そうして、16:00ごろ、か崇秀、達也以外の一高生や他の一般市民と共に地下シェルターへの避難をすることになった。
達也はムーバルスーツの確認・着用のために駐屯地へと向かったが、崇秀は残っている一高生や一般市民の集団の先頭付近に藤林の部隊と共に歩いていた。
だが、その集団にいた、崇秀の素性の一部を知ったら一高生のほとんどは、"崇秀が独立魔装大隊の一員である"ことに頭が追いついていない様子だった。それには、崇秀が今までこれといって変わったことをしていないからだった。
達也は二科生でありながら、風紀委員として活躍し、九校戦では
崇秀は学校ではこれといって目立ったことはしていない。実技試験の成績は学年1位ではあるが、特に得意な魔法もなく、魔法の発動が速いと
いう点以外はこれといって何もしていない。九校戦でも成績は残したものの、変わった魔法を使ったりなどはしていなかった。
だが、皆が崇秀の本当の実力を知るのはそう遅くもなかった。
シェルターへ向かっている集団たちの前に直立戦車2台が向かってくる。
「俺が行く」
CADに手をかけようしていた真由美や深雪を止めるように言い、少し前は出た。
崇秀はCADを起動し、足を地面に力強く踏み込む。
直後、片方の直立戦車が宙へと上がる。
そして、重力に従うように地面の方へと落ちていくが、落ちたのは地面ではなく、もう片方の直立戦車の上へと落ちていった。
こうして、直立戦車は2台とも衝撃により起き上がることはできずに、足止めされた。
「今のは一体...」
「あれだけのものを、しかも動いてるものを一瞬で持ち上げるなんて...」
「しかも、それがもう一つの動いている戦車に当たるなんてな...」
様子を見ていた一高生が続くように発言していく。
「藤林少尉、どうすれば...」
「実は、今回の件でやむを得ない場合はは説明しても構わないとのことです。守秘義務には従ってもらいますが。」
「そうですか。まあ、どうせ隠しても今回の一件で国内外問わず変に探りを入れる野郎がこれから出てきそうですし。見られてしまったものはもうどうしようもないです。」
そうして、崇秀と関わりのあった一高生の集団の近くに移動し、再びシェルターへ向かいながら話すことにした。
「これから話すことも、今回だけ特別ってわけだ。これも守秘義務の内に入るからそこはよろしく。」
「俺がさっき使った魔法はベクトル反転術式の上位互換、ベクトル操作
術式。能力は名前の通り、"触れたもののベクトルの向きを自在に操作できる" というものになる。運動量、電気量、熱量、なんかのこの世のありとあらゆるベクトルに干渉する。今のは足を踏み込んだ時に発生した時の運動量を操作したわけだ。」
「ベクトルの操作なんて、そんなに一瞬で行えるものじゃないのに...」
真由美が驚いた様子でつぶやいた。
「ええ、先輩の言う通り、普通の魔法師が使えるようなものじゃあない。ベクトル反転術式が使えるのは反転という180度向きを変えるという1通りだけ。後は魔法演算領域で処理すれば魔法式が出来上がる。だが、ベクトル操作術式は起動式の規模がまず桁違いだ。1通りだけじゃない、360通り、いやコンマ単位だと無数にある。そこで俺はこのCADを使ってる。」
と言ってチョーカー型のCADを外し、手に持った。
「実は俺の先天的な能力で人間離れした演算処理を脳で行うことができるというものがある。
この能力を使ってCADと脳を直接繋ぐことで、起動式構築時にエイドスから操作するベクトルの変数の情報を読み取り瞬時に追加し、脳で方向なんかの具体的な起動式を何度も再構築することでベクトル反転と同じような、いや、その他の変数もこの段階で追加し、それを含め再構築するため、起動式の規模はとても小規模なものになる。
後はこの小規模の起動式を無意識下である魔法演算領域へ送り込むことで、ベクトル操作の魔法式が出来上がる。結果、魔法の発動にはそこまで時間がかからない。」
この時、崇秀は自分が研究所でできた調整体の魔法師であることを隠すために魔法演算領域が仮想魔法演算領域であることは伝えなかった。
「私たちみたいな普通の魔法師が使うとどうなるの?」
とエリカが崇秀に聞いた。
「予想ではあるが、これは魔法演算領域で行う処理を起動式構築時に行うわけだ。普通の魔法師がこの術式を使うとなると、魔法演算領域で処理することになる。ただのベクトル反転術式でもそれなりには負荷がかかるってのに、それの何千、何万倍の量を処理するとなると、せいぜい1、2回使うのが限界だろう。」
「それって魔法なんかにも使えるのか?」
と今度はレオが尋ねる。
「規模なんかにもよるが、その魔法にベクトルが働いていればできないことはない。本来魔法式が書き換えることをできるのはエイドスだけ、魔法式で魔法式を書き換えることはない。それで、その魔法の魔法式を魔法式として見るのではなく、1つのエイドスとして、起動式を構築する。そうすれば魔法式をエイドスと無意識領域で誤認識し、魔法式に干渉することができるってわけだ。」
これを聞いた一高生は驚きと少しの恐怖を覚えた。
ほとんどの魔法の発動工程には「移動」の工程が含まれるため、ベクトルが発生する。もし、崇秀と対立しなければならない時に一切の魔法が効かず、それが自分の方へと返ってくるからだ。
「だけど欠点もある。操作できるのはベクトルの向きだけであって、大きさや速さを変えることはできない。俺や七草先輩が九校戦で使った
ダブル・バウンドのようにベクトルの操作をしながらそこに加速魔法を加えるとなると魔法演算領域に一気に負荷がかかる。だが、ベクトルを一点に集中させたりすることで、結果的にパワーもスピードも出るし必要ないと言った方が良いか。」
崇秀がそうこう話していると、地下シェルターへ入るための地上からの入り口に着いた。だが、その光景は話を中断するほどの状況に陥っていた。
ゲリラの仕業により、入り口はもちろんシェルターの通路の一部が塞がれ、今にも崩壊しそうなほどになっていた。
崇秀はシェルターの通路を塞いでいる大きなアスファルトに触れて、確認する。
「これは下手に動かさない方が良いだろうな。逆に崩壊して悪化するかもしれん。中の生徒は無事か、誰か分かるか?」
「会長たちは無事だよ。」
幹比古が、呪符を顔の前で構えながら答えた。
この時、地上にいる一高生は中の生徒の安否を確認でき、安堵した様子と、自分たちはどうしようかという困惑に陥った。
「この状況だと地下シェルターは無理だな。これからどうしますか?」
崇秀は先輩である真由美や摩利たちに尋ねる。
「私の会社からヘリを呼ぶわ。逃げ遅れた人を乗せて、空から避難しましょう。」
「私も父に連絡します。」
真由美に続き、雫もヘリを呼ぶと言った。
「なら来るまではここで待機しておこう。」
「いえ、それには及びませんよ。」
向こうから男性二人がこちらに来た。一人は防弾チョッキに刀のような武器を2丁ほど持ち、もう一人も防弾チョッキを着用していた。
「警部さん」
「和兄貴!?」
藤林に続き、エリカがそう言った。
「軍の仕事は外敵の排除、市民の安全を守るのは我々警察の仕事です。藤林さんは...藤林少尉は本隊と合流に向かってください。」
「了解しました。ですが、万が一のためにこちらの早乙女特尉だけはここに残していきます。千葉警部、よろしくお願いしますね。
お互い敬礼し、藤林とその部隊は本隊への合流に向かった。
「イイ女だな」
と寿和が少しニヤつきながら呟く。
「あ、無理無理。和兄貴の手に負える人じゃないから」
エリカがそう茶化すと寿和は「はあ...」とため息を漏らす。
「そんな態度で良いのかエリカ?」
「何よ?」
「今日はお前に良いものを持ってきたんだぞ」
と寿和が背中に持っていたものを自分の前に持ってきたとき、エリカに強引に取られてしまった。
「フンッ」
とエリカは少し照れながら手に取ったものを見つめる。
寿和が持ってきたのは大蛇丸と雷丸、千葉家が開発した武装型CADデバイスだった。
「警部さん、これからどうしますか。」
崇秀がタイミングを見計らったとこで寿和に尋ねる。
「そうですね...ここは敵からも狙われるでしょうし、市民の命を守るためにも食い止めないといけないですね。」
寿和からして崇秀は年下ではあるが、仕事ということで敬語で返す。
「この発着スペースに来る前に足止めをするのが一番ですね。二手に分かれて地上からの敵は食い止めるしか...」
「それなら私たちに任せてよ」
「崇秀君は万が一のためにここに残っておくのが良いと思う。あれくらいなら私たちが相手するわ。」
エリカは自信満々でそう言い、他のみんなも少しやる気があるようだった。
「そうか。なら5、5で二手に分かれて迎え撃つことにするか。みんな、無理はしないように。ヘリが到着次第、みんなも拾うようにしよう。」
そう言い、ヘリの手配をしている真由美と雫にアイコンタクトを取り、承諾を得る。
「よし、そうと決まれば早速位置につくとするか。だが、あれは「対立戦車」用で作られてる。油断は禁物ってのだけは言っておこう。」
崇秀が最後にそう言い、それぞれ所定の位置につくことになった。
今回はほとんどベクトル操作の詳細だけで終わってしまいました。無理矢理感ありますがそこは温かい目で見てください...(笑)