あなたのためのひと皿   作:宮野花

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初めまして。拙い文ですがよろしくお願いいたします。
今作は料理描写も多いので、読みにくかったら申し訳ございません。






サンドウィッチ・1皿目

彼女は走っている。長い長い、廊下を走っている。

重い本を抱えて。

ひんやりとした空気、それでも体温は上がっていく。もう随分と、走った。

本棚が壁になるここは、図書館か、図書室か?分からないけれど室内のはずた。

それなのに床には瓦礫ばかりの道は、何度も彼女を転ばせようとしてきた。その度に、そんな暇ないと踏ん張って、足に傷を付けながらも彼女は進んだ。

 

どうしてこんなことになったのか、彼女も分からなかった。

 

気がついたらこんな所にいて、こんな状況だ。

ただ彼女か分かっているのは、抱えてる本はとってもとっても大切なもので。

追ってきている人は、その本を奪おうとしていることだけだった。

どこに逃げればいいかすらも、分からない。この鬼ごっこに、そもそも終わりがあるかすら。

もう限界だった。立ってるだけでも足は竦む。地面を踏む度に、足先から痺れが走る。

速度は段々と落ちてきて。もう歩くのと同じくらいの速さだ。

ぼろぼろと涙が零れてくる。もう一度しっかりと本を抱きしめた。

 

とん、と。肩を叩かれた。

 

勢いよく後ろを振り向く。目の前の姿に、奥から汗がぶわっと出てくる。

再び走ろうとしたのに、足が動かない。何故、と見ると。足が透けている。

 

「あなたの負けよ、ユリ。」

「……どうしてっ!アンジェラさん……!!」

 

私が何をしたの。そう、言葉は続くはずだったけど。

残念ながらその前に彼女の姿は消えて。

彼女の記憶は、知識は、力は、思い出は。一枚一枚の紙となり、纏まり。形を成し。

彼女の落とした分厚い本の上に、もう一冊本が落ちて重なる。

表紙に描かれた小さな紫陽花は、彼女が好きだと言っていた花だった。

 

「……手に入れたわ、黒井百合。お前はまた、私の駒になるのよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その図書館は人で出来ている】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、いつも最初に感じるのは本の匂いだった。

図書館と教えられたこの場所には独特の匂いがある。紙とインクのまじるこの匂いが、私は好きだった。

くぁ、と欠伸をひとつして、ソファから降りる。

だいぶソファで寝るのも慣れた。最初は身体がバキバキになったものだ。

軽く身だしなみを整えて、キッチンに向かう。この図書館は本当に広くて、いくつも階段があって。

迷路にも感じる広さは好奇心を擽られるが……冗談ではなく迷子になるのでやめておこう。

 

キッチンにたどり着くと、まずやることは材料の確認。

なぜ図書館にキッチンが?とは思うが、どうやら館長の彼女はここで暮らしてるらしいので最低限は必要らしい。

そのわりには、私が来るまでは全く使ってなかったようだが。

くすんだタイルばりの壁に、ステンレスの流し。レトロな緑の冷蔵庫。

最初はキッチンというのに水気の無さに驚いたものだ。その癖錆と煤と茶カビはあるのだから目眩がした。

必死にクレンザーで磨いたかいがあって、なんとか見れるようにはなったけれど。

まだなお残る汚れの名残は、アンティークの味とでも受け止めることにした。

 

「さて……と。」

 

まずはお湯を沸かすところからはじまる。

 

二人分の朝食の用意。私と、彼女の分。

 

お湯が沸くまでにはメニューを考えたい。

とりあえずは二人分のマグカップと、ティーポットを用意する。

今日の茶葉は王道にアッサム。ミルクに合う、香ばしい香りがする。

 

「……じゃあ王道にサンドウィッチといきますか。」

 

そうと決まれば早いもの。食パン1斤を取り出して薄く切っていく。

更には耳を切り落として。あぁ、捨てない捨てない。これは揚げパンにしておやつにするの。

 

彼女はクールで大人っぽいけど。

実は甘いものが好きな可愛い人なのだ。

 

カラッと揚げたスティックの揚げパンに、ザラザラのお砂糖をまぶしてあげよう。

ちょっと上がるあの口角が、とんでもなく可愛いと思えるのは内緒。きっと言ったら拗ねられてしまう。

想像してくすくすっと笑ってしまう。

 

次にレタスを手でちぎってボウルにいれる。

オリーブオイルと黒胡椒で軽く味付け。

こうすると挟んだ時マヨネーズの味だけではなくなるのだ。彼女はグルメだから、繊細な味の方が好きらしい。甘いものを除いて。

パンにマヨネーズを塗って。その上にレタス・ハム・チェダーチーズを乗せて、パンでサンドして完成。

斜めに半分に切ってお馴染みの三角にする。

お皿に盛りつければそれなりの食事だ。

 

「足りないかなぁ、」

 

食べ応えを考えて普通よりは厚くパンを切ったけれど。

あんな細い体のどこに入るのか知らないが、彼女は割と食べるほうだ。

同じ味というのもつまらないかな、と考えて食材の箱を漁る。

自分一人なら適当に済ませるけれど、誰かに出す食事となると力を入れてしまう。

特に彼女の場合、美味しいという気持ちが表情に出るから尚更。

 

「あ、」

 

いいもの発見。

奥の方に葉のついたトウモロコシを見つけた。

葉をとって半分にぶつ切り。水でさっと洗う。

お茶用のお湯だけよけて、そのまま湯にトウモロコシを入れる。

本当は水から茹でた方が甘くて好きなんだけど、朝の時間は限られてるから仕方ない。

 

茹でたトウモロコシを包丁でコーンの部分だけとる。

再びボウル登場。コーン・細かく切ったハム・マヨネーズ・黒胡椒を混ぜるだけ。

さて、それをパンに挟むのだが。

食パンだとさすがに食べずらいので、コッペパンに切り込みを入れてその間にコーン達を入れる。

そうしてさっとオーブンで焼けば完成。

香ばしい香り。とても美味しそう。

こういうシンプルなの、私大好きだ。

 

ちりん、ちりん。

 

「あら、起きましたか。」

 

ベルの音が遠くから聞こえる。

この透き通ったベルの音は、彼女が私を呼ぶ合図だ。

銀のトレイに朝食を乗せ、ポットに茶葉とお湯を注ぐ。

揺れると茶葉のザラつきが出てしまうから、できるだけ振動を与えないように、でも早足で向かう。

 

ちりん、ちりん。

 

急かすようにベルがまた鳴る。朝は比較的、ベルのなる感覚が狭い。

部屋に入ると、彼女はもうソファで本を読んでいた。

片方で本を持ち、もう片方には金色のハンドベル。

朝と言うのに、アリスブルーのショートカットに寝癖はひとつも無い。

文字を映す瞳は、ベルよりも眩しい金色だ。

窓から漏れる、少し落ち込んだ陽の光が部屋に入ってきている。

それは逆光になって、彼女の姿はくらいと言うのに。その青い髪も、白い肌も、金の瞳も。薄いピンクの唇すら、はっきり美しく見えるのだから大したものだ。

 

「おはようございます、アンジェラさん!」

 

私がそう言うと、彼女……アンジェラさんは顔を上げた。

 

「おはよう、ようやく来たわね。朝食は?」

「今日はサンドウィッチです。アンジェラさん、いつもより少し早いお目覚めですね?」

「パンの焼ける匂いで起きたのよ。」

「あら、それは失礼しました。」

「全くだわ。おかげでいい夢のクライマックスを見逃したじゃあない。」

「続きはコマーシャルのあとでですねぇ、」

「朝食の後よ。」

 

なんて、どうでもいい会話をしながら、私はテーブルにトレイを乗せた。

アンジェラさんは細い鼻をひくりと動かして、その匂いに満足に微笑む。

 

「今日はミルクは?」

「入れた方がいいのかしら。」

「アッサムティーなので……ミルクが合うとは言われてますね。」

「じゃあ入れてちょうだい。」

 

私が紅茶を注いでいると、アンジェラさんの手が伸びてきた。

待ちきれなかったようで、サンドウィッチを手に取る。

小さく口をひらいて、ぱくりと一口。赤い唇が、マヨネーズで汚れる。

 

「……、」

「……ふふ、」

 

何も言わないけれど、やはり彼女はこのサンドウィッチが好きらしい。

そう言えば、ここに来て初めて作ったのもサンドウィッチだった。

大した工夫もない、野菜とハムを挟んだだけのものに、アンジェラさんは何故が感動したように目を輝かせたのは未だに忘れない。

 

「……なぁに、おかしいことでもあるの。」

「あ、すみません……。相変わらず綺麗な顔だなぁと思って。」

「……なによそれ。……貴女は寝癖が直ってないわよ。」

「嘘!?」

 

その言葉に慌てて髪を触る。

自分だとどこか分からなくてさ迷う手。それを見兼ねて、アンジェラさんの手が伸びてくる。

優しく撫でられて、大人しくされるがまま。

前髪を止めていたヘアピンを一度外される。それをそのまま、寝癖のところに付けてくれた。

 

「そそっかしいわね。私の働き蜂は。」

「そ、その呼び方やめてくださいよぉ……。」

 

まぁ確かに、働き蜂と言えばそうなのだろう。

私は今、アンジェラさんのお手伝いをしている。

基本的な家事……と言っても、掃除と洗濯と料理くらいだが。それらは基本私の仕事だった。

簡単な話、家政婦なのだが。アンジェラさんは時折こうして、言葉遊びで私を呼ぶ。

 

「貴女がこんなに素直に、役に立ってくれるとは思わなかったわ。」

「素直って……どれだけひねくれてると思われてたんですか私……。」

 

「記憶喪失の私にこんなに良くしてくれてるんですから。できる限りの事はしますよ。」

 

「……ふふ、そうね。」

 

ここで初めて目ざめた時。右も左も分からなくて。

絶望していた私を救ってくれたのはアンジェラさんだった。

アンジェラさんは綺麗に笑って、またサンドウィッチに口をつける。

私は焼きたてのコーンのパンに口をつけた。

外はカリカリ、中はふわふわ。コーンの甘さとハムのしょっぱさがとても美味しい。

あぁでも。バターを塗った方が良かったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語をあなたが見逃さないように。

その綺麗な瞳にバターでも塗って、焼き付けてあげようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 








アンジェラとの百合くそ楽しい。
あとローランが本家エロすぎて辛いです。

小説最後の分はOPの一部分の表現を元に考えました。
リスペクトを含めて本当は歌詞そのまんま抜粋したかったのですが、使用楽曲になかったので、自分の文章に改変。
問題あったら消します。
でもOP、とてもいいですよね。ローランがエロくて。

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