こうして四日目、今日から四日間は本戦は一旦休みになり、一年生のみの新人戦が始まる。
新人戦は本戦のポイントの半分だが、新人戦次第では、三高に逆転を許してしまう可能性があるので、気を抜くことはできない。
新人戦初日はスピードシューティング全試合とバトルボードの予選が行われる。
これには達也も大忙しだった。スピードシューティングには雫が、バトルボードではほのかなどが出る。その選手たちのCADの調整のためだ。
そして、達也の腕前を披露するのはこれが始めてとなる。真由美たちも注目していた。
結果は見事なものだった。女子スピードシューティングの1位から3位までを一高で独占し、女子バトルボードも二人が準決勝戦へと駒を進めた。
女子スピードシューティングの3人は達也が調整を担当し、バトルボードに出たほのかのCADの調整も手伝った。
逆に達也の調整を嫌った男子の方はあまり望ましいものではなかった。森崎がスピードシューティングで準優勝、バトルボードの方は一人が準決勝戦の進出だった。
そして新人戦二日目、この日はいよいよクラウドボールの全試合とピラーズブレイクの予選が行われた。
崇秀は予選と決勝戦で作戦を変更することにしている。
達也は深雪たちが出るピラーズブレイクの予選の方に行っているため、予選はサブのあずさにCADの調整をしてもらっていた。作戦と調整はほとんど終えているので、どちらかと言うと、最終確認という感じだった。
崇秀が予選で使うのはチョーカー型CAD。移動魔法、加速魔法に特化し、予選はラケットを使用して戦うことにしている。だが競技用のため、いつもの演算能力は長時間使えないが、九校戦ではベクトル操作を使うことはないため、必要なかった。
「確認の方はこれで終わりました。司波くんの調整が完璧なので、あまりすることはありませんでしたが...いかがですが?」
「特に問題ないですよ。ありがとうございます。」
「ですが、会長と違ってラケットなんですね。一体どのように戦うのでしょう?」
「それは、始まってから分かりますよ。」
「そうですか...頑張ってください。」
「ええ、いってきます。あーちゃん」
と崇秀は最後は少しふざけてみた。あずさは驚いて変な声が出ていたようだが、そのままコートへと向かった。
クラウドボールというのは、直径6センチの低反発ボールをラケットや魔法を使って相手側のコートに直接落とした回数を競い合う試合である。1セット3分で行われ、透明な壁で覆われたコート内に20秒ごとに出てくるボールを追いかけ、最終的には9個のボールを追うことになる。男子はこれを5セットマッチで行う。
そうして試合が始まった。だが、その光景は観戦している人が驚くほどの光景だった。
崇秀は自分のコート中に加速・移動系統の魔法を張り、そこへ踏み込むたびに自身が高速で移動し、自陣に来たボールをまた加速、移動系統の魔法を使って跳ね返す。ボールも崇秀も異常なほどのスピードで駆け巡っていた。
これに対応できるのは、崇秀が日頃から鍛錬に励んでいたことと、元々の一時的な筋肉強化の能力によるものだった。
それに崇秀が小さな魔法式でそこまで動けるのは、達也の調整のおかげでもあった。
また、崇秀はもののあらゆるベクトルの方向をなんとなくではあるが、CADを使わなくても知覚で感じ取れるようになっていた。そのため相手のボールの動きも完璧に跳ね返していた。
そうして予選は難なく終了。決勝への進出も決まった。
少し時間ができたので、控室に戻ると、真由美たちがいた。
「すごいわね、タカくん!あんなスピードは初めてみたわ。」
「ああ、あそこまで動くとは驚いたな。」
「会長に委員長、ありがとうございます。少し疲れますがね...」
「そうよね。少しゆっくりしていってね。」
と言われた。休みながら、モニターに写る女子ピラーズブレイクの試合を観ていた。ちょうど深雪の試合だった。
結果は深雪の圧勝。自分の氷を一つも割られずに勝っていた。
使った魔法はインフェルノ。威力は絶大なものだった。
「深雪もやってるみたいだし、俺も勝たないとな。」
そう言って試合会場へと再び向かった。
決勝は達也がこっちに来ていた。
「作戦は前話した通りだ。優勝は間違いないと思うぞ。」
「ああ、行ってくる。」
そう言ってコートへと向かった。
そして、決勝戦が始まった。崇秀は今回、ラケットではなく拳銃形態の特化型CADを持ってきた。
試合は圧勝。使った魔法は真由美と同じ『ダブル・バウンド』
お得意のベクトル反転(本当は操作だが)による魔法だった。
「タカくん、まさかダブルバウンドも使えるなんてね...」
控え室では真由美がそんなことを呟いていた。
こうして見事、崇秀はクラウドボールを優勝した。
この日は深雪たち女子のピラーズブレイクも順調なまま終わった。
夕食は各学校の選手やエンジニア全員で集まって食べるのだが、この日は明暗がはっきりと分かれていた。
暗いのは一年男子の方、明るいのは一年女子の方となっていたが、その女子の中に達也が一人紛れ込んでいた。達也はCADの調整の成果か、女子たちに囲まれて色んな質問をされていた。
「ふふ、あっちは賑やかね。」
「まあ、無理もないですよ。でも、達也が徐々に認められていってなんか嬉しいです。」
崇秀は一年男子たちのとこではなく、真由美とゆっくり話していた。
女子たちの光景を観ていた一年男子は早々と出て行った。
だが、崇秀はこの日とある人物とクラウドボールの控え室近くで会っていた。
一人は達也と同じくらいの身長の、もう一人は少し小柄な男子生徒だった。
「第三高校一年、一条将輝だ」
「同じく、第三高校一年の吉祥寺真紅郎です」
二人とも少し挑発したような、そんな態度だった。
「第一高校の早乙女崇秀です。それで、第三高校がなんのようで俺に?」
そう聞いた。
「先程のクラウドボールは見事でした。」
「それはどうも」
「それで、僕たちは明後日のモノリスコードに出場します。君は出場しないんですか?」
「俺は対人でやり合うのは苦手だ。モノリスなんか興味はない。」
「そうですか。それは残念ですね。是非君とは戦ってみたかったんですが。まあ、勝つのは僕たちですが。」
と吉祥寺は少し煽り気味だった。
「ああ、時間取らせてそれを言いに来ただけか。勝手にやってろ。」
崇秀は呆れたせいで、久しぶりに口調が荒くなってしまった。
「時間を取らせて悪かったな。」
と一条は言った。
「そう思うなら最初から話しかけないでもらいたいな。」
崇秀はそう言って一高の控え室へと向かった。
新人戦三日目、ほのかはバトルボールを優勝し、ピラーズブレイクは雫が敗れ、深雪の優勝となった。
新人戦四日目、午前のミラージバットの予選は達也が担当しているほのかとスバルが予選突破した。
だが、午後に事件は起きた。モノリスコード予選、市街地フィールドで第一高校の生徒が加重系統の魔法の一つ、『破城槌』を試合開始前のビルにいる状態で使われたのだ。
破城槌は屋内にいる状態で使うと、殺傷能力Aランクに格上げされる。だが、四高のエンジニアは起動式を組み込んでいないと言っていた。
それを知り、崇秀は達也と二人で話していた。
「いよいよ、絡んで来たな。」
「ああ。」
「狙いは、やっぱり一高なのか。」
「だろうな。渡辺先輩のと言い、これと言い。」
「これからどうするんだ?」
「糸口が掴めたら良いんだがな。破城槌を組み込んだ可能性があるとすれば、おそらく運営委員が検査を出した時の可能性が高い。」
「ならば、運営委員に工作員が紛れ込んでいるってことか?」
「その可能性があるな。」
といった会話をしていた。
ミラージバット決勝、これは達也の成果もあって、ほのかとスバルのワンツーフィニッシュで終わった。
その後すぐに崇秀と達也はミーティングルームへと呼ばれた。
入るとそこには
真由美、克人、摩利、服部、あずさ、鈴音といった一高の幹部の生徒たち、他にも桐原や五十里などもいた。
「達也くん、今日はご苦労様です。崇秀くんも昨日はよく頑張ってくれました。」
真由美がそう言い、二人は軽く礼をするそして達也が
「選手たちの頑張りのおかげです。」
と形式的な流れで答える。
「もちろん、選手たちが頑張ってくれたおかげです。でもここにいるメンバー全員が達也くんの実力を認めています。現段階で2位以上を保てたのは達也くんのおかげだと思っています。」
「ありがとうございます。」
「それで、新人戦の準優勝は確定。三高がモノリスコードで準優勝以上なら一高は準優勝。三位以下なら当校の優勝です。で、ここまで来たら、私たちも勝ちにいこうと思っているの。」
「三高のモノリスコードには一条くんと吉祥寺くんが出てるのは知ってる?その子たちがトーナメントを取りこぼす可能性は低いです。だからこのまま棄権すると、新人戦優勝は不可能でしょう。」
「だから、崇秀くんと達也くんに森崎くんたちの代わりをやってもらえないかしら?」
崇秀も達也も途中から状況は察せていた。それに、崇秀くんと呼んだことで、いつもより真剣なのも伝わった。
「質問が二つあります。」
崇秀はそう言った。
「ええ、何かしら?」
「予選の残り二試合は明日に延長なんですよね?」
「そうです。スケジュールを変更してもらいました。」
「そうですか。で、なんで俺と達也なんですか?」
「それは...私が良いと思ったからだけど、ダメかな?」
「俺は構いませんが、達也はエンジニアですよ。俺以外にも代わりの選手は他にもいるのにどうしてより達也が。」
「そうですね。崇秀の言った通り、代役がいるのに俺を選ぶと一部から反感を買ってしまうかもしれませんが。」
「二人とも甘えるな。」
そう言ったのはずっと黙っていた克人だった。
「お前らは一年の二百人の中から選ばれたメンバーだ。そのチームのリーダーがお前らを選んだのだからそれに従うべきだ。リーダーにおかしなことがあったらここにいる俺たちが判断を下す。反対することは誰であろうと許されないのだ。」
「てめぇ...」
崇秀はあまりにも納得いかなくて先輩である克人達にブチ切れそうになった時、
「崇秀、待て。今はもう俺たちがやるしかないんだ。」
と達也に止められて正気に戻った。
「達也が言うなら...俺もやるよ。」
そう言った時周りは安堵の様子を見せた。
「それで、後一人は誰が」
「お前達で決めろ。説得なら俺達が立ち会う。」
「俺は他の選手のことを知らないので、人選は達也に任せます。」
「そうですね...なら後一人は選手でない人から選んでも大丈夫でしょうか?」
と達也が言った時、真由美が驚いたが
「問題ない。今回は特例に特例を重ねるからな。」
と克人が言った。
「ならば、一年E組の吉田を」
と達也が言った時、
「おい、司波!」
と服部が反対しようとしたが、摩利が止めに入った。
「達也くん、その人選の理由を聞いても良いか?」
「ええ、もちろんです。最大の理由は俺は男子の選手の試合をほとんど見ていないと言うことです。唯一見ていたのもここにいる崇秀の試合くらいです。なので、一から作戦を練ったり、CADの調整には間に合わないからです。」
「ほう。吉田のことなら分かると?」
「ええ、ただ同じクラスってだけではなく、よく知っています。」
「それは一理ある。相手のことをよく知らないとチームプレーはできないからな。それで、最大でない理由は?」
と摩利はもう一度尋ねる。
「実力ですよ。」
達也はそう答えた。
そうして、幹比古にも交渉し、新人戦のモノリスコードは達也、崇秀、幹比古で出場することになった。
今回は崇秀にも頑張ってもらいました。
次はいよいよモノリスコードです。