今回は戦闘シーンなどはないです。
横浜騒乱編 Ⅰ
九校戦や夏休みが終わり、魔法科高校も二学期のシーズンになっていた。
校内では様々な変化があり、新生徒会の発足などが大きな変化だろう。それに二学期は魔法協会主催の論文コンペという大きなイベントがある。
崇秀は魔法工学は苦手なので、論文コンペには興味はないが、一高の代表チームの一人が、体調不良で出場ができないため代わりに達也が出ることになったそうだ。
だが、崇秀も論文コンペには無縁というわけではなかった。新学期から崇秀は風紀委員の副委員長になり、論文コンペのデータの保護のため、校内の巡回を今まで以上に行なっていた。委員長の千代田花音からもなかなか良い印象を受けていた。
仕事熱心なため、最近は達也たちと一緒に帰ったりする事が少なくなり、当番の日は放課後の巡回も行い、当番でない時は寄り道をせずに、まっすぐ兵舎に帰って休息をとるという生活が続いていた。
ある日、いつものように兵舎に帰った直後、達也から電話があった。
「達也か。なんだか声を聞くのも久しぶりだな。」
「それもそうだな。崇秀も最近は風紀委員の方が忙しそうだな。」
「まあ達也の方と比べたら、そうでもないがな。それで、そっちのほうはどうなんだ?」
「俺はあくまでも手伝いのようなものだからな。今のところは問題ないさ。」
「流石ってとこだな。それで、わざわざ電話を掛けてきたってことは、何か急ぎの用か?」
「ああ、俺もコンペが近くになるにつれて、ますます崇秀と会う時間が少なくなってくると思うからな。ちょっと話しておきたい事がある。」
「実は今日の帰り、五十里先輩たちと高校の近くの店に行った時に、跡をつけられていたんだ」
「!? 外部の人間か?」
「いや、いや制服を着ていたから同じ一高の生徒だ。大体誰かは予想がつくが、確証がないからなんとも言えん。」
「なるほど。そいつを風紀委員の俺が捕まえろと?」
「まあそういう事だ。あまり派手な真似はしなくていい。だが、早く取り押さえておかないと、後々そいつが後悔することになるだろう。」
「というと?」
「背後関係だ。詳しい事は藤林少尉に任せることになるがな。」
「なるほどな。」
崇秀はこれ以上のことは聞かなくても理解ができたようだ。
「なら、この事はよろしく頼む。」
「ああ。何か情報が入ったら、報告する。」
そう言って崇秀は電話を切った。
二日後、達也たち一高のチームは野外での実験を行なっていた。多くの生徒がここに来ており、その様子を見に来ていた。そして、もちろんセキュリティ面の方にも考慮しており、チームメンバーに付き添う人や、風化委員も巡回に当たっていた。
そうして、その人混みの中にどうやらハッキングツールのようなものを使用している生徒がいた。過去にエガリテについていた壬生が発見し、桐原と追いかけようとしていたが、それを見ていた崇秀が二人を止めた。
「壬生先輩、桐原先輩!」
崇秀は二人をすぐに呼び止めた。
「先輩方はここで待機していてください。」
「でも...」
「分かってます。でも、あの装置はまあまあな代物です。あれ以外にもきっと相手はなんらかの抵抗手段を隠し持っているでしょう。ここはCADを携行している風紀委員にお任せを。」
そう言って崇秀は二人を止め、妨害工作をする相手を追った。
人気のいないところまで追い込むと、相手も諦めたのか、止まったようだ。
「風紀委員だ。お前が今手に持っているそれで達也に何をした?」
そう言われたと同時にその生徒は手に持っているものを自分の背に隠した。
「隠しても無駄だ。お前のそれは無線式のパスワードブレーカーだな?」
その生徒は険しい表情を見せる。
「俺は1ーAの早乙女崇秀だ。お前の名は?」
「1ーGの平川千秋です。」
崇秀はこの名を聞いたとき、思い出した。
(平川...あぁあのエンジニアの...達也が言っていたのはそういうことか。)
「わかった。では警告しておこう。抵抗するのをやめて、今すぐその装置をこっちに渡せ。それと、お前と繋がっている組織ともさっさと縁を切れ。」
「私は別に縁を切るつもりはありません。何かが欲しくて手を組んでいるわけではないんですから。だから、これもあなたには渡さない。」
「そうか...手荒な真似はした食わなかったが、そっちがその気なら力ずくで行くしかネェな!?」
そう言って崇秀が一歩出た時、目の前に閃光が広がった。
(こんなモン隠し持っているとはな)
周りの光を反射し、元の視界に戻った時、今度はダーツの矢のようなものが崇秀の前の地面に刺さった。そうして煙が辺りに広がる。
(この感じは...神経ガスか)
崇秀は自分を周りの空気の流れを変え、ガスが流れてこないようにした。
ガスのせいで崇秀は千秋の様子をよく確認できなかったが、千秋が「フっ」と声を出していたのは聞こえていた。
「そんな小細工ごときで、俺に通用すると思ってるのカァ!」
崇秀がそう声をあげ、ガスが崇秀の横や後方へと散っていった。
「お前にはどうやらたくさん聞かなければならない事があるなぁ?」
崇秀がそう言った時、平川はとっさにもう一発矢を放ったが、その矢は崇秀の方へ向かった瞬間、方向が180°変わり平川の後ろへと飛んで行った。
次の瞬間、崇秀は前方へと大きく踏み出し、矢を放つ装置がついている左腕を掴み、右手に持っているパスワードブレーカーを取り上げた。左腕の装置も取り外し、手錠を掛けて、身動きを取れないようにした。
「こちら早乙女。中庭の近くの歩道で実験の妨害工作をする女子生徒を取り押さえたので、至急応援に来てくれると助かります。」
通信機で巡回している他の風紀委員に伝え、念のため保健室の方へと連れていった。
保健室には崇秀と平川、それに千代田と五十里も来ていた。
「一昨日は大丈夫だった?」
千代田がそう切り出すと平川は慌てて俯いた。
(一昨日ね...)
「お前は何も欲しいものがないと言っていたが、それはどういうことだ。なのに何故こんな真似をした。」
「私はデータが欲しいわけではないんです。ただ、作動プログラムを書き換えて、あいつの困った顔が見る事ができるなら...」
「嫌がらせであんなことを?成り行き次第では退学になっていたかもしれないのよ。」
「それでも構いません。あいつに一泡吹かせる事ができるなら!あいつばかりいい目を見るなんて...」
「お前は三年の平川小春の妹だな。それで姉が体調を崩したのを達也のせいだと思っている。そうだな?」
「だってそうじゃないですか。あの事故は姉さんでも見抜けなかったのに、そうせず小早川先輩を見殺しにして。それで姉さんは責任を感じて...」
「お前は色々勘違いしているな。これは達也だけの責任ではない。」
「そうだね。早乙女君の言う通りこれは見抜けなかった僕も含めて技術スタッフ全員の責任だよ。」
技術スタッフとして責任を感じていた五十里も続いた。
「笑わせないでください。」
平川が嘲笑うように言ったとき、五十里の許嫁である千代田が立ち上がったが、五十里がそれをなんとか抑えた。
「だって姉さんでも見抜けなかったのに、五十里先輩にできるわけないじゃないですが。でもそれをあいつは見抜いていた。でも自分のこと、妹のことでないだけでそれを見過ごした...」
「ああ、そうだな。」
崇秀もまた苦笑しているようだった。
「あいつは自分や妹のことにしか動かない。いや、そうすることしかできないんだ。俺は達也とは校内じゃ深雪の次くらいに関わりがあると思っているが、あいつは妹以外の人間には興味すら示さない。お前がたとえ邪魔しようがあいつはお前のことを嘲笑ったりなんてしない。それどころかお前に情けをかけることすらもない。」
崇秀の表情は真剣だった。それは崇秀も過去に似た境遇あっていたからだ。
続きを話そうとしていたが、平川は何かボソボソと独り言を言い始め、状態は悪化したようだった。
「はい、今日はここまで。」
ここで、ここまでずっと黙って様子を見ていた安宿先生が止めに入った。
「この子はしばらく、魔法大学の方の病院に入院させます。こちらのことは私に任せて、仕事に戻りなさい。日も近いんでしょ?」
安宿先生がそう言い、3人は保健室を後にした。
崇秀に五十里、千代田と珍しい組み合わせで歩いていると、崇秀は五十里から
「あの言葉には続きがあったようだけど、何を言おうとしたんだい?」
と尋ねられた。崇秀も隠すようなことはせず、
「平川は学期期末で魔法工学の科目で学年2位の成績を残しています。1位はもちろん達也で満点でしたが、あいつは92点と十分高得点を取っていたんですよ。こんな真似しなくても、実力だけでも見返せる見込みはあるって言おうとはしていました。」
「早乙女君は見た目によらず、優しい人だね。」
「そんなことないですよ。実力で見返せるなんて口だけで、実際に達也を上回るなんて、気の毒ですが無理な話だと思いますよ。」
崇秀はそう言って先に仕事へと戻っていった。
そういえば崇秀の性格は九校戦をきっかけにだんだん原作の一方通行に似せていこうかなと思ってます。
あ、魔法科の原作は無事に読み終えました。ネタバレになるので内容には触れないでおきますが、続編も楽しみしてます...!