 

こんな俺に、踏み込もうとしてくれる奴が、他にもいたんだな。

 

「……オルコット、ありがとう」

 

「はぅっ……!?」

 

礼を言った瞬間、オルコットは息を飲んで固まってしまった。

 

頬も何やら赤くなっている様だが……一体、どうしたんだ?

 

「オルコット、どうしたんだ?」

 

「あ、ぅ……い、今のは、狡いですわ……」

 

「……狡い?」

 

何の事だ?

 

疑問を抱いたが、その後も結局オルコットは教えてくれる事は無かった。

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